約束と、その先と
初めまして。 この連載小説は、「朱い瞳と私の秘密〜運命は、二人を甘く結んでいく〜」の続編となります。
こちらだけでも読んで頂けますが、前作と合わせて読んで頂くと、キャラクター達の関係も分かり、世界観が捉えやすいと思います。
お時間がありましたら、どうぞそちらもご覧ください。
あやめちゃんと宣親くんと別れてから、三日経った日のことだった。
暫く留守にしていた真白さんが、家へ戻ってきた。
しかし真白さんが帰ってきたというのに、しらたまくんが私の膝から降りようとしない。 その原因に、心当たりはあった。
多分、弦太くんだ。
あやめちゃん達との件があった後、お互いの気持ちを再確認出来たからか、あれからしらたまくんの世話に出向く度、彼が隙あらば猫の様に擦り寄り、甘えてくる。
その姿に私の母性本能は擽られ、正直嬉しいのだが、こう距離が近いと『簡単には落とされまい』とした決意が揺らいでしまう。
そんな私を見兼ねて、しらたまくんは最近私の膝を陣取り、防御壁となってくれている様なのだ。
「コレはどういうことなのか、1から10まできっちりと説明してもらおうかしら」
この状況を見て、ニッコリと微笑む真白さんからの尋問に、私と弦太くんはゴクリと息を呑んだ。
そしてサッと正座に座り直し、事の顛末を話すことにした。
「私が居ない間に、そんな事が起きていたのね」
私達の話を一通り聞き、真白さんは溜息をついた。
「まぁ弦太は約束通り、相当な力をつけてきたみたいだし、代償だった記憶も取り戻した。 勿論ひなたちゃんもね。 その結果は評価しましょう」
それを聞いて、私は少しホッとしたのだが、隣にいた弦太くんは、ダラダラと冷や汗をかき、未だに固まっていた。
「弦太がひなたちゃんに言った事も、一門の当主としては賛成だし、いつでも歓迎するわ。 けれど……」
すると、あっという間に周りの空気が冷たくなった。
「ひなたちゃんは一般家庭のお嬢さん。 十代で結婚するとか、ご両親が納得する訳ないわ。 同じ母としてもそれは許しません。 よって、ひなたちゃんが最低二十歳になる迄は貞操を守ること。 それがまず条件よ」
真白さんが弦太くんにピシャンッと言い渡すと、『はっ、二十歳って……』と彼も何か言いかけた。
だがそれは許すまじと、真白さんからの圧が、更に強さを増した(らしい。 そこは私には感じなかったが)
「我が一門の『次期頭』、出来ない筈は無いわよね?」
「っ…………承知しました」
改めて『次期頭』と認められた弦太くんだが、真白さんの命令には逆らえるハズもなく、こうして私の身の安全は確保される事になった。
彼には申し訳ないが、少し安堵した。
しらたまくんもこの判決に納得した様で、やっと真白さんの方へと歩いていく。
私はというと、彼とのお付き合いを真白さんに認められた事が、正直嬉しかった。
◇
それから幾つか月日が経った。
あれから私は、また平穏な高校生活を送っていたが、この春に三年生へ進級、いよいよ受験の年を迎えたのだ。
と言っても、将来何がしたいか等全く決まっていない。
『弦太くんと一緒にいられるなら』というだけで、これといった明確な目標はないままだった。
「一回目の進路希望調査をするので、来週中に提出するように!」
HRの時間に、担任から一枚のプリントが配られる。
『卒業後の進路希望調査票』の下には、【進学】【就職】【その他】の項目を第二希望迄選ぶ書式になっていた。 そしてその隣には、その内容を具体的に書く欄がある。
今の時点では【進学】しかないが、どこへ進めば良いのか全く分からない。
こんなの自分だけだろうか。
周りの人達は皆決まっているのだろうか。
私はモヤモヤした気持ちで、調査票を見つめた。
身に迫ったこの問題はなかなか難しく、不安にもなる。
私はきっかけ作りにと、進学情報関連の本を探しに放課後本屋へ向かった。
チリーーーーン……
普段は聞かない筈の風鈴の音が、何処からか聞こえる。
いつもの道を来たつもりだったが、いつの間にか道を間違えたのだろうか。
私は音の出先を探すように辺りを少し歩いた。
すると、『鈴屋』と書いた暖簾がかかった家を見つけた。
風鈴もかけてある。
きっとここからだ。
今までは暖簾がなかったから気づかなかったのだろう。
そっと中を覗くと、雑貨屋の様で、様々なモノが置いてある。 私は中が気になり、暖簾をくぐり恐る恐ると店へと入った。
「あれ? 女子高生が来るなんて珍しい」
突然、中から男の人の声が聞こえ、私は驚いた。




