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頑張る勇気

「それで直くんは、私以外に誰からのチョコが欲しいの? 遥さん? 亜紀?」

 奈月は、質問をしながら直人の太ももに手のひらを乗せる。

「相手次第で怒り方を変えなきゃいけないから先に教えてよ。そうだ、初美に今頼んでおけばチョコくれるかもよ?」


 奈月にボディタッチをされているというのに、直人は緊張のあまりニヤつく余裕がなかった。

「あの、あくまで仲直りの練習をするために奈月が怒りそうなことを考えてただけであって、別に誰から欲しいとかじゃなくてね?

 もし奈月がチョコ受け取るなって言ったら、他の人からはチョコ貰わないから」

 体をギクシャクさせながら直人は答えた。


「え。もう私、直くんにチョコあげても良いよって桜子に言っちゃったけど?」


「なんで広瀬さん?」


「なんか、色々お世話になったからどうしようって感じで聞かれて。チョコ大好きだからどうせ喜ぶでしょって言っといた」


「いや広瀬さんから俺にチョコはダメだろ。飯田が怒るでしょ」


「飯田くんにも聞いて、良いよって言われたみたい」


「なんで!? じゃあ奈月も飯田にチョコあげるの?」


「あげないよ。あげない方が良いんでしょ?」


「奈月が飯田にチョコあげたら、俺もう気が気じゃないよ」


「だから直くんにしかあげない」


「なんで飯田は、広瀬さんが俺にチョコ渡しても平気なんだろ。渡すときどんなこと話すんだろうとか、心配にならないのかな」


「というか(なに)、桜子まで彼氏がいるわけ?」

 理子が聞いた。


「いや、彼氏じゃないよ。まだ、ただの男友達がチョコくれって懇願してるだけの状態というか」

 直人が答える。


「そうだとしても、青春って感じでうらやましいんだけど。一回くらい、お前のチョコくれとか素直にアピールされてみたい」

 理子は何気なくそう言ったのだが、その言葉に直人の体がピクッと動いた。


「おっと、高橋さん!

 待ってましたよ、そういうことを言ってくれるのを。実に良いことを言ってくれました」

 直人は一人で興奮している。


「え、どしたの!?」

 理子は何がなんだか分からず、戸惑っている。


「今言いましたよね、誰でも良いからアピールしろって」

 直人は、念を押すように言った。


「誰でもとは言ってないんだけど……」

 苦笑いする理子。


「嫌いな人以外なら大体オーケー?」


「何その質問、めっちゃ答えにくいんだけど。何かあるの?」


「そもそも今日呼んだ理由が、高橋さんとそういうことを話したかったからで」


「私たちって、奈月と森田くんがイチャつくのを見せられるために呼ばれたんじゃないの?」

 と、理子が冗談を言う。


「別にイチャついてるわけじゃないよ!?

 なんか直くんが二人を呼んでって言うから誘ったの。多分今から本題なんじゃない?」

 奈月が答える。


「そう、これ本題。二人に聞きたいことがあったんだよね」

 そう言って直人がチラリと理子と初美を見てみると、あまり緊張してる様子はなかった。

 うーん、心当たりがなさそうな顔だ。二人とも、今から自分のことを好きな男子の話をされるかもなんて全然思ってなさそうだ。野口くんも八木くんも、なんとも思われていないということなのかな……。

 ――さて、どう切り出すか。


「無言でニヤニヤされると、何を言い出すか怖いんだけど」

 奈月が思わず口に出した。


 直人は我に返って

「ああごめん、真面目な話なんだけど笑ってたか」

 と穏やかな口調で言った。

「友達に頼み事したりされたりってことに慣れてないから、こういうの嬉しくてさ。もちろんふざけてはいないんだけど、スマホに書いてある頼まれ事の箇条書きとか見るとワクワクしちゃって。昔なら断ってたことも聞けて、昔なら言えなかったことも言えて。

 健康ランド関係のまとめ役なんてまさにそうで、昔ならすごく嫌だったと思う。

 笹原さんにも、誕生日プレゼントに小説書くの頼めて、健康ランド手伝ってくれて、わりと気楽に頼み頼まれ出来るようになったよね。

 奈月が具合悪いときに俺を信じて頼ってくれたから、奈月のおかげでほんの少しだけ自分に自信がついたのかもしれない。

 だから、高橋さんに今から説明するぞって思ったら、なんかニヤニヤしちゃったんだろうね」


「バーカ」

 奈月はそう言うと、呆れたようにため息をついた。

「あのね。直くんが自信を持てるようになったのは、それだけ努力してるからだから。今日だって、運動を頑張って自信ついたでしょ?」


「でも、一番最初に頑張る勇気をくれたのは、奈月の優しさだし」


「あの日、私に色々聞いてくれたのは直くんからなんだから、直くんの勇気だよ」


「それは、この人につらい思いなんてしてほしくない、なんとか力になりたいって思ったからで」


「それは直くんの元々持ってた優しさ。

 いっしょに学校に行こうよってどうしても言えない、根性ひん曲がってるかわいげのない女なんかを気にしてくれた、直くんの優しさ」


「うーん……でも、大体の男はあの状況なら下心でとりあえず助けようとするからなあ……」

 直人はイマイチ納得がいかなかった。


「ちょっと心配するだけじゃなくて、必死で考えてくれたじゃん。

 私ね、いっしょに学校に行けて本当に嬉しかった。身長伸びた後の直くんが私と歩くスピード違うの、良く知ってたから。

 あの日はエレベーター降りてから、ずっと私の歩く早さに合わせててくれて。

 直くんが私のダメなところを叱ってくれたのも初めてだし。下心じゃ叱ったり出来ないでしょ?」


「初めてなの? 俺はしょっちゅう叱られてたけど、逆はなかったのか……?」


「直くんそもそも滅多に怒らないもん」


「あのさあ、これでイチャついてないって無理あるでしょ」

 理子にそう指摘されると、直人と奈月は競い合うように耳まで赤くなってしまった。

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