予定変更も楽しむ二人
あれから、二人は翌日、翌々日と、正月デートを楽しんだ。
そして、その次の日――つまり一月四日だ――、今後のデートの予定を組むために話し合うことになって、奈月の部屋に直人が来ていた。
二人の意見は大体一致していて、冬休みの内に健康ランドに行きたいということで決まりかけていた。じゃあさっそく明日行こうか、というところで奈月がトイレに立って、話が中断している状態だったのだが……。
「ごめん! やっぱり明日、健康ランドじゃなくても良い?」
と、自分の部屋に戻ってきた奈月が、直人に謝った。
「良いけど、どうしたの?」
「あのね、あの……生理になっちゃって」
「ああ」
直人は反応に困って目をそらした。そうか。女性は生理があるんだった。
「本当にごめんね」
「いや、俺こそ考えてなくて、ごめん。健康ランドに行った当日じゃなくて、良かったじゃん」
「そろそろかもしれないから言っておいた方が良いかなって思ったんだけど、あてにならないし、ちょっと恥ずかしくて」
「ええっと、そうなると、どうなんだろ? 俺よく知らないんだけど、今日からの数日って、どうすりゃ良い?
デートなんて、明日がつらいならいつでも良いけど。お金も無限にあるわけじゃないんだし」
直人は困って奈月にたずねた。
「明日と明後日はスポーツとかはちょっとだね」
「うんうん。えーっと、今日が一月四日だから……」
「七日からは、風邪とか、よっぽど体調が悪くならなければ私の場合わりと大丈夫」
「始業式が九日だよね?」
「そう」
「それじゃあ、始業式からはもう平気なんだ? タイミングとしては学校中じゃなくて良かったね」
「うん。だから、始業式は、健康ランドかお好み焼きランチに行きたいんだけど」
「始業式は時間的に健康ランドに行く大チャンスだよね。何時から何時だっけ」
と言いながら、直人は健康ランドのホームページをスマホで調べてみて、
「あれっ、今週末からしばらくキャンペーンだって。土曜日曜祝日も、平日の料金で入れるってよ」
と奈月にスマホの画面を見せる。
「あっ、だったら日曜日とかに行っても良いね」
「そっちの方が早めに着けるから、ゆっくり出来そうだよね。始業式から急いで帰って健康ランドって、疲れそうだし」
「じゃあ始業式はお好み焼きにする?」
「そうだね、その予定で。なんか理想的なスケジュールになったね」
「やったー、なんか金銭的に悪影響なかったのが嬉しい」
「明日から始業式までは、俺はどうしてれば良い?
俺の顔が見たくなければ、バイト入れられたら入れちゃうし。逆に、待機してた方が安心するなら家にいるし。電話が良いなら電話する。チャットが良いならチャットする。会いたいなら会う」
「直くんはどうしたい? 七日までのデート、キャンセルになっても平気?」
「俺は多分、平気かな。なんか、逆に心配しちゃうかも。デートするにしても、家か近所が良いな」
「私も実際どんな気持ちになるか分からないから、今回は直くんの好きにしてみて良いよ」
「じゃあ、七日まではバイト入れられるだけ入れてみる。バイト入っても入らなくても、奈月が俺の顔を見たくなったり声が聞きたくなったりしたら、会いに行ったりする。それで、八日は百円ショップみたいなところに行きたい。これでも良い?」
「良いけど、百円ショップで何買うの? 八日まで買わなくて大丈夫なやつ?」
「俺、学校で奈月に、俺の買ったもの身に付けててほしくて。ヘアピンとか、何かかわいいのあるかな? 百円ショップってそういうのショボい?」
「かわいいのあるよ! 私、今のヘアゴムがへたれたら買おうと思ってたヘアゴムあるの!」
「ヘアゴムって、なんか輪ゴムみたいなやつだよね?」
「輪ゴムって。まあそうだけど」
「俺、奈月の丸い出目金のやつ、好きだったよ」
「古っ! それ小四とかの頃のじゃん!」
「あとリンゴのやつ」
「リンゴ?」
思い当たるものがない奈月は、聞き返した。
「リンゴじゃなかった?」
「さくらんぼじゃなくて?」
「え? リンゴのやつあったよね?」
「違う人と間違えていませんよね?」
奈月は不審に思った。
「いや、小学生の頃の奈月以外の女の子は一人もまともに覚えてないから、絶対に奈月だって。リンゴがこう、二つあって」
自信満々で直人が言った。
そう言われた奈月は機嫌を直して、
「だからそれ、さくらんぼだって」
と笑った。
「さくらんぼだったかなあ?」
「アルバム持ってくる」
そして、さくらんぼの捜索が始まったが、アルバムを見ているとすぐに違う話が始まってしまった。その後も思い出話で盛り上がり、やっとさくらんぼを発見出来たのは、数十分後だった。




