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調子に乗りやすい男

「こりゃ安いわ。美味(うま)かった」

 お好み焼きを食べ終わった飯田が、満足げに言った。


「桜子の手作りだしねー」

 と亜紀が付け足す。


「そう、それね! ありがとうございました。何年ぶりか分からないくらい、久しぶりにお好み焼きが食えました」

 飯田は桜子にお礼を言った。


「家族で食べに行ったりしないの? 男の子は恥ずかしい?」

 桜子が聞く。


「飯田の家、忙しい時とかあって、あんまり食べられないんだよ。クリスマスもおせちもなし。一昨年のクリスマスは俺とカレー屋でカレー食べてゲーム、去年の正月も俺と牛丼屋で牛丼食べてゲーセン」

 言いにくいかもしれないと思い、直人が代わりに言った。


「ええー。そんなに忙しいんじゃ、家族でお好み焼き屋さんなんて行けないかあ」

 桜子は言った。


「牛丼とかカレーも好きだから良いんですけど、やっぱり飽きてきちゃって。だから、今日のお好み焼きは、手作り感が心にきたって言うんですかね?

 皆さんに誘ってもらえて、そんでお好み焼き作ってもらえて、本当に嬉しかったです。最高でした!」


「そこまで言われると恥ずかしいじゃん。もっと丁寧にお好み焼き作ってあげれば良かったね。

 ねえねえ、敬語じゃなくて良いよ?」


「いやっ、俺すぐ調子に乗っちゃうんで、じわじわと」


「なんか飯田くん、見た目より真面目だよね。森田くんと仲良いの分かるかも」


 飯田は、

「俺、目が細いからよく態度悪いって言われるけど、安全人間すよ」

 と亜紀に返事をしてから、

「な、真面目だよな」

 と直人に同意を求めた。


「真面目ではないなあ」

 直人はあっさり言う。


「なんでだよ真面目仲間だろ」

 と、飯田。


「だって中学の最後の班の新聞みたいなやつ作るとき、お前バックレたろ」


「あの人と同じ班で平気でやれるお前がおかしいんだよ! もう一回お好み焼き食いたいんだからサポートしろてめえ!」


「ほら、『てめえ!』って言ってるじゃん」


「あ、いや、違うんだよ森田くん」


「森田くんなんて言ったことないだろお前!」


「中学の時は森田くん飯田くんの仲だったじゃないか森田くん」


「俺は飯田くんって最初は言ってたけど、お前はしょっぱなから森田森田だったろ!」


「バカ、心の中では尊敬してんだよ」


「何気持ち悪いこと言ってんだよ」


 奈月は、さっきまで緊張していた直人が、少しリラックスして飯田とふざけあっているのを見て、ホッとした。

 二人きりのデートの予定が、私のせいでこうなってしまったけど、直くんが楽しく遊べたら良いな。そう考えながら、直人の顔を笑顔で見つめた。




「いやあ、いい人たちだよな。なんかめちゃくちゃ楽しいわ。ウチのクラスの女子とは、こんなに楽しく喋れたことねえよ」

 飯田は機嫌良く話しながら、肩を震わせた。


「俺は、すげえ喉が渇いた。こんなにドリンクバーが高速で減ったことねえよ」

 直人は、自分の肩を揉みながら、体を震わせた。


 二人の体が震えたのは、お好み焼き屋のトイレで立ち小便をしていたからである。


「全員食べ終わったし、トイレも行きたい人は全員行ったろうし、もうお店、出ちゃいそうだよな。この後ってどうなってるわけ?」

 手を洗いながら飯田が聞いた。


「分かんねえ。というか、予定なしだろ」


「暇だし、このままゲーセンとか行かねえ?」


「お前が交渉しろよ。俺はもう既に疲れ果てたよ。大体、あの人たちが暇じゃないかもしれないだろ」


「なんか良い誘い方ない? 嫌われない誘い方」


「俺がそんなの知るわけないだろ」


「そもそもあの人たち、あんまりゲーセンとか行かなそうだよな?」


「あ、ゲーセンに三つのボタン押しまくるミニゲームのやつあるじゃん。押田さんあれ好きだし、広瀬さんも多分ああいう系好きだよ。家庭用ゲーム内にあるミニゲームとかハマるタイプだから。RPGの中のパズルゲーム全部クリアする人」


