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ちょうど良い

 桜子による、奈月や直人への質問はまだまだ続いた。

 恋する少女には不安が山積みなのだ。


 桜子は、奈月のスカートの中から、直人が特に好きだというスカートを出してもらい、腰に当てながら難しい顔をして全身鏡を見た。

「私服で飯田くんと会うことになった場合、スカートの方が良いのかな?」


 直人は女子二人のファッションショーをニヤニヤ眺めながら、広瀬さんたちの服を着た奈月も見たいなと思っていたが、急に質問されて我に返った。

「えっと、なんだっけ?」


「スカートとズボン、どっちが良いかな?」


「俺は断然スカートだなあ。ズボンだと、普段スカートの中を見たいと思ってるのがバレてるんじゃないかって、心配になる。俺と二人きりなことを警戒してるのかなって思っちゃう」


「んー、スカートなら長さってこれくらいまで?」


「相手が飯田の場合、どうするのが正解なのかなあ。

 寒い日のデートの場合、寒そうな格好をわざわざしてくれて嬉しいって人と、寒そうだから早く帰らせてあげようって人に分かれそうだけど。広瀬さんは制服のスカートも長いわけじゃないから、私服も同じくらいにしても違和感ないとは思うけど」


「そもそも、飯田くんの好みがスカートかどうかは分からないんでしょ?」


「分からないけど、パンチラ見られたらちゃんと喜ぶからなあ。スカートの方がドキドキさせられるんじゃないかな。それで、二人きりのときの階段はスカートをおさえずに上がってくれると嬉しい。俺がスカートの中を覗かないと信じてくれてるんだなって、グッとくる」


「見えそうで見えないようにするんだよね?」


「いや、二人きりの階段の場合は自然にパンツを見せられそうなら見せて良い。『こんなに男への警戒心がないなら、俺が守ってやらなきゃ』と思わせる。

 ただ、あくまで飯田にだけ見せる。普通に人がいる階段とかでは見せてはいけない。誰もいないような場所、たとえば二人きりの公園とか、駅とかの人がいない階段、あとカラオケとか漫画喫茶とかの個室。そういうとこならパンツ見せて良い」

 直人は、服装の話をしていた先ほどまでとはうってかわって、自信満々に力説した。


「そんなの恥ずかしくて出来ないよ。絶対不自然になるし」


「パンチラってハードル高いの? なんか、付き合う前から奈月の積極的な誘惑を受けてたから、一般的にどれくらいのことまで出来るのかの感覚がよく分からないなあ」

 直人がそう言うと、顔を真っ赤にした奈月が「そんなに誘惑してないもん」とすねてみせた。


 直人は奈月のにらむ顔を見ながら、付き合う前のデート中に自分がされて特に嬉しかったことを、一つ思い出した。

 そうだ、女の子の視線だよな。

「清楚な感じでいくなら、デート中ずっと嬉しそうに顔を見つめるとかかな。顔から火が出るまで見つめ続けてやるって感じでさ。

 どうしたのって聞かれたら、まるでデートみたいで嬉しくてとか、二人きりで飯田くんと過ごしてるのが夢みたいでとか、かなりのことを言っちゃって良い。

 口ではっきり言ってもらえると、すごく安心する。男側から食事とかにも誘いやすくなるし」


「えー……でもそれ、好きってバレちゃわない?」


「むしろ、健康ランドの前に好きってバレた方が良いよ。飯田が橘さんに会う前に、広瀬さんを強く意識させるべき」


「私まだ心の準備が出来てないんだけど」


「飯田は広瀬さんみたいな人は好きそうだけどね。橘さんも当時は男子とペチャクチャ喋るタイプだったし、男子と対等に話す感じの人は好きそう」


「でも私が振られたら、せっかくの飯田くんの健康ランドまで気まずくなっちゃうからなあ。それはやだ」


「ああ、振られたらそうなるのか。どうするべきかなあ。

 まあとりあえず、俺が広瀬さんの立場なら『橘さんにもし告白されたら付き合う?』って、飯田に聞きたいかなあ。恋愛したいのかしたくないのか、彼女ほしいのかほしくないのか……その辺を本人があまり言ってないのが、怖いかな。俺ならだけど」


