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ブレイカー  作者: フィール
2章
83/156

2章:跡取りの座

トラルヨークに存在する闘技場。


木剣同士の連続した激しい衝撃音が辺りに鳴り響く中、観客達のテンションは大いに盛り上がっている。


勿論、彼らの視界に完璧に戦闘の様子が写ってる訳では無い。

ミナとガルドの戦いは速く、一般人にはとてもじゃないが把握できるようなものでは無いからだ。


しかしそれでも、普段見ることの出来ない高次元の戦闘を前にして、理解できなくとも人間は盛り上がれるものなのかもしれない。


そんな中、この戦闘を目視できるナムとトウヤ、そしてラハムは興味津々で観戦していた。



「相変わらずミナは速いぜ。」


「ガルドも相当な筋力だね……ミナさんもなるべく彼の剣を受け流すようにしてる感じだ……俺様はそこまでハッキリとは見えないけど。」



あくまで魔術師であるトウヤには、ナムやラハム程戦況を見れる訳では無いが、それでも彼の言ってることは間違いない。


ミナはガルドの攻撃をマトモに受けないように立ち回っている、マトモに受ければ剣での防御を崩される危険があるからだ。


最悪支給品の木剣が折れる可能性もある。


ナム達に見られながら戦闘を続けるミナは、ガルドの相変わらずなパワーファイトに辟易としていた。



(相変わらずの力押し戦法……とはいえ、アイツの力と剣の腕が組み合わさると馬鹿には出来ないのよね。)



敵の攻撃の隙に、意識外から差し込むように攻撃をするミナと比べ、ガルドは敵の防御を無効化するかの如くに全力で剣を振るう。


大振りの攻撃が多いせいで一見隙だらけに見えるが、それも彼の思惑である。

大振りな攻撃を見切ったと思わせて反撃を誘い、速度を伴った強力な剣戟を見舞うのが彼の戦法である。


それを知ってるミナは誘われないが、彼をよく知らない人間は簡単に騙されてしまう。


確かにミナ程は速度は無いが、あくまで()()()()()()である。

普通の剣士にとっては彼の動きも異様の速さを誇るのだ。



「どうした、ミナぁ!!」



ワザと挑発するような言葉を発しながら、大振りの攻撃を縦、横、斜めから連続で振るい続けるガルド。


ミナがそれを体を低くしたり、飛び退いたり、木剣で滑らせるように防いだりし続けるのを確認するとニヤリと表情をほころばせる。



(やはりお前の力じゃこのガルドの攻撃は完全には防げないようだな。)



ガルドはミナの相変わらずの非力さを笑う。


しかしミナの急所を狙って木剣を振るい続け、時々速度に特化した横薙を振るったりしているものの、一切命中しない事には若干の焦りを感じ始めていた。


それどころか時々僅かな隙を突いて鋭い反撃を放ってくる彼女に、ガルドは驚愕する。


ガルドは跡取りの座を5年前にミナに奪われてからというもの、訓練を絶やすことは無かった。


跡取りに決まって浮かれるミナよりも更に訓練を積み、そしていずれミナを打ち倒し、ザベルに自分の実力を見せつける為に。


しかしガルドの思惑は完全に外れた。

彼女は訓練を絶やすことなく続け、あの時より更に強くなったガルドと互角に打ち合ってすらいる。



(気に入らないな。)



舌打ちをしたガルドは、動き回るミナ向け連続で両手の木剣での高速の突きを繰り出す。


機関銃のような速度で繰り出される素早い突きに対してミナは、体を素早く動かし避け続け、最後に自身の木剣で滑らせるように受け止める。

そのまま彼へと近付き突然姿勢を低くすると、木剣をガルドに向けて高速で振り上げた。



(速い……!?)



ガルドは慌ててその場から立ち退き、僅かな差でギリギリミナからの反撃を避けた。


しかしミナは、その隙を逃さずにお返しと言わんばかりに両手の木剣での連続攻撃を繰り出す。



「ちぃっ!?」



ガルドはミナの風のような連撃への対策の為に自分の強みである力を抜き、柔軟に動けるようにした上で捌き始める。


上段からの振り下ろしには木剣を横にして受け。

中段の横なぎに対しては飛び退き。

下からの切り上げは相手の木剣を狙うように自分の木剣を振り下ろして止め。

高速の突きは最小限の腰の動きで何とか避ける。


何とか攻撃を捌いているものの、1度攻撃に転じたミナの動きは速く、中々反撃に移ることが出来ない。


彼女は力よりも速度を重視してる関係上、手数の勝負となる。


手数が多いというのはそれだけで強力な攻撃力となる。

相手の防御がいかに強靭であろうとも全てを防ぐ事は出来ない。


しかし手数が多いということ、それは弱点にもなり得る。



(お前は間違ってる!)



