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面白いと思うんだけど

 飯田が遥を送りに行き、ほどなく。

 奈月たちの後ろを歩いていた直人が、奈月の服を引っ張った。――もちろん、今度持った場所はスカートのすそではない。

「ちょっと止まって止まって」


「どうしたの?」


「飯田が橘さんの卒業アルバムに寄せ書きしたがってたの思い出したから、今から長友さんにメールするんだけどさ。

 伝え方って『もし大丈夫そうなら、玄関とかで橘さんと二人きりになった時に話題にしてみて』って感じで良いかな?」

 直人は、三人にスマホに書いた文章を見せた。


「大丈夫だと思う」

「うん、良いと思う」


「ありがとう。

 それと、質問なんだけどさ。飯田と長友さんが戻ってくるまで、駅とかで待ってても良いって人いるかな?」


「私は待てるよ」

「私も」

「私も待ちたい」


「じゃあ、遊びながら待たせてもらうってメールしとくね。みんなごめんね。昨日と今日で、何時間付き合わせているんだって感じだよね」


「ううん、楽しいよ。タダでご飯食べられちゃったし」

「美味しかったね」

「今度さ、せめて健康ランド行くときにお菓子食べてもらおうよ」

「そだね、橘さんたちはお菓子持ってくるの禁止にしよ」

「あー、好きな飲み物とかも聞いておけば良かったね」


 女子の会話を聞きながら直人が微笑んでいると、持っていたスマホが点灯した。直人はすぐに画面を見て、一気に力が抜けた。

「なんだこいつ。長友さんからメールの返事が来たのかと思ったら、飯田が『今になって腹が減ってきた』とかメールしてきた。ちゃんと見守ってんのかな、あいつ」


「飯田くん、本当にあのまま二十メートル離れて歩いてるのかな?」

 

「飯田のことだから、角を曲がって見えなくなった時点でズルしてるかも。俺の十八メートルは無視して、二メートルまで近付いてそう」 


「森田くんの分が十八メートルってのが、なんか笑っちゃうよね」

 桜子は二十メートル離れて歩く飯田を想像して、おかしくなって微笑んだ。


「森田くんの小説、そんな感じの面白いセリフ多いよ。『髪の毛を切ってもらった上に、かわいい人にたまに胸を押し付けてもらえて無料とは。もし告白が失敗しても、気まずさの詫び料一万二千円払って散髪だけはお願いしよう』とか」

 亜紀は思い出し笑いをしながら、直人の頭を見た。


「二宮さん、よくそんなの覚えてるね」


「そりゃまあ、森田くんの髪型が実際に格好良くなってたもん。普通の小説なら、よっぽど印象的な場面しか覚えてないけど」


「ああそっか、奈月にしてもらったことがバレバレだったわけか」


「でもその時はまだ、奈月が『夏ちゃん』とは気付けなくて。モデルが奈月って知ってたら『森田くん絶対に奈月大好きだよ』って教えたのに」

 

「直くんの小説って、日記みたいな感じなの?」

 奈月が直人に聞いた。


「現実に起きたことをふくらます時もあるかな。奈月、読むつもりなの?」


「当たり前じゃん」


「えー……」


「なんでよ、亜紀と橘さんには見せて」


「橘さんは、見たそうな感じが尋常じゃなかったから」


「私も見たさ尋常じゃないから」


「見ても嫌いにならないでくれる?」


「そんなんで嫌わないよ」


「俺って実は性欲がそれなりにあって、そういうことばかり考えてて。小説を読んだらびっくりするかもしれないんだけど、大丈夫?」


「もう知ってるから!」


「えっ」


「めちゃくちゃ知ってる!」


「抱きしめかたがエロいって言われたから、ここ数日かなり紳士的に接してたのに?」


「どこがよ! さっきスカートの中を覗いたばっかりじゃん」


「ええー、自分としてはかなり頑張って我慢してたのに。なんか恥ずかしいんだけど」


「スカート覗くって行動が、既に恥ずかしいわ」


「じゃあ、小説にエロいシーンがあっても大丈夫?」


「大丈夫」


「それとさ。さっき、小説が受け入れてもらえるか心配でさ。そんな時に、二宮さんの繋がりで笹原さんも小説読んでるって分かって。どうしても笹原さんの意見がほしくて、電話しちゃったんだけど。それも許してくれる?」


