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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:絶望的な状況

世界の中心であり、最強の防衛力を誇るトラルヨークの防壁の外。


北東から突如として現れた大量の魔物達とサールの町の人で構成された群衆は、町の東、北と西側を囲うように進軍していた。


トラルヨーク軍の目測では5〜6千程と見られていたが、実際に見ると万はゆうに越えているのは確実である。

それ程の大群の大多数を占めるノーマル達は、知能が低いにも関わらず見事な陣形で町の周りに展開を続けている。


それを可能にしている理由は、敵の陣形にあった。


無秩序の大群に見えるが、その中には多数の分隊が確認でき、それぞれの先頭にはビーストが配置されて彼らを率いているようだ。



「まるで軍隊そのものだな、魔物にしては相当な練度だ。」


「お前の部下と比べて、どうだ?」


「間違いなく儂の指揮の方が格上だな……だが、奴らには人質がいる。」



北側の防壁の上にはナム達と、ナムのツヴァイのラハム、そしてダルゴ司令官とその部下達が魔物の様子を観察していた。


写真で確認した通り、彼らの中には人間が混じっている。


望遠鏡で魔物の群れを眺めていたダルゴ司令官は、偶然写真に写っていたものが真実であった事を確認すると同時に舌打ちをする。



「サールの民を何とかせんことには軍は動けん……頼めるな?」



ナム達はダルゴの言葉を聞いてから、防壁の上へと視線を向ける。


トラルヨークの防壁の上には、大砲や巨大な弓とも言えるバリスタが存在する。


それと同時に町の防壁の側面には、小さな穴が空いており、銃身を外に向けて出せるようにもなっていることを、この町に初めて来た時にナム達は確認している。


しかし、それらの全てはサールの人達を巻き込む可能性が大きいものばかりである。


元々魔物の集団を相手にすること前提で設計されたそれらの設備は、狙いを定めて1匹ずつ仕留めるものではなく、弾幕を張って広範囲を殲滅するものだ。


魔物の群れに人間が大量に混じっている状況等想定していないのだ。



「時間は掛かるだろうが、何とかやってみるぜ。」


「1時間やろう。」


「無茶言うなクソオヤジ!?」



ダルゴの変わらずの無茶な要求に思わず怒鳴り返したナムだったが、当のダルゴ本人は全く気にしていない。



「避難勧告は出来ているのかしら?」


「しておらん、南側を囲う様子がないが、逆にそれが怪しい……そんなことも想像出来んのか?」



一言多いダルゴの言葉にムッとしたミナだったが、確かに言われてみれば南側を囲わない理由が不明な今の段階では、無闇に町人達を外に出す訳にも行かないのは確かである。


伏兵が存在した場合、戦う力を持たないトラルヨークの住人達の運命は1つしかない。


