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森田くんの顔と名前【登場人物まとめ回】

 ある朝。駅前の広場に、十五名の少年少女が期待を胸に集まっていた。

 今日は、直人たちが健康ランドに行く日なのである。


 イベントの幹事である直人が、全員の顔を見ながら指を折り数えている。それを三回繰り返してから、ようやく口を開いた。

「えーっと、健康ランドへ行くみなさん、少し近くに集まって下さい。……えー、まずはおはようございます。持っていくものの確認はしましたでしょうか。学割に使う学生証など。

 たしか、僕のかつての記憶だと女風呂にはドライヤーとかたくさんあって、学生証以外の物は大抵なんとかなりそうなので、あまり心配要らないと思いますけど」


 仲間たちはそれぞれ、頷いたり学生証を見せたりしてみせた。


「――大丈夫そうですね。それじゃあ、キャンセルの人以外は全員集まったと思うので、本人確認と点呼をさせてもらいます。余裕がある人は自己紹介とかもどうぞ」

 直人は、緊張しながら周りを見渡した。

「一人目は(ぼく)ですね。森田直人(もりたなおと)です。バスに酔うので、バスに乗ってるときはあまり役に立てません。バスの中で何か疑問とかあった場合は飯田くんにどうぞ。あ、飯田くんが手を挙げてくれています。この人ですね。まあ男は二人しかいないので、分かりやすいですよね。

 僕のはこれくらいですね。まずは僕のクラスの人から紹介していきますか?」


「じゃあ次、私で良いですか」

 直人と目が合った奈月が、一歩前へ出た。

「二人目です。押田奈月(おしだなつき)です。女幹事は私です。男子に言いにくい質問とかがあれば私にってことになってるので、何かあれば遠慮なく聞いて下さい」


「三人目、広瀬(ひろせ)桜子(さくらこ)です。ゲームが大好きで、森田くんや飯田くんとはゲーム仲間です。今日も、森田くんたちと厳選したオススメゲーム持ってきてるので、興味がある人には布教しちゃいます。ゲームブックとかもあります。バスの中で暇になったらとにかく私に声を掛けて下さい。対戦とかも是非是非(ぜひぜひ)


「四人目です、二宮(にのみや)亜紀(あき)といいます。ええっと、あとなんだろ。私は小説とゲームブックが好きですね。それくらいですかね。よろしくお願いします」


「次、私ですか? 五人目の笹原(ささはら)初美(はつみ)です。私も小説が好きで、あとお肉にも最近ハマってます。お肉の美味しいお店、教えて下さい。それと、私のバイト先は焼肉屋なんですけど、かなり安く出来るので後でクーポン配らせて下さい」


高橋(たかはし)理子(さとこ)です。え、何人目だっけ? あ、六人目ですね。

 すみません、ちょっと緊張してます。

 私は男の人が少し苦手っていうか、恋愛っぽくなるとついふざけてしまうところがあって。最近、男友達をからかって傷付けてしまったんです。

 今日のメンバーには男子を苦手な人が結構いるらしいって聞いたので、みなさんどうしてるかとか教えて下さい」


内藤(ないとう)みずきです、七人目です。

 私はお父さんの趣味の影響でドラムを叩いてて、ギターやってる人がいるって聞いて勧誘をしに来ました。ウチで練習すればお父さんの防音室を使えます!

 バンドに興味がある方はよろしくお願いします。バンドに興味がない人も、良かったら音楽の話とかたくさんして下さい」


 ここで、森田のクラスメイトの紹介が終わった。


「次、飯田のクラスいく?」

 と、直人。


「八人目、飯田一保(いいだかずやす)です。今日は皆さんに楽しんでもらえたら嬉しいです」


「……飯田それだけ?

 えっと、九人目の伊藤桃子(いとうももこ)です。飯田と同じクラスです。

 皆さん仲良くして下さい。男子が苦手な人で会話の練習をしたい人がいれば、ウチの弟を会話の練習に差し出しますよー。その代わりに誰か、かわいい系の男の子を紹介して下さい」


「じゃあ次は、隣の高校の人たちいきますか?」

 直人が促す。


「ええ!? 私たちは?」

 慌てて聞く女の子。


「そうか、木下も同じ学校なんだもんな。ごめん」

 直人は、半分笑いながら謝った。


「扱いひっど!

 えーっと、十番目ですね。皆さんより一年後輩の木下(きのした)夢子(ゆめこ)です。森田先輩はバイト先の知り合いなんですけど、今みたいにわりといじめられてます。

 今回も、もし当日に人数が足りなくなったときだけ来てくれって言われてて、三日前まで行って良いのか分からない状態で。横暴ですよ森田先輩は」


「変な言い方やめろよ。『周り全員先輩だから気まずいだろうし、無理して来なくて良いけど、もし興味があれば人数不足になったとき助けてほしい』って言ってみただけじゃん」


