誰のために戦う
なんとか? 強敵怪物を討伐した私達は廊下を歩き出した。途中、電気系統を見つけ、専門的なことはわからないので雷魔法の【サンV】を放ち、電気系統を回復させた。おかげで明度がしっかり確認できるようになった。
科学文明に魔法文明を持ち込んでいいものなのかと思うが、なるようになれっで事態を進ませた。
「何これ??」
立ち止まる私達。目の前に広がる光景に唖然とした。
真ん中の通路を囲むように、円筒形の水槽が左右に設置されている。
直径が1メートルほど、高さは二メートル以上。縦に十基、横に十基。左右合計で百基、整然と配置されていた。
警戒しながら恐る恐る足を進める。
「空っぽの容器もありますね」
水槽は青色とも緑色ともいえない青みがかった緑色の溶液で満たされてる。
アリエスの言う通り、水槽には溶液が充満しているが、モノが入っているのは奥に進むためのメイン通路を囲む二十基だけだった。
「ユミナ、大丈夫」
「うん......なんとか」
小説やマンガ、アニメなどで度々登場するけど、実際に自分がこの目で目撃するとは思わなかった。
「人......だよね」
水槽に浮かぶモノ————————人だった。
水槽に漂っているのは、10代から30代ほど、年齢がバラバラではあるが全員女性。
「ここは本当に、なんの研究をしているの?」
急に絶海の孤島への招待。謎の機械生物たち。怪しげな研究所。改造された人体怪物。そして、水槽に封印されている人達。
私達が経験した奇妙な体験の数々。一連の出来事には共通点がある。
『人を人にさせる研究かな』
メイン通路の奥から階段を降りる音が響く。
それは白衣を着た男性だった。赤色の髪は長い事切っていないのか伸びに伸びている。初めの声や中性的な顔で女性と疑ってしまう感覚だったが紛れもなく男性だった。なぜなら......
「......変態」
アリエスの汚物を見る目。
「私でも、こう言うのはちょっと」
フィーネも困惑気味。
白衣を着ている男性。それは間違えない、でも......
「パンイチなのは不味くない」
何が悲しくて、パンツ一丁で白衣の変態ファッションを怪しげな地下研究室で凝視しないといけないのよ!?
まぁ、唯一の救い? なのかどうかわからないけど、余分な脂肪がない白肌多めの体だった。これがもし、ふくよかな体を持つ男性なら......まぁ、はい。お察しの展開です。だからといって、目の前に超変態男が正義かは別の話。これで白衣を広げて「どうですか」なんて猛アピール行動をするなら無言でフルアタックをかます。
「ここの内情なんて、どうでもいい。消します」
汚いモノを見てしまい激しい怒りをあらわにするアリエス。よっぽど男性の体を見てしまったのが嫌だったんだね。
「あの〜 私達、この島から出たいので、船とかあれば貸してくれますか」
アリエスの言葉には賛成だ。私達の目的はあくまで島からの脱出。研究所で何をやっていようが今の私達には関係ない出来事。
腕組みをして考え込む変態男。
「それは、困るな」
うん? 困る?? 嫌な予感......
星刻の錫杖を構える。
「活きのいい素体が三体。折角、《《大波で攫ってきたのに》》」
体が変化し始める。白い肌は黒一色とへ。体が歪み始め、骨が折れる音が鳴らしながら、ちょろい肉体は筋肉モリモリの肉体になる。身長も三メートル以上にまで伸びている。胴体は血管が剥き出しになっているかのように赤い線が出現した。ドロドロとしたマグマを思わせる赤い線は触れてはいけない雰囲気を醸し出している。右腕は伸び、触手のように形を変えた。
目の前にいる変態男は人間だった成れの果て。
「逃がさないよ!! 人体実験にはもってこいの肉体なんだからさァアアアアア!!!」
《フォンラス・アーテン博士》が表示された。
「モンスター......扱いか」
◆◇◆◇◆◇◆
私達を捕まえようと触手が襲いかかる。どうやら、触手は右腕だけらしい。右だけを注意して攻撃を当てる。
触手を避けた。時々触手を双剣で捌いている。
武器は双剣に切り替えている。いつもの戦術ではフォンラス・アーテンに勝てない。私の魔法攻撃がフォンラス・アーテンには効かないからだ。言うなればフォンラス・アーテンは魔法攻撃無効耐性持ち。しかも火・水は吸収耐性。私がいくら魔術師として魔法が全体的に強化されていたとしても、吸収されては無意味。吸収された魔法攻撃は左手に収束し、放てる。まさか自分が放出した魔法攻撃を自分が喰らうとは思わなかったけど。とにかくこのまま魔法攻撃をしても、フォンラス・アーテンを強くさせてしまうだけ。相性が悪いので星刻の錫杖から物理攻撃へ変更した。
後方で何かが割れる音がする。
触手に捕まらないように掻い潜りながら、割れたモノを見た。
二基の水槽が破壊され、中にいた女性達が空気ある世界へ排出された。触手が水槽に当たったのが原因だ。
「大事な人たちじゃないの」
私の疑問に不愉快気極まりない笑みを浮かべる《フォンラス・アーテン博士》。
「そんな、ゴミいらないね」
一本を婥約水月剣で切断した。
「『ゴミ』ですって」
「ユミナ様っ!!!!!」
アリエスの声を聞いたと同時に驚きを隠しきれなかった。
アリエスが抱き抱えている女性の体は渇き、そして粉になった。床には小さな丘が形成された。白と灰色が入り混じってた粉末。ほんの数秒前まで人の形をしていたモノ。
「君の周りにある水槽に入っているゴミたちは実験の失敗作。人体に動植物の遺伝子を後天的に埋め込んだ。結果はダメだったけどね。水槽にいる物は中から出れば、塵となる。生命としては終わっている存在だ。君たちが気に病むことはない」
怒りしかなかった。
「なんで......そんなことを」
「人を人にするためだよ」
また、それか......
「人類が次なる高みに......」
フォンラス・アーテンは、罪悪感を微塵も感じさせない口調で自分の研究を話していた。
正直、耳障りだった。聞こえてきた内容の中に砂場、研究所内で戦ったモンスターはすべてフォンラス・アーテンが改造した存在で、水槽の中にいる人達よりも前に実験していた。いきなり人を改造するのではなく、別の種に異物を取り込んだ場合、どうなるのか。次は人間をどこまで改造すればいいのか、結果あの怪物だ。そして、数々の人体実験を元に残ったのが水槽内の人達。フォンラス・アーテンにとっては、彼女たちも失敗作と認識している。
ゲームのキャラだし、フォンラス・アーテンの設定も初めからプログラムされたもの。だからこんな感情を出すのはきっとお門違い。でも......
「もういい」
私は静かに怒鳴る。
加速されたあびせ蹴りを喰らった《フォンラス・アーテン博士》は奥にある壁へ激突した。
「アリエス、フェーネ」
婥約水月剣を構え、ホーネットヘルムを被った。
今の顔を二人に見せれない。だから隠した。怒りは全て握っている双剣で晴らす。
「予定変更。アイツをぶっ倒す」