無人島でCommunication!
そそくさ、落ちている素材を拾う私とアリエス。
「空中をまるで水中にいるかのように高速で泳ぐのは反則だよ」
ため息混じりの苦笑する私。
「仕方がないですよ、あの二匹は元々は魚類ですから」
あの二匹。エイ型のモンスター、《ダイバーレイ》とサメ型のモンスター、《アビス・シャーク》。
執拗な動きを見せ、私達を獲物として認識していた。
《ダイバーレイ》は水中でも空中でも自在に滑空する事もできる。機械化されたヒレは獲物が近くにいると特殊行動を起こす。鋭い刃物を展開し、すれ違いざまに私達を切り裂く武器となる。
一回喰らったけど、《ダイバーレイ》の尻尾に捕まったら、打ち据える行動を起こす。身動きが取れない私に電撃攻撃してきた。最終的に《ダイバーレイ》はアリエスの拳スキル、【剛腕の巨人】で倒された。
何度か発動したのは確認したけど、やっぱり怖いものがあった。これがまだ筋骨隆々の人ならなんとか納得のいく部分がある。でも、華奢で繊細な女の子。元聖女という経歴から絶対に似合わない。
「アリエス。どこであんなパンチ覚えたのよ」
狼狽えるアリエス。
「えっー......っと、若気にいたりと申しますか」
【剛腕の巨人】を撃ち込まれた《ダイバーレイ》がすごいのなんの。
《ダイバーレイ》の下に潜り込み、アッパーをかましたことで周りの空気を振動させる勢いのパンチだった。腹部に直撃し、《ダイバーレイ》の体が無惨にも一発KOで四散していた。
「おかげで電撃攻撃から助かったから良かったけど」
頬を膨らませるアリエス。
「ユミナ様には言われたくありません」
「うん? 私何かしたっけ?」
「この眼でしっかり目撃しましたから」
《ダイバーレイ》撃破後、間髪入れずに攻めてきたサメ型モンスターの《アビス・シャーク》。自慢の牙を剥き出しにしながら突進してくる単調な攻撃。氷魔法を持っているのか氷柱を出現させ、発射させる攻撃。後は尻尾が機械化されている。通常時は尻尾に機械がくっついている見た目。でも、獲物が近くにいると尻尾が変化した。それは、機械尻尾にぶっとい針が生えてきたこと。100%、人なんて簡単に貫けるレベルだった。
最終的に、新たな魔法武器の双剣とジェノサイド玉藻ノ前【魔術本:No.4】のキューちゃんとの 譲渡変化で成敗した。でも......
「あれは......封印だね」
「あれは、やりすぎです」
雨が降っていたら、無双状態だったかもしれない。いい意味でなんて物を作ったんだ、私の鍛治師は。
素材を回収し終えた私達。
「予想外の敵襲はあったけど、これでようやくあの建物に行けるね」
「それにしても、なんでこんな絶海の孤島に人工物が......」
「それを含めて、調査しようか」
私とアリエスは樹木をかき分けながら進んでいた。さすがに森の中にまで魚類モンスターは出ないだろうっと考えながらも奇襲してくるモンスターが他にいるかもしれないという警戒心がマックス状態になり、私達は途中から会話しなくなった。音に敏感なモンスターのための対策だ。
「真っ白ですね」
「ただの巨大な箱ってオチかな」
坂を登り終え、目的地となる建物を見た私達の率直な感想だった。
建物は、二階建てくらいの高さがある。窓はひとつもない。建物自体は白で統一されている。入口辺りに台座らしき物が置かれていた。
警戒しつつ建物へ近づく。
「これ、オートロック?」
入口付近の台座はマンションのエントランスで見かけるオートロックそのまんまだった。
試しにインターフォンを押してみたが無反応。ボタンの隣には浮き彫りになっている縦長の装置が置かれている。
形状とオートロックの性質上、これは......
