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ブレイカー  作者: フィール
2章
90/156

2章:狂える狼

トラルヨークの外。


赤い衣を纏った、およそ200人程度の集団。

彼らは4人の幹部、そしてリーダーのビネフを中心に約40人毎の集団に別れて行動していた。


そしてその集団の中で最も早く戦線に飛び出た1団である、唯一の女性幹部が率いるマッド・ウルフ魔法部隊の面々は、目の前の鋼鉄の殻を持ったアルマジロ型のビーストと対峙していた。



「姐さん、ヤツが来ますぜ!」


「はっはっはっ! ボールみたいな奴だね……先ずは避けて魔力の準備をしな!」



マッド・ウルフ幹部の1人であるデルダは、3箇所の魔力集中が可能であり、組織の中で最も高い魔力適性を持つ。

そしてそんな彼女が率いるこの部隊は、全員が最低でも2箇所以上を持つ魔術師の精鋭達が揃っている。


その性質上、彼女の部隊はマッド・ウルフの中で最も高い破壊力を持っている。



(丁度いい、あの男に折られた自信を取り戻すためにも、ビースト相手に立ち回ってやろうじゃないか!)



デルダはトラルヨーク軍基地を襲撃した際に対峙した規格外の魔術師の存在を思い出し、身を震わせる。


魔術師としてかなり高位であるという自信を見事に打ち砕き、デルダを呆気なく戦闘不能にしたあの男。

彼と比べれば目の前のビーストなど恐ろしくもない。


彼女の指示通り、マッド・ウルフの構成員達は転がってくるアルマジロ型のビーストの攻撃を避け、すぐさま後ろへ振り返って魔力をそれぞれ集中させ始める。



「今だ、やりな!」



デルダの号令と共に、マッド・ウルフの魔法部隊のメンバー達は、それぞれの最大の魔法をビーストに向けて放つ。

それぞれの魔法が全てアルマジロ型の魔物の体に命中する。


しかし、鋼鉄のような硬さを持った敵の殻に阻まれ、雷系統の1部の魔法を除いて跳ね返されてしまう。


逆に言えば、雷系統の攻撃は殻に関係なく敵にダメージを与えたのだが。


突然にダメージを受けたアルマジロ型のビーストは、苛立ちを隠しきれないように転がりを止めると、マッド・ウルフ達へと体を向ける。



「ニンゲンゴトキガ、コノ<アルマル>ニナニヲシタ!!」



強い怒りを表すアルマルというビーストは、再び体を丸めると、先程からやっているように転がり始めた。

何度も同じ攻撃を繰り返しているところを見るに、この魔物はこれが基本的な攻撃のようだ。



「見たかい、奴に通用する魔法は分かっただろ!」



ニヤリと笑い、そう仲間達へと言葉を投げ掛けたデルダに対し、仲間達は頷いて同意を示した。


そして、彼らはデルダの指示を待つことも無く、転がってくるアルマルの攻撃を全員で回避した。


確かに、巨大な体で転がってくる敵の質量攻撃は脅威だが、この敵の攻撃は単調であり回避自体は難しくない。


勿論、回避を繰り返せるだけの身体能力と体力は必須だが。



「へばるんじゃないよ、一瞬であの世行きだよ!」


「心配ないですぜ姐さん!」



ビネフやデルダに徹底的に鍛えられた彼らにとって、この程度の回避であれば問題はない。


しかし、体力が尽きる前にアルマルと名乗ったこのビーストを倒せなければ、いずれは犠牲者が出るだろう。


それをわかっていながら、デルダとその部下達は笑顔を絶やさない。

彼らはこのアルマルを倒せると確信している。


彼らの自信、それは魔術師であれば皆が感じる希望であった。

どんなに強力な魔物であろうと、どんなに強力な魔法への耐性を持っていようと。


1つの魔法でも通用するのであれば、勝利の可能性があるからだ。



「全員で雷を用意しな!!」


「分かったぜ姐さん!!」



魔法部隊の全員は、デルダの号令と共に魔力を集中させる。


スチルマは転がったまま方向転換をして、再びデルダ達へと向かってくる。

彼らが行っている準備を危険視したアルマルは、更に速度を上げる。



「怯むな! 勝てるよ!」



デルダ達は、向かってくるアルマルに対して真っ直ぐ睨みつけ、とうとう集中させた魔力の変換を開始し、全員が同じ属性の魔法を発動させる。



「雷属性上位魔法……ボルテック・キャノン!!」



唯一上位魔法を放ったデルダに続き、それぞれの構成員達は下位〜中位の雷魔法を放つ。


下位の魔法が混ざってるのは、彼ら全員が雷魔法を得意としている訳では無いからである。

それでも少しでもダメージを与えるためには、下位であろうと関係ないのだ。


デルダの放ったボルテック・キャノンは、アルマルの体に命中すると共に、彼の転がり攻撃を直前で止める。

