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なっちゃんが一番好き

 奈月は、当時のいきさつを真に話した。


「なんだ、本当にちょっと押し倒しただけで、()()()()までしちゃったわけじゃないんだ」

 真は、奈月の説明を聞いて、安心した様子でそう言った。


「うん。私が本当に嫌がってるって分かったら、もうしないって謝ってくれて。お母さんたちが戻ってくるまで、ずっと優しく抱きしめててくれてたんだよ」


「良かった。その方が森田くんっぽいもん。かわいいのが森田くんだよ」

 真は、直人を見て笑った。

「奈月さんのこと、大切にね?」


「大切に出来てるかな?」

 直人は、奈月に聞いた。


「んーまあ……今は優しくしてくれてるからね。昔と違って、好きって言ってくれるし」


「昔は言ってくれなかったの?」

 真は、不思議そうな顔で聞いた。


「俺の好きと奈月の好きが、何か根本的に違うなって分かってからは、言うの控えてたよ。奈月が泣いてるときとか怒ってるときとかに、機嫌を取るために言ってた。それまでは友達感覚で好きって言ってた感じなのかな?」


「なにそれ。森田くんも好きだったんだよね?」


「もう俺も記憶が曖昧な部分が多くて、よく分からないんだけど、キス期間の初期は奈月が喜ぶならキスするみたいな感じで。奈月を泣かせちゃったらキスして結婚の話をすれば大体機嫌良くなる、くらいの気持ちでいたかも。

 付き合ってた期間とかが、なかったんだよね。友達からいきなりキスして婚約までいって。キス期間後期も、奈月とキスをするのがすごく好きだからキスしてただけで、奈月が好きだったかは分からない」


「最低じゃん!」

 真は、思わずそう言ってしまった。


 直人が慌てて

「いやでも、最初の方は奈月が勝手にキスしてきたんだよ?」

 と、真に説明した。


 今度は奈月が慌てた。

「勝手にってひどくない!? ちゃんと『ちゅーしよ』って言ったじゃん」


「そうなの? 俺、なんて言ったの?」


「多分『なんで?』とか言った」


「そしたら?」


「私が『好き同士なんだから良いじゃん』って言って、した」


「やっぱり無理矢理じゃん。どうして急にそんなことになっちゃったの?」


「そのちょっと前の日に、直くんの小学校のクラスメイトの男子が、公園でゴミのポイ捨てして。ダメだよって言ったら『じゃあお前が公園のゴミ全部拾って捨てれば良いじゃん』みたいな感じで、ケンカになって。仲間外れみたいにされて。でも、他の男子全員に『あっち行こーぜ』って言われても直くんだけ残ってくれて。そしたら直くんまで『明日お前覚えとけよ』とか、言われちゃって。

 帰ってから、なんで私の方にいてくれたか聞いてみたら『なっちゃんが一番好きだし、なっちゃんは優しいし、いつもそばにいてくれるから、なっちゃんと遊びたかった』って。そんなに私のこと好きなんだって思ったら、嬉しくて。

 何日かして、ジグソーパズルしてて顔が近くにきたときに、ちゅーしてあげようかなって、ふと思って。私のことを好きか聞いたら『大好き』って言ったから『好き同士ならちゅーするんだよ』って言って、してあげた」


「そのとき俺が言った好きって、恋愛的な意味じゃないと思うんだけど」


「でも、いっしょにいるとドキドキするって、直くん言ってたじゃん?」


「そりゃドキドキはするだろ」


「じゃあもう恋愛感情に目覚めてるってことでしょ」


「いや、好きじゃなくてもドキドキはするでしょ」


「それも確認したし。『他の女の子にはドキドキしたことない』って言ってくれたじゃん!」


「だって他の人にはドキドキしたことなかったもん」


「私のこと好きだからドキドキするんでしょ?」


「いや、それは奈月の普段の行動のせいで……。

 奈月がサボテン触ろうとしたときとか、そのあとに俺の手のサボテンのトゲを抜いてくれたときとか、ドキドキしたけど、それは恋愛のドキドキじゃないでしょ?」


「サボテンのトゲって何? 良い話っぽくない?」

 真は、期待しながら直人を見た。


「奈月がさ、ひどいんだよ。

 俺が『触ると痛いよ、危ないよ』って言ってるのに、わざわざサボテンのトゲに触ってさ。『大丈夫だよ、触ってみ』って言って騙して、俺にも触らせて。サボテンをなでてみて、手のひらをくるってこっちに向けたら、トゲが百本くらい刺さってたんだよ!