「カードキー方式のオートロックか」
となると、入るのは磁気カードかICカードが必要になる。
「あの、ユミナ様。入れないってことですか」
「そうだね、建物の中に誰もいない。他に出入り口もない。唯一の扉には専用の鍵が必要になる」
地面を見渡すが、それらしきアイテムはなかった。他の可能性なら、敵が所持していて、ドロップ品としてゲットできるか、考えたくないけど、近くに白骨死体があり、そこから入手する方法が一般的かな。
「あれ? だめだ」
中は気になるけど、島からの脱出が最優先。異空間転送の把手を壁に設置したが変なウィンドウが表示されて起動しなかった。
「『研究所の壁は非接触オブジェクトのため使用できません』って嘘でしょう!?」
てか、待って。この白い建物が研究所? 嫌な展開。無人島で研究所なんてホラーの定番施設じゃん。
「そして、誰もいなくなったってわけか」
「なんのことですか?」
「いや、こっちの話〜」
どうしよう。外装の壁に異空間転送の把手を設置できない以上、内部に侵入して脱出手段を見つけるしかない。となると私達の行動は自ずと一つに絞られる。
「死体探そっか」
「いきなり狂気じみた事言わないでください!?」
アリエス、マジの引く顔はやめて。傷つくから......
森を歩いてどのくらい時間が経ったのか正直わからない。カードキー探しの旅に出た私とアリエスは坂を下ったり上がったりを繰り返した。丘の研究所以外に人工物はなく、森と海しかなかった。モンスターの気配もなく、本当になんの変哲のない無人島だった。
ぶらぶら歩いていると泉にたどり着いた。岩の窪みに雨が溜まっただけの泉。ここまでなら少し神秘的で終了だった。私達は水面に浮かんでいる物体を見て、立ちすくんだ。
泉の中央に葉っぱでできた船が浮かんでいる。そして、船の上で寝ている小さいシルエット。
赤髪、手のひらに乗るほどの小さい体。背中には自由に空を舞うことができる蝶の翅。
「妖精ですね、しかも人型。久しぶりに見ました」
妖精か。そういえば、今まで見たことがなかった。ファンタジー世界では定番種族なのにも関わらず、一回も目撃した記憶がない。
「人に似た見た目は珍しいの?」
「はい、一般で見られるのはピクシーって種族です」
青い肌に尖った耳がピクシーの特徴。そういえば......そんな見た目のモンスターと戦ったことがあったような。私の中では妖精ってか弱く小さい美少女のイメージが強かった。思い出した、初心の指針にいたアイツ......私が採取しようとしたアイテムを奪ってゲラゲラ笑っていたっけ。ムカついたからアイツごと森を燃やしたっけ。あの後、ヴァルゴの叱られたな......いい思い出だった。
「なんで、こんな無人島に妖精がいるんだろう?」
「敵ですかね」
「それにしても、無防備な印象」
葉っぱ船で優雅にお昼寝している妖精は警戒心が全くない。本当にくつろいでいる感じだった。
島をぐるりと回ったが情報は手に入らなかった。そこにきての妖精の登場。何か因果関係があると踏んでいる。ゲーム的にはフラグって呼ぶんだっけ。
「即、戦闘準備ができるようにしよっか」
あんな呑気な顔をしても、危険がないわけではない。何が起こるのかわからない。正体不明の妖精が敵か味方か。不安を募らせながら歩を進める。
「......誰?」
明瞭な声が泉に響く。
妖精と眼が合う私。黙っては何も始まらない。いざ第一島民への接触会話、行動開始!!
「あー......えっと。お元気ですか」
作り笑いをして手のひらを向けて振った。
しばしの沈黙。両者放心状態。時間にして一分が経過した時、驚いた顔を出す妖精は翅を羽ばたかせ飛んでいった。
残ったのは、泉に広がる波紋、沈没した葉っぱ船。そして森の奥へ飛んでいく妖精を黙って見守る私とアリエス。
「ユミナ様、逃げましたね」
「ヒトミシリハツドウ......」
妖精とのファーストコンタクトは失敗に終わった。
第一島民発見!!