感電効果と共に、巨大な質量も持つボルテック・キャノンは、見事にアルマルを足止めした。


そしてそこへと向けて部下達が放った雷攻撃が矢継ぎ早に命中していく。



「バカ……ナ……!?」



鋼鉄の殻を持っていようと、感電のダメージは抑えられない。

全ての雷魔法を受けたアルマルは、ゆっくりと丸めた体を開き、そのまま仰向けで倒れる。


そのまま彼は少しの時間体を痙攣させたが、そのまま動かなくなる。

絶命したようだ。



「はぁ……何とかなった……よし、一旦引いてアルフ達と合流するよ!!」



アルマルという強敵を倒したが、彼らに安堵する余裕などない。

アルマルの後ろ、そこにはビースト達が迫ってきている。

1匹倒すのに全員の力を合わせたのだから、数匹のビースト相手では流石のマッド・ウルフでも分が悪いからだ。


デルダ達は踵を返し、その場から逃げようとしたが、その足は止まる。



「逃げる必要なんかないぜ、デルダ!」


「おやおや、思ったより早いじゃないか。」



デルダが逃げようとした先、そこにはアルフを初めとした幹部達とその部下達が集まっていた。


トラルヨーク軍基地での戦いで折られた剣を新調した。

異次元の切れ味を持つ代わりに耐久に難のある、扱いの難しいフェザーソードを使用する剣士であるベダ。


チャクラムや鎖武器を得意とし、仲間との連携に重きを置き、自らと同じ投擲を得意とする部隊を指揮するガマー。


そして、トラルヨーク軍基地侵攻作戦で少女相手に心を折られ、再起するのに時間は掛かったものの、何とか自信を取り戻した男。

巨大な戦鎚を使った力強い戦闘と破壊を得意とする攻城部隊を指揮するアルフ。


そしてマッド・ウルフのリーダー、ビネフと彼が率いる暗殺部隊。


マッド・ウルフの全部隊がデルダの後ろに集結していた。


彼らの武器には多くの血が付着しており、ここに来るまでに多くの魔物を葬ってきたであろうことが見受けられる。



「デルダ、君達魔法部隊はサポートヲ……残りはボク達がやるヨ。」


「ビネフ……それにお前達も気を付けるんだよ!」


「ふん……任せろ。」



デルダからの言葉にガマーはそう返すと、我先にと腰元からチャクラムを取りだし、迫り来るビースト一体へと投擲した。


それはあっさり躱されてしまうも、魔術師の格好をした骸骨型のビーストの注意を引く。



「こっちだ。」



ガマーは言葉と共にハンドサインを出し、自身の部下である投擲部隊を指揮して仲間達から離れる。

それに釣られるように、そのビーストは彼らへと向かって移動し始めた。



「ならばあの猿はこのベダがやろう。」



ベダは仲間達を引き連れ、我先へと顔以外毛むくじゃらのゴリラのような見た目のビーストへと突撃する。


その際に、横にいたピエロのような見た目のビースト、クラウンも彼らへ拳で攻撃しようとする。


しかしそれを巨漢の男がギリギリ戦鎚で受け止め、彼の後ろから同じく巨大な戦鎚で反撃をするアルフ。

彼の攻撃を避けたクラウンは、自身の標的を彼らへと決めたようだった。



「来いよピエロ野郎……このアルフが相手してやる!」



ビースト達と相対する幹部達を満足気に眺めながら、ビネフは暗殺部隊のメンバー達を指揮し、周りのノーマルの集団へと銃口を向けた。



「さテ……ボクは残り物のノーマル達の殲滅ト……サールの町の人達の救助をしようかナ? 手が必要なら言うんだゾ、皆。」



ビネフからの冗談を聞いた幹部達は、それを笑い飛ばすとそれぞれのビースト達へと攻撃を開始したのだった。





「カイマホウ……アイス・ニードル!」



骸骨魔術師、ビーストのスケルダーは4つの魔力集中箇所を持つ。

その力を使い、氷の槍を生成する魔法を4連発したスケルダーは、それを操作してガマーへと特攻させた。


ガマーは2本のチャクラムを取り出すと、それを投擲することなく、打ち付けて金属音を鳴らし始める。

一定の法則を持つ音を鳴らすと同時に、部下達はそれぞれの武器を4本のアイス・ニードルへと向けて投擲する。


部下達が投げた投擲武器は、見事にアイス・ニードルを撃ち落とした。



(あの男に負けた後……新たなサインを開発した。)



投擲部隊を率いるガマーは、部下達との連携に重きを置いていた。

タイフとの戦闘時、彼はメインでハンドサインを使っていたが、これには大きな弱点があった。


ハンドサインは、部下達の目に入らなければ機能しない。


実際、彼の部下である2人の鎖武器使いにハンドサインを出してあの男を攻撃させたが、それを回避された後に前に出ていたあの2人に指示を出す為、言葉を発するしかなかった。


