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告白するにはまだ早い!

「言いたいけど言えないってこと? 振られるのが怖い?」

 直人は飯田の近くに寄り、あぐらをかいた。奈月も、座布団を持って直人の横に座った。


「そういうんじゃなくて……いや、振られるかもって心配もあるけどさ」

 飯田がそう言ったとき、桜子は、肩揉みのために自分の肩に乗せられたままだった飯田の手を引っ張った。桜子の、無言の意思表示だ。その結果、飯田が桜子に後ろから抱きついているような形になった。

「わ、桜子さん!? どうしたの?」


「なんでもない。続き、話して」

 桜子はそう言いながら、飯田の手に自分の手を重ね、指を優しく絡めた。


「……っと、なんだっけ。考えてること飛んじゃった」


「飯田が、付き合って下さいって言えない理由だよ。別に、ゆっくりで良いけどな」

 直人が、優しい声で言った。

 好きな人が自分の腕の中にいるのに、落ち着いていられるわけがない。直人はそう思った。


「そうだった、告白のことだったな。俺、これだとみんなに対して適当過ぎるなって思ったんだよ。

 俺さ、気持ちがまとまらないまま橘さんに会いに行っちゃって、わざわざ森田に頼んで健康ランドの企画出してもらって。

 二宮さんたちや長友さんがどういう風に友達に説明してるか分からないけど、健康ランドに来てくれる人の中には、俺のことを気にして参加してくれてる人もいるかもしれないじゃん。『ふむふむ、人数が集まれば飯田って人が初恋の人に会えるのかあ。よく分からないけど行ってあげても良いかな』って感じで。