「いやあ、怖い先輩に言われたら逆らえないし」


「怖いなんて思ったことないくせに、何言ってんだ」


「まあ、森田先輩がバスをどうしても貸し切りにしたいみたいなので、手伝ってあげたんですよ。

 ――あ、先輩は女子の湯上がり姿がすごく好きらしいので、皆さん今日は森田先輩とたくさん話してあげて下さい」


「おい、余計なことは絶対に言うなって言ったろ!」


「えー? 先輩が言えないから言ってあげてるんじゃないですか」


「今日は基本的にセクハラっぽい発言は禁止なんだよ。学校が違えばセクハラのラインも変わってくるから。次変なこと言ったら、もうお前にゲーム貸してやらんからな」


「そんなあ、女子の先輩にセクハラ質問たくさんしようと思ってたのに」


「絶対にするなよお前。

 次、木下の友達の人どうぞ」


「あ、はい。村上里子(むらかみさとこ)、十一人目です。えっと、夢子とは同じクラスで。バイト先に行ったことがあるので、森田先輩も知ってます」


「今回はごめんね、村上さん。村上さんにまで迷惑かけるつもりはなかったんだけど、木下に補欠として準備しといてもらって二人足りなくなれば、当然こうなるんだよね。いや、本当に反省してます。考えが足りてませんでした」


「いえ、私も行きたかったので。夢子も、一年が自分一人じゃ行きにくいから二人分空いてちょうど良かったって」


「そう言ってもらえるとありがたいです」


 夢子はつまらなそうに

「ちょっと先輩、態度違い過ぎないですか?」

 と聞いた。


「いや、木下もありがとうだけど、点呼急いでるからさ。ごめん」


「まあ良いですけど」


「――次は、隣の高校の二人で良いかな?」


「十二人目、長友(ながとも)(まこと)です。えっと、私は物覚えが悪くて、顔と名前を一致させるのに時間がかかって、また名前を聞いちゃうかもしれません。ごめんなさい。

 私のことは、とにかく背が一番低いやつが長友真なんだなって覚えて下さい。長友なのに短いって覚え方で。よろしくお願いします」


「十三人目、丹頂歩(たんちょうあゆむ)です。長友真のクラスメイトです。チャットにも書きましたが、森田くんのクラスに私の彼氏がいるんですけど、浮気してるっぽくて。今日は情報とか集めさせて下さい」


「ラストは女子高の二人ですね、お願いします」


(たちばな)(はるか)です、十四人目です。

 ちょっと人混みとか苦手なので、食堂とかで離れて座ることとかあるかもしれないですけど、気にしないで下さいね。

 ギターもやってて、内藤さん()の防音室の話はすごく興味あります。後で聞かせて下さい」


「十五人目です。橘さんと同じクラスで栗ノ木沢(くりのきざわ)レナです。本日は宜しくお願いいたします。家ではゲームが出来ないので、もうバスの中でのゲームが楽しみで。私でも出来そうなゲームも森田さんたちが用意して下さったそうで、ありがとうございます」


「それと栗ノ木沢さんは、親の方針でスマホを持たせてもらってないそうです」

 と、直人が補足した。

「なので、用事で橘さんが栗ノ木沢さんから離れないといけないときには、なるべく他の誰かが一人はそばにいるようにしてもらえたらと思います。女子のみなさんはご飯のときとか、ある程度は連絡して時間合わせるんじゃないかと思うので」


「ごめんなさい、それ私が言わないといけなかったですね」

 レナは、深々と頭を下げた。


「いやいや、俺じゃなくて広瀬さんが前から心配してたんですよ。実際、みんなで行動した方が安心ですし」


「ありがとうございます。私、ゲームコーナーに絶対に行きたいんですけど、まだゲームセンターに慣れてない上に元々機械が苦手で。ゲームが続いてるのに終わったと思って帰ろうとしちゃったりして。やり方自体が分からないゲームも多くて。

 だから、他の人が遊ぶのを参考にしながらやりたいので、みなさんがゲームコーナーに行くときにはぜひ誘って下さい」


「というわけで、栗ノ木沢さんはスマホを持ってないよというお知らせでした。

 これで点呼完了です。十五人ちゃんといましたね。

 あとはバスが来るまでどうぞお話を。僕はもう疲れました」


「早いよ森田くん! まだ出発前だよ、頑張って」

 と真が励ます。


「幹事しんどいです。早く向こうで横になりたいです」


「――あそこの、信号で止まってるバスって私たちのかな?」

 桜子の目線の先に、バスがある。


 直人はバスを見るなり、

「じゃあ僕はこれから精神集中します。貸し切りバスにするために無理矢理十五人集めておいて、その俺がこんなこというのもなんですが、みなさんバスを降りるまではあまり話し掛けないで下さい。

 降りた後でいくら俺の悪口を言っても良いですから、バスだけは許して下さい」

 と宣言したので(本人は大真面目なのだが)みんな笑ってしまい、空気を和ませた。


「森田先輩、後でコーヒー牛乳くらいおごって下さいよ」

 と、後輩の夢子。


「ああ、そういう要求も後で言って下さい、今言われても降りたときには忘れているので。今は悪口とかだけどうぞ」


「先輩のバカ。バス大嫌い人間。女子大好き人間」

 と、本当に悪口とかを言ってみる夢子。


 流れに乗るのが好きな桜子が、すかさず

「スカート大好き人間」

 と続ける。


 理子が笑う。

「そうそう。デートで男子の喜ぶ私服を聞いたらまず『俺ならスカート』って答えたんだよねこの人。分かりやすいっていうか」


「森田くん、子供の頃の奈月がスカートの下にスパッツ試したとき、あからさまに失望したらしいよ」

 と亜紀。


「先輩サイテー」


「飯田もスカート大好きなのに、なんで俺ばかり言われるんだよ」


「バカ野郎、俺を巻き込むな!」




 直人と面識がなかった者も、この騒ぎで『森田くんの顔と名前』は簡単に覚えることが出来た。

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