19話:安心して愛し愛されて良い世界……!
「はあ……」
まったく、ため息しかでない。
断罪されないために、ヒロインのジュリエット嬢と、攻略対象者の五人とは関わらない生活を送って来たというのに……
今年は学校の、最終学年の成績優秀者がとても多い。子爵家や男爵家では厳しい。だが、公爵家、侯爵家の成績優秀者の令嬢も王子殿下の婚約者候補として見直すのは、優秀なお妃を迎える事になるのではないか議論を呼んだのだとか。
そして、厳選した結果。公爵令嬢ジュリエット嬢と、何と、侯爵令嬢である私が、残ったのだそうだ……
誰?! そんないらない提案をしたの?!
「提案はジュリエット嬢のお父上、ロジエッタ閣下だそうだ」
ロジエッタ閣下ああぁああ!! ジュリエット嬢のお父さまでしょう?! 何故、そんな提案を?!
「選考があっても、ジュリエット嬢が選ばれる自信がおありなのだろうな」
(それは分からないでもないわ。同い年や歳の変わらないご令嬢の中では、群を抜いて優秀な方だもの)
「優秀なお妃を選べるというのは、我が国にとっても有益だよ」
(普通、そんな嬉しい悲鳴なんて上げられないものね……)
がっくりと項垂れるものの、私にはどうしようもない。ただ、妃という白羽の矢が立たないよう、祈る事くらいしかできない。
◇◇ ◆ ◇◇
王妃殿下主催のお茶会に参加したり、学校で殿下方と食事をする機会が増えたり……
酷く落ち着かない一ヶ月は、あっと言う間に過ぎた。
候補が二人いても、殿下がエスコートできるのは一人だ。その為、私はイザックにエスコートをお願いした。
イザックは快くエスコートを引き受けてくれ、ちょっとほっとした。
アーサーさまからも申し入れはあったのだが、そちらは丁重に慎重に! もう一度考えて欲しいと言われるような一分の隙もないように、きっちりお断りした!
ここに来て、これ以上変なフラグは要らないんだからね!
そして、卒業式のお祝いの舞踏会は、断罪劇が起こる事なく、恙無く終わった……
そして、その翌日。私は王宮へ出仕していた。
「第一王子キリアンの婚約者は、ジュリエット嬢に決まった」
「婚約者にはジュリエット嬢に決まっても、シャーリー嬢が決まっても、全くおかしくなかったのよ」
「いえ、私などが第一王子殿下キリアンさまの婚約者候補に選ばれた事。それだけで、身に余る光栄でございました。
優秀なジュリエット嬢にキリアン殿下の婚約者がお決まりになり、謹んでお慶び申し上げます」
そう! 私は婚約者に選ばれなかった! 殿下の婚約者に選ばれなかったと喜ぶ令嬢なんて、滅多にいないでしょうね!
「うむ、祝福に感謝を……」
そこで陛下が言葉を区切られると、王族の出入り口からイザックが出てきたではないか! え、どうなっているの?
「シャーリー嬢は、彼の者は知っておるな?」
「はい。学友であり、親しくして頂いておりました」
親しくはしていたが、詳しい事は分からない、謎の人物でもある。
「この者は、我が国の貴族の令息でもあり、留学生でもあります」
ん? は? 意味が分からないんだけど……?
「北西の島国、イグランドラーナ王国の王配は我が国の貴族でな。その奥方がイグランドラーナ王国の姫君で、順位は低いが王位継承者だったのだ」
ああー……。そんな国があったわね……。情勢不安と地理的なものから、殆ど情報のない国だったかしら?
「そのイグランドラーナ王国で昔、酷い疫病が流行って王位継承者も次々に病に倒れたのだ」
「ええ、国の4分の1の者が亡くなったそうなの……」
!! ペストみたいな疫病かしら?! 麻疹とかも、意外と怖がられた病気だったかな?
「前国王が亡くなり、政治も混乱していた最中、前国王の弟が王位簒奪をしおったのだ」
「な……っ」
「ですが、両親は機を見てイグランドラーナ王国へ戻り、王の弟とはいえ、庶子だった簒奪者から王位を奪い返しました」
そこで陛を降り、イザックが私の元へ歩み寄って来た。そして、私の前で膝をついたではないか!!
「シャーリー嬢、今まで本当の事を言えず、申し訳ありませんでした。
ですが、許されるならイグランドラーナ王国へ一緒に来てもらえないだろうか?
疲弊した我が国を、我が民を一緒に支える妃になってもらえませんか?」
潤んだ熱っぽい瞳が、私の心を射抜く。
イザックはただの貴族ではなかったけれど、それだけは悩みどころだけれど……
「はい、謹んでお受け致します」
断罪の起こらなかった世界。その世界の先。一緒にいれたらと思った貴方のもとが、私が安心して愛し愛されて良い世界……!
―終―
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