どうなんですかね
「――でも、森田先輩ってすごいですよね」
ふと、里子が言った。
「クラスの男子がたまにギターの話をしてるんですけど、もし『歌作ってほしい』なんて言っても、なんだこいつってなりますよ。
男友達どころか、夢子に言っても面倒臭がって作ってくれないですよ。
それなのに森田先輩は、ちょうど良いから今作ろうって感じで歌を作っちゃって。気軽にやった感じなのに、実はかなりのプレゼントですよね」
「うーん……。直くんの場合、小説とか書いてるくらいだから、歌詞にも興味ゼロじゃなかったんじゃないかな?
それに、頼んだ人が前に好きだった遥さんだから、普通の友達以上に大切だろうし」
「でもそれなら、もし一番大切な奈月先輩に何かをお願いされたら、もっともっと頑張ってくれるってことじゃないですか? それがまた、すごいなと思って。
私と夢子は、相手が要らないかもしれない物を買うのは勿体ないからって、誕生日プレゼントとかあげない主義なんですね。けど、よく考えたら無料の物やすごく安い物なら送り合えるわけじゃないですか。
それこそ、四つ葉のクローバーとか歌とか、そういうプレゼントならタダだし。だけど、誰かのために四つ葉のクローバー探そうかとか、そんなこと子供の頃でも思わなかったですよ」
「普通の友達にはそれが普通でしょ。私もそうだよ?
例えば父の日とか母の日とか、私がなんとか料理するんだけど、正直すごく面倒くさいもん。喜ばれるんだけど、もっと料理したいって気には絶対にならなくて。
もし友達の誕生日に、プレゼントの代わりにご飯作れって言われたら相当プレッシャー。みんなで作ろうよって言うと思う。
ご飯作ってって言われても気楽なの、直くんだけ」
「森田先輩に言われたら、やっぱり嬉しいですか?」
「うん。美味しそうに食べてくれると本当に嬉しくて。この人のことが好きなんだなって、改めて思った。
あと、直くんの髪セットしたりするのも好きになっちゃって。ドキドキしちゃうの。昔は気楽に触れてたから、ビックリした」
「惚れ込んじゃったわけですね」
「そうなのかなあ?
昔から直くんの頭に勝手にリボン付けたりして遊んでたけど、なんかその頃とは違って。色々、前とは感じ方が違うんだよね。
一番ショックだったのが掃除!」
ふと思い出した奈月は、やや興奮して語り出した。
「子供のときは二人でいっしょに散らかしてたのに、今は直くんの部屋を掃除したくなっちゃって。自分の部屋より気になるの。
私にこういう願望あったんだなあって、驚いちゃった。
直くんも、私が直くんの部屋を片付けてると不思議そうな顔して。奈月って昔は掃除嫌いじゃなかったっけって、聞かれちゃった」
「でもそういうの、男子は喜びそうですよね」
「そうなの? なんか、あんまり喜んでる感じしないんだけど。一応ありがとうって言ってくれるけど、嫌そうだよ?
そんなことしなくても良いのにって感じで言うし」
「部屋を散らかしてて掃除をさせてしまったことが、森田先輩にとっては恥ずかしいんじゃないですか?」
「えー? 今さらそんなの恥ずかしがる?
聞いてみようかな」
「聞いてみましょうよ。聞いてみたら意外と喜んでたってこともありますよ?」
と、夢子が言う。
「森田先輩のことをあまり知らないかもって、さっき言ってたじゃないですか。嬉しいって言ったら掃除たくさんしてくれちゃうと思って、遠慮してる可能性がありますよ」
半分面白がりつつ、奈月を応援した。
「そうだね、聞いてみる。ありがとう。
相談してばっかりで、ごめんね」
「とんでもないです」
夢子と里子が、同時に言った。
思わず三人で笑う。
里子が笑顔のまま
「あー楽しい。奈月先輩、これからも悩んだら相談して下さいね。恋の話はいくらでも聞きたいですから」
と言った。
「いくらでもって言われても、付き合い始めたばかりだからそんなにないけど」
そう言いつつも、奈月は嬉しそうに微笑んだ。
「……私、家で一人でお風呂に入ってるときも、今日みたいに直くんに聞きたいことがいくつも出来ちゃうの。それで、直くんも今お風呂で同じように質問考えてくれてるかなとか思って。
その後に、そもそも同じタイミングでお風呂に入ってるか分からないでしょって、我に返って。バカだなあ私って思いながら、一人で笑って。
――そういうとき、恋して舞い上がってるなあって思って。調子に乗って直くんに迷惑かけてないか、不安になるんだよね」
「そんな恋、私もしてみたいです」
里子はうっとりしながら言った。
「今日は森田先輩も確実に同じ時間にお風呂に入ってるわけだから、たくさん奈月先輩への質問を考えてるかもしれないですよね」
「どうだろ。あの人は飯田くんとゲームの話でもしてるんじゃないかな?」
「男二人で女十三人引き連れて、ゲームの話はないんじゃないですか?」
夢子が聞いた。
「そういうものなの?
直くんが男友達とどんな話をするのか、よく分からないんだよね」
「そりゃ、女の話ですよ」
「えー!?」
「だって、私たち男の話ばっかりしてません?
これで男側が女の話をしてなかったら、なんかすごく恥ずかしいですよ」
「たしかに恥ずかしいかも」
と、はにかむ奈月。
「だから、女の話してくれてなきゃ困りますよ」
「別に、困りはしないんじゃ」
里子が笑う。
「……実際、どうなんですかね」
夢子が言った。
「男のことばかり考えてるような女って、男からしたらNGなんですかね?」
「ええ!? 私、直くんのことばかり考えてる気がする。止めた方が良い? ダメ?」
「それはダメじゃないですよ! そういうのは一途で健気で清楚で、百点ですよ。
里子みたいな、色んな男にドキドキするのがダメってことです」
そう言われて里子は大慌て。
「その言い方止めてよ! 恋愛感情が良く分からないだけなんだから」
と、抗議した。
奈月は里子の赤面が愛らしく思えて、里子と夢子が言い合う様子を微笑みながら眺めた。