 それで健康ランドの日、橘さんの友達とか長友さんの友達とかに、俺が桜子さんと付き合ってますって言うのって、なんか森田や橘さんの評判まで下がりそうで。

 かといって、もし付き合ってる人とか誰かに聞かれたときにウソは言いたくないし。

 だから、健康ランドのことが片付くまでは言えないかなって」


「健康ランドに行った後なら、付き合って下さいって言えるの?」


「……好き過ぎて、すぐに言えるか分からないけど。とにかく今は、告白するにはまだ早いのかなって。迷いながら告白するなんて、失礼だし」


「なるほどね……。

 まあ付き合わなくてもデートとか出来るから、急がなくても良いもんな。そういうことならもう、俺はあんまり言わない方が良いのかな」


「いや、なるべく早くちゃんとしたい気持ちはある。付き合わずにズルズルって形は、桜子さんを不安にさせるから」


「けど、健康ランドに行くまでは現状維持したいと」


「まあそんな感じ」


「そうなると、もし健康ランドまでどうしても広瀬さんが我慢出来なくて、広瀬さんが告白してきたら怒るの?」


「怒れるわけないじゃん。よろしくお願いしますって言うよ」


「広瀬さんが突然キスしてきても怒らない?」


「そんなの、嬉し過ぎてやべえよ」


「広瀬さんに、深夜に出歩くの控えてほしいって言われたら?」


「出るの止める」


「えっ、夜食は?」


「なんか、冷凍食品とかカップ麺とか」


「カップ麺減らせって言われたら?」


「そしたら減らすよ。ご飯の炊き方教えてもらう。ずっと、こんな生活じゃダメだって思ってたし。

 別にもうさ、俺が両親のためにご飯炊いておくようにしても良い歳なんだよな。だけど、今まで俺気付けなくて。

 桜子さんって本当に大人で、一日話しただけでたくさんのことに気付かせてくれたんだ。他にも、ダメなところたくさん教えてもらいたい。

 だからこれからも、ずっとそばにいてほしくて」


「すげえな、そんなに広瀬さんが好きな――」

 直人は、反射的に口を閉じた。桜子が涙を流していたからである。


「ごめんね。飯田くんの気持ちが、嬉しくて」

 桜子は涙声になりながら、なんとかそれだけ伝えきった。


「桜子さん、もうちょっとだけ待っててくれる?」

 飯田が座る位置を調整し、桜子の背中にほんの少しだけくっついた。腕も少し、桜子の体に密着させた。


 その少しが、今の桜子には大きな励みになる。

「待ってる……」


「ありがとう」


「ううん」


 飯田と桜子の様子を見て、直人は

「さっきの場所に戻ろうか?」

 と小声で奈月に聞いた。


「うん」

 奈月も同意をした。


「――俺らは席に戻ってゲームするけど、飯田はそのままもう少し抱きしめてろよ?」

 直人が真面目な顔で釘を刺すと、飯田は神妙な面持(おもも)ちで頷いた。




 しばらく大人しく桜子を抱きしめていた飯田だが、ゲームのストーリーが一区切りしたところで口を開いた。

「なあ、まだ抱きしめてなきゃダメかな? 多分俺、汗かいちゃって、くせーよ。一回着替えたいんだけど」


「そんなの、好きな人なら全然気にならないだろ。

 飯田はもう、そのままの状態でうとうとして二時間くらい寝て、広瀬さんにキスされちゃえば良いんだよ」