ガルドはニヤリと笑う。


ガルドを不審がるような表情をしたミナだったが、彼女は攻撃の手を緩めない。

それどころか更に速度を上げて手数を増やしてくる。


1秒の内に複数回の斬撃を見舞う彼女を嘲笑うように、ガルドは笑顔を絶やさない。



(攻撃は敵を倒す力が要る……対して守りは簡単だ、僅かに剣を動かせばいい。)



ガルドは、彼女から繰り出された右斜め上からの攻撃を右手の木剣で受け止め、左側から繰り出される突きを避け、体を回転させた横薙ぎの攻撃を左手の木剣で受け止める。


これを1秒内で繰り出すミナの速度に感心しながらも、彼はミナの様子を見るとほくそ笑んだ。


ミナの表情は僅かだがに苦しそうであり、多少発汗もしていた。



(そうだ、それでいい。)



攻撃には体力を使う。

それこそ手数で勝負する彼女はそれが顕著に出る。


ガルドがミナからの攻撃をただ耐えていたのには理由があった。


彼女の体力切れを狙っていたのだ。


自分の攻撃を見事に避ける彼女の速度を驚異に思ったガルドは、敢えて反撃しやすいように力を込めた突きを最後に放った。


ミナはガルドの予想通りに最後の突きを捌いてから反撃に転じたのだ。


しかし、それは彼女の体力を奪う為の作戦だった。



(このガルドの狙い通りに動いてくれて助かるぜミナよ……やはりお前は跡取りには不向きだ。)



ミナの連撃を僅かな動きで捌き続けるガルド。


確かに少し疲れは出ているが、ミナ程ではない。

完全に防御に徹した彼の体力には、まだまだ余裕がある。


そもそもの力はガルドの方が高いのだから、体力の消耗はかなり抑えられているのだ。



(ザベルからの贔屓で跡取りになったお前の……化けの皮を剥いでやる。)



ミナの攻撃に僅かなブレが出始めた。

疲れが溜まっているのだろう、攻撃の鋭さに鈍りが出ているのだ。


ミナの連撃を相手が疲れるまで防ぐ事は、簡単なことではない。


同じ訓練を受け、同じ境遇で育ち、同じ強さを持ったガルドだからこそ出来る戦法である。



(跡取りは……このガルドの物だ。)



ミナの表情は更に苦しそうなものに変化する。

体力に限界は来ているが、それでも攻撃を辞めないところは、彼女らしい意地が垣間見える。


元々勝気だった彼女は、幼少の頃から負けず嫌いだった。


性別の壁など無いかのようにガルドに追従し力の差が出ても、ガルドとは違う方向性、つまり速度を極めて意地で食らいついた。


元々彼女はガルドよりも弱かった。

ガルドはそんな彼女を哀れんでもいた。


跡取りの座を渡せば楽になれるだろうに、ミナはそれでもガルドに食らいついた。


運命が狂ったのは跡取りを決める最後の模擬戦だった。


勝利した者が跡取りとなるその勝負で、ミナはその意地でガルドを僅かな差で打ち倒し、僅かな差でその場にガルドと共に倒れ込んだ。


ガルドからの攻撃でボロボロになった体を意地で動かし、油断したガルドの意識を奪った。


崩れ去っていた彼女を見たガルドは、笑いながら背を向けた。


そこを突いて背後からの攻撃でガルドは敗れた。


ガルドからしたら不意打ちにも取れるその攻撃で倒れた彼は、ザベルに抗議した。


しかし、問答無用で跡取りは彼女に決まった。


そんな理不尽があるだろうか。

力で、強さで勝っていたのはガルドだった。

弱いミナが跡取りなど絶対認められなかった。



「このガルドが……このガルドがアーツに相応しい!!」


「……あんた、やっぱり……変わってないわね。」


「黙れ卑怯者が!!」



ミナの鋭さを失った攻撃を、ガルドは木剣で受け止めると、そのままミナがやったように滑らせながら彼女の懐へと潜り込む。



「なっ!?」


「終わりだミナぁ!!」



体力が切れ始めているミナは、ガルドの急な動きに驚愕し、それを見たガルドは勝利を確信する。


そのままガルドは右手の木剣をその場に捨てると、彼女の腕を掴んで逃げられないようにしてから、左手の木剣を全力で振り被ろうとする。



「避けるなら避けてみろぉお!!」


「!?」



いくら速度は目を見張るものがあろうが、力で勝っているガルドに拘束されては振り解けない。


ミナの表情はみるみる慌て始め、ガルドが振るう木剣はみるみる彼女へと近付く。


会場の誰もが彼女の敗北を察し、この大会の終わりを感じ始める。


ナム達も2人の戦いを緊迫した様子で観戦していた。


ガルドも勝利を確信し、顔を喜びに歪める。


しかし。



「あんたは変わってないわ……あの頃と何も!!」



ミナのその言葉と共にガルドの視界は大きくブレ、更に体が無理矢理引っ張られるような感覚に陥る。


その力の起点。

それはミナを掴んでいる右手から起きているようだった。



(なにが……!?)



