11話:ルート外
「ミレー! それにノア、イザック、お待たせしてご免なさい」
「あ、シャーリー! 遅かったのね」
「でも、そんなに待っていないから。大丈夫だよ」
「そうそう」
二学期は、ミレーとミレーの従兄弟のノア、その友達のイザックと殆どの時間を共にしている。
設定通りなら、一学期は個人でヒロインをチクチクしていた。それが上手く行かず、二学期は悪役令嬢の私と二人の令嬢が結託し、妨害やいじめが一気に加速するはずだったからだ。
悪役令嬢に付く二人の令嬢と、確実に距離を取る。これも、保身の為には外せない。
それに、イザックなのだが……
伯爵家の三男だが、穏やかな性格。イケメン俳優になれそうな、整った容姿。成績優秀。女子が働くのにも理解があると、私にはかなりの優良物件!
そう気付き、気になっているのよね。
我が家は四つ年上の優秀な兄、二つと一つ歳上の姉たち、二つ歳下の妹に、五つ歳下の弟がいる。
政治的な政略結婚をお父さまが考えていらっしゃらないなら、それなりに恋愛結婚も夢ではない環境だ。
それなら、身近でストーリーとは関係ない男子との恋も……ありだと思うんだけど……ね?
「そろそろ中庭で、昼食を摂るのは寒いねって話したのを忘れてしまってて……」
「まあ、中庭へ行ったの?」
「ええ、途中まで行ってしまったわ」
「時々、とてもうっかりするよね」
「それも愛らしいと思うよ」
(……っ!! あ、愛らしい!? 言われ慣れない言葉だわ!)
気になっているイザックに愛らしいなんて言われ、頬に朱を注いだようになってしまった。
「シャーリー嬢、どうぞ座って。アイスティーを作るから、喉を潤して」
「ええ。ありがとう、イザックさま」
魔法科に席を置くイザックは、氷を使わなくっても魔法で美味しいアイスティーが淹れられるのだ。私を席に着かせると、すぐにアイスティーを淹れてくれた。
「私も邸でアイスティーを作りますが、こんなに美味しくなりませんわ。アイスティーは、イザックがお淹れになったものが、一番美味しいです。ありがとうございます」
「作り方は、シャーリー嬢から教わったけれどね。それでも美味しいと言ってもらえるのは、素直に嬉しいな」
「冷めた紅茶は美味しくないのに、アイスティーは美味しいのって不思議よね」
「そうだね。我が家ではこの夏、美味しいアイスティーが大人気だったよ」
因みにアイスティーは、周りで話を聞いていたり見ていた生徒たちに請われ、作り方をレクチャーした。そのため、かなりの人数がアイスティーを淹れられるようになり、学校でも流行っている。
手早く茶葉を開かせ、一気に冷やすのがコツだ。そして冷蔵保存すると、美味しいまま五から六時間は保つ。色が濁ったり味が変わらなければ、二日を目安に飲み切るのも許容範囲内だ。
冷めて美味しくなくなるのは、冷めたからではない。酸化して、風味が落ちるのが美味しくなくなる理由である。
「足りたかな? もう一杯、作ろうか?」
「ありがとう。足りたわ。とても美味しかったわ。さあ、お昼にしましょ。
イザックさま、今日は第二校庭まで移動でしょう?」
「そうなんだよね。馬は……苦手なんだ。移動が嫌だな」
校庭は、剣術をするにはそれなりに広い。しかし、馬上槍試合や魔法攻撃の練習をするには手狭だ。そのため、広い第二校庭が王都のすぐ外にある。
そこは騎士科と魔法科の生徒が、日を分けて使っている。お昼休みは二時間あり、生徒たちはダンスの授業の為のドレスに着替えたり、甲冑を身に着けて第二校庭まで移動したりする。魔法科の生徒は着替えこそないが、移動はある。
魔法科の生徒も、馬での移動と決められているのだ。その際の移動手段、乗馬が苦手なのだと教えてもらった。
「頑張れますように、イザックさまのお好きな唐揚げを沢山作りましたわ。
ノアさまのお好きな豚カツと、ミレーが好きなハンバーグもあるのよ」
「唐揚げ! 嬉しいな。うん、頑張らないとね」
「私も豚カツを食べたら、午後のダンスを頑張れるよ」
「ノアもイザックさまも現金ね!
シャーリー、ありがとう。私は普通に、充分味わって頂くわ」
「ふふ、頑張れるのなら良いわよ」
嫌われてはない……よね? そんな事を思いつつ、秋晴れに私たち四人の笑い声が絶えることはなかった。
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