どういうことですか!?
「本当!? 猫が森田くんの膝に乗ってる写真ってこと!?」
奈月の大きな声が辺り一面に響く。
奈月は慌てて周囲を見渡して
「大きな声出しちゃった。他の人いなくて良かった」
と照れ笑いをした。
「猫関係は私もそうなります」
と、夢子も笑った。
「猫そんな好きなんですか?」
「好き。昔は森田くんも、猫苦手じゃなかったんだけどね」
「引っ掻かれてかなり苦手になったらしいですね」
「うん。マンションの廊下に猫がいて、家の鍵を開けようとしてキーホルダー出したら、その手に飛び付かれたんだったかな。猫的には、キーホルダーにじゃれたのかな?」
「多分そうですよね。偶然じゃらした形になって、爪がたまたま出てて」
そう言いながら夢子は、両手を丸めて猫の手を作って里子の頬を撫でた。
奈月は頷いた。
「多分そうだよね。それまで森田くんって、動物が好きってわけじゃないのに、わりと動物たちに好かれてたんだよね。だから猫を全然気にしないで鍵を出しちゃって、猫の方も気楽にじゃれて。
けど森田くん、猫にいきなり引っ掻かれたのが相当ショックだったみたいで。
ちょっと前に野良猫を見掛けたときも、私が猫で遊んでる間、森田くんはかなり離れて見てて。気にしないで遊んでてって言ってくれたけど、かなりトラウマになってるのかなって思った。
だから、猫と森田くんがいっしょの写真があるなんて驚いちゃって。どうやって猫との写真なんて撮ったの?」
「ベンチに座ってたら、森田先輩の足に猫がスリスリしに来て。本当に性格悪い話で恥ずかしいんですけど、私チャンスだって思っちゃって。森田先輩の太ももに猫を置いて、無理矢理。すみません」
「大丈夫、そんなの私もチャンスだって思うし!
森田くんはどんな反応してた?」
「森田先輩、かなり怖がってましたよ。思ってたより本気で苦手そうだったから、高速で写真撮って猫どかして、ちゃんと真剣に謝って。
でもなんか、私への怒りより猫への驚きの方が強かったみたいで。『猫ってすごく重いんだね。猫が触ってたとこがまだ熱いよ。ああ疲れた』って、笑ってくれました」
「ああ、そうなるかも。直くん――あ、森田くんね。森田くん、動物を抱っこしたこと少なくて。
小さい頃に動物と触れ合い施設に行って、ウサギとか触らせてもらえたんだけど、森田くんは『落としそうだからやだ』とか言って、抱っこするの嫌がってたの。亀の甲羅だけツンツンしてたけど、それ以外は触りたがらなくて。
だから森田くん、猫の体重も体温も全然知らなくて、その日に初めて知ったんじゃないかな?」
「あ、直くんって呼んで良いですよ。実は私、クリスマスに二人の呼び方が変わったってこと、知ってるんですよ。
森田先輩に無理矢理――なんか私、無理矢理ばっかりですね。とにかく聞いちゃったんですよ。クリスマスのこと報告してくれないなら、教室まで行ってクリスマスデートのこと言いふらすって脅して。
クリスマスになる前は森田先輩、どうせ何も起きないよって笑ってましたけどね。信用してもらうまで頑張るから、クリスマスに下心出さないって」
「直くんは我慢出来たんだけどねー……。私が早く付き合ってほしくて。あー恥ずかし」
「恥ずかしくないですよ、素敵だと思いました」
「直くん、どんな風に言ってたの?」
「えっと……好きなことバレてて、胸とか見てたこともバレてて、なのに嫌わないでくれたって。泣いてました。あんなに優しい人知らないって」
「あーそれ、亜紀の前で言ってほしかった!」
と、奈月は残念そうな顔で言った。
「亜紀がまだいたら自慢したのになあ。
亜紀はさあ、私の友達のくせに、どちらかというと直くんの味方で。思い出話をしてても、すごく直くんの肩持つんだよね。
森田くんじゃなかったらとっくの昔に嫌われてるよって、何回も亜紀に言われてるの」
「そういえば二宮先輩、なんだかすごい慌ててサウナに向かいましたね」
夢子が、思い出し笑いをしながら聞いた。
「色々あって、亜紀は直くんの文章のファンなんだよね。だから歌にも期待しちゃったんだと思う」
「そういえば、私以外にもファンがいるとか言ってました」
「ああ、もう知ってるんだ?
まさか直くんが小説書けるなんてねえ」
それを聞いた夢子は慌てた。
「いや私、小説とまでは聞いてませんでしたけど。
森田くんに怒られるから言えないんだけど、ファンがいるんだよってくらいしか……」
「あ、そうなの? ……じゃあマズイじゃん私。バラしちゃったじゃん。
お風呂から出たら直くんに怒られるかも」
里子は少し気になって
「わざとじゃなくても怒られちゃうんですか?
奈月先輩って、森田先輩にすごく大切にされてるって聞いてますけど」
と、聞いた。
「あ、うん。大切にはしてくれてる。でも、どんなことで怒るかとかまだ知らないから心配で。
……わざとじゃないから平気かな?」
「大丈夫じゃないですか?」
自分の責任だと思った夢子は
「ごめんなさい。私、森田先輩に説明しますよ。私が勘違いさせるようなこと言ってバラさせたって謝ります。私が怒られるべきですし」
と、謝罪した。
しかし、その言葉に奈月は大慌て。
「ダメダメ。そんなこと言ったら、小説でエッチなことされちゃうから」
「どういうことですか!?」
三人の笑い声が風呂場に反響し、小鳥が驚いて飛び立った。