8話:夏休み
「夏休み! 課題をさっと終わらせて、持ち帰り専門のお店を軌道に乗せるところ迄、新学期が始まる迄に!
これが私の本当の、夏休みの課題よ!」
期末は、中間と同じ方法でやり過ごした。前に一度していたので、私もみんなも普通に期末の勉強会を過ごせたよ。
みんなで勉強会をしているから、刺繍や歴史の個別レッスンはなかったわ。これが一番の収穫ね〜。
思い出した記憶によれば、このゲームでは学期末の長期休み毎にルートが確定する。夏休みに王子殿下とのルートが確定しても、気を抜くと、次の長期休暇でノーマルルートに逆戻りなんて事も起こるのだ。逆ハールートは、超難関ルートとして名を馳せていた。
個別ルートさえ、最後まで全く気を抜けないのである。
ゲームはそんな進行をするが、ヒロインのジュリエット嬢は一途な方。そして、お家の方向としても、彼女の気持ちとしても、多分、王子殿下ルートに入ったはず。
希望者による湖畔での夏期合宿で、ちょっと甘い時間が過ごせるイベントだ。
私は夏期合宿に参加はしない。ノーマルルートですら、平民落ちをする。そうなっても食べていけるように、生活基盤になる店の経営方法を身に付けておきたい。
名前はお父さまだが、八月一日から小さなホットドッグ屋を始める事が決まっている。これが体育祭の後、お父さまと話をして決まった事よ。
体育祭の時の売上げの半分は学校へ寄付したから、手元に残ったのは、みんなにお給料を支払ってまだ残った金額。屋台は外聞が良くないとかで、取り付く島もないレベルで却下されたの。手軽なのに……
かと言って、店を構えるほどのお金もない。そこで、持ち帰り専門店にしようとなったのだ。
小さな店ならどうにか借りられ、道具やキッチンシステムも整えられる。大きな店より、気持ちも楽だわ。お父さまとしては、ちゃんとした店でとの考えだ。
話し合い、これがお互いの妥協点となった。
八月一日のオープンまでに店舗を見付け、借りる手配と改装の手配は終えた。従業員の募集もして、トレーニングも開始している。
「シャーリーったら。楽しそうね」
「勿論よ、ミレー!」
(良い息抜きにもなっているからね〜。
大工さんとか従業員は平民だから。日本人として振る舞っても、誰にも注意されないのも大きいわ)
「前はもっと近寄りがたい雰囲気だったけど……最近、とても親しみやすい雰囲気に変わってきたわよね」
「雰囲気は分からないけど……体育祭の時にウエイトレスをしてくれたご令嬢方は、あれ以来ずっと親しくして下さっているわ」
「そうね。それに、前の貴女があの企画をやっても、ご令嬢の参加はなかったと思うの」
「そう……かも。いえ、そうだったでしょうね」
(見た目で『キツそう』『怖そう』『何を考えているのか分からない』などなど……。碌な第一印象をもたれなくって、そのまま誰も近づいて来なかったものね。
私から近寄れば近寄ったで、明らかに怯えられるしさ)
「シャーリーは背も高く、とても姿勢が良いでしょう? それに加え、隙が全くないものだから……近寄りがたいのよね」
「隙がない……? 隙しかないと思うのだけど……?」
(いや。変なのに絡まれない程度に、隙は見せないようにしているかな。その程度は、みんなするでしょう?)
「うーん、説明が難しいわね……。隙がないのは、確実よ。でも、最近良く笑うようになったでしょう?
今、貴女の笑顔にやられた生徒が続出しているの。それで女子生徒にも男子生徒にも、人気急上昇なのよ。いい事だから、たくさん笑ってね。シャーリー」
(人気急上昇……!? ひっそりしたいし、特にジュリエット嬢と攻略対象者の五人に目を付けられたくないから……
人気が出なくって良いわよーー!!)
私は、一緒に課題に取り組んだミレーとの会話から、意外な話を聞いたのだった。そして、「人の口に登らないように過ごすのは、意外と難しい」と知ったのである。
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