「私も怖い。今日は飯田くんとそういう話しなかったの?」


「飯田とは、普段は女の話とかほとんどしてないからなあ。橘さんの話をしてた頃も、内容はさわやかなもんで。

 押し倒したいだとか、太ももがたまらないだとか、そんな話はしたことない。

 だから、女の好みに関してもパンチラとブラチラと素足が好きなことくらいしか分からないんだよね。健康ランドは素足だから、足のマッサージ頼んだら喜ぶかもね」


「そんなこと頼めないよ。想像しただけで胸がドキドキしてきちゃったもん」


「広瀬さん、本当に飯田が気に入ったんだね」


「そうみたい、恥ずかしいんだけど。変だよね?」


「別に変じゃないんじゃないかな。飯田は中学のときも、転校してきた人を初日に惚れさせたからね。

 あと、高校一年のとき、文化祭の帰りに他校の生徒に告白されたよ。ゲーセン行くべーって、俺といっしょに校門を出たら、他校の女子が数人待ってて。相当長い時間、校門で待ってたんだろうな。ちょっと離れて待ってたら照れながら戻ってきて『なんか、一目惚れとかで、付き合ってほしいって言われた』って」


「えーっ!? それどうしたの?」


「なんか、とりあえず連絡先を聞かれて友達になったと思うんだけど、付き合うとこまでいかなかったんじゃないかなあ?」


「その人、美人だったの?」


「俺はあんまり目が良くないから、よく分からなかったんだよね。既にわりと暗かったし。ただ、飯田は『かなりかわいいのに、なんで俺なんだろ。俺がたまたま笑ってて、怖くなかったのかな?』みたいなこと言ってたよ」


「かなりかわいい人なのに、飯田くん付き合わなかったの?」


「その辺はあまり聞いてないんだけどさ、そんなことってあんまりないよね。

 俺の感覚だと、好きって言われたらとりあえず付き合ってさ、それから別れるかどうか考えるよ普通。男子の話を盗み聞き聞きしてても、わりとそんな感じだし


「バカ、直くんみたいな人ばかりじゃないんだからね!? 真面目に恋愛したい人もいるんだから」

 奈月が思わず口を出した。


「いや、そうだけどさあ。男が告白されて、しかも相手がかわいかったら実際にはなかなか無視出来ないぞ? 納得出来なくてさ、俺。

 思わず『今は他に好きな人いないんだよな? 別に、友達からじゃなくても、とりあえず彼女にしてあげれば良くないか』って聞いたんだよ」


「そしたら?」

 奈月と桜子の声が、同時に出た。


「橘さんを好きだった頃にも、電車降りたときに誰かに告白されて断ったことがあるらしくてさ。その人には断ったのに、今好きな人がいないってだけでそのまま付き合っちゃうのは、不公平というか、ダメかなって思ったんだって」


「なんかすごいね、真面目だね」

 桜子の声は、嬉しそうだった。


「だよね。飯田だって性欲は絶対にあるはずなのに、格好良いよね」


「……飯田くん、かなりモテるのかな」

 桜子はため息をついた。


「自慢しないしモテないフリするけど、多分モテてると思う。

 だからさ、健康ランドまで橘さんの出方を待つと、わりと他の女子に飯田が狙われる危険性があるんだよ。男子が二人しか行かないわけだし。片方は彼女がいるってバレたら、嫌でも飯田は目立つわけ。

