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カイブツがやってきた

エレベーターシャフト中。




「暗いわね......」


 エレベーターを破壊し、残ったロープをつたって下へ落ちる私達。


 当然、照明器具はないので暗闇で移動せざるを得ない。


 少しずつロープで降る。


「『気配感知』が発動した??」


 もうすぐ地下一階の扉に到着する時に自分のスキルが起動するのが分かった。私達に対してアクティブモードになるMobが近くにいれば強制的に発動するスキル。『気配感知』が発動した、即ち私達に攻撃を仕掛ける敵がいるってこと。


 上から火花が散る。同時に金属が破壊される音が鳴り響く。壁に備え付けられている配線や金属で作られた壁を足場代わりにした結果。


 得体の知れない何者かが音を立てて迫ってくる。



「えっ!?」


 両手両足でしがみつき、移動手段兼命綱の役割をしていたエレベーターのロープ。

 エレベーターが上れる最上階でもある地上二階の天井部分に巻上機が設置されているため、しっかりピンとロープは伸びている。余程のことがない限り、千切れる事態にはならない。



「アリ......」


 事態は一番上にいる私がいち早く感知できた。下にいるアリエスとフェーネに危機を伝えようとするが間に合わなかった。


 体が浮遊感を味わう。下へ下へ落下していく。背中から落ちながら、自分の体がスローモーションに動いている。薄暗い空間に三つの赤い点が光る。手足を脚にして、四本で壁にへばりついている奴。前脚には鉤爪、おそらくロープを切ったのだろう。


「......ッ!」


 私達は暗闇の中、身動きが取れない恐怖を覚える。闇の手から地獄に招かれていくが如く。

 苦痛の叫び、パニックな体、三人の悲鳴が空間を支配した。


「イヤァァアアアアア!?!?!?」








 どうするどうする、考えないと......ここままじゃ最悪な状況になる。

 今いた場所は地上一階と地下一階の間、最下層ヘまでは少しだけ時間がある。残された時間の中でやらなければならないことがある。まずは三人で薄暗い空間から脱出。脱出には出入り口を目指さないといけない。電子扉を蹴破るしか方法がない。私の蹴りスキルなら問題なく突破できる。


 しかし、今の私は上にいる。このまま扉を破壊して地下の階層に入ると下にいるアリエスとフィーネは間違いなく、落下し、金属の地面に激突する。落下速度が計り知れない状況下に例え、私よりも防御力のある装備を着用していたとしても、衝撃にアリエスが耐えれる保証はない。


 なら、初めにやることは一つ。三人一緒に固まること。離れては何もできない。


「アリエス、フェーネ!!」


 使い物にならなくなったロープに足を置く。足に付いている地面や物を足場にすることで速度を上げる『ダッシュ・ストーム』。HPを消費することで速度調整が可能なスキル、『ターボ・チューニング』。MPを消費することで速度の底上げが可能なスキル、『ニトロ・サポーター』。対象まで進むことができるスキル、『生成する道路(ロードランナー)』。目にかかる速度圧を軽減できる代わりに自分の元々のVITが一定時間低下するスキル、『逸蓮托翔(ギブ&テイク)』。



 敢えて落下速度を上げ、二人へ向かう。フェーネが小さい体で無理してまでアリエスの襟元を掴み、翅を勢いよく羽ばたかせ落下速度を下げている。落下死までの時間は多少、増えた。



「お待たせ!!」


 二人を抱き抱える。が、地面は目の前。


『痛覚変換』、『旋風刃(ソニック・エッジ)』を起動。


 体を捻りながら地下二階の扉を破壊。即座に壁を蹴り、室内空間の廊下へ侵入。












「大丈夫ですか、ユミナ様」


 背中を抑える私に申し訳ない顔を浮かべるアリエス。


「大丈夫、大丈夫。『痛覚変換』のおかげでなんとか無事」


 受けたダメージ量を自身に強化できるスキルが『痛覚変換Lv.10』。今の私はフェーネのせいで感覚が鋭敏になっている。手に物が触れる分には問題ない。壁を殴るなどの行動を起こすと、体が興奮、錯乱してしまう。何回か味わったことで軽減できるスキルを獲得した。それが、『痛覚変換』。


 レベルに応じて受けたダメージ分を自分のステータスにランダムで付与できる。Lv.1の場合は、仮に”1”ダメージを受けたら、超低確率でVITの数値が”1”増えるとか。今の私はLv.10。ダメージを受ければ、100%自分のステータスに付与できるし、効果時間も長いので助かっている。



「『旋風刃(ソニック・エッジ)』で扉破壊しちゃったけど、大丈夫かな」


 足技スキル『旋風刃(ソニック・エッジ)』。足に風を纏わせ、放つことができる。放たれた風に触れた物は斬撃の嵐の中にいるかのように切り刻まれる。




「うわぁ、来た......」


「キモいですね」


「......帰りたい」


 フェーネ。帰るための手がかりを求めて地下に来たでしょう。それにしても、アリエスの言葉には同意。微かな明かりで見ることしかできないが、確かにキモい。ホラー映画に出てきそうな人外生物って印象。


 口からは唾液を垂らし続けていた。頭部から足部にかけて皮膚がただれ、筋肉表面がむき出し。前足後ろ足には鋭利な爪。砂浜で戦った水生生物同様、体の一部に機械が埋め込まれていた。