防壁の上に陣取っているトラルヨーク軍の軍人達もそれが分かっており、自分達の責任の大きさに緊張感が漂っているのを感じ取れる。


しかし、そんな状態でも彼等は自らの仕事を全うしており、各防衛設備の点検や弾等の準備はどんどん進む。


ナム達が会話中にも、ひっきりなしに軍の人間達がやってきて直接、または携帯用の大きな電話からの準備完了の報告が続いていく。



『白兵部隊、各門近くに展開完了、命令後即出撃可能です。』


「東部から北東部、防衛装置問題なし。」


「西部から北西部の防衛装置も問題なし。」



ダルゴに報告が来る度に、ナム達は彼との会話を辞めて防壁の外へと目線を向け、魔物の群れに混ざる人間達を確認する。


全員を覚えている訳では無いが、確かにサールの町に滞在していた時に見た覚えのある顔が数名居るのを確認したナム達は、表情を怒りに染める。



「酷いわね。」


「恐らく……町の防衛設備や俺様の魔法攻撃の対策だろうな……絶対に許せない所業だけど、見事な程に成功してるよ。」


「……許せません!」



全員の中でも更に強い怒りを燃やすリィヤ。

ベルアとの因縁もある彼女だが、サールの町に住むあの3人の気がかりもあるのだろう。


その証拠に、彼女は胸元でアンナから貰ったイヤリングを祈るように握りしめており、忙しなく魔物の群れの中の人間達を一人一人確認している。


とはいえ、彼女の視力は一般人と変わらないため、そこまで遠くは見えないのだが。


そして、その様子を大人しく眺めていたケンジは、そんな彼女を見兼ねたのか、手に持っていた望遠鏡を差し出し、リィヤはそれを頭を下げながら受け取る。



「お知り合いが居るのだな。」


「はい……凄く良い人なんです。」



ケンジから受け取った望遠鏡を使って更に遠くの様子を確認を続けるリィヤだったが、彼女達をまだ発見出来ないようだ。


本当にここにいないなら心配はない。

たまたまシドモークの支配から免れた可能性もあるのだ。

だが楽観はすべきではないことはリィヤも分かっている。



「もっと奥の方……とかか……な。」



もっと奥の方、つまり町から遠くの方に存在する魔物の群れを確認しようと彼女が望遠鏡を動かした時。


たまたま動かした距離が大きくなり、偶然にも北側の最も遠くの方を視界に入れたリィヤは、突如として硬直すると、体を震わせる。


突然のリィヤの様子が変わったのを不審に思ったナムは、彼女へと近付く。



(望遠鏡でまじまじと魔物を見て恐怖心が出たか? 無理するからだぜ。)



ナムはそんな事を思いながら彼女に手が届く位置まで移動したが、それと同時に彼女が無言で望遠鏡をナムに差し出し、ナムはそれを困惑しながらただ見つめる。



「どうした?」


「1番奥を……見てください。」



冷や汗を流し、しどろもどろになりながらもそれだけを言い放った彼女の様子に違和感を感じたナムは、彼女の手から望遠鏡を取ると、彼も彼女と同じように町の遠くを見る。



(魔物が居るだけのようにみえるが。)