「全然眠くねえよ。大体、他人を家に呼んでおいて寝られるわけないだろ」


「俺は卒業アルバムの説明もしないで寝たけど」


「それはお前が変なんだよ!

 本当のこと言うと、なんかさっきからおなら出そうな気がして。離れておかないと危険かも」


「分かる、そういうの俺もある。まあしょうがないか、離れて良いよ。

 もう秘密兵器出そう。広瀬さん、少し早いけど飯田にたこ焼き作ってあげてよ。お腹いっぱいになったら、飯田も眠たくなるかもしれないし」


「そだね、作ろうか。飯田くん、どんなのが好き?」


「待って待って。たこ焼きって何?」

 飯田は、話の流れが分からず、質問をした。


「丸くてたこが入ってるあれだよ。好きだろ?」

 そう言ったのは、もちろん直人である。


「いや、それは知ってるけど」


「んとねー……」

 桜子は、飯田に抱きしめられたまま自分のカバンを開ける。そして、袋を取り出して飯田に見せた。

「じゃーん! 来るとき、こっそり材料とか買ってきたんだよね。

 飯田くんがトイレに行ってる隙に、冷やしておいた方が良いものは森田くんが冷蔵庫に入れちゃったよ」


「えっ、じゃあ本当に作れるの!? すげえ嬉しい」


「でも奈月の方が上手だから、奈月の方を多めに食べてね」


「やだ。絶対に桜子さんのやつばっかり食べる」


「えー恥ずかしい。じゃあ、大失敗したら食べないでくれる?」


「大失敗でも食べる。全部食べて良いって言うまで、このまま離さない」

 飯田は、桜子を初めて強く抱きしめた。


 飯田の力に、桜子は驚いた。

「ええっ!? どうしちゃったの飯田くん、私から一回離れたいんじゃなかったの?」


「離れたいけど、それ以上に食べたい。お願い、食べさせて。桜子さんが作ったものなら絶対に美味しいって」


 本来桜子は、料理の出来をそれなりに気にする方である。

 しかし、飯田に力いっぱい抱きしめられ、耳元で懇願され、名前まで呼ばれ、桜子はもう断ることは出来なかった。

「わ、分かった。大失敗しないように頑張ってみるから」


「やったー。桜子さんのたこ焼きすげえ楽しみ」

 飯田がそう言って喜ぶと、桜子も嬉しくてたまらなくなった。


「飯田が楽しみにしてるのと同じくらい、俺も奈月のたこ焼きを楽しみにしてるからね」

 直人は、奈月を背後から抱きしめながら気持ちを伝えた。


「対抗してどうすんのよ、二人の応援をしに来たんでしょ。私のたこ焼きなんて、不味いって言ってれば良いの!」

 奈月は口ではそう言うものの、直人の腕の中から抜け出そうとはしなかった。




「これ、材料費相当するよね。俺払うよ」

 飯田が、袋の中を覗き込みながら言った。


「良いの良いの、余計な物も買ってるし。お金もらうと、絶対失敗出来ないってプレッシャーかかるから」

 桜子が拒否する。


「飯田が借りを覚えておいて、次のデートに持ち越しておけば?

 そうするとお互いの楽しみが増えるよ」

 直人はそう言ったが、飯田は

「そうするかなあ。でも俺、飯屋とかのセンス悪いからな。上手くお返し出来るかな」

 と、悩んだ。


「飯田の好きな店、美味しいのにすぐ潰れるもんな。トンカツ、ラーメン、カレー、ステーキ」


「そう! 六百円でご飯・キャベツ・ゴマ・ドリンクバーお代わり自由で、なんで潰れるの!?

