一人目は忠義心が高い乙女座の騎士
いつもありがとうございます。
地面に膝をつき、頭をおさえる私。二割HP減った……
「なんたる災難……」
私、何か悪い行いしましたっけ? 回想に出てくるのは森を焼き払いモンスターが消し炭になる光景。ドロップしたアイテムが全て《状態が悪い》だった……もしかして、森林破壊が原因ですか!?
まさかの予期せぬ天罰が来るとは、正直舐めていたよ。オニキス・オンライン、侮れないVRゲームだ。
ストレージから回復薬を取り出しHPを回復している私は横目で倒れている女騎士を見る。
青紫色の髪をした少女。大人びた風格すらある女性は女の私でもドキドキしてしまう美貌を持っていた。少々変態チックな思考になるけど、甲冑を着ていても分かる大きいスイカサイズ。
いやね、女なら一度はスイカ並を欲しいと思うわけですよ。私の友人ではみはるが一番デカいですね……何とは言わないけど。ある一部分だけじゃなくて体全体が人間離れをしている騎士女性。
「これがいわゆる”私の瞳は釘付け”状態か……」
なんか、美しい容姿の彼女はひどく苦しそうだった。
星刻の錫杖には回復魔法は付属していなかった。あるのは『清浄なる世界へ』。あとは戦闘開始時に発動する『星なる領域』は”戦闘開始から5分間、HPが減らない”。あと持っているスキルは……ない。いつかは手に入れた気持ちがある。
やばい!?!? 【EM】が残り10しかない、緊急事態!?!?
月、つ〜き……嘘だといってよぉ〜 雲に覆われているよ……
雲に覆われては月パワー光線ビームで星刻の錫杖を回復できない。
地面に膝をつき女騎士に近づく。騎士さんも私を感知していたが細目しか出来ていない。
「とりあえず、回復薬を飲んでください」
「……あ、ありがとう」
容姿も良かったけど、声までもよいとは完璧なキャラですね。掠れていても玲瓏な声がはっきり分かる!!
今の所、女騎士さんに敵対の意思はないからいいけど。私の対応一つで女騎士さんの態度が180度変わる場合もある。
「ここにきて、くるか……私の性分がぁ」
「あなたは……誰ですか?」
肩で息をしながら女騎士さんは尋ねた。
「わ、私は……『ユミナ』と言います」
「『ユミナ』か。感謝する。この恩は決して忘れない」
「いえ、私は何も……してません」
呆然と眺めていた私の瞳孔が大きく開いていた気がした。女騎士さんは涙を流し、私の手を握った。未だ全回復していない体なのか力がこもっていない手だった。小刻みに震える手で真っ直ぐ私を見ている女騎士さんは震える声で告げた。
「……そんなことはない。私を救ってくれた……本当にありがとう……」
”ありがとう”か……たった5文字の言葉、今の私にはこの5文字が温かった。電脳の体で現実のモノじゃない。だから、こんな心情になるのはおかしいかもしれない。でも、この気持ちは消えない。
救えて良かった……と。
もう夜も遅いので宿屋に向かいログアウトしようとした。勿論、女騎士を担いで、ね!
「そっか。もう何百年も……その、石化を」
「あぁ。体は動かない。外の情景は見えていたけど後少しで見えなくなっていただろう」
「それは……」
「残ったのは口だけで」
「すぐに気づかなくてすみません」
「あなたが気にすることではないよ」
何百年も石化状態を過ごしていたから歩き方も忘れていたとか。なので女騎士さんはベットの上に腰をかけている姿となっている。
「その……ユミナ」
「はい!? なんでしょうか?」
一瞬息を飲んだ……なんて綺麗な声。『清浄なる世界へ』が使えないのに私は浄化されているようだった。昇天しそう……
「あなたが持っているその錫杖は……」
女騎士さんは私が持っている星刻の錫杖を凝視していた。
瞬きさえしていない。乾燥しません? ゲームだからそんな心配ないのか〜
「これは”星刻の錫杖”。とあるどぅ……!?」
突然、ベットから飛び出し膝をつき、私に礼の姿勢をとろうとする。
けど、まだまだ女騎士さんの体は思うように動けていなかった。
「急に動くと……大丈夫ですか?」
「このような無様な姿をお許しください。”お嬢様”」
うん? 『お嬢様』????
「えっと。なんで”お嬢様”呼びなんですか? 普通にユミナでいいですよ」
「いえ、星刻の錫杖を持っているお方に仕えるのが私の役目。知らずとはいえ、変な言葉遣いをしてしまい申し訳ありません」
「と、とりあえず頭を上げてください!?」
私は女騎士さんに何があったのか全ての出来事を話した。洞窟内にある賢者の秘密の部屋、部屋で見つけた古びた錫杖、月の光で復活した星刻の錫杖。後、女騎士の石化を解いた魔法を使った行動を。
「で、賢者さんの日記がこれ」
ストレージに保管していた賢者日記を女騎士さんに渡した。
「賢者様にもお礼が言いたいです。賢者様がいたから錫杖は戻ったし、私の石化はお嬢様が復活させてくれました。感謝が足りません」
「う〜ん。私の場合は偶然と言いますか」
「いえ、偶然ではありません。私とお嬢様の運命です」
「『運命』か……うん!! そうかもしれないね!!」
「お嬢様、一つお願いがあります。私をお嬢様の配下に加えて貰えますか」
「は、配下って……」
「配下の言葉がお気に召さなければ”奴隷”の表現で大丈夫です」
いやいや、なぜ奴隷……
「話したけど星刻の錫杖で手に入れた職業は……」
女騎士さんの決意の目をしていた。覚悟の眼でもあり、意志でもあった。
未だ足がおぼつかないけど床に座り込んでいながら堂々とした姿は、まさに凛とした女騎士。
「分かりました。これからよろしくお願いします。そういえば、名前はなんですか?」
噴水公園から宿屋までの道のり。そして宿屋内でも会話で彼女は一度も自分の名前を名乗っていなかった。
「ヴァ、ヴァルゴとお呼びください」
自分の名前なのになんでそんなに恥ずかしそうに言うんですか!? 怪しい……気になる。
「では、ヴァルゴ。貴女に最初の指令を出します」
腰を下ろしヴァルゴと同じ目線にした。ヴァルゴの手を握る。ピクンと反応したヴァルゴ。さっきまでは綺麗で気高い騎士って感じだったのに今のヴァルゴは恋する乙女みたいな表情を出していた。
可愛い! ガチ恋みたいで心が踊るんだけど!!
「貴女の真名を教えてください」
一気に表情がくずれるヴァルゴ。顔は紅潮し始める。
「もしかして、忘れてしまったんですか?」
「そうではなく……実は。私たち星霊は自分の真名を教える相手は必ず、愛する者のみ。だから……」
「ふへぇ!?」
自分はどこから声を出したんだって思うくらいまともではない鳴き声を出してしまう。
「いやあ、決して……いやそれは……あの〜 申し訳ありません。知らなくて……私のイタズラ心が働いたと言いますか」
「いえ、こちらも主君となるお方をそのような邪な感情を出してしまい……申し訳ありません」
私はなんとか正常に見せた。
「わ、分かりました。ヴァルゴ、これからよろしくお願いします!!」
「私の命は、お嬢様のモノです。誠心誠意、お仕えさせて頂きます」
うん? 手の甲にキスするって……男性が女性にするもんだった気がする。でもいいか〜 でも、これだけは言いたい。とてつもなく恥ずかしい……顔に出ていないか、それだけが心配。
《星霊探しの旅》:1/12
乙女座最高位:ヴァルゴ
真名:???