ナムの視界には、他と変わらずに大量の魔物達がいる光景しか見えず、リィヤの思惑が読めずに困惑しながらも少しずつ視界を動かしていく。


その時だった。


ナムの動かす望遠鏡が止まり、彼の視界にはとある存在……いや存在達が彼の視界に収まる。



「……なるほどな、お前がそうなるのも分かる。」



ナムは望遠鏡を操作し、その存在達がハッキリ映るよう調整する。


視界がさらにハッキリし、その存在達をハッキリと視界にとらえたナムだったが、まるでそれを狙ったかのようにその存在達の主。


ナム達との因縁の相手でありながら、再会したのはかなりの久しぶりのその存在。


()()()が視界の先で両腕を広げながらニヤニヤと笑っていた。


彼は最初からナム達を目視していたのであろう、その上で彼らが自分に気付いたと判断すると共に、挑発的な態度を取ったであろうことは簡単に想像出来る。



「ベルア……!」


「やはり……出て来ましたね。」



ナムはベルアへの怒りを露わにするが一旦それを引っ込めると、すぐさまベルアの周りを確認する。


それぞれ青、赤、黒色の鎧を着た3人の男。


見たことが無い神官服を着た、魔法使いのようにも見える人型の存在。


マントを被っていて顔は分からないが、巨大な剣を構えた同じく人型の存在。


そして最後に見た1人に、ナムは思わず衝撃を受ける。



「おいおい……あいつもいるじゃねぇか。」



最後の一人。


それはネットの村で出会い、ハルコンと名乗ったゴーレムに騙されて村から飛び出した青年。


()()()である。


ベルアの側近らしい5人とは別に、彼だけはこの状況に緊張しているのかは不明だが、忙しなく周囲へ目や顔を動かしていた。



「エイルもいるぜ。」



ナムはそう言ってリィヤに望遠鏡を返し、彼女が驚いてそこを確認している間に、慌てて仲間達の元へと駆け寄る。



「ベルアが居た。

更にその周囲にヒューマンらしき存在2人と、ネットの村で俺をボロボロにしやがったネイキッドの鎧3人も確認した。」


「ヒューマン5人に、ベルアに、あの魔物の群れ……更に人質付き、不味いね。」



タイフは自分達が置かれている状況を悟ると、身震いをする。


そんなタイフを見ながら、ナムは更に続ける。



「それと……エイルも居た、完全に敵なのか何か吹き込まれて参加してるのかわからねぇが、一応注意しといた方がいい。」


「実質ベルアも入れてヒューマン7人か、おいおい……1人でも俺様達が全員で掛からないと苦戦する相手だぞ、どうするんだナム!?」



トウヤの問い掛けに、ナムはすぐには返答出来ずにいた。

今回ばかりは流石のナム達でも相当な苦戦が予想されるのだから。


四天王の残りの2人があのアグニスやハルコンと同レベルであることは間違いないだろう。

そうなると1人1殺などと言う甘い事は言っていられない。


以前のリィヤの屋敷で遭遇した強力なビースト3匹とは訳が違う。



「最後衛に陣取ってるからな、最初は奴らも動かない……事を祈るしかねぇな。」


「希望的観測過ぎるわね、今だって魔物達が町に攻めてきてないことが奇跡に近いのに。」



魔物の大群は、いまだに町の周りに展開し続けている。

そして、変わらず南東部と南部、南西部には魔物が居ない。


一見、南門からトラルヨークの人達を避難させることは容易であると思わせられる形だ。



「敵の準備が整う前にサールの町の者を助けるべきであろう、貴様らの準備は出来ておるのか?」


「あぁ、北部に居るヒューマン達が動かなければ……だがな。」



ダルゴとナムがそんな会話をしている最中、ナムのツヴァイであるラハムは、一人その場から歩き始める。


それに気付いたナムは、彼のいる方向に体を向けると声をかける。



「ラハム、何処に行く?」


「おぅナム、俺は東側に向かわせてもらうわ、北側に三武家が全員揃ってると他の門が突破される危険があるだろ?」


「それもそうか……ところでガルドの奴はどうしたんだ?」



ナムの問い掛けに、ラハムは苦笑いをした後、何かを言いにくそうな表情に変わる。



「アイツ不機嫌でな、闘技大会でミナに負けたのが相当キてるらしい……西門はこのガルドがやる! って言って先に向かってたぜ。」



ツヴァイの2人が東西それぞれの門を引き受けてくれると言う事実にナム達は安堵する。



「それに、その北部に居るっていうヒューマンは相当やべぇんだろ、そっちは跡継ぎ様達に任せるぜ。」


「茶化すなよ……そっちは任せるぞ。」


「おう、ついでにサールの町の人達もシドモークから解放しときゃ良いんだろ?」



ラハムはそう言って懐からナムのものと同じ形をしたガントレットを取り出すと、これ見よがしに拳に取り付ける。


