子供の遊びにしては
「お好み焼きって美味しいよねー」
「他の人のも食べたくなっちゃうよね」
「そうそう」
「私、ドリンクバーじゃないお店だと、辛いのを頼む勇気が出なくて」
「それもあるー」
「お好み焼き屋さんで飲み物をいくらでも飲めるの、幸せだよね」
飯田のお好み焼きの話から、一同はしばしお好み焼きの話で盛り上がっていた。
「なんか、女子って結構お好み焼き食べてるんだなあ」
話を聞いていた飯田が、つぶやくように言った。
「お好み焼きは時間稼げるからね。長話するのに良いのよ」
桃子が理由を挙げた。
「なるほど。男同士だと店で長話とかあんまりないから、カレーとかなんだよな」
「この中で、飯田が一番お好み焼きを食べてないんじゃない?」
「そうかもしれない。いやあ、あのお好み焼きは嬉しかったなあ」
飯田が微笑んだ。
飯田の笑い方が、桃子には弟とかぶって見えた。
「飯田ってさあ、他にも食べたいものあるの?」
「そりゃあるよ。おにぎりと味噌汁と唐揚げと卵焼き。サンドイッチだろ。オムライスも食べたいだろ。焼きうどんも好きなんだけど、あんまり売ってないんだよ」
飯田は、スラスラと列挙していく。桜子がクスクスと笑っているのを見て、飯田は嬉しくなった。
「そうそう、お雑煮とかも羨ましいんだよな。餅がめったに食えてないからな」
「お餅も食べてないの!?」
桃子は、目を丸くした。
「クリスマスとか正月とか、何を食べてるの?」
「まあ普段通りだよ。森田が遊びに付き合ってくれてるときはカレー店か牛丼店。森田がゲーム買ったばかりとかでして忙しかったら、前日に冷凍食品とか買っておいて家で食べる」
「聞いてるだけで悲しいんだけど」
「まあ、いつもと同じなら良いんだよ別に。悲しいのは今年の正月だよ。
何しろ、森田が彼女とデートしてたからな。ビックリして一人でうな丼を食べに行ってやった」
「あー、一人でやけ食いってあるよね」
「いや、森田が幸せそうで嬉しいって気持ちの方が大きかったけどな。今日くらい良いだろって気持ちでうな丼を頼んだ感じ。
そういうときしか、ちょっと高いものを食う気にならないし」
「男子ってわりとそうだよね。弟なんて、旅行先でも安いの食べようとするのよ」
「俺、まさに今日その予定なんだけど。カレー大盛り無料ならカレーで良いかって、森田と風呂で話してた」
「いつもカレーなのにまたカレー!? 学食でもカレー食べるわけでしょ?」
「だってさあ、値段とか考えると大体カレーが得なんだよ」
「あのさあ。
色々食べたい飯田が我慢して安いメニューで誤魔化したら、私らがデザートとか頼みにくいでしょ」
「そんなん気にすることなくね? 好きなもの食べれば良いじゃん。
俺、パフェとかはさほど興味ないからさ」
「まあ、そう言ってくれるなら良いけどさ。
でもどうしようかな、私もカレーちょっと気になってたんだよね。飯田も森田くんもカレーなわけ?」
「いやいや」
と、直人。
「俺は満腹だと帰りのバス酔っちゃうから、思い出のチーズポテトだけ食べて様子見」
「そっか、森田くんはここで食べたことあるんだもんね」
「うん。子供からすると、結構ワクワクする場所だったよ」
「食堂の思い出話、さっき聞きましたよ」
夢子が、嬉しそうに会話に入った。
「森田先輩が料理頼んだ後に眠たくなっちゃって、奈月先輩のひざまくらで寝ちゃったんですよね?
奈月先輩、食堂の他のお客さんに『かわいい夫婦』ってからかわれて、すごく恥ずかしかったらしいですよ」
「なんだそれ。寝てたからか、あんまり覚えてないなあ」
直人は、恥ずかしい話を掘り返されて苦笑い。
「俺が食堂で覚えてるのは、奈月がチーズポテトを一つ一つフーフーしてくれたやつ。俺が猫舌だから、グツグツしてるチーズを見て奈月が心配してくれて。
それで、横からフォーク持ってフーフーしてたもんだから、手元に気を取られた奈月が指で皿に触っちゃって。まだかなり熱くて、ヤケドしたんだよね。
後で仮眠室に行ったとき、毛布をかぶって真っ暗だから、手とか見えなくてさ。絆創膏を頼りにして指をなでたら、奈月もなでてくれて。だけど、お風呂上がりでスベスベの手がくすぐったくて、おかしくて。二人で笑いをこらえながら、首とか耳とか触り合って遊んでた」
「子供の遊びにしてはエロ過ぎない?」
「いや、俺のせいじゃないんだよ。なんか真っ暗だと奈月って――」
と、そのとき、直人の頭をコツンと叩く者がいた。奈月である。
「直くん、私の悪口言ってた?」
タオルを返却してきた奈月が、冗談っぽく笑った。
「言うわけないよ。ただ、奈月が暗闇でのくすぐりに弱いって話をしてただけだよ」
直人が、あっけらかんと言い放った。
「大問題なんだけど!」
奈月は叫んだ。