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そういう意味の拷問じゃなくて

「奈月と森田くんの思い出話を聞いてたら、早く食堂を見たくなっちゃった」

 桜子がそう言うと、亜紀が微笑んだ。


「じゃあ私たち、このまま食堂行かない? 私、お腹空いちゃった」

 と提案する亜紀。

「もちろん、みんなでじゃなくて、今行きたい人だけでオーケーで。今から本格的に自由行動で」

 と、その後に付け足した。


「さすがにもう本当に自由行動にしないと、みんなに悪いよね。私たち、内輪話しまくりじゃん」

 桜子が、亜紀に同意した。

「結局みんなでお風呂に入っちゃったし、ここで解散しないと最後まで解散出来なさそう」


「そろそろ、ナイショの話をしたい人もいるだろうしね」

 亜紀は、誰ともなしにポツリとつぶやく。


 桜子の顔が真っ赤になった。みんなの前で大げさに反応するワケにもいかず、うつむいて黙っている。


 奈月はその様子を見てクスリと笑う。

 そして、直人の頭や耳を触って、体温を確かめながら

「ねえ直くん、食欲は? まだ眠くない?」

 とたずねた。

 酔い止め薬の副作用がどの程度出ているのか、心配しているのだ。


「お腹は多分空いてると思う。まだあんまり眠くないと思う」

 昔と同じ言い方で直人が答えた。


「おいおい。お前の言い方、なんか怪しいな。ちょっと眠いかもしんないのか?」

 そう言って笑う飯田。

「森田って、俺たちを家に呼んだときも急に寝たからなあ。それに、ここの食堂でも急に寝たんだろ?

 なんか森田、眠くなったら好き勝手に寝るよな」


「食堂はまあ子供の頃だから良いとして、家に呼んでおいて寝ちゃったアレって、なんだったんだろうな」

 直人は、恥ずかしがりもしないで、不思議そうに自分のアゴをなでた。


 亜紀が、思い出し笑いをした。

「私たちといっしょだったせいで、ずっと緊張してたんじゃない?

 やっと自分の家に帰れたから、安心したんだよ。きっと」


「でもアレはひでえよな。俺を放置して寝やがって」

 好意的な態度のままではあるが、直人に文句を言う飯田。

「違うクラスの女子三人と俺で会話するとか、すげえ困ったからな。拷問だぞあんなの」


「拷問って、ひどくない?」

 桜子が、笑顔で抗議をした。

「あの日、わりと飯田くんと仲良くなれたと思ってたのに。飯田くんは嫌だったんだ?」


「あ、いや、そういう意味の拷問じゃなくて。良い意味の拷問だよ」

 飯田は慌ててフォローをした。


 しかし桜子は面白がって

「良い意味の拷問なんてなくない?」

 と、さらに追及する。


「あるって。嫌なワケじゃないんだけど緊張するみたいな。

 ちょうど、橘さんたちとファミレス行ったときのあの感じだよ」


「あー、あの日は緊張したよねー」

 それまで静かに聞いていた遥が、感慨深そうに同調した。

「今日は私、結構平気かも。みんなが友達になってくれたの」


「みんな?」


「広瀬さんといっしょに歌ったりとかして――あ、そうそう! そのとき私、みんなでバンド組みたいって思い付いたの!」

 遥は満面の笑み。

「文化祭とか目指して、出来ないかなって思ってるんだけど……」


「へえー、すごいじゃん。頑張ってよ」

 と、飯田も嬉しそうに笑う。


「違う違う! 飯田くんもやらないかなって。女子だけだとさすがに足りなくて」


「俺!? 男だし緊張するでしょ!?」


「私、さっき森田くんと歌の話をしてて思ったんだけど、歌に夢中してたら森田くんたちは平気なのかも。

 たまたまかもしれないんだけど、大丈夫だったんだよね。小声だけど、森田くんのすぐ近くで歌えちゃって」

 そう言うと遥は、振り向いて直人を見た。

「声、震えてなかったよね?」


「すごく上手かったよ」

 直人は改めて太鼓判を押した。


「ありがと」

 遥は直人に礼を言うと、再び飯田を見た。

「――まあそういうわけで。

 森田くんとは手も繋げたし、飯田くんとも平気かもしれないって思ってたんだよね」


「でも、森田と俺じゃ違うかもしれないよね?」


「そうなんだけど、今も話せてるし。知らない人よりはかなり気楽。

 女子ばかりに飯田くんってメンバーなら緊張少ないのかも」


「そういえば、この前よりスムーズに話せるね。お互い」


「うん。この前はごめんね、男子と長話するのも中学以来だったから」


「いやいや、俺もひどかった。腹が減らねえんだもんな、ビックリしたよ。

 今日はさ、もう腹ペコでさ」


「じゃあ、ご飯食べながら話さない?

 バンドの仮メンバーで食べる約束してて」


「ごめん。みんなと先に食事の約束してるから、みんなに聞いてみないと分からないや」


「わ、そうだよね。森田くんたちと食べるんだもんね」

 遥は、恥ずかしそうに笑った。

「ごめんごめん。バンドやりた過ぎて失礼な誘い方しちゃった」


「いや、それは良いんだけど……。聞いてみるね」


「うん。とりあえず演奏が好きなメンバーで一度合わせてみるって話になったんだけど、飯田くんもオーケーってみんな言ってるから。

 気にしないでみんなと食べてね。

 試しにバンドどうかなって思ったの」


「試しにって、軽いなあ……」

 飯田はとりあえず愛想笑いを返したものの、なんと返事をすれば良いのか分からなかった。

【お知らせ】

こんにちは。作者です。

入院してしまいました。複数回の手術が必要なようです。

今後の更新頻度は不明です。分かり次第、活動報告の【今後の更新頻度について】に追記しておきます。

小説に飽きたわけではないので、ブクマそのままで気長にお待ち下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 複数回の手術とは大変ですね。 気長に待っていますのでご自愛くださいませ。
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