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ブレイカー  作者: フィール
2章
95/156

2章:獄犬

ビレイドは歓喜していた。


目の前に迫る三武家達。

戦闘狂であるビレイドにとって、人間最強の存在である彼らと戦えることは何よりも嬉しいことだ。


先程、新たな仲間であるエイルが走り去り、それを追うようにジカルも去っていったが、そんなことは最早彼にはどうでもよかった。


トラルヨークに潜入した時に出会った5人。


彼等が三武家だと知った時は驚きと同時に喜びに溢れ、本気で戦いたいと願っていた。


だからこそ、彼は1つの懸念があった。


三馬鹿、エイル、ジカル。


ビレイドの近くにいた仲間達は、この戦いをビレイドに楽しませるかのようにここから去った。

しかし、1人……いや2人が今のビレイドにとっては悩みの種だった。


自らの主であり、尊敬すべき存在であるベルア。

そして彼に付き従うように行動する人間の女。


トラルヨークからの強力な防衛兵器から魔物達を守る為の人質のようなものとして大量のシドモークを動員して集めたサールと呼ばれる町の人間達の、恐らく最後の一人。

ビレイドにとって、この2人が最後の懸念だった。


彼がこの2人に懸念を持つ理由は簡単である。

折角の心躍る三武家との戦いを邪魔される可能性があるからだ。


ビレイドにとって、ベルアは尊敬すべき主だ。


しかし、良くも悪くも邪悪なベルアは、恐らくこの人間の女を全力で利用するだろう。

三武家を葬るという目的の為であれば、それはかなりの効果を発揮するだろう。


しかし、ビレイド個人の気持ちとしてはそんなことはして欲しくなかった。

純粋に正々堂々と戦いたかった。


ビレイドはかなり特殊なヒューマンである。


魔物というのは、基本的に人間に対して敵意を持つものだ。


理由は不明だ。

しかし、それはヒューマン程の知能を持つ存在であろうとも変わらない。

恐らく本能に刷り込まれているのだろう。


しかしこのビレイドというヒューマンは、大して人間への敵意はなかった。

あくまで戦いへの渇望、自分と渡り合える存在と出会い、本気の戦いをしたいだけだった。


だからこそ、尊敬するべき主であるヒューマン、ベルアが心配だった。


彼は、勝つためなら何でもする男だ。



(オレは本気で戦いだけだ……それだけは譲れない、例え……相手がベルア様であろうが。)



ビレイドがベルアに直談判することを内心で強く決意する。

そしてそれを待っていたかのように、目の前でノーマルの大群と戦っていた5人が、それらをあらかた片付け終わったようだ。


本来であれば同族を皆殺しにされたことに対して怒りを覚えるべきなのであろうが、周りの邪魔なノーマル達が全滅し、彼らと戦えるタイミングが来た事が嬉しいビレイドの表情は自然に笑顔に変わっていた。