 あのトンカツ屋が潰れて二千円のトンカツランチが混んでると、価値観がよく分からなくなる」


「まあでも、大丈夫でしょ。ファミレスとかならメニュー幅広いし。

 相手が広瀬さんの場合、ゲームでお返ししても良いけどな。今日のゲームのダウンロード料金の五百円を受け取らないとか」


「あ、そうだな。とりあえずゲーム代はもう絶対要らないよな。俺が払っとけば良いんだ」


「よしよし。そうなると、俺も二百五十円を払わないで済むわけで」


「お前は払えよ。材料買ってないし、たこ焼き作らないんだろ?」


「じゃあ、あのたこ焼き作るゲームやっとくからさ。それに二百五十円分の感動を覚えてよ」


「なんでお前のたこ焼きゲームのプレイングに、俺が二百五十円の価値を見出ださなきゃならねえんだよ!」


「そのツッコミ久々だな。最初なんだっけ?」


「お前が『なんで夏休み明け最初に会った女子の背中に、泣きたくなるほどの価値を見出ださなきゃならないんだよ』って愚痴って」


「なにそれ?」

 奈月は、意味がよく分からないまま、その場の雰囲気にクスクスと笑った。


 直人が恥ずかしそうに鼻をこすって、

「夏休み明けに奈月とエレベーターでいっしょになって、泣きそうになったんだよ。夏休みに女子と接触なさすぎたせいで、頭が変になってるのかなって思って」

 と、半笑いで喋った。


「あれって押田さんのことだったのかよ」

 飯田がたまげた。

「エレベーターで幼馴染みに会ってとか、ちゃんと言えよ。ちょっとは説明とか相談とかしろよなあ、何か協力出来たかもしれないのに」


「ねえねえ。私もあの日、泣きそうだったんだよ」

 奈月は嬉しそうに直人の手を取った。


「そうなの?」


「だって直くん、私が『夏休み楽しかった?』って聞いたら『全然楽しくなかったよ』って言うんだもん。心配しちゃったよー」


「奈月に会えなかったから、全然楽しくなかった」


「だったらちゃんと、『奈月に会えなかったから、楽しくなかった』って言ってよ!」


「そんなこと言えるわけないじゃん。そんなこと言ったら気持ち悪がられて、奈月が二度と話してくれなくなるもん」


「そんなわけないのに。勇気出してよ」


「だったら奈月が『あ、私に会えなかったからつまらなかったんでしょ? 今日から遊んであげようか?』とか、聞いてくれたら良かったんだよ」


「そんなこと言えるわけないじゃん。そんなこと言ったら気持ち悪がられて、直くんが二度と話してくれなくなるもん」


「そんなわけないのに。勇気出してよ」


「無理。あの頃の直くん、冷たかったもん。直くんが言うべき」


「だって、奈月が勝手にかわいくなるんだもんなあ。奈月から積極的にきてもらわないと、俺にはどうしようもないよ」


「だけど、最終的には直くんから優しく声掛けてくれたよ?」


「何も出来ないまま奈月が体を壊したら、絶対に後悔すると思ったから」


「私のことがそんなに大切だったんだ?」


「まあそう。気付くの遅くなっちゃったけど……」


「遅いよねー。私、作ろうと思えば彼氏作れたよ?」


「なんで作らないでくれてたんだっけ?」


「だから、直くんみたいな人が一人もいなくて……」


 桜子はしばらく大人しく二人の話を聞いていたが、思い出したように笑い、飯田にこう言った。

「この二人の恋愛に比べたら、私たちの恋愛なんてめちゃくちゃ進行早いよね。ちょっと待つくらい平気だね」


「森田たちの恋愛の進行が遅すぎただけな気もするけど……」

 飯田はそう答えてから、

「あ、でも、そっか」

 とつぶやいた。


 聞き取れなかった桜子は、

「でも?」

 と言いながら飯田を見つめる。


 聞かれた飯田は、一瞬迷って目をそらしたが、思い直して桜子の目を見ながら、

「いや、ごめん。橘さんに恋してた時期と比べたら、ものすごいペースで仲良くなれてるんだなって思って」

 と答えた。


「なんでごめんなの?」


「俺、すぐに橘さんの話して。なんでだろ、ひどいよね。泣かせたばかりなのに、またやっちゃった」


「良いの。飯田くんの橘さんの話で、私もっと飯田くんを好きになれたから。健康ランドで橘さんとどう話せば良いか分からなかったりしたら、相談してね」


「桜子さん、つらくないの?」


「飯田くんのこと、信じることにしたから。

 奈月なんて、森田くんと既に付き合ってるのに、遥さんに会いに行かせたからね。ちょっと見習わないと」


「改めてすごいよね。あのときも驚きはしたけど、今だと感じかたが違う。どんだけ信じきってるのかなって思う」


「ね。もう尊敬」


「何の話?」

 自分の名前が聞こえた奈月が、桜子を見た。


「いや、奈月ってバカだなーって」


「なんでよ、そんな感じの話し方じゃなかったじゃん」


「だって奈月、絶対変だよー」


「桜子の方が変だし! 飯田くんに好きな色の下着無理矢理聞いて、好きな色の下着だと飯田くんに抱きしめられてるみたいで幸せって、ずっとニヤニヤして」


「そんなこといったら奈月なんて、森田くんが変なことしてるときにわざと部屋にノックする変態じゃん!」


「だって、声とか表情とか態度とか、かわいいんだもん!」


「違い分かるの?」


「分かる分かる。手の平とか触るとビクッてするから」


「手の平、弱いんだ」


「それもあるけど」

 そう言うと奈月は、桜子に耳打ちをした。


「うんうん」

 桜子は、話を聞きながら直人を見た。

「あーそっか。だから手は恥ずかしいんだ……。

 ――うわ、森田くんかっわいい!

 えっ、付き合う前だったの!?