実体の無い存在への干渉を可能とするアンチ・イマジナリの付与がされたガントレットである。


サールの町の人達を操るシドモークは実体がない魔物である。

この付与がされた武器がなければ触れることすら出来ないのだ。


タイフの時には彼の未来眼(サーチ)の力で直接コアである黒い彫刻を破壊することによって倒すことが出来たが、この付与があればそんな物を狙う必要も無い。


ラハムもブロウの家系である為に、ナムと同程度の魔物への知識を持つ、だからこそナムを安心させる為にわざと見せ付けるように装備したのだ


ナムは彼の知識の抜けが無い事を確認すると、彼の思惑通りに安心したように頷いた。

この調子ならシドモークからの解放手段も完璧に知っているであろう。


ラハムはそのまま手を振りながら、防壁の上を歩いて東門へと向かっていく。


ナムも同じようにガントレットを装着し、ミナも腰元から2本の双剣を抜き放つ。

人質のせいで範囲魔法を封じられたトウヤも負けじと自身の右腕に下位付与魔法の魔法剣を発動させる。


彼の右腕を覆うように生成された青白い透明な剣である魔法剣を、彼は懐かしそうに素振りをする。


ココ最近は強敵とばかり戦っていたせいで全く使用することが無かったが、今回に限ってはコレが役に立つ。


トウヤは魔術師でありながらも近接戦もある程度出来る。

最終的には敗北したとはいえ僅かな時間であれば、あのベルアとも斬り結べる程度の腕は持っている。


勿論、ミナやナムと魔法無しでやり合えば瞬殺されるだろう。


ベルアの時は魔法を使用した上での白兵戦だった為に、比較対象にはならない。



「久しぶりに見たわね、それ。」


「今度ミナさんに剣術習おうかな?」


「ダメ、見た感じセンス無いから、トウヤさんはマギスらしく魔法極めといてよね。」



ミナからの無慈悲な発言に肩を落とすも、そんな場合では無いことを思い出して気を取り直したトウヤは、ナム達と共に防壁の端まで歩き出した。


そしてベルアの居る場所を睨みつけてから、ナムとトウヤはタイフとリィヤをそれぞれ担ぎあげると同時に防壁から飛び降り、地面へと着地する。



「なんか運ばれてばかりだね、最近。」


「わたくしは助かりますが……絶対降りられないですし。」



タイフとリィヤは、そう言って笑い合い、すぐに表情を引き締める。


目の前に壁のように並ぶ大量の魔物、そしてサールの町の人達を確認したタイフは圏を構え、リィヤは何時でもバリアを発生させられるように手を前に出す。



「良いか、タイフとリィヤはサールの人達をメインで助けてくれ、俺達3人は魔物を処理する。」


「分かった。」


「はい!」



この2人であれば、誤ってサールの住人達を殺してしまう心配もないだろう。


最悪、タイフも魔物を倒せるので、リィヤの安全も保証される……筈だ。



「良いか、万が一俺達3人が死んだらてめぇらは即逃げろ。」


「縁起でもない……だけどそれが良いね。」


「賛成よ、私達が負けるような相手……タイフさんとリィヤちゃんじゃ勝てないわ。」



それを聞いたタイフとリィヤは渋々頷く。


彼らの言うことは間違っていない。

彼等が死ぬような事態になった時点で、この2人が戦おうとも呆気なく惨殺されるだけである。



「……なるべく早めに町の人を解放します、それまで耐えてください。」


「期待してらぁ。」



ナム達3人は、そう言うと魔物の群れへと突撃していく。


タイフとリィヤも彼らの後ろに続いて走り出した。



ナム達が自ら攻撃に転じたことが、魔物達からすると意外だったのであろう。


魔物の陣形は大きく歪み、まるで彼等から逃げるように形を変えていく。



「驚いてるね。」


「今のうちに出来るだけ数を減らすぞ!」



ナム達3人はそれぞれ距離を取り、慌てながらも反撃をしてくる魔物達と戦闘を始める。


複数で飛びかかってくる魔物を、ミナはひと薙ぎで斬払い。


向かってくる魔物の群れを前から順序よく確実に拳で仕留めていくナム。


魔法剣で彼ら二人ほど早くはないが、危なげなく迫り来る魔物を斬り捨てて行くトウヤ。


時々サールの人達が突撃してくるが、それを彼等は峰打ちや手刀で気絶させていく。


そして、気絶してしまった体から慌てて飛び出したシドモーク達を、後続のタイフが圏を投擲して斬り裂いていく。


昔とは違い、トウヤによって武器にアンチ・イマジナリを付与されているため、わざわざ核である彫刻を狙う必要も無くなっている上に、未来眼(サーチ)の力で敵が飛び出すタイミングや位置を完璧に把握できるタイフは、シドモークにとって天敵に近い存在となっている。