それが原因であの男に指示系統が漏れ、あのような無様な敗北を喫した、とガマーは考えていた。


真実はタイフが未来眼(サーチ)を使用していたからなのだが、彼からそれを明かされていないガマーはそう考えざるを得なかった。


牢獄の中で部下達と悩みに悩んで考案された新たなサイン、それが先程の音だった。


金属音を、打ち鳴らした後に離さず反響させないようにする音と、打ち鳴らすと同時に武器を離して周りに響くようにした音。


この二種類の音を規則的に鳴らすことにより部下達へと指示を出す方法だ。


これにより、多少離れていても部下達へと指示を出せる上、投擲部隊の中で決めた法則故に敵に情報も漏れないというガマーにとってありがたいサインが完成したのだ。


ガマーは再び武器を数度打ち鳴らすと、部下達は統制が取れた動きで左右様々な方向から武器を投擲する。


魔力を集中させていたスケルダーは、その様々な投擲武器を確認すると、慌てたように回避する。

しかし魔物とはいえ、あくまで魔術師型であるスケルダーの身体能力自体は高くなく、数発の投擲武器に命中する。



「オノレ……フレア・ボム!」



ガマーはその魔法の名を聞き、慌てて部下達へとハンドサインを出す。

しかし、部下達もハンドサインを待たずに行動を開始しており、その場から散開し始めた。


スケルダーが放った4つの火球がガマーの部隊がさっきまで立っていた場所に命中すると、巨大な爆発が起こる。


幹部の1人であるデルダが魔術師であることもあり、自然と魔法の名を知っていたメンバー達はフレア・ボムの効果を知っていた。

それのお陰でギリギリ回避ができたのだ。



「奴はデルダよりも魔力が高いようだ、気を付けろ。」


「デルダの姐さんより怖くないぜ、ガマー」


「それは言えてるな。」



部下からの軽口にガマーは笑い、同時に再び音を打ち鳴らす。


その音に反応し部下達は再び集合すると、それぞれの武器を今度は全員が真っ直ぐ投擲をする。


役40人分の投擲武器はさながら雨のようであり、流石のスケルダーも回避が難しく、いくつかの武器に命中した。


投擲武器は便利だが弱点も多い。


人間相手なら相当強力な武器であるが、魔物に対してはそこまで有効ではない。

動きの早い魔物に対しての命中率の低さ、そして頑丈な魔物に対しての威力の低さ。


未来が見えるとか、余程の力がない限り上手くは扱えないのだ。


だからこそ、ガマー達投擲部隊はその辺の弱点を数の力や訓練によって埋めてきたのだ。


魔術師であるスケルダーにとって、その攻撃は普通に有効であり、彼の体はどんどん傷を負っていく。



「オノレオノレオノレ……ニンゲンフゼイガァァァ!!」



傷付けられた怒りの咆哮をあげながら、スケルダーは3箇所に魔力を集中させる。


その威圧感から、大きな魔法が放たれると察したガマー達は気を引き締めた。



「ジョウイマホウデシネェ、ニンゲンドモ!!」



スケルダーは魔力集中を3箇所に減らし、その分の魔力を上位魔法を放つ為に集中させ始める。