「オレの……出番だな?」



ノーマル達を蹴散らし、最後に残った2人にゆっくりと向かってくる5人。


ビレイドの笑顔に反し、こちらの顔を見て驚愕の表情をする三武家……ナム達。


偶然にもトラルヨーク内で出会ったビレイドとナム達は、とうとう戦場で再会した。



「お前……ビレイド……だな?」


「あぁ……オレも驚いた、お前達が三武家だったとはな。」


「俺も驚いたぜ、お前ヒューマンだったんだな……いや、四天王か?」


「そうだ、オレは四天王リーダー、獄犬のビレイド。」



ビレイドはそう名乗ると同時に、手に構えた巨大な剣を横に振りかぶる。


それは、何かをしようとしていたベルアの行き先を封じるような形となっていた。



「ビレイド?」


「すまねぇベルア様、オレはコイツらと本気でやり合いたい、邪魔しねぇでくれ。」


「我の言葉を忘れたのですか? 他の四天王が死んだ理由は。」


「1人で三武家と戦った事……でしょう? わかってますよ……ですがね。」



ビレイドは横に振りかぶった巨大な剣を上に振りかぶり、そして肩に乗せる。



「ご存知の通り、オレは戦いを楽しむことを辞められないみたいでね。」


「貴方らしいですね、仕方ありません……ならば我は戻りましょう、それでいいですか?」


「すまねぇな……もう1つワガママ言っていいなら、その人間をオレに任せて欲しい。」


「良いですよ、保険に使いなさい……貴方を失うのは我にとっても痛いですから。」



ベルアはビレイドを信頼しているようで、やけに呆気なく操られた人間……アンナをビレイドに託した。


そしてベルアはナム達へと1度だけ視線を向け、ニヤリと笑うと踵を返して去っていく。



「ベルア……!?」



敵のやり取りにナム達が唖然とする中、リィヤだけは去ろ行くかつての最も信頼していた男に怒号のような声を上げるが、ベルアはそれを意にも返さない。



「わたくしは……貴方を……何処までも追います!」


「それは光栄ですね、リィヤお嬢様。」



背中を向けたまま、リィヤに向けて手だけ振って去るベルアを見送る。


リィヤはその背中を強い眼差しで睨みつけていた。

まるで彼の行先を記憶するかのように。





それから少しの時間が経ち、ベルアの姿が見えなくなると共に、大きく息を吐いたビレイド。

まるで安堵するかのような動きをした彼に目を向けたナム達の前で、彼は驚きの行動に出る。


ビレイドはおもむろにアンナの腹部を強打して失神させると、アンナの体から飛び出したシドモークを、なんと切り捨てたのだ。


仲間からまさかの攻撃を受け、困惑しながら絶命したシドモークの霧が晴れると共に、力が抜けたようにアンナは倒れ込み、ビレイドはそれを受け止める。



「なんのつもり?」


「気にすんな、後でベルア様には謝らないとな。」



そう言うと、ビレイドはおもむろに手招きをする。

それは気の合う友人を呼ぶ時にやるような、親しみすら感じられるような手招きであった。


それを怪しみながらも前に出たナムが近付くと同時に、失神させたアンナをビレイドは差し出した。

突然のビレイドの行動に困惑しながらも、ナムは彼女を受け取る。



「安全な所に移動させな、待っててやるよ。」


「何が狙いだ?」


「気にすんなって……深い意味はねぇよ……オレはお前達と本気でやり合いたいだけだ。」



その言葉の意味を何となく察したナムは、ビレイドとすれ違うように移動すると、抱えたアンナを魔物側の方向のなるべく遠くへと寝かせる。


ビレイドの立っている場所が魔物陣営の最後衛であり、彼の後ろには最早魔物はいない。


下手に町の方角に寝かせるよりは安全だ。



「オレは嬉しいんだぜ?」



