『アナタの娘です』
「カプリコーン、いる」
突如、現れた主に訳を聞きたかったが、顔を見て、口を紡ぐカプリコーン。
「ご命令を、ご主人様」
「話が早くて、助かるわ。海底都市に行く。ついてきて!」
「行くのは、大丈夫ですが......」
「移動手段はOK。場所はここで見つける」
こんな未来感満載の研究所。きっと周辺の環境情報もあると踏んでいる。
「そういえば、みんなは?」
一階にいたカプリコーンに話かけたけど、他のみんなの姿が見えないのに少々戸惑っている。
「リーナとコーランは、上です。タウロスとフェーネは地下二階にいます」
「一度、タウロスのところに行こう......」
エレベーターが壊れている。どうやら、この研究所は外装は接触・破壊不可オブジェクトだけど、内装は破壊可能オブジェクトで二度と復活しない。
階段を降りて、タウロスとフェーネが待つ、地下二階へ進んだ。
「タウロス!!」
私の声に反応したタウロス。
牛が人型になったのだって、私にとってはインパクト特大だったのに、ここにきてメカメカしいスーツに身に纏いながら鍛治業務をやっていた。少々おかしな格好になっているが仕様なのだろうと口には出さなかった。
「うん、お嬢? どうして??」
「えっ!? なんでも......」
こちらが何を考えているのか、察知能力も高いことに関心しつつ、タウロスの体にしがみついている物体に目が入ってしまう。
「タウロス......誰? その子?」
「あぁ、こいつは。ほれ、挨拶しな」
タウロスの指示に従うのは小学生くらいの女の子。藤色と淡紅藤色が合わさり、光沢がかかった髪の毛。服装は白衣を改造した見た目だった。
「......ママ?」
「はひぃ!?!?」
「違うぞ、アリス。ユミナ様だ」
「ユ、ユミナ......様?」
「いや、何故疑問系? ねぇ、タウロス!」
素材をタウロスに渡した。
色々、聞きたいことがあった。それにしても、どこかで見たことがある容姿......どこだっけ?
「お嬢、コイツはアリス・アーテン」
うん? アリス・アーテン?
「お嬢がこの研究所で出会った、フォンラス・アーテンの妹だ」
「あの変態パンイチ博士の......妹。この子が」
裏返ってしまった私の声にびっくりしたアリスはタウロスにしがみついていた。
「お嬢、怖がらせるなよ」
「......ごめん」
アリスと同じ目線にして、話かけた。
「初めまして、私はユミナって言うの」
「わ、わたしは......ありす、です。よろしくおねがいします。まま」
「あの〜 アリスちゃん。そのママってどういうこと?」
訳はタウロスが話してくれた。タウロスたちが研究所に着た時、奥に保管されていた水槽が稼働して、琥珀色の液体と一緒にアリスも外に排出された。抱き抱えたのがタウロス。アリスは記憶を全て無くしていて自分が誰かもわからない状態だった。アリスは初めに目に入ったタウロスを母親と認識してしまったらしい。その時、タウロスが何をとち狂ったのか、『アタイの母親はユミナ様だ。君の母親はユミナ様だ』。
意味がわからない......
後ろにいたカプリコーンがため息を吐いた。
「だから、言ったじゃないですか。ご主人様は絶対理解できない、と」
「お前にだけは言われたくない。お嬢のことを熱くアリスに語ったおバカなやつにはな」
「冤罪はやめてください。そんな証拠『アリス、あの女に言われたこと言ってみ』、ちょっと!?」
「ゆみなさまに、あえば、いかなる、ひともとりこになるみりょくをもっています。ありすもいっしょにゆみなさまをおそいましょう、です」
「カプリコーン......」
「違うんです、ご主人様。私は全く、そのような言葉を言っていません。信じてください」
「絶賛、私を後ろから抱きついて、胸を揉んでいる女性を信じろって方が難しいと思んだけど......」
「ヴァル語で言えば、『ユミナ様欠乏症』に罹っています。そういえば、あの三馬鹿は?」
居ないからって、ナチュラルにヴァルゴ、アリエス、レオを小馬鹿にする麗人執事さん。後で何かあっても知らないからね。
「実はね、アリエスとレオがカジノで大損と器物破壊してね。返金用のお金集めと高価なお宝を集めないといけないの。ヴァルゴは二人の側にいる」
「お嬢、いい機会だから、人件費削減しようぜ」
「タウロスの言う通りです。ご主人様に不利益な人材は切り捨てるのが妥当です」
「まぁまぁ。いいよ、今回は。折角海底都市に行けるイベント......仕事を貰ったんだし。ちょっと、楽しみなのよね!!」
「ご主人様がおっしゃるなら、私は何も言いません」
「と、言うことで改めてカプリコーン、ついてきて」
「星霊の中で、誰が優秀かを主に知らしめるいい機会です。お供します、ご主人様」
「ほざけ!! お嬢」
タウロスから渡されたのは、刀身が紅色のナイフ。
「これって......!?」
「無事、修復した。使ってくれ」
「えっと......名前は。【裁紅の短剣】?」
前に見た時は燻んだ色合いの武器だった。修復に成功したナイフは、握り部分は黒色となっており、剣身は鮮やかな紅となっている。剣身の面には彫られた溝が黒くなっている造形。
「ありがとう、タウロス。十二分の働きだよ!!」
「嬉しいぜ!!」
照れくさそうな顔をするタウロス。
「それじゃあ、行ってくるね!!」
私とカプリコーンは潜水艇が置かれていた地下に歩き出した。
◇
部屋で再び、作業に入るタウロス。
「あっ!?」
振り返り、お嬢に注意事項を言おうとしたが既に、いなくなった後だった。
「しまった。一個言い忘れたことがあったぜ。【裁紅の短剣】には一撃必殺の攻撃手段があるって......」
お嬢なら、なんとかするか、とある種の信頼を持っているタウロスは改良された金槌を持つ。
「アリス。金槌を振るから、近くにいるなよ......あれ?」
部屋には自分だけしかいなかった。さっきまで自分の体にしがみついていた少女の影はどこにも存在せず、気配すらしなかった。
「ま、まさかな......きっと近くを散歩しているか」
三馬鹿...あいつら、地味に強かったな〜(別のお話)