 冷静に考えるとそこまで痛くなかったんだけど、トゲが手に刺さりまくってる見た目が子供の俺には恐怖で、つい『痛いー!』って泣いちゃったよ。奈月のせいでトゲが苦手になったよ」


「ごめんってば。だって、あんなわしづかみすると思わなかったんだもん」


「奈月が大丈夫だって言うから触ったのに……この辺りにトゲがビッシリで、ずっと手を大きく開いてなくちゃいけなくて、手がつりそうになったよ」

 と、直人は真に手のひらを見せて、指さした。


 真は見せられた手を見ながら

「そのトゲ、どうなったの?」

 と心配した。


「私が『ごめんね』って言いながら、ピンセットで抜いた。でも抜くとき、手が震えちゃった。そのサボテンのトゲ、返しがついてたから、トゲを引っ張ると手の皮膚ごと引っ張られて、プツンって感じで抜けるから、ほんと痛そうで。手の中にトゲのカケラが残ったらどうしようって、泣いちゃった」


「そんなの泣いちゃうよね、怖いもん」


「逆に俺は、奈月が泣いたら泣けなくなった。だから『まだ手が痛いから触らないでね』って言って、もう片方の手でくすぐりまくった」


「そう! こいつさ、私が手を心配して反撃出来ないと思って、くすぐってくるの!」


「奈月が泣いてたから、笑わせてあげたかったんだよ」


「本当に?」


「本当。今でもそう思ってるし。

 これから奈月が何度泣いても、俺が笑わせてあげたいって思ってる。だから奈月が飽きるまで、俺のそばにいてください」


「ちょっ……良いけどさあ、恥ずかしいんだけど」


「ごめん、変なこと言っちゃったね。なんかこれについては、ウソを言いたくなかったから。あのとき奈月が笑ってくれたの、すごく嬉しくて。

 奈月が泣いてるときに、好きとか結婚しようとか言うようになっちゃったの、そのせいかもしれない。許してくれる?」


「許してあげない。ウソつき。もう信じない。直くんなんか大っ嫌い……って、私が言ったらどうする?」


「え……そんなの泣くけど」


「もし浮気したら、それくらい言うからね」


「しないよ」


「じゃあ、あとで指切りね」


「指切りって、幼なじみっぽくてかわいいね。たくさんしてそう」

 真が微笑む。


「たくさんしたけど、昔の約束はあんまり意味ないけどね。昔は奈月も、結構言うことあてにならないから」


「そうなの?」


「奈月さあ、サボテンのトゲ抜いてるときはすごい反省して『これから先、私に痛いことしても怒らないからって許して』って言ってたのに、実際に痛いことをしたら痛いって怒るんだよね」


「だって痛いんだもん! 反射的に言っちゃうじゃん」


「何されたの? そんなに痛いことしてくるの?」

 真は、何気なく奈月に聞いた。


「えっと……」

 奈月は返答に困り、直人を見た。


「まさか奈月さん、カラダにアザとかないよね!?」

 真はあせった。


 直人は笑った。

「いや、別に奈月をわざと痛め付けてたわけじゃなくてね。

 あのね、子供の頃に奈月がお風呂に入ってるときに、背中を蛇口でガリってやっちゃって。カサブタがかゆくて気になるらしくて、そのカサブタを取らせてもらってたんだけど、失敗して血が出て。

 痛いって言われて、最初は普通に心配したんだけど『あれっ、そういえばこの前……』って思って『痛いって言わないって言ったじゃん』って言ったら、なんかおかしくなって二人で笑っちゃって。

 そのまま背中くすぐって、振り向かれて反撃されて、服めくれておへそ見ちゃって、ちょっと悪いことしてる気分になって。そのときもかなりドキドキしたなあ」


「なんだそういうのかあ。かわいー」


「とにかくいっしょに遊ぶのが楽しくてさー、好き好き言ってくれてさー、かわいくじゃれてきて……。そりゃあなんか、男はドキドキするでしょ」


「するする! 女だけど絶対ドキドキする」


「あと、これは時期がキス開始より結構後だと思うんだけど、奈月が俺の心臓の音を聞きたいって言って、服めくって。聞かれてると思うと恥ずかしくて、ドキドキしたなあ。

 そのあと、俺の方も奈月の心臓の音を聞きたいって言って。恥ずかしがって服の上からでも聞かせてくれないんだけど、その奈月がかわいくて、初めてちょっとしつこくお願いしたりして、困る奈月の顔にまたドキドキして」


「なんかもう、聞いてるだけで私もドキドキしちゃう」


「でしょ? そういうのがもう、たくさんあってさ。

 毎日がそんな感じになってからは、ずっとドキドキしてたけど、次第に好きって言うのがなんか後ろめたくなってきて。奈月の愛情ほど俺の愛情が大きいとは、とても思えなかったんだよね。

