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今日のリーダー

「なんか飯田くん見るの一年ぶりとかかも。全然見掛けないから、退学したのかと思った」


「飯田くんって、なんとなく退学しそうだもんね」


「ひでえ!」


 校門から近くの公園に移動して、真とみんながある程度打ち解け始めていた。


「森さん、元気にしてるの?」

 直人がそう聞くと、真から笑顔が消えた。


「えっと、(はるか)のこと、森田くんはクラスの人から少し聞いたりした?」


「いや、特に何も」


「遥は今、(たちばな)遥って名前になってるんだけど……」


「橘遥さん? もう森遥さんじゃないんだ?」

 と、直人はフルネームの確認をした。


「そう。覚えてたら、なるべく橘さんって言ってあげてほしい」


「橘さんって呼べば良いんだね。大丈夫。名前覚えるのは苦手なんだけど、なんかすごく覚えやすい」


「橘って、なんか格好良いもんね」


「いや、そうじゃなくて、『たちばなはるか』っていう響き全体がね。覚えやすいって思った。

 入れ換えると『はるかなたちば』になるでしょ。俺、遥さんって名前の通り、俺なんかには全然手の届かない人だなって、当時ずっとそう思いながら過ごしてて。だからなんか、森遥さんってより橘遥さんって方が、しっくりくるよ」


「えー? 何その考え方、悲しいよ。そんなに好きだったの?」


「好きだった、すごく」


「そっかあ、じゃあ気になるよね」


「気になるっていうか……。

 何から聞けば良いのか分からないんだけど、そうだなあ……」

 そう言うと直人はスマホを見て、メモしていた要点の確認をした。

「まずさあ、俺が森さん――じゃなくて橘さんか。橘さんに告白したときの話なんだけど。

 バカじゃないのって言われちゃって。橘さんがなんでそんなに怒ったか、理由分かる?」


「そんなこと言われたの!?」


「なんか、俺ってすごく嫌われてたのかな?」


「絶対嫌ってないよ! え、いつ頃?」


「いつ頃だっけ?」

 直人は、飯田に聞いた。


「なんか、学校の金が余って遊びに行きまくれた週あるじゃん。全員で映画館とか遊園地に行った、あのすぐ後くらいじゃね?」

 飯田も、顔を(かし)げながら自信なさそうに答えた。


「あー……その頃だと……。嫌いだったわけじゃないと思うんだけど」

 真は思い当たることがあるのか、直人の顔を気まずそうに見た。


 直人は真の反応に希望がわいてきた。

「俺が嫌いで腹が立っただけなら、別に良いんだけど、そうじゃないなら色々話が変わってくるんだよ。飯田が、橘さんのことを好きだったんだよ当時」


「ええ!?」


「だけど、俺への態度を聞いて、ひどい人なのかと思っちゃって、結果的に告白出来なかったんだよね」


「そっかー……」


「飯田は今、自分が誰を好きか分からないんだよ。橘さんをまだ好きかもしれないし、もう好きじゃないかもしれない。だから、飯田側も変な状態でさ。

 まず橘さんが、今幸せな恋を出来てるかどうか。それが最初に知りたいんだよね」


「うん……あの、遥に電話してみて良い?」


「もちろん」


「ちょっと、遥が他の人に聞かれたくないようなことを話すかもしれないから、遠くで喋ってきて良い?」


「良いけど、どの辺りまで行くの? 女の子一人で大丈夫?」


「目の見える範囲にするから平気」

 

「じゃあいってらっしゃい」


「いってきまーす!」

 真はそう言いながら走っていき、ブランコに座った。


 真が電話で話を始めたのを見てから、森田は

「はあ、慣れてない人と話すのはしんどいなあ」

 と、ベンチに座ってつぶやいた。


「いやお前、すげえ喋れてたじゃん!」

 と、飯田。


「無理してるだけだよ。長友さん、森田なんかが偉そうにしてって、気持ち悪く思ってるかもなあ」

 直人は心配そうに言ってから、軽く背伸びをした。


「そんな人じゃないんでしょ?」

 と、奈月は直人の頭を撫でながら聞いた。


 直人は奈月の手を引っ張り、軽く握りしめた。

「そうだけど、『そんな人じゃない』って信じきれるタイプの人間じゃないから俺。ちょっと好きな人にきつく振られただけで、うじうじ飯田に愚痴ったりしちゃう感じの人間なわけで。