 うん……えーそれ、森田くんめちゃくちゃかわいそうじゃん」


「えーなんでよ!?」

 奈月は桜子の意見に納得いかないようで、内緒話を止めて大きな声を出した。


「だって森田くん、つらいでしょ。罪悪感とか」


「でも直くん……」

 奈月は再び桜子へ耳打ちを始めた。


「それはさすがに大げさに言ってるでしょ?」


「本当に! 私が寒がってもベッドから出て来ないの。で、布団に入ろうとしても入れてくれなくて。で、布団の上から乗ったら『重い』って。

 だから私、ちょっと怒ってるフリして。今なら何でも約束させられると思って、デートの約束させて」


「ひっど」


「良いの! 直くんは昔から困らせられるのが好きなの!」


「それって好きだったんじゃなくて、奈月が好きにさせたんじゃないの? 小さい頃に奈月に意地悪され続けて、森田くん変になっちゃったんだよ」


「えー!?」


「だって私、そういうのって小さな頃の経験が関係してることがあるって亜紀に聞いたし。

 奈月の足で何度も公園の砂場遊びを壊されて泣かされたから、奈月の足はすごい神聖なもので絶対に敵わないって、森田くんの脳が勘違いしちゃってる可能性があるわけ」


「えっ。その場合どうしてあげたら良いの?」


「そんなの私知らないし! 奈月の方が詳しいでしょ」


「私全然知らないよー」


「ウソでしょ!?」


「なんでよ、全然心当たりない」


「はあー!? あ、森田くんの前だから知らないフリしてるんでしょ?」


「してないしてない! ちょっと本当止めて! 直くんに嫌われたらどうするの!?」


「そしたら足の出番よ」


「桜子、絶対に何か知ってるでしょ!?」


「知らない。私ピュアだから」


「ピュア!? ピュアだって。自称清楚の次は自称ピュア」

 奈月は、座布団を叩きながら大笑いをした。


「自称じゃないし。飯田くんも清楚って言ってくれたもん。ビデオ通話したとき、喋り方おしとやかだねって言ってくれたし」


「うわー、素だとひどいのに騙してる」


「騙してないから! おしとやかなの! 初めて言われたけどおしとやかなの!」


 女子二人が笑い合い、話を続けている。


「……なあこれ、俺ら聞いてて良いのかな?」

 飯田が心配そうに、小声で直人に聞く。


 直人は笑いながら

「慣れてくれてからの女子の話って、わりとこんな感じだよ。中学もこうだった。橘さんも」

 と答えた。


「マジかよ」


「広瀬さんが、飯田に慣れてきてくれた証拠かもね」


「それなら、嬉しいかも」

 飯田は、奈月と桜子が楽しそうに言い合うのを見ながら、ほほえんだ。




 結局、奈月と桜子が笑い疲れて口を休めるまで、男子二人はドキドキしながら眺めていた。


「桜子がくだらないことばかり言うから、時間過ぎちゃったじゃん。たこ焼きも作らなきゃいけないのに」

 奈月が、わざと桜子のせいにする。


 普段ならすぐに言い返す桜子だが、今日は恋する乙女である。

「あ! 飯田くんもうお腹空いちゃってる? 大丈夫?」

 と、飯田の心配をした。


「俺は平気だけど」


「はあ、良かった……」


 そのとき直人はふとテレビ画面を見て、

「たこ焼き作ってる間、このゲームはどうしようか? セーブして休憩しとけば良い?」

 と聞いた。


「もうすぐ船だよね。船に乗るところのシナリオはいっしょに見たいな」

 すぐに桜子が、そう答えた。


「あー分かる、最初の山場感あるよね。了解」

 そう言って直人はセーブすると、

「ゲームの船ダンジョンって大体わくわくするよね。海賊船・沈没船・幽霊船・難破船・火力船……」

 と、桜子に向けて語りだした。


「そうそう! クリアすると二度と行けない船も多くて、船内に非売品が結構あって」

 桜子も、話題に飛びついた。


「船とピラミッドは良いアイテムあるの期待しちゃうよね。財宝とか」


「船やピラミッドって、宝箱多いけど難所ってイメージある。なんか呪われてて、謎解きしないと進めなかったり。

 結構足止めされるんだけど、飽きないんだよね」


「船ダンジョンもピラミッドも、昔のゲームでもわりと専用の曲や画像が使われてるしね。普通のダンジョンの曲や画像だと合わないからだろうけど、特別なダンジョンって感じする。実際、普通のダンジョンより力入れて作ってあることが多いと思う」


「そう、良い曲や良い演出多いんだよね。しかも、昔のゲームの幽霊船とかの方が逆に演出が怖くて」


「昔の幽霊船とか呪われた城とかは、何が起きるか分からないもんね。ボスがまた、嫌な攻撃するやつ多いんだ」


「ねえねえ、幽霊系ダンジョンで一番好きなの何? 船の墓場とか魔王城とか、あと冥府も良いよね」

 タイトルを言わなくても大体伝わると思い、ダンジョン名を挙げていく桜子。


「魔王城もかなり好きだけど、魔王城は魔王側の呪いや嫌がらせってはっきり分かるからなあ。

 呪ったり死者を操ったりしてるのが誰か、最初は分からないって状態で急に始まるタイプのダンジョンが特に好きかな。なんか、ホラーの心の準備が足りてないときに始まるタイプ」


「うわー、すごく分かるー!

 幽霊船に用事が出来て自分から行くのと、突然巻き込まれるのとじゃまた違うよね」

 桜子がはしゃいだ。


「そうなんだよね。俺はどちらかというと、意外な入り方をするホラーダンジョンの方が好きで。

 だから一番は……アンティークドールで行くモンゴメリーの屋敷かなあ。動く人形とか、人肉タンスとか、化け物だと思って倒したら仲間とか、井戸と血まみれロープとか、パーティーの名前が書かれた墓地とか、隠し部屋とか、血文字とか、初見だと内容を勘違いする日記とか、全体的に最高だった」