アンナを安全な場所に移動させ、元の位置に戻る途中のナムは、彼の独り言めいた言葉を聞いた。



「オレは飢えていた……強敵と戦える事を求め、人間の中でも強者と呼ばれる奴らを襲った。」



ナムは再びビレイドと交差するように移動する。



「だがどいつもこいつもあっさり死んだ……人間にとっては強者も、オレにとっては赤子だった……この辛さがわかるか?」


「わかんねぇよ。」



ナムは仲間達の元に戻り、ビレイドに背中を向けている状態から、ゆっくりと振り返る。



「だがお前達は違う……三武家は人間の中では最強の存在、オレも最初はどうせ名前だけの存在だと思っていた……しかし、お前達は他の四天王を殺した。」



ベルアは肩に構えた剣を再び振り上げると、様々な方向に振り回し始める。



「オレは仲間を殺された怒りに燃えた……ハルコンとアグニス……奴らは仲間だった……オレは奴らの仇を取ろうとした。」



3mを超える巨大な剣を、ありえない速度で振り回し続けるビレイド。

ナム達の元には、その巨大剣を振り回したことにより発生した強い風が届き始めていた。



「だが、そんな復讐心と同時に、オレは期待もしたんだ……あの2人を倒せるような存在……それこそがオレが求めた相手だと。」



ビレイドは振り回し続けた剣を止め、目の前で戦闘の構えを取るナム達を笑顔で見つめる。



「弔い合戦……? 仲間の仇……? この怒りは仲間を思ってのことだと……オレは思っていた、しかし気付いちまった。」



ビレイドは体の数箇所に魔力を集中させ始め、更には空いた手を強く握り込むと、その拳を強く前に突き出す。

その拳の速度は、思わずナムも目を見開く程のものであり、魔力の量を察知したトウヤも驚いている。



「オレは……そんな強い奴らとの戦いをオレよりも先に楽しんだあの2人に怒っていたのだと!!」



剣の速度、拳の速度、魔力量。


それの全てがナム達を驚かせる。



「なぁ……ケルベロスって知ってるか? 地獄の番犬と呼ばれる三つ首の巨大なわんちゃんらしいな?」



ビレイドはいきなりそんなことを言い始め、そしてまたもや突然大声で笑い始める。


そしてひとしきり笑った後、彼は困惑するナム達を真っ直ぐ見据えて続きを話し始めた。



「何故オレが獄犬と呼ばれているか……その意味をその身でしっかりと受け止めてくれよ……楽しもうぜ三武家ぇ!!」



ビレイドの咆哮と共に、彼の体から炎の魔法が放たれる。

それは小さな火球であり、それほナム達にとってはとても見覚えのある魔法だ。



「フレア・ボムだ、気をつけろ!」



トウヤの咄嗟の注意喚起のお陰もあり、ナム達は強い爆発を起こすフレア・ボムの周りから間一髪で飛びの退けた。


フレア・ボムは中位魔法だが、必要な魔力量の割には威力が高い魔法だ。

直撃してしまえば無事では済まない。


フレア・ボムが起こした爆風に巻き上げられた粉塵が視界を覆い、ナム達はビレイドを捉えられなくなる。



「いきなり魔法だなんて……巨大な剣を振り回してたから剣士だと思って油断したわ。」



ミナがそう愚痴をこぼした直後、彼女の前の粉塵が濃くなる。

そこに何かが近付いている証だ、間違いなくビレイドだろう。


ミナは彼の剣の大きさを思い出し、受けるのではなく力を流す為の準備をする。

ミナの判断は間違っていない、ビレイドの剣を受け止めるなど自殺行為だ。


しかし、彼女の判断はそれすらも裏切られることとなる。


巨大な剣が振るわれると予想していたミナの体に、複数回に及ぶ強烈な衝撃が襲ったからだ。



「がっ……!?」



あまりの衝撃と痛みに続き、最後に放たれた衝撃と共に吹き飛ばされる。



(まさか……格闘!?)



