16話:冬休み
「じゃあ、良い年を!」
「ええ、シャーリーも良い年を!」
週に一度の勉強会と、テスト一週間前から毎日の勉強会の成果よね。これまでのテストは例年にない、好成績者ばかりの結果となっている。
その為か、冬休みはまったく課題が出されなかった。やったー!
そんな私たちは、明日から一ヶ月の冬休みとなる。最終学年の生徒の殆どは、この期間に卒業式の舞踏会用の衣装のオーダーに奔走する。
新年は、朝は教会で説教会に参加し、晩餐は古来の定番メニューで家族と新年を祝う。
そして、その頃まではお店が混む。年末年始はどこも休みだし、それまでにオーダーや食料の買い溜めをする人々でごった返す。
年が明け、店が営業を始めると、乏しくなった食料を買いに走る人々で、また町はごった返す。
それが落ち着くだろう1月5日に、ミレーと遊ぶ約束をした。
それも、私もミレーも婚約を考える相手との顔合わせやお茶会がはいれば流れるけど……
「良いとこのお嬢さんが、こんな寒い中働いて風邪引かないのか?」
「マックマッドさん! 依頼で町を離れていたんですか? ご無沙汰です。
家に閉じ籠もっていても、身分も関係なく、引くときは引きますよ」
「まあ、そうなんだが……
いつもの一つと、羊肉のホットドッグに玉ねぎ、ピクルスのを一つ頼む」
「ご注文、ありがとうございます!」
最初のホットドッグ屋、貴族街に近い場所に建てた二店目のホットドッグ屋、レストランを周る。それに、服飾店Facileで販売する服のデザインを考えたり、デザイナーのベルルッティさんとどれを出すか決める時間もある。
そんな事をしていると、あっと言う間に1月5日になった。
因みに、ノアとイザックも一緒である。
「みんな元気そうで良かったわ」
「風邪を引きかけたんだけどね。シャーリーに教えてもらった『卵酒』で、本格的に風邪の症状が出る前に元気になれたの」
「毎年、年末年始の辺りに酷い風邪を引くからさ。卵酒を教えてもらって、本当に助かったと叔父上も喜んでおられたよ」
ノアは、ここ王都から実家まで、往復で一月以上掛かる。その為、ミレーの家に下宿しているのだ。
「そんなに効くのなら、私も風邪を引きかけたら飲んでみようかな」
「それなら、りんごを毎日一つ食べると良いわ。『一日一個のりんごは、医者を遠ざける』と言われているのよ」
「へえ! シャーリー嬢は物知りだね」
きゅん……っ。午後の日差しの中、輝く明るい金髪。整った、弧を描いた眉。細められた目。通った鼻筋に、広角の上がった唇。
モブには勿体無い美男子の笑顔は、それはそれは破壊力があるわ。
「実家からりんごが届いたんだけど、食べ飽きていたんだ。その話を聞いて、また、食べる気になったよ」
そう言えば、彼は隣国からの留学生らしいが、それ以外の事は謎に包まれているわね。
……まさか、隠れキャラ……とかじゃない、よね?
コンコン。
「どうぞ」
考えに完全に沈む前に、ノックの音が部屋に響いた。その音に意識が浮上し、入室を許可する。
「ご歓談中に失礼致します。お嬢さま、旦那さまからのご伝言にございます」
入って来たのは、我が家の頼れる執事。お父さまも頭が上がらないくらい、誠心誠意尽くしてくれている老年の忠義者だった。
「お父さまから? ここで聞いて大丈夫なら、ここで聞くわ」
何かしら? 今日も宮廷に出仕していらっしゃる筈なのに。
「大丈夫でございます。では、申し上げます」
◇ ◆ ◇
「いや、すまないね。仲良しの四人で楽しんでいるところへお邪魔してしまって……」
そう仰るのは、冬休みに……というか、邸で会うはずのない第一王子殿下。
「馬車が故障してしまって……気分が悪くなって困っておりましたら、通りかかったシャーリー嬢のお父さまがお招き下さったのですわ。
お言葉に甘えて、こうして来てしまいましたの」
何故ー?! という私の気持ちを、空が表現したのだろうか……? はらはら降っていた雪が、吹きすさぶ吹雪となり……
「これは、馬車を出すのが危ないな。
殿下、ジュリエット嬢、それにミラー嬢もノア殿、イザック殿も泊まって行かれると良い」
ミレーたちもジュリエット嬢と王子殿下たちも、そのまま我が家に一泊して帰られる事になったよ……




