第二の支援
「見た目はおだやかなのに、二人でもわりと忙しいんだな、このゲーム。一人でやったらボーナスタイム損するなこれ」
直人は、奈月が選んだメダルゲームを遊びながら言った。
「これやったことないの?」
奈月は聞いた。
「こういう、一人だと損してる感じのゲーム多いし、飯田とやるとしたらモンスター倒す系だしなあ。ここにある半分以上のゲームはやったことないよ」
と、直人は答えた。
「私のためにこれにしてくれたの?」
「いや、俺はどれでも良いんだよ。それにこれ、良さそうな状態だし、奈月に聞いたら、奈月がこれやりたいって言ったから」
「状態とかあるんだね」
「なんか、そこの玉とかが多いほど得なんじゃないかな。他のやつだと基本的にそう」
「へえー。あの道の中どうなってるんだろ。
今のメダルゲーム、すごくない? 健康ランドの汽車のやつとかアヒルのレースと全然違う」
「いやあれ、あそこの中でも相当古い部類だったろ。なんで比較対象がそのへんなんだよ。えーっと、軽く十五年以上前の物でしょ多分」
「だって、中学で多分ゲームセンター行かなかったし、行っても女子だけだからゲームっぽいのあんまりやらないし」
「あれやらないの? なんか三つのボタン叩きまくるやつ。奈月、健康ランドで好きだったじゃん」
「え? あれ今もあるの?」
「新しいやつっぽいけど、あるよ」
「やりたい!」
「今日?」
「今日やるのはなんか違うと思う。また来て、自腹で」
「そっか」
「健康ランドのあれも、またやる」
「もう壊れて撤去されてそう」
「あー……でも、似たやつあるんじゃない?」
「どうだろうなあ」
「あと私、思い出せない場所があって、お母さんも覚えてないって言うんだけど、ビーズをプレートの上に乗せてオーブンみたいなので焼いて、ぬり絵みたいに出来るところ」
「あれって、デパートでやってた、ただの一時的なイベントだろ」
「デパートかー! 私の作った絵、なくなっちゃったんだよね」
「いや、俺にくれただけだろ。俺の机に入ってるよ。海の絵のやつでしょ?」
「えー、直くんが持ってたの!?」
「なんか、あげるって言ってくれたぞ」
「見たい見たい!」
「あー……あのさ、俺は大切にしてたんだよ。落としたりしてないんだけどさ」
「え、なに? なんかいやな予感なんだけど」
「何しろ、古いからさ。もう結構、ヒビが入ってるんだよね。だから、当時の思い出のまま見るとガッカリするかも」
「えー!?」
「温め直したら、ヒビなくなるかな?」
「どうだろ?」
二人はしばらく昔話をしながらメダルゲームを遊んでいたが、ゲーム内の機械が突如ストップした。
「あれ、ゲームが止まっちゃったよ?」
「ああ、たまにエラーとか起きて、結構長いんだよな。良いトイレタイムだよ。奈月行く?」
「まだ大丈夫」
「じゃあ俺、行ってきても良いかな?」
「うん、いってらっしゃい」
「……奈月、ナンパされないかな?」
「そしたら、彼氏と来てますからって言って、さっきの写真見せつけちゃう」
奈月は嬉しそうに言った。
直人がトイレから出て戻る時、先程の、小指がないおじさんと会った。
おじさんはちょうど自動販売機でジュースを買っているところで、
「おー、二人も何か飲まないかい?」
と直人に聞いた。
「それ、すごくありがたいですよ。今日、お金使えないんで」
直人が珍しく素直に受け取ろうとしたので、おじさんは気になって、
「デートし過ぎてお金なくなっちゃったのか?」
と質問をする。
「いや、違うんですけど。えっと、ちょっと長くなるんですけど――」
直人は、いきさつを簡単に説明した。
「――というわけで、今日はその五百円玉をくれた人への感謝を込めて、五百円までしか使わないようにしてるんです」
「そりゃ偉い! 良かったらアイスも食べるか?」
「良いんですか? 今日だけは遠慮しませんよ」
「おうおう。いつもの紅茶か? 彼女は何が良い?」
「俺のは紅茶で、もう一つはお茶にして下さい」
「おっし! 待たせないようにしないとな!」
おじさんは、楽しそうに自動販売機にお金を入れて、ボタンを押していった。
直人は高速でアイスを二つ選ばなければならないという、嬉しい悩みが出来てしまったが、なんとか即決して、おじさんに伝えた。
「本来ならこれだけで五百円オーバーしてるし、ものすごく助かりました。本当にありがとうございます」
ペットボトル二つとアイス二つを持ちながら、直人はお礼を言った。
「良いよ良いよ。早く行ってやりな」
「はい! また今度!」
直人が早足で奈月の元へ向かうのを、おじさんは嬉しそうに見送った。
「ええーっ!? 私の分まで?」
ペットボトルとアイスを渡され、奈月は驚いた。
「うん。嬉しいね」
「お礼を言いに行った方が良いかな?」
「うーん。あんまり言いに行ってほしくないなあ」
「なんで?」
「さっき飯田がいた時に思ったんだけど、なんか俺、奈月が男と話してると苦しいや。心が狭いのかな」
「ヤキモチ焼いてる?」
「奈月、すごくかわいいから。みんな見てるし、すぐに不安になる」
「直くんも、今日結構女の子に見られてるよ?」
と、奈月が内心気になっていたことを言った。
しかし、直人本人は全く気付いておらず、
「見られてないよ。それか、彼氏不細工だなって感じで見てるんだよ」
と、信じない。
「あ! 私のセットした髪が気に入らないの!?」
あくまで冗談っぽく、奈月は怒るフリをしてみせた。
「あ、いや、違うんだよ。ごめん、そうだったね。忘れてた」
直人は慌てて、笑いながら謝った。
「奈月がセットしてくれたんだから、見られてる可能性もあるよね」
「私の中では、今日会った人の中で、直くんが一番格好良いよ」
「ありがとう。……奈月も、今日も一番かわいいよ」
「えへへ」
直人はなんだか恥ずかしくなって、
「アイス、溶けない内に食べようか?」
と、話をそらした。
「私達がアツアツだから、すぐ溶けちゃうもんね」
「そういうこと言っても許される顔の人って、強いよなあ」
二人は、しばらく笑いながらアイスを味わった。