新婚病にはまだ早い!
「ピザ、冷めちゃったね。温め直そうか?」
思い出したように奈月が言った。
「俺、冷めたピザも結構好きなんだよね。美味しいよ」
と、空腹の直人が構わずパクつく。
「いつの間にか、日付けが変わってる。メリークリスマスだね」
直人はそれを聞いて驚いた。
「ええっ!? じゃあ俺、もう帰らないと」
「良いじゃん。泊まっていきなよ」
奈月はのんきにそう言った。
「怒られるでしょ」
「もし眠くなったら友達が泊まるかもって、お父さんに言ってあるよ」
「奈月のお父さん、友達が男って知ってるの?」
「言ってないけど、靴を見たら男って分かるでしょ」
「それは、泊まったらマズイだろう」
「そうかなあ」
「さっきからトイレに行きたいし、やっぱり帰るよ」
「ウチのトイレで良いじゃん」
「いやー、トイレの前でお父さんと会ったら、なんか居座る気満々みたいで気まずいし。行きにくいよ」
「あ!」
急に奈月が大きな声を出した。
「なになに!?」
「直くん、人にトイレを我慢するなって言っておいて、自分は我慢してるじゃん! お腹痛くなっちゃうよ?」
「いや、違うんだよこれは。我慢してたわけじゃなくて」
「違わないでしょ! 新婚病って言うけど、新婚旅行だけじゃなくて、クリスマスにも膀胱炎になるって書いてあったよ。クリスマスは、トイレを我慢する人が多いんだから」
と、奈月が注意をする。
直人は、そう指摘されて、思わずハッとした。
かつて新婚病の話を聞いた時にはとても不思議に思ったのに、その自分が新婚病の人と同じことをやっている。そのことに気付かされたからだ。
そうか。新婚病の人達は、もちろん恥ずかしい気持ちもあるんだろうけど、大好きな人と片時も離れたくないから、だから膀胱炎になってしまうんだな。
「そうだね、ごめん。トイレに行ってくるよ。奈月と離れたくなくて、知らず知らずに我慢しちゃってたんだね」
直人は反省し、素直に奈月に気持ちを伝え、立ち上がった。
「うん。いってらっしゃい」
奈月が優しく見送る。
直人は、トイレを我慢し過ぎるのは良くないことだけれど、好きな人となるべく離れたくないと思うこの気持ちは、これからも大切にしていきたいと願った。
第一部【新婚病にはまだ早い!】完