ガルドが何かを思うよりも速く、彼は何かへと激突するような衝撃を受ける。


そして状況を確認しようと辺りを見ようとしたその時。



「終わりよ。」



ミナの短い言葉と共に、ガルドの首元に木剣が当てられていた。


彼女を掴んでいた右手は変わらず掴んだままであり、ガルドは何が起きたか分からずにいた。



「これが真剣だったらどうなってるか、わからないアンタじゃないわよね。」



ガルドの首元に当てられた木剣を認識すると、ガルドは悔しそうに歯噛みをする。



「何を……しやがった?」


「簡単よ、私はアンタごと()()()()()()()()()、アンタほど力のない私でも、全体重をアンタの右手に掛ければ……あとは言わなくても分かるわよね。」



ガルドはその言葉の意味を悟ると、更に表情を強ばらせる。


彼女は、自分を掴む腕を利用して反撃したのだ。


ミナを確実に戦闘不能にする為に行った行動が、結果的に自分を敗北に導いた。


その事実に対して怒りを滲ませる。



「アンタは勝利が近付くと油断する、勝てた試合もその油断で逃す、跡取りが決まった時もそうだったじゃない……学習しないわけ?

敵を見下すアンタにとって、この結果は必然なのよ!」



屈辱で顔を歪ませるガルドを冷めた目付きで睨むミナは、更に強く木剣を彼の首元に食い込ませる。


木剣では切れないが、この状況でも油断しない彼女の性格がそこに現れていた。



「私の勝ちよ。」



ミナのその言葉と同時に、彼らの状況から勝負は決したと判断した進行役の、ミナの勝利宣言が大声で鳴り響く。


それ同時にミナも木剣を彼の首元から外すと、腰元にそれをしまい込む。


そんな彼女と違い、ガルドはその場で倒れ込んだまま動くことはしなかった。



「今回は意表をつかれたが……実力はこのガルドの方が上だ、覚えてろよ。」


「何度でも挑んでくると良いわ、私はアンタには負けない。」



ミナはガルドへと手を差し伸べる。


しかし、ガルドはそれを一瞥してから手を取り合うことも無く起き上がり、そのまま会場の控え室に向かって勝手に歩き出していく。



「……ほんっと……嫌な奴。」



ミナはそんなガルドを見送り、進行役の言葉を待ってから退場したのであった。





その後開催された大会の表彰式で、ミナはその大会の優勝者の証となるトロフィーを授与されようとしていた。


ガルドはこの場に参加していない。


そのせいで2位の立つべき場所は無人となっている。


3位の場に立つのは筋骨隆々のスキンヘッドの大男だった。


彼はミナが決勝前に打ち倒した相手であり、決勝の後にオマケのように開催された3位決定戦での勝者だ。


普通3位決定戦と決勝は逆ではないかと思ったミナだったが、細かく追求はしなかった。


そして、ミナに向かって大会の責任者が彼女にトロフィーを渡そうと歩き始める。


ミナはそれを困った表情で見ていた。

それを受け取る資格があるのかという意味で、だ。


三武家が参加してしまったという引け目がある彼女は、そのトロフィーを受け取ることに疑問を持っていた。



(……正体を明かすべきよね。)



ミナはそう決心すると、トロフィーを授与される前に行動しようとする。



「ごめんなさい……実は私は。」



ミナが正体を明かそうとしたその時だった。


会場に大音量の警報のような物が鳴り響く。


観客達、そして大会の参加者までもがその警報に驚き、そしてその場から退避しようとする。


ミナもその警報には聞き覚えがあった。


ドルブの町でリィヤと初めて会ったその時に聞いた物と同じだったのだ。



(魔物の接近を知らせる警報!?)



ミナは慌ててナム達へと視線を向ける。


視界の先で、ナム達も気付いていたようで、遠くでミナに向けてナムが合図をしているのが見えた。


ミナはその場で走りだして観客席へと向けて跳躍し、ナム達の元へとたどり着いた。



「これって!」


「あぁ……魔物が町に近付いた時に鳴らす警報音だ!」


「わ、わたくしも聞いたことあります……まさかこれがそうだったなんて。」



リィヤは顔を青ざめさせる。

魔物へのトラウマを持つ彼女にとって、これ程恐ろしい警報はない。


ドルブの町で住んでいた頃にその事実を知っていたら大変なことになっていただろう。


しかし、今の彼女はそうでは無い。



「止めましょう!」


「そうだな、リィヤ。」



トウヤはリィヤの頭に手を優しく置くと、数度ポンポンと叩く。


タイフはその様子を一瞥してから、ナム達へと顔を向ける。



「トラルヨーク軍基地に行かない?」


「……そうね、情報はあった方が良いわ。」


「げっ、あのオヤジのところに行くのかよ!?」



ナムは嫌そうな声を上げる。


それもそうである、トラルヨーク軍といえばあの男。

司令官であるダルゴと遭遇する羽目になるのだから。



「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、ビレイドさんが言ってた大規模襲撃の可能性があるのよ。」


「……仕方ねぇか。」



ナム達は頷き合うと、急いでトラルヨーク軍基地へと移動を開始する。


町中では、相変わらず大音量の警報が鳴り響き続ける。


世界最強の防衛力を持つ町が、長時間に渡り警報を鳴らす事態。


最悪の事態を考えるナム達の足はどんどん早まるのだった。

ガルドとの決着。


そして唐突の魔物の襲撃。


そして再び彼らが登場します。

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