スケルダーは骸骨の顔でありながら、どことなく笑顔に変わったように見え、人間達の死を確信したようだった。



「ガマー!」


「わかってる……アレはまずい!」



スケルダーは両手をあげ、両手の上に3つの魔法を発動させる。


それぞれ炎や雷、風といった属性に、範囲攻撃に適した魔法であることは確かである。


ガマー達はその魔法への対処を持たない、放たれたら部下達ごとまとめて全滅してしまうだろう。



「……ならば!」



ガマーはハンドサインを出す。

それと同時に投擲部隊のメンバーは全員がスケルダーへと突撃を開始した。


突然の人間の行動にスケルダーは驚く。



「死ぬ前に敵を倒す!」



ガマーはハンドサインを再び出すと、彼の背後から2人の部下速度を上げて追い抜いていく。

彼ら2人は、手に持った鎖武器を振り回し、他の部下達も投擲武器を更に投げ始める。


前を走る2人に当たらないよう投擲された武器は、魔法を保持するスケルダーの体へと連続で命中する。



「グゥゥゥ!?」



スケルダーは自らの危険を感じ、慌てて生成した魔法を放とうとする。

人間達は近付いてきており、放てば全員を巻き込める。

スケルダーは変わらない表情の代わりに内心でニヤリと笑うと、自らの骨の手を前に出し人間達にトドメを刺そうとした。


しかし、それと同時にガマーは音を僅か1回だけ鳴らす。


それと同時に鎖武器を振り回して準備していた2人は素早く、それをがむしゃらにも見える速度でスケルダーに向けて振り回し続ける。


連続で切り裂かれ続けるスケルダーは、その衝撃と朦朧とする意識の前に、生成した魔法を維持できなくなっていく。



(マホウイチゲキ……イチゲキデモ……ウテレバ!)



慌てるスケルダーだったが、彼の意識はここで終わることとなった。


ガマーがトドメとばかりに放った短刀が、彼の頭に突き刺さったからである。


散々鎖武器で切り裂かれ、大量の投擲武器に体を傷付けられたスケルダーは、最後のガマーの短刀により命を失い、体が崩れ去っていく。


生成された上位魔法3発は見事に消え去り、辺りには粉状に崩れた骨が散らばる。



「間一髪……あの男との再戦まで全滅する訳にはいかないからな。」



ガマーは額の汗を拭うと、地面に広がったスケルダーの粉を手ですくう。



「何かのサインに使えないものか……おっと、今はそんな場合ではないか。」



ガマーはすくった骨の粉を放り捨てると、周りに集まり始めたノーマルの集団と対峙する。


ビーストと比べれば大した事のない相手だが、油断はしないガマーは、部下達へと再度サインを出すのだった。

マッド・ウルフ幹部


デルダ、ガマーVSアルマル、スケルダーの戦いでした。


幹部戦を1つの話にまとめるつもりが思ったより長くなってしまったので分けさせてもらいます。


アルマジロ君は元はスチルマという名にしてましたが、スケルダーと似ていたので急遽変更をする羽目に……名前は慎重に付けねば

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