「お前達だけは絶対に許さない!」



タイフはその場で跳躍し、シドモークを数体斬り裂いた圏を空中で受け止め、眼下に迫り来る魔物やサールの住人達を確認する。


数体の魔物はタイフに向かって攻撃を準備しており、地面への着地を待っている状態だった。



「そう来るのは知ってるよ、リィヤ!」


「いつでもいけます!」



リィヤはそう言うと、なんと自ら魔物へと向かって走り出し、彼らの前でバリアを展開する。


息を僅かに上げた彼女だったが、そんな彼女の後ろにタイフは体をひねって着地すると、バリアの側面から再び圏を投擲し、魔物だけを数体斬り裂いた。



「間に合いました!」


「その調子、今だ!」



リィヤは頷くと、バリアから先端の尖っていない棒のような形状のバリアを飛び出させ、サールの人達の頭を突くように殴りつける。


数発は外れたが、2〜3人の人々がその場に仰向けに倒れ込み、慌てて飛び出したシドモークをタイフが見事なタイミングで斬り裂く。



「行けるよ!」


「はい……タイフさん、後ろです!?」



タイフの真後ろに、木の棒を持ったサールの住人の1人がその棒を振り上げていた。


しかし、彼がそれを振り下ろすと同時にタイフは後ろも見ずに横に飛び退いて避けると、彼の首の後ろに蹴りを叩き込んで気絶させる。



「あー……痛そうです。」


「後ろから来るのは知ってたとはいえ、僕の力じゃここまでやらないと気絶させられなくて……怪我してなきゃ良いけど。」



そう言うと、タイフは怒りのままに飛び出したシドモークを容赦なく圏で斬り捨て、周囲の状況を確認し始める。


まだまだ魔物も操られた人々も多数おり、この戦いの先が見えない事を悟ったタイフは、大きく息を吸い込んでから吐き出し、精神を落ち着かせる。


タイフは、シドモーク本人は大した強さを持っていないことに感謝していた。


魔物本体も強かったら、この作戦は不可能だったからだ。



「さ、のんびりしてられないよ。」


「はい、アンナさん達も気になりますし。」



彼等は地面に倒れた町の人達を、1箇所に集めて寝かせる。


この後、定期的に軍の人間達が外に出て回収してくれる手筈となっているとナムは言っていた。


戦場に放置することに罪悪感を覚えながらも、彼等は他のサールの人達を救うために移動を開始する。


ナム達の戦いが、今始まったのであった。





トラルヨーク軍副司令官、ケンジは焦っていた。


町の外では既に三武家達が戦闘を開始しているが、焼け石に水だ。


敵が攻勢に出ていないからこそ、彼等は戦えている。


しかし、魔物達が彼らを無視し、数の力でこの町へと侵攻すれば、いくら彼らでも抑えきれない。



(何か……何か……手は。)



ケンジは悩んでいた、この状況を打破するための手段を。

サールの住人達が解放されない限り、町の防衛施設は使えない。


いや、本当の事を言うと使える。

しかしそれはサールの住人を巻き込んでの攻撃と言う最終手段となる。


切りたくはない切り札だ。



(なにか……なにか……。)



ケンジの決断は遅い。

しかし彼は長いこと悩んだ後に、ほかの軍人が思いつかないような奇策を思いつくことがある。


時々謎な思考に陥ることもあるが、それはダルゴ司令官も良く知っている癖だ。


ケンジは防壁の上をウロウロと歩き回り続け、そして立ち止まり、またウロウロする、それを繰り返していた。



(今の我々には最終手段と、白兵部隊を外に出し、犠牲が出る覚悟で戦うことしか出来ない。)



白兵戦は、防壁上での防衛戦よりも確実にリスクがある。


魔物と真正面から戦うのだ、それは避けられない。


白兵部隊はそれを覚悟しているが、副司令官としてケンジはそれは基本的にはやりたくない。


恐らくダルゴ司令官も同じ気持ちであろう。



(三武家のような強さを持っていれば……白兵戦をさせても被害は少ないだろうが、そんな強さを持つ存在がそうゴロゴロいる筈もな…………い?)



ケンジはその場で立ち止まる。


頭を掠めた思考を必死に手繰り寄せ、この状況を打破できるかもしれないその案を形にしようとする。



(そうだ、彼ら程の強さは無いが、我々よりも強靭な強さを持つ存在…………いる!)



ケンジは突然、ダルゴ司令官にも報告せずに持ち場から走って離れる。


部下達が慌てて引き留めようとするが、それをケンジは無視して更に早く走る。


傍から見れば敵前逃亡にしか見えない行動を取ったケンジだったが。

ダルゴはただ睨みつけるだけで、それを咎めることをしせず、部下達も困惑しながらダルゴの様子を伺っていた。



「ダ、ダルゴ司令官、ケンジ副司令を止めないので?」


「止める必要などないだろう、臆病者は逃げさせておけば良い、そんな事より貴様らはさっさと持ち場に戻れ!」


「は、はっ!!」



小動物のようにその場から持ち場に戻っていく部下達を睨みつけながら、ダルゴはケンジが逃げ去った方向を見つめていた。



(また何を思いついた、ケンジ。)



心の奥底で期待とも不安とも取れる言葉を思いながらも、ケンジを信頼するダルゴはニヤリと笑い、再びナム達が戦闘を続ける方向を眺め始めた。



「儂の部下と貴様ら、どちらが役に立つか見物だな。」



油断なく魔物の群れの動きを観察しながらも、高笑いを始めたダルゴの声は、防壁の上の部下達を困惑させ続けるのであった。

タイフもかなり強いのです。


ナム達と比べると劣ってしまいますが、ちゃんと強いのです。

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