「あれすごいもんね、あそこだけ完全にホラーゲームみたいで」


「あー、それ知ってる!」

 奈月が、恨めしそうに直人をにらんだ。

「前に私、面白いからって言われて、そこだけ直くんにやらされた。タンスで限界きて泣いた」


「あれはごめんね奈月。本当に好きだったから、やってほしかったんだよ。

 俺はタンス大好きだったからタンス動いてる場面で笑ってたんだけど、戦闘に入ったら奈月が泣き出して。まさか泣くとはなあ」


「でも分かるかも」

 桜子は言った。

「それまで悪霊とか怪物だったのが、急に人体になるからね。わりと嫌悪感ありそう。

 私は小さな頃から色んなゲームやってて、肉ダンゴ系の敵にも多少慣れてるけど、奈月は多分それが最初でしょ?」


「最初に決まってるじゃん。私もうショックで」


「なるほど、俺の場合そういうのかなり慣れてたかもな。まだ子供だったから、そのあたりのことは全く考えてなかった。

 俺もう、奈月が泣いたときビックリしちゃったよ。ベッドでぎゅうぎゅう抱きついてきて。奈月の頭をなで続けられたから、俺は嬉しかったけどね。

 お化け屋敷は入ろうとする奈月が、ゲームにそんなに怖がるなんて思ってなくて。分からないもんだなって感じで、かわいく思った」


「お化け屋敷より怖かったよ……。今なら出来るのかな?」

 奈月が、不安そうな顔で直人を見た。


「今なら余裕でしょ。試しにやってみてよ。というか、最初のシナリオの、学校の体育館の幽霊退治も結構オススメなんだけど。興味があったら最初からやってみても良いかも」


「あのシナリオも良いよね。というか、シナリオ全部良いんだよね。ギャグからシリアスまで完璧で」

 桜子は、ストーリーを思い出しながら興奮している。

「私もまた最初からやりたくなってきた……けど、飯田くんとも遊びたいし。

 なんか、一気に忙しくなっちゃった。どうしよ」


「そういえば、桜子って『彼氏が出来ても、好きなゲームの発売直後は絶対に遊ばない』って言ってたよね」

 奈月が桜子をからかう。


「あんなのウソ、飯田くんと遊ぶ方が楽しい!」

 桜子は、大慌てでかつての自分の発言を否定した。

「飯田くん、遠慮しないで誘ってね?」


 桜子が楽しそうに話すのを見ていた飯田は、

「でも桜子さん、本当にゲームが好きなんだね。森田からゲーム好きって聞いてはいたけど、俺より好きかもしれない」

 と、嬉しそうに答えた。


「そうなの、私ゲーム大好きで。だから飯田くんとゲームしたくて」


「俺も桜子さんとゲームしたいよ。何やる?」


「何が良いんだろ。私、飯田くんの好きなゲーム知らないからなあ」


「広瀬さんはレースゲームとか苦手気味っぽいから、レースゲームならちょうど同じくらいのレベルなんじゃないかな?」

 直人が、ゲームソフトを眺めながら言った。


「森田くんよりはレースゲーム下手だけど、お父さんにはほぼ勝ってるよ。一応、持ってるレースゲームは全コース最高難易度クリアしてるし。ミッション系はクリアしきれないけど」


「俺、森田にいつも負けてるから敵わないかも」


「まあ、飯田が負けるの分かってても面白そうだけどな。最終的に対戦ゲーム全部やるんだろうし」


「そうだけど、最初のゲームくらい勝つか負けるか分からない感じでやりたいじゃん」


「それね! 飯田くん良いこと言った!」

 桜子にほめられて、飯田は嬉しそうな顔で頭をかいた。


「レースゲーム以外だとなんだろうなあ……」

 直人はあごを触りながらしばらく考え込み、

「――俺が飯田に高確率で負けるゲームだと、野球ゲームとかテニスゲームとかかなあ」

 と言った。


「あ、私テニスゲームやってみたい!」

 と、桜子。

「お父さんがスポーツゲームほとんど興味なくて、ウチにあるスポーツゲーム少ないんだよね」


 飯田は困ったような顔をした。

「ウチにあるテニスゲームって、すごい昔のゲームの移植のやつだけど。

 何がどうなってんのかよく分からないくらいの描写のやつで」


「大丈夫。私、昔のやつも好きだから」


 それを聞いて、飯田は安堵した。

「それなら良いか。今やってみる?」


「んーやりたいけど……でも、早く飯田くんにたこ焼き食べてもらいたい気もするかも。今は私、一位飯田くん二位ゲームって優先順位だから。

 どっち先か、飯田くんが決めて?」


 飯田はしばらく返事をすることすら出来ず、真っ赤な自分の顔を手で覆った。




 第五部【告白するにはまだ早い!】完

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