 そうなると、健康ランドで誰かが飯田に惚れる可能性は十分にあるんだよ。なるべく、健康ランドの前に飯田を落とした方が良い」


「そんなこと急に言われても、無理無理。それに、告白しても友達からスタートなんでしょ?」


「広瀬さんなら、彼女スタート出来そうだけどなあ。好かれないように注意をしてるときの飯田って、あんなにお好み焼きを喜ばないと思うんだよな。まあ、お好み焼きがすごく食べたかったのかもしれないけど」


「多分そうだよ。私じゃなくても喜んでたんじゃないのかな」


「でも飯田、あの日に最初に広瀬さんたちを見たときに『すげえかわいくない?』とか『なんであんな人たちが遊んでくれるの?』って、興奮してたんだよね」


「それ、奈月と亜紀のことでしょ?」


「違う違う。あの状況で奈月のことをかわいいとは言わないよ、飯田の性格的に。一度奈月と会ってるし、俺と奈月が付き合ってることは既に知ってたんだから。

 だから、二人中二人かわいいって意味で言ったんだと思うよ」


「そうかな? 私も飯田くんのタイプに入ってるかな?」


「見た目も性格も、飯田の好みなんじゃないかな」


「ウソだあ、森田くん適当に言ってるでしょ?」


「だってさあ、かわいい子に『彼女にして下さい』って言われても断る飯田が、自分の誕生日を広瀬さんと過ごそうとしてるなんて、怪しいと思うんだよね。見た目がかわいいと思っただけだったら、そうはならないでしょ。中身も素敵だなって感じたんじゃないかな。

 飯田って、今年の正月も一人でゲーセン来てたし。ただの女友達に誘われてオーケーしてたら、もっとクリスマスとか女と過ごしてるはず。飯田なら本来、合コンとか行って彼女余裕で作れるんだよ。

 服を買いに行くのも、普通だったら一人で行くタイプだし。飯田が広瀬さんに頼りやすさを感じてるのは間違いない」


「服を買いに行くのは、遥さんに嫌われるのがそれだけ心配で仕方なく頼むってことなんじゃないの? 誰でも良いから助けてくれって感じで困ってたじゃん」


「服についてはそう考えることも出来るけど、誕生日については橘さんと全然関係がないことだからさ。そっちが説明つかない。

 むしろ、橘さんのことを考えたら出来ない約束だし。もし橘さんと付き合うことになっても、誕生日には広瀬さんと遊ぶわけでしょ。俺にとっては、あの約束はかなり意外だったよ」


「それは、困ったらキャンセルすれば良いやって思ってるんじゃないの?」


「そんな気軽に女と約束するようなやつじゃないと思うんだけどなあ。広瀬さんはどう思う?」


「私は、知り合ったばかりだから全然分からないよ」


「いや、分からないなりに考えてみて。

 飯田は、かわいい人に告白されてもすぐには付き合わないようなやつだよ? 誕生日までに友達付き合いすらなくなってる。そんなやつが、広瀬さんと誕生日の約束をした。

 誕生日の約束なんていつでもキャンセルすれば良いや、なんて考え方で約束したわけじゃないんじゃないかな?

 きっと半年経っても広瀬さんとは仲良く出来てるって感じたからこそ、約束したんじゃないの?」


「でもなんか、飯田くんがそこまで思って誕生日の約束をしてくれたなんて、ちょっと信じられないけど……」

 そうは言いながらも、桜子は内心飛び上がりたいほど喜んでいた。

 私、飯田くんに気に入ってもらえたのかな。


「まあ約束したことについては俺もびっくりしたから分かるけど、俺は飯田が喜んでるように見えたよ。とにかく、飯田が何も考えずに半年近く先の約束をしたとは思えないんだよね。

 飯田が誕生日の予約をするってのはさ、嬉しすぎて絶対に忘れない自信があるか、メモしてでも約束したい相手か。少なくとも、彼女が出来たらキャンセルすれば良いやとは思ってな――」

 森田はそこまで言うと、振動する自分のスマホを見て、そして笑った。


「――ちょうど良いや、飯田から電話かかってきた」

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