「二人は援護」


「ユミナ様は」


「当然、前へでる!!」



 双剣を構える。時間差を空けて、魔術本を取り出す。コーちゃん、NEちゃんにアリエス達の援護を任せた。キューちゃんは私の補佐を担当。



 怪物と同時に私は飛び出した。



「行くわよ、婥約水月剣(プルウィア・カリバー)!!」









 薄暗い。が、暗視でも敵を捕捉できるスキル、『ヴィジョン・スコープ』を発動したことで迷いなく接近できる。



『ヴィジョン・スコープ』で見る限り、皮膚がないモンスターは目がない。図体がでかい分、小回りは効かない。その点、私はデカい巨体は持ち合わせていないが、怪物の体の隙間をすり抜け、攻撃ができる。


 振り下ろされた爪を青色の短剣で弾く。追撃の爪に足を乗せ、体の軌道を変え、回避する。

 壁に足を置く。


「キューちゃん!!」


 私の音声に反応した妖狐。九つの尻尾の先端に禍々しい火の玉を生み出す。


 放出された黒炎に体を変える怪物。

 見えなくても感じることはできる。自分がいる場所の風が僅かに変化している。


 その隙に、壁を踏みつけ、怪物へ駆けた。


 怪物の体は燃える。もがき苦しむ怪物の前足右側を切断した。


「まずは、一本!!」


 床に落ちる前足はミイラの如く、乾涸びていた。

 敵が生物で助かったと安堵する。


 タウロスが製作してくれた婥約水月剣(プルウィア・カリバー)は、カレッタと一緒に採取した魔雨の花(シャクヤク)と武器生成に適した魔石を組み合わせた短剣型の双剣。二振りの刀身の背にはくぼみ部分がある、晴天の澄んだ空のような鮮やかな青色が特徴の婥約水月剣(プルウィア・カリバー)は、斬った者の内部の水分を奪う能力がある。

 元々、雨を吸収して咲く魔雨の花(シャクヤク)を素材にしているので、そのまま引き継いだ。



 水分を吸収することで婥約水月剣(プルウィア・カリバー)は蒼く輝くと同時に威力も上昇する。今は地下空間にいるが、外でしかも雨の状態で婥約水月剣(プルウィア・カリバー)を使い続ければ、限定的な無限攻撃力を得られる。


 生憎、地下にいるのでその真価は発揮されないのが残念。



 壁から壁へ交差移動すれば、怪物はダルマ状態になり頭部を破壊して終了が私の作戦だった。


「えっ!?」


 HPが七割削られる。背後にある壁には二つの線。壁は大きく抉られ、中にある配線が外へ出てきた。

 どうやら、正体不明の怪物はキューちゃんの【祟呪(たたりび)】と相性がいいのか。むき出しになっている筋肉が焼けていた。今尚、もがいている。でも、壁に切ったのは私が切断した前足右側。


「再生持ち......」


 元の筋肉がむき出しになっている前足が生えている。


 ニヤリ。さっきの魚類達はそれほど耐久力がなかったのか即座に倒された。

 でも、再生能力を有している怪物。今度戦う敵に同じ能力がいるかもしれない想定を込めて、口約束した封印を解除する。


「キューちゃん。 譲渡変化(ギフト)!!」


 走り出す妖狐は黒炎を纏い、婥約水月剣(プルウィア・カリバー)へ入る。譲渡変化(ギフト)の発動条件は、武具が魔法素材でできているか。婥約水月剣(プルウィア・カリバー)は魔法石と呼ばれる鉱石で、同じ色を持つ魔法を浴びせれば石のレベルが上がる代物。ただの魔法石と水魔法を長時間浴びた魔法石の違いは完成された武具の耐久力や付属能力が増える。



 鮮やかな青色はなくなり、紅と黒を基調とした色合いの双剣へと変貌した。


 リキャストタイムが終了した加速スキルを即座に使用。急速に発進した私の体に怪物の体が追いつかない。

 胴体部分に詰め寄り、双剣を振り切った。怪物の中身がさらにむき出しになる。斬られた箇所から赤いエフェクトが出現。


「『五月雨連撃』発動」


 剣系統スキル、『五月雨連撃』。名前の通り、剣攻撃を放つことで連撃を可能にする。一度に放たれる攻撃は10HIT。スキル解除まで、連撃可能な数は全部で10回。10回目だけが1回目から9回目と違い、クリティカルと威力が上乗せされる効果となっている。


 連撃技スキルだけなら、目の前の盲目グロ怪物は即座に肉体を再生するだろう。でも、今の婥約水月剣(プルウィア・カリバー)は一味違う。キューちゃんを 譲渡変化(ギフト)した結果、婥約水月剣(プルウィア・カリバー)にも【祟呪(たたりび)】が付与されている。元々、敵の水分を奪う能力を持つ婥約水月剣(プルウィア・カリバー)。水分を奪うだけでも強力なのに、追加で消せない怨念の炎が体に刻まれるんだ。


 奪われた水分は即座に回復するがまた奪われる。内部から黒い炎が体を蝕むが、削られた部分から速攻で再生。そして、また体を蝕む邪悪の焔。再生持ちの敵にはまさに、終わりのない地獄。



 腕、脚が胴体から分離する。今までなら胴体から新たな四肢が生えてくるが限界なのか再生されなかった。胴体は床に倒れる。首を切断。足元に転がる頭部は徐々に溶けていく。次第に再生は完全になくなり、怪物は四散した。


 戦闘終了と同時に元の鮮やかな青色へ戻る。


 振り向き、勝利の喜びを分かち合おうとするが——————






「これがユミナか......背後から刺されないよね」


「多分、大丈夫かと。なのでフェーネ。ユミナ様へ、不逞な対応は控えた方がよろしいです」


「わかった。肝に銘じるよ......」


 二人が私を見る顔は今でも頭から離れなかった。


あれじゃないですからね、有名なホラーゲームの怪物。


約半年ぶりに代表作の灯ちゃんを投稿しました!!

よければ、こちらもどうぞ〜


『天織灯のあくまな怪盗生活』

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