「電話くらい良いよ」


「電話したら笹原さん、最初に『亜紀の彼氏さんですか?』とか聞いてきて。紹介がどうとか。紹介出来るようになったらするって、二宮さんが話してたのかな。小説の作者のことだと思わずに、勘違いって感じ?

 二宮さんと笹原さんが面白くて、関係を匂わせて遊んじゃったんだよね。

 それで最後、ふざけ過ぎちゃって。笹原さんに『亜紀みたいに、かわいい服とかわいい下着で会いに来てくれたら会っちゃう』って言って、電話切っちゃったんだよね。もちろん完全に冗談で、明日になったら謝るんだけど」


「笹原さんって真面目だから、それまずいんじゃないの?」


「いや、二宮さんに聞いたらおそらく大丈夫だって」


 亜紀は、気まずそうな顔をした。

「さっきはそう言ったんだけど、意外とヤバイかも。ご飯食べてた時にチャットで聞かれたから、明日になったら本人が説明するって返事したんだけど『まだいっしょにいるの?』とか『私がブサイクなこと、ちゃんと言ってあるの?』とか」


「とりあえず笹原さんが緊張しないように『かわいいじゃん』って言ってたって伝えてよ」


「今から電話で謝っちゃえば?」


「今? なんで?」


「なんでっていうか、ちょうど飯田くんと長友さん待ちで暇だし。笹原さんの問題だけ、どうして明日なのかなって。今日の直くん、やれることは早い方が良いって感じだったし。遅くなると言いにくくなるみたいなことも、言ってなかった?」


「あー……そういえば理由ないけど。なんか、先送りしたかったのかな。早い方が良いかな?」

 直人は亜紀に聞いた。


「どちらにしろ、私からも謝るよ。私が今日、初美に変にはしゃいじゃったせいでもあるから」


「そういえば、亜紀がなんで楽しそうだったか、詳しく聞くのを忘れてたけど」

 奈月は急に思い出して、亜紀を見た。


「あのね。今朝、森田くんの小説に私がモデルのキャラが出て。主人公くんが、隠し事を話せて良かったって思いながら泣いちゃう話で。

 それ読んで、私も小説を読んでることを告白しようと思って。この人ならまあ許してくれるでしょって、気が楽になったの。許してくれてありがとう、森田くん」


「いや俺、昨日の二宮さんと広瀬さんの優しさには本当に救われたからね。つい小説に似たようなこと書いちゃった」


 奈月は、心の中で嫉妬をした。もちろん直人を信じているが、奈月はまだ小説を読んでいない。亜紀が小説でどんな風に書かれているのか、自分はどんな役なのか、気になるところだった。

「私がモデルのキャラって、今どうなってるの?」


「俺のモデルと奈月のモデルが、思い出話をしたよ。非常階段でジャンケンして、勝った方が階段上がれるやつ。わざとゆっくり家に帰ってたねって、思い出を懐かしんでた。それで久しぶりにやってみようって主人公に言われて、無警戒にピョンピョン階段上がってスカートの中を見られた」


「なんでそんな話書くのよ!」


「見たいから。妄想でスカートの中をたくさん見れるから、小説を書いてるって部分がある。俺の方が女の子が好きだって気持ちだけは、飯田にも負けない」


「こいつの小説、本当に亜紀が言うほど面白いの?」

 奈月が、思わず亜紀に聞いた。


「私は好きだし、面白いと思うんだけど……」

 さすがに亜紀も、小声で言わざるをえなかった。

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