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こころにいつも

「あーなーたーがいるだけでー」

「こころやさしくなれるよー」

「あーなーたーがいるだけでー」

「いつもわらってられるよー」


 サウナ室の中で、仲良く交互に歌う遥と真。他の客がいないので、思う存分歌えるのだ。


「――ふう。覚えやすいね、もう大体覚えちゃった」

 真は、笑顔を遥に向けた。

 遥の予想した通り、直人の作った歌を真はすぐに気に入ったのだ。


「結局、どうなのかな? この曲」

 遥は、心の中で祈りながら感想を聞いた。


「こういう、歌ってて幸せになれる歌詞大好き。私、カラオケでこの曲歌いたいもん」


 その答えに喜んだ遥は、思わず(こぶし)を握った。

 ほらね。森田くんは謙遜したけど、この曲はすごいよ。

「あのね、実はこの曲は森田くんが――」

 説明しようとした瞬間、サウナルームに奈月が入ってきた。遥は思わず口をつぐんだ。


「あ、貸し切り状態なんだ。お邪魔します。

 亜紀と桜子がセクハラしてくるから、逃げてきたの」

 奈月は苦笑いをして、遥の正面に座った。

「何か話してたの?」


「あのね、遥が歌作ったの!」

 真は、嬉しそうに奈月に言った。


「わあ、ついに出来たんだ?」

 奈月は遥に笑顔を見せる。


「う、うん」

 遥は、やや緊張しながら答えた。

 もし奈月が歌に興味がなかったら、遥にとってすごく困るからだ。


 しかし、奈月はこう言った。

「すごいすごい! 聴きたいな」


 こうなると、遥としては精一杯歌って、なんとか直人の曲を気に入ってもらうしかない。遥は覚悟を決めた。

「まだ練習中なんだけど、とりあえず聴いてもらって良い?」


「良いよ」


「では歌います。『こころにいつも』ってタイトルね」

 遥は、二度深呼吸をして、歌い始める。

「インマイドリーム シューティングスター

 インマイドリーム シューティングスター

 インマイドリーム シューティングスター

 インマイドリーム シューティングスター


 つかれることを してきたあとも

 なれないやくを してきたあとも

 のりものよいを してきたあとも

 つらいおもいを してきたあとも


 あなたがいるだけで

 こころ やさしく なれるよ

 あなたがいるだけで

 いつも わらって られるよ


 はる なつ あき ふゆ

 あさ ひる よる ゆめ

 あな たは わた しの こころにいつも


 オンマイドリーム シャイニングスター

 オンマイドリーム シャイニングスター

 オンマイドリーム シャイニングスター

 オンマイドリーム シャイニングスター


 はる なつ あき ふゆ

 あさ ひる よる ゆめ

 あな たは わた しの こころにいつも かがやいてるよ」


 遥が歌い終わると、奈月と真は同時に拍手をした。


「あの、すごく良い曲なんだけど……」

 奈月は言った。


「ね。良い曲だよね」

 と真。


「良い曲なんだけど――遥さんも、よく乗り物酔いするの?」


「――え?」

 遥は一瞬、質問の意味が分からなかった。


「あの、歌詞の中に『乗り物酔いをしてきたあとも』って、あったよね? 乗り物酔いをしやすい人が考えた歌詞みたいで」


「そういや遥、乗り物酔いってするんだっけか?」


「えーっと……私はあまり……」

 遥は答えに悩んだ。

 奈月さん、森田くんの歌詞だって気付いたのかな。でも、もしそうじゃないのにバラしちゃったら森田くんに怒られるし……。

「……あの、森田くんって怒ると怖い?」


 聞かれた奈月は、

「え? よっぽどのことじゃないと怒らないと思うけど。なんで?」

 と聞き返した。


「この後、怒られるかもしれなくて」


「あ、私にじゃなくて遥さんに怒るってこと!? 遥さんには怒ったりしないでしょ。

 昨日も『あの人は男の人が苦手だから気を付けないとなあ。俺が橘さんにセクハラしそうになったらすぐ止めてね』って言われたし。すごいひどいことしないと怒らないよ」


 ……そっか、そうだよね。

 遥は、直人の優しさを思い出していた。

 森田くんなら、謝れば許してくれるよ。それにこの歌は、森田くんから奈月さんへの歌だもん。

「あのね、実はね――」




「なーんだ、森田くんの作った曲だったんだ。遥が考えたにしては歌詞がかわいすぎるもんね」

 真は、遥の説明を聞いて納得した。

「でも、乗り物酔いって歌詞でピンときちゃうって、奈月すごいよね。さすが幼馴染みって感じ!」


 奈月は照れながら、

「バスの中で指先とかがたまに動いてたから、もしかしてそうかなって」

 と微笑んだ。


「森田くん、なんで隠してたの?」

 真は疑問を素直に口に出した。


「奈月さんのことを考えて作った歌だから、本人に言ったら気持ち悪がられるかもしれないって森田くんが」

 答える遥。


「気持ち悪い要素、一切なくない?」


「私もそう言ったんだけどね」


「ちょっと確認したいから、もう一回歌ってみてよ」


「了解」

 遥は、気合いを入れて立ち上がった。


「立つの!?」


「そりゃ立つよ。本気で歌うからね」

 遥は、しっかりとタオルを腰に巻き付け、仁王立ちした。

 奈月さんにバレちゃったからには、絶対に気に入ってもらわないと!




「なにここ。なんで合唱コンクールやってるの?」

 サウナ室に入ってきた桜子は、少女三人の歌声にぎょっとした。

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