 今も、奈月が怒ってないか、心配で仕方ないんだ。あ、さっきから長友さんの前で奈月って言っちゃってるかもね、ごめん」


「大丈夫。はっきり彼女として紹介してくれて、嬉しかったよ」


「けど、森田くん実際、喋れるようになったよね。昨日のお好み焼きの時と今じゃ、全然違うし。すごいと思う」

 桜子は、無口な直人を思い出しながら、変化を誉めた。


「私は森田くんがこういう、楽しくて優しい人なこと、前から知ってたけどね」

 亜紀が嬉しそうにそう言った。


 直人は亜紀の様子を見て、休み時間にした会話を思い出した。

「あ、そうだ。なんか今日、学校の時から二宮さんの態度が変なんだよ。すごく優しいっていうか」


「私より森田くんの方が優しいよ」

 亜紀はクスッと笑う。


「ほら、変でしょ?」

 直人は、ベンチに座ったまま奈月の顔を見上げた。


「亜紀に何かしたの?」

 奈月は、直人の双肩に手をやり、寄りかかった。


「何もしてないよ。奈月が何か、俺がすごく良い人みたいな話をしたんじゃないの?」


「するわけないでしょ」


「するわけないってなんでだよ。してくれたって良いだろ。今日だって、放課後まで奈月の言いなりになるって約束、ちゃんと守ったのに」


「変な言い方すんな! 普通に過ごしただけでしょ!」


「たしかに、何にも命令してくれなかったね」


「それじゃ、命令してあげる。亜紀となんで急に仲良くなったか言いなさい」


「それは知らないって。

 ――あれ? 長友さん、お帰り」

 二人が話している内に、真が戻ってきていた。


 真は、真剣な顔をしている。

「あのね。先に飯田くん抜きで話してみたいって。それでも良いなら会いたいって」


「俺はもちろん良いけど。飯田は?」


「俺も大丈夫。むしろ、先に森田に喋っててもらった方が気楽かも。なんか、既に胸の辺りが変な感じでやばいし」


「じゃあ、さっきも言ったけど、なるべく橘って言ってね」


「うん。メモっといて、会う直前に見直す」

 直人がそう言いスマホをいじると、飯田も慌ててスマホを取り出した。


「あと、これは遥がそう言ったわけじゃないんだけど、なるべく怒らないで最後まで聞いてあげてほしいの」


 直人は「怒らないこと」と復唱しながらメモに追記し、

「それも分かった。他に注意点とかは?」

 と顔を上げた。


「それとなんだっけ。えーっと、飯田くんがちょっと遠くに座ってられそうな所が、遥の高校の近場だとファミレスくらいしか思い付くところがないんだって。ファミレスでも良いかな? それがダメならこっちの方に来るって」


「良いけど、この人たちも飯田の席にいても大丈夫? 飯田は言わないけど、緊張してるかもしれないから、長時間一人で待つのはつらいかもしれない」


「あっ、それ言うの忘れてた。森田くんだけだと緊張するから、彼女や女友達もいたほうが良いんだって。特に彼女」


「え? そうなのか、良かった。逆かと思った。

 けどまあ、そうだよね。振った男と二人きりになるなんて、息苦しいよね。相手の立場で考えてないなあ、俺」

 と、直人は空元気で答えた。


「あの、そんなわけで、移動とかにかかるお金は私が出しますので、みなさんで来てくれませんかって言ってるんですけど。私からもお願いします。理由があるんです」

 真は、つらそうな顔でお願いをした。


「良いよ、お金は飯田に払わせるから。元は飯田のせいなんだから」

 直人は気軽に言った。


「そうそう。俺が払うよ」


「あの、それもあんまり良くなくて。どうしても私たちに払わせてほしいの」


「よく分からないけど、俺たちが会いに行くのが迷惑ってわけじゃないんだよね? なら、払ってもらおうかな」


「うん、遥は会いたいの。ありがとうね。色々ごめんね」


「とりあえず、橘さんを待たせないように、みんなで駅に向かってた方が良いのかな? 歩きながら続き話す?」

 直人がそう言って立ち上がると、みんなゆっくり歩き出した。

「え、無言で歩き出さないでよ。なんか命令した感じになって嫌なんだけど」


「いや、その通りだと思ったから。直くんが歩けって言ったんじゃん」

 奈月が答える。

「言ったんじゃーん!」

 真が続き、直人の背中を叩いた。

「言ったんじゃん」

 亜紀もそれに乗り、

「言ったんじゃん」

 と、桜子も背中を叩く。


 飯田はそれを見ながら、

「今日はもう、森田リーダーに頼るわ俺。頭回らない」

 と笑った。


「飯田は今日はダメそうだから、橘さんを怒らない、それだけ守れ」

 直人はそう言ってから、飯田を見てニヤリとした。

「なにしろお前は、俺が告白した時に怒りそうになったっていう、前科があるからな」


「それ今言うなよ! 余計緊張するだろ」

 飯田が文句を言うと、一同は笑いの渦に包まれた。

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