「マジ!? じゃあゲーセン行こうって言ってみてよ」


「なんで俺が言うんだよ」


「お前が言った方が押田さんが来てくれやすいから、他の人も来てくれやすいだろ」


「もう疲れたのに、会話考えたくねえよ」


「頼むわ! 俺があの人と付き合えるはずだったのを潰したの、ある意味お前でもあるだろ?」


「まあ、それ言われるとすげえ痛いな。分かったよ。けど、不自然にならない感じでしか言わないからな」


「オッケ。おっし、戻るべ」




 店から出るなり、直人は奈月に話し始めた。

「あの、押田さん。この後なんだけど、もし良かったら、みんなで、もし良かったらなんだけど、この前話してたやつ、ゲーセンの、三つボタンあって叩きまくるやつ……なんていうんだっけあれ」

 直人の誘い方は、思い切り不自然だった。


 飯田は、直人を見ているだけで緊張して、これなら自分で言った方がまだ気分的にましだったと、後悔した。


「あ、私それ大好き。やったことないけど、動画で知ってる」

 と言ったのは、やはり桜子だった。


「じゃあ行こうよゲーセン」

 飯田は、もうじれったくなり、自分が話すことにした。


「私たちも外を見ながら、ゲーセンの話してたんだよ。時間があればみんなで行きたいねって」

 桜子が言った。


「みんなって言うのは、俺も入れてもらってるの?」

 飯田が桜子に聞く。


「当たり前じゃん」


「良かったー。俺、突然乱入した上に喋りまくって、しかもお好み焼きまで作ってもらっちゃったから、図々しいとか邪魔だとか思われてないか、心配しちゃって」


「大丈夫だよ。物を取ってくれたりして気が利くし、優しくて紳士的だよねって、言ってたんだから」


 人見知りの直人は、二人の会話を聞きながら、よくたった一日で異性とこんなに仲良く話せるようになるもんだと感心した。




「これ、すごい前にお父さんと、他のゲームセンターでやったことある! 私がやったの古いやつだから、分からなかった」

 一人だけゲームに不参加で様子見していた亜紀が、ゲームの説明が始まった時に声を上げた。


「じゃあ亜紀もやろうよ」


「けど、四人までしか出来ないんでしょ?」


「俺、見てるのも好きだから、次のミニゲームから変わろうか? 俺はバイト先が近くていつでも来れるしさ」

 直人が言った。観戦していればあまり話さなくてすむかもしれないという気持ちがあったからだ。


「二宮さん、入っちゃえ入っちゃえ! 森田と押田さんは、二人羽織みたいにして二人で同じのやれば良いじゃん」

 飯田が思いつきでものを言った。


「入る?」

 直人が亜紀に聞く。


「ごめんね。入ろうかな」

 亜紀が直人と交代した。


「あ、森田と押田さんの二人は、俺らが昔やったみたいな、ボタンの役割分担禁止ね。あれやると強すぎるから」

 飯田がルールを追加した。


「えっ、無理なんだけど」

 まさに今から役割分担の相談をしようと思っていた直人は、慌てた。


「息の合ったカップルなら余裕っしょ!」

 飯田は他人事だと思って、気軽に言った。




「森田くんに手をめちゃくちゃ叩かれたあ。暴力だよ」

 ゲームが終わると奈月は、わざと大げさに手をこすった。


「サイテー」

「森田くんひどーい。DVだDV」

 桜子と亜紀も、面白がって(はや)し立てる。


「いや、無理だってこんなの。絶対にボタン押すタイミングかぶるって。勝手にルール作った飯田のせいだよ」

 直人は飯田を責めた。


「でも、手をたくさん(さわ)れて良かったとか思ってるんだろ? 触りたいから素直に俺のルールに従ったんだろ?

 知ってっからお前の考えは。感謝してんだろ実は」

 飯田が直人をからかう。


「ちょ、調子に乗ってきやがったなこいつ」

 図星をつかれた直人は、赤面した。


「上の、四人でやれるメダルゲームも、今のルールでやろうぜ」


「やらねえよ!」


「ムッツリエロ森田が、なんか四人ゲームをすごくやりたがってるから、メダルコーナーに行って良いですか?」


「良いよー」


「俺はもうあんなことやらないからな!」

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