 自分のことを大好きって言ってくれて、二人きりのときはキスしたり抱きしめたりしてくれて、ちょっとくらいならエッチなことしても許してくれるってさあ、そんなの男はドキドキするに決まってるじゃん。

 実際、最近になってから感じた奈月へのドキドキが、恋愛的なドキドキだと思うんだよ。見てるだけで幸せで、病気やケガをしたらすごく心配になって、頑張ってたら心の中で応援して、何か少しでも力になれたらって感じて。橘さんを見てるときのドキドキと同じタイプだったもん。

 昔のは、もっと自己中心的な好きって気持ちで」


「でも、ちょっとくらい女の子として好きだったんじゃないの?」


「もちろん、子供なりに大好きだったよ。でも、今はさらに好きだから、当時はまだ恋愛感情じゃなかったのかなあって」


「別にさー、昔は大好きで今は超大好きで、良いんじゃない? ダメ?」


「だけどそれだと、わりとずっと大好き状態だったことになっちゃうんだよ」


「だって実際そうでしょ?」


「いや、それはかなり恥ずかしくない?

 せっかく同じ高校になれたのに『奈月がすごくかわいく成長したからって、こんなに発情しちゃうなんて。こんなんじゃ奈月に声を掛ける資格がないよ』とか思いながら、奈月の後ろ姿にドキドキして、いつも泣きそうになってたんだよ?」


「それ絶対に好きだって!」


「うーん、どうなのかなあ。橘さんに告白したときに『バカじゃないの』って言われたせいで、奈月と向き合うの怖くて。奈月が高校で話し掛けてくれても、実は嫌われてるかもって気持ちがずっと、消えなかったからなあ」


「遥のせいじゃん!」


「橘さんが悪いわけじゃないんだけど、俺がもっと早く勇気が出せたら良かったかな。長友さんとメールとかしてたら、橘さんの男性恐怖症も知れてたろうし、奈月ともかなり早い段階で仲良くなれてそう。

 どうせ男子より女子の方が好きなんだから、女子まで怖がっちゃいけなかったね」


「そうだよー。私、怖くないでしょ?」


「長友さんを怖がるひとは、さすがにあまりいないよね」


「あー、自分だけ背が伸びたからってバカにして!」


「いや、優しさとか面倒見の良さとかも含めてだよ。俺が迷子になったときのために連絡先を教えてくれたりとか、お姉さん的なところあるじゃん。長友さんにメールが出来なかったら、こんなに簡単には橘さんに会えなかったし」


「結構、私のおかげだったりする?」


「うん、本当にそう。俺も飯田も大感謝だよ。な?」


「あ、それ俺もさっき言った。長友さんがたまたま隣の高校だったのって、かなり奇跡だろって」

 と、飯田が言う。


「あれ? そういえば飯田って、俺の友達だよな?」


「なんだよ急に」


「飯田と俺って友達でしょ?」


「だからこえーよ、なんでそんなこと聞くんだよ」


「いや、俺って男子の友達いなかったからさ。奈月が心配して、前に約束してくれたんだよ。もし男子の友達が出来たら、奈月が一日だけお嫁さんになって、ご飯作ったりいっしょに寝たりしてくれるって。

 飯田って、完全に俺の友達だよな?」


「友達じゃねえよ」


「なんで?」


「友達って言うと、悔しいことになるから」


「いつも爽やか飯田くんって感じの飯田が、まさかの嫉妬かよ」


「嫉妬するに決まってんだろ! うらやましいんだよ!」


 奈月は、直人たちの話を幸せそうに聞いていた。


「一日お嫁さん、なってあげるの?」

 桜子が、面白がって奈月に聞いた。


「えー……恥ずかしいんだけど」

 奈月は、はにかんでうつむいた。


 桜子はニヤニヤしながら奈月のとなりに座って

「……奈月さあ、さっき痛い話をしてたとき、動揺してなかった?」

 と囁いた。


「な、何が?」


「付き合ってから、森田くんに痛いことされた?」

 桜子が、奈月に耳打ちする。


「されてないよ」

 奈月は小声でそう言った。奈月は耳まで真っ赤になった。


「あとで、森田くんに聞いてみて良い?」


「ダメ」


「なんで?」


「聞いたら、桜子の今の秘密バラすからね」


「……バレてた?」


「もしかしたら、くらいだけどね」


「明日から、相談に乗ってくれる?」


「乗りますよ、やっといじり返せるもん」


「うわ、奈月にセクハラ発言出来なくなるじゃん!」


「最初からすんな!」

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