見つけたい、その理由
【本当にひなたは、怖いもの知らずだな】
「そう? 怖いのは怖いけど、何とかしなきゃって気持ちのほうが、強い時はあるかな」
私は、先に歩く太白を追いかけながら、草を掻き分け歩いた。
しかしこの森は大きな木も多く、なかなか思うように進めない。
弦太くん達も心配しているだろうし、一先ず私達は、旅館へ戻ることにした。
【こちらから微かに人の匂いがするのだが、何せ勢い任せに走ってきたから、少し時間がかかるかもな。 歩かせてすまない】
「大丈夫だよ。 歩いてたら辿り着ける筈だし」
と言っても、人と会う約束もしているし、早く戻らなきゃいけない。
私は足早に先を急いだ。
すると、ふわりと目の前を一匹の蝶が横切った。
その蝶は淡い光を纏い、華麗に舞う。
その美しさに見入っていると、すぅっと何処かを目指して、前へ飛んでいく。
「ねぇ太白、あの蝶……」
【あぁ、あれに付いていけば早く辿り着けそうだ】
何故そう思ったのかはわからないが、私達を導いているように見えたのだ。
私達はその蝶を見失わないよう追いかけた。
「ねぇ太白、ヨシノさんて、どんな人だったの?」
【色白で村一番の美人だったよ。 髪はひなたみたいに長かったかな。 他は全然似てないけど】
「そりゃ私は普通レベルですよ」
【いや、相手を思いやる気持ちと正義感は人一倍強かったから、そこは同じだな】
「それって、褒めてくれてる?」
【勿論だ】
そんな話をしながら歩いていたら、ちらほらとサツキの花が咲いている箇所がある。
もしかしたら、もうすぐ旅館へ辿り着けるかも知れない。
私は更に歩みを進めた。
「太白は、もう一度ヨシノさんに会えたら、始めに何を言おうかとか考えてるの?」
【……そうだな。 『守ってやれなくてすまなかった』かな】
「え……? そうなの……?」
私は足を止めた。
『会いたかった』や『愛してる』とか、感動の再会をイメージしていたので、『すまなかった』という台詞に私は少し動揺した。
すると太白も足を止め、空を仰いだ。
【雨が続いていた日の夜に、下の子が熱を出したんで、私が子どもを連れて山を降りていったのだ。 『夜分に危ないから』と、妻と上の子を残して。 だが医者に診てもらっている時だった。 土石流が起きてね。 俺達が住んでいた辺りは殆ど呑み込まれてしまったんだ】
「……奥さんと、上の子は……」
【息子は見つかったが、妻の方はいくら探しても見つけられなかった。 だが息子の懐には、妻にあげた櫛が入っていた。 きっと妻は『息子だけでも助かれば』と思って懐にしまったんだろう。 命は助からなかったが、弔ってやることは出来たから、妻の願いは果たしてやれたと思ってる】
「………………」
【でも俺は、ヨシノを見つけるまでこの世に留まりたくて、仕えていた社の神使になった。 もう一度会って、一言謝りたいのだ。 『守ってやれなくてすまなかった』と……。 って、聞いておいて何故泣いている】
私は気づけばボロボロと涙を流していた。
それに気付いた太白は、私の方へ走り寄ってきた。
【もう百年以上も昔の話だ。 泣くような話でもないさ】
「そんなことっ……ないよぉっ……」
私はその場に座り込んだ。
拭っても拭っても涙が止まらない。
私の軽率な発言のせいで、太白に辛い出来事を思い出させてしまった。
百年以上経っても、神使になってまでも、会いたいと、謝りたいと、その日を待ち続けている。
私がヨシノさんの生まれ変わりじゃないとわかった時の、あの寂しげな表情を思い出し、益々涙が溢れた。
太白は、泣き続ける私を包み込むように座った。
【悲しいばかりではなかったぞ。 娘は良家へ嫁いでいったし、孫の顔も見れた。 そして今日は、何十年振りに人と話し、その者が私の為に泣いてくれている。 充分さ】
そう言って目を細める太白に、私は抱きついた。
「ごめんなさいっ……ごめんなさい……」
【謝る事など一つもない。 だからもう泣くんじゃない】
いつまでも泣いている私を見兼ねて、太白は私の頬をぺろりと舐めると、腕の中でボフンッと煙の中に姿を隠した。
煙が晴れた次の瞬間、私の目の前に、なんと小型犬サイズの太白が現れた。
【これで涙は止まるか?】
しっぽを振り、首を横に傾げ私に愛嬌を振りまく。
私は驚き、太白の思惑通り涙はピタリと止まった。
神使というのはこんな事もできるのかと、頭は少し混乱気味だったが、太白の心遣いに、私は少しだけ笑うことが出来た。
【さぁ、旅館まであと少しだろう。 先へ進むぞ】