ミナは吹き飛びながらも敵の攻撃を予想し、地面に転がるように倒れ込む。

それと同時に粉塵が晴れ、ミナはその予想が外れていない事を悟った。


ビレイドの剣は頭上高く放り投げられており、空いた両拳や蹴りでミナを攻撃したのだ。


そして剣を受け止めると、続いてトウヤに向かって突撃をする。



「ミナさん……!? くそ、ウィンド・カッター!」



トウヤは魔力量が低く、速度の早い鋭い風の刃を咄嗟にビレイドに向かって放つ。

時間のかかる魔法では間に合わないからとの判断だ。


しかし、ビレイドはそれをあっさり避けると、巨大な剣をトウヤに向かって振り上げる。



「マズイ……! アース・メイル!」



トウヤの叫びとともに、集めていた魔力を消費して、彼の体を土のような鎧がまとわりついた。


上位強化魔法のアース・メイルだ。


どんな攻撃でも、一撃なら完全に防ぐことが出来る魔法である。


トウヤはそれを使い、巨大な剣の事を攻撃を受け止める。

しかし流石に衝撃だけは防げず、体だけは後ろへと吹き飛ばされてしまう。



「ぐっ……ボルテック・キャ。」


「遅いぜ!!」



トウヤが魔法を放とうとした時だった。

1度攻撃を受けたアース・メイルは破壊され、鎧が自壊を始めていた丁度その頃、ミナと同じように彼の体にも拳が数発叩き込まれた。


巨大な剣を放り捨てることにより体の重量を軽くし、予想外の速度でトウヤへと近付いたのだ。


トウヤは叩き込まれた拳をモロに受け、最後に地面へと足で叩き付けられる。



「がはっ……!」



トウヤが地面に叩きつけれると共に、ビレイドに向かって高速で飛来する物が襲い掛かる。


それはタイフが投擲した圏であった。


未来眼(サーチ)の効果てベストなタイミングで投げられたそれを、ビレイドはあっさりと掴み取る。



「……くっ!?」


「三武家じゃねぇ癖に、お前もやるじゃねぇか。」



感心したような声色でそう言ったビレイドは、容赦なく魔法を連続でタイフに放ち、それの1つが見事に直撃してしまう。

いくら未来が見えようとも、避けられない攻撃には対処ができない。



魔法に直撃し痛みで意識が薄れるタイフに向け、ビレイドは更に魔法を放つ。


それをすんでのところで受け止めた存在がいた。


リィヤである。



「ん、そのバリア……すげぇな?」


「タイフさん、大丈夫ですか!?」


「ごめん……助かった。」



リィヤがいなければ下手すると命を落としていたかもしれない、その位魔法の威力が高いのだ。

かなりの修練を積んでいるようだった。



「そのバリア……何処まで耐えられるか!?」



ビレイドは歓喜しながら、巨大な剣を頭上で振り回しながらリィヤに向けて突撃する。


リィヤは驚くが、タイフを守るために全力でバリアを展開する。

しかし彼女のバリアに巨大な剣が命中すると同時にヒビが発生し始め、彼女は青ざめた。



(壊れる……!?)



リィヤは慌ててしゃがみ、バリアが破壊されると同時に頭上を通り抜けた巨大な剣を回避する。


そして再びバリアにを展開しようと手を前に出した。


しかしその腕を掴み取られ、リィヤは横振りに投げ飛ばされ、地面に強く打ち付けられる。


命に別状は無さそうだが、元々強い体を持っていないカノジョは、それだけで動けなくなってしまう。



「リィヤ……!? くそ!」



彼女の守りがあっさり突破され、慌てたナムがビレイドに向かって突撃する。

ナムからは遠い場所で戦闘が続けられてしまっており、間に合わなかったのだ。



「本気を出してくれ……オレは楽しみたいんだよ!!」



ビレイドは巨大な剣を構えると、自らもナムに向けて走り出す。


そしてその剣のリーチを生かし、ナムとの距離がまだ離れている位置から剣を振るう。


その剣さばきはかなりの腕であり、ナムも避けることに専念するほどであった。

掴み取る事は可能だが、これだけの剣だ。

掴んで止めたところで、剣ごと持ち上げられるだろう。


それならば回避した方が懸命だ。



「流石は格闘の権威、だが!」



剣を避けるナムをニヤリと見ながら、ビレイドは体に集中させた魔力を変換する。


そして3発の各属性の上位魔法を生成すると、それを順番に放ち始める。



「上位魔法を3発同時だと!?」


「魔法。」



1つ目、速度の早いボルテック・キャノンが真っ先にナムを襲う。

それを何とか回避し、そこ狙うかのように振るわれた剣をほぼ飛ぶような姿勢で避ける。



「剣術。」



2発目、頭上から氷の塊を隕石のように落とす上位魔法。

アイス・ストライクをナムはその場から跳躍して避ける。



「そして格闘。」



3発目、形の見えない風の上位魔法、エアロ・ブラストは跳躍して姿勢が崩れていたナムに直撃してしまう。



強烈な衝撃にナムの体は吹き飛び、地面へと強く激突する。



「この3つ全てを極めた存在、三つ首の地獄の番犬、それが。」



ビレイドは、辺りに散らばったナム達それぞれに視線を向けると、手に持った巨大な剣を肩に乗せた。



「このオレ……ビレイドだ!」

久しぶりのナム達です。


彼らもとうとう、四天王最強の存在とぶつかり合います。

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