ご褒美の、秘密
旅館に戻ると、百井さんと結花さんが迎えてくれた。
そして、あっという間に布団が敷かれた部屋へと通され、二人は私を布団に寝かしつけた。
余りの周到さに少し疑問をもったが、彼が言っていた様に緊張が解けたのか、布団に入った途端に酷い眠気に襲われて、あっという間に夢の世界へといってしまった。
そしてふと目を覚ますと、外はもう暗い。
筋肉痛に近いものを至る所に感じる。
私はまだだるさの残る体を、何とか起こした。
「あ、お目覚めですか?」
タイミング良く、唯花さんが部屋へ入ってきた。
「お疲れでしょうし、大浴場に行って疲れを取ってきてください。 浴衣もここへ置いておきますから。 あ、おにぎりも置いておくので、どうぞ食べてくださいね」
ニコニコと花の様な笑顔で、私をもてなしてくれる。
私は勧められるままにおにぎりを頂き、勧められた通りに大浴場へ向かい、汗を流した。
緊張が益々解れていく。
けれど何故こんなにもてなされてるのか、やはり心当たりが見つからなかった。
周りを見渡すと、今日は忙しいと言っていただけあって、大浴場にも沢山のお客がいる。
何だか、さっきあったことが夢の様に思えてきた。
けれど、体の筋肉痛が、夢ではないと訴えていた。
部屋へ戻ると、今度は百井さんも一緒に部屋で待っていた。
「おかえりなさい。 さぁ、準備しましょう」
「え、何の?」
二人はニコニコとするだけで何も言わず、外出の支度を始めた。
◇
「良かった。 とってもお似合いです」
あっという間に、私は唯花さんに浴衣を着せられていた。
納戸色に白の菖蒲が描かれている。
「唯花ちゃん、ステキなお見立てね。 ひなたちゃんにぴったり。 じゃあここからは私が」
すると、百井さんは私をストンと座らさせて、化粧箱を開いた。
そして私に化粧を施し、髪まで結ってくれた。
一体何が起こっているのだろう。
私は二人の人形になった気分だった。
「わぁっ……! ひなたさん、すごくお綺麗です!」
私は気づくと、まるで私じゃない様な姿で、鏡に映っていた。
後ろには二人が嬉しそうにはしゃいでいるのが見える。
「あの、これは一体どういうことかそろそろ……」
「今日一日、がんばったご褒美」
「楽しんできてくださいね!」
二人からは、やはり答えらしい答えは返ってこない。
全く意図が読めなくて困っている所に、ガラリと戸を開け、弦太くんが入ってきた。
彼もまた、深い緑色の反物を着て身支度を済ませていた。
「うん、すごく綺麗だ」
周りに人がいるというのに、彼は恥ずかしげもなくストレートに私を褒めた。
彼こそ髪を上げた姿と着物姿が余りに格好良すぎて、眩しい位だ。
こんな人が私の彼氏なのかと思うと、顔が火照り頭から湯気が出そうだった。
「柳さんもお似合いですよ。 お二人共、とても素敵で羨ましいです」
唯花さん迄何を言うのか。
百井さんはというと、こちらも満面の笑みだった。
もう恥ずかし過ぎる。
「支度が終わったなら、そろそろ行こうか」
弦太くんは私の手を取り、外へと連れ出した。
一体これから何が始まるのだろうか。




