表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/128

お弁当はまるで金塊?

 大みそかの夜、スーパーの中で食材を吟味している若者二人。


「いや、安いねえ。卵が半額、鶏肉半額、大根半額。天ぷら六割引」

 多くの商品に割引シールが貼られていて、直人が驚く。


「去年よりすごいね。これなら何か作れそう」

 と、奈月も喜んだ。


「あ、豆腐が十五円だけど。お弁当にしにくい?」


「直くん、豆腐好き?」


「好きでも嫌いでもないけど、十五円ならかなり好きだよ」


 奈月は笑って、

「それじゃ、ナゲットは?」

 と直人に聞いた。


「好き」


「お弁当、量が多いのとオカズが多いの、どっちが良い?」


「量が多い方が良いなあ」


「安めに出来たら、ナゲットだけとかでも良い?」


「もちろん良いけど、そんなに安いの?」


「いくらまで使って良い?」


「ここで五百円全部使っちゃっても良いと思うよ。公園とか行って、ゆっくり食べたりすれば良いし」


「じゃあ、何を買ったかちょっと秘密にしたいから、外のベンチで待っててくれる?」


「おっ? 分かった。それじゃ、これ」

 料理に期待をしながら、直人は五百円玉を奈月に渡した。


「うん。……この五百円玉ともお別れなのかあ」

 奈月がしみじみとそう言ったので、直人は笑ってしまった。




 直人は、ベンチに座って、奈月の作ろうとしている料理について考えていた。

 ナゲットだとすると、安く工夫出来る部分はソースになるのだろうか。美味しく作れなかったら逆にその方がもったいないから、調味料とかは家にあるものを使って良いと決めていたし……。


 奈月が、買い物を済ませて出てきて、直人に手を振った。直人は、にやけながら手を振り返してから、同じ学校の人がいないか慌てて周りを見回した。


 奈月は、全然気にしていない様子で直人に近付くと、

「レシートもらってから気付いたんだけど、よく考えたら、お釣りとレシート渡したらどうせバレちゃうよね」

 と言った。


「別に、まだレシート渡さなくても良いよ」

 そう言いながら立ち上がる直人。


「そっか。私が大事に持っておくね。後で返す」


 二人は、帰り道をゆっくり歩き出した。


「……俺も気付いたことあるんだけどさ。バレたくないなら俺、料理手伝えないよね」


「あ、そっか。ごめん」


「いや、正直料理なんてあんまりしたくないから、手伝わずに済むなら、俺としてはラッキーなんだけど」


「そう、それが分かってて、直くんが料理しないで済むようにしてあげたの。優しいでしょ」

 と、奈月は芝居っぽく言った。


「絶対ウソだよそれ」


「バレた?」


「だって明らかに無計画だし……。けどまあ、買った荷物くらいは俺が持とうか?」


「軽いから別に良いよ?」


「重さで何を買ったか推理するんだよ」


「中を覗いちゃダメだよ? 分かるかなー?」

 そう言って、奈月は直人に食材の入った袋を手渡す。


「うんうん。おっ、このくらいの重さかあ。なるほど」

 直人は袋を受け取り、重さを確かめた。


「分かった?」


「……いや、よく考えたら俺、食材の重さとか全然知らないや」


「じゃあダメじゃん」


「うーん、なんだろうなあ。楽しみだなあ」


「美味しいかどうか分からないから、試食してダメだったらもう一回、何か作らせてくれる?」


「うん、もちろん。ありがとう」


「うわー、緊張するよお」


「大丈夫だよ。もし失敗しても、五百円で頑張った思い出は残るじゃん」


「そうだよね」


「けど、奈月のエプロン姿っていうのかな? 料理してる姿が見られないのはちょっと残念だな。制服にエプロンとか、今度見たいなあ」


「なにそれ、なんか直くんエッチ……」


「なっ、なんでだよ」


「直くん制服大好きだし。私服も、どんなのが良いか聞いたらスカートが良いって必ず言うし」


「だって、聞くんだもん。スカートの方がかわいいよ」


「もう、好みが超分かりやすいよね」


「いや、俺は奈月は足がきれいだからスカートの方が魅力的だと思って」


「へー」


「きれいだって。今日のスカートもかわいいし、似合ってる」


「……直くん、口が上手くなってきたからなあ」


「正直になってきたって言ってよ」


「だって、かわいいとかきれいとか……」


「実際すごくかわいいって。他の人にも言われない? 裏ではかわいいって言ってるよ、男子」


「うーん、たまにはね……」


「ほら」


「でも、他の人に言われても『恥ずかしいからやめてほしいなあ』って感じなのに、直くんに言われると……なんか、身体がぎゅって一瞬押し潰されたみたいになるから」


「えっ!? 気持ち悪いとか?」


「違くて、なんかくすぐったい変な感じになるの。頭をなでてもらってる時とかもそう」


「だ、大丈夫なのそれ?」


「なんだろ。直くんのこと、好きになりすぎちゃったのかな?」


「ええっ!? そういうことなの!?」


「あーもう、怖くてやだ! 直くんのせいなんだから、もし私がわがままになったら、責任取って構ってよ」


「そんなの、すごくかわいくなりそう」


「だから、そういう攻撃がさ……やばいんだってば」

 奈月は目を潤ませて、文句を言った。


 直人は、今もし個室にいたら抱きしめちゃってるな、と思った。




 奈月が料理をしている間、直人は奈月の部屋で待たせてもらうことになった。

 寝ても良いと直人は奈月に言われたが、たまに奈月が部屋に顔を出して、質問をしたり休憩をしたり。




「普通のとちょっとからいの、どっちが好き?」


「からいの」




「直くん、バーベキューソースとマスタード、どっちが好き?」


「バーベキューだなあ」




「私って味覚に自信がないから大丈夫かなあ、失敗したらごめんね」


「大丈夫だって」




 結局、料理が出来るまで直人は起きていて、

「あ、直くん起きてる。じゃあこれ、試食お願いします」

 と、奈月に頼まれた。


 直人は奈月か持ってきた小皿に乗ったナゲットを見て、

「美味しそうだね」

 と、まずは見た目の感想を言った。


「味はどうか分からないけど」


「いただきます。……うわ、美味しい!」

 直人は、奈月の顔を見ながら喜んだ。


「変じゃない?」


「かなり美味しいよ。お店のより美味しい。ガリンガリンで好きだあ」


「良かったー、好みとかもあるから不安で不安で」


「コショウかな? ちょっとからくて、すごく好き」


「ほっとしたー」


「五百円でこんなのたくさん作れるんだね」


「二百二十円だよ」


「二百二十円!?」


「よし、びっくりさせられた」


「二百二十円しかしないの?」


「これ、何で出来てると思う?」


「鶏肉でしょ?」


「鶏肉と?」


「鶏肉と……。いや鶏肉だけじゃないの?」

 ナゲットの材料なんか知らない直人は、見当もつかなかった。


「豆腐がかなり入ってるんだよね」

 と言いながら、奈月は直人にレシートを見せた。たしかに、豆腐を購入していた。


「豆腐?」

 直人は、改めて食べかけのナゲットの断面図を見てみたが、豆腐にはとても見えなかった。


「分からなかった? 嫌な感じとかしなかった?」


「全然ない。俺、前に間違えて豆腐ハンバーグ食べたことあるけど、食べてる最中に分かったし、味にがっかりしたもん。これは分からないよ」


「よっし!」

 奈月は手を握りしめて喜んだ。


「なんでこんなの作れるの? 奈月って、もしかして料理がすごく上手いの?」


「ううん。これ前にお母さんが作ってくれて、簡単って聞いてたから。良いかもって」


「いや、びっくりしたよ」


「やったね。お弁当、これだけでオーケー? こんな感じになるんだけど」

 奈月はそう言い、弁当箱を見せた。ナゲットがギリギリまで詰まっている。


「オーケーどころか、最高だよ。こんなにすごいお弁当にしてくれるなんて、ありがとう」


「えへへー。今からソース作るからね」


「あっ、もっと美味しくなるのか!」


「なるようにやってみるけど、市販のソースじゃないから分からない」


「奈月って、結構、色んなことに自信がないタイプだよね。もっと自信持てば良いのに」


 自分に自信がない人代表のような直人にそう言われたので、

「それ、直くんには言われたくないんだけど!」

 と、奈月は笑った。


「あー、ごめんごめん」

 直人も、自分の発言がおかしくなって笑ってしまった。


「……でも、ありがと」


「だけど、本当にすごいよ。正月料理っぽいし。ナゲットって、英語で金塊って意味だよね? お正月っぽいというか、おめでたくない?」


「そうなの? じゃあ私、気付かない内に金塊をたくさん見付けちゃったんだ。ラッキー」

 嬉しそうに話を合わせる奈月。


「二百二十円でこんなに美味しいナゲットを作れるなんて、信じられないっていうか、尊敬しちゃうなあ。後で本格的に食べるのが楽しみだよ」

 直人は、思った以上に楽しいデートになりそうな予感がして、わくわくした。


「たまたま上手くいっただけかもしれないけどね」

 こんなに喜んでくれるなら、もう少し料理を覚えてみようかな。

 奈月は密かにそう考えながら、台所に戻っていった。


 奈月の後ろ姿を見送りながら、直人は微笑んだ。

 ……俺も、奈月っていう宝物になかなか気付けなかったなあ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