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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:ネネと謎の男

世界の中心、人々が行き交うトラルヨークの町中を2人の男女が並んで歩いていた。


方や年齢の割には身長の小さい女性。

方や180cm程の高身長を誇り、かなりの美形である男。


真逆の特徴を持つ2人は、様々な飲食店を指さしながら、入る店を選んでるように見えた。


そんな2人の様子を見守る集団がいる。


建物の影から僅かに体を出して2人を見守っているのだ。

勿論と言うべきか、ナム達である。


他の仲間はわからないが、人の色恋沙汰に興味が全くないであろうナムすらも後をつけているのには理由がある。


それはあの謎の男にデートに誘われ、ネネがダガンの鍛冶屋からあっさりと出ていった後の話である。


娘であるネネに突如として男が寄り付いた。

そのことに対して放心していたダガンに向かって、無神経の極みであるナムがこんなことを聞いたのだ。





「アイツにも良い相手が出来たみてぇじゃねぇか……それより防具を頼むぜ、2日だったな?」



それを聞いたダガンは虚ろな目でナムを凝視し、暫くしてから震える声返す。

その時点で違和感はあったのだが、気付けるほどナムは細かい性格ではない。



「あー……そうだな……現実を受け止めるのに3日……相手を調べるのに1週間……相手をどうかしてやるのに2週間位……やる気を取り戻すのに未知数……ちょっと色々な工程があるから1年だな?」


「伸びすぎだろ!!」





1年もこの町に拘束されたら大変だと、ナムにしては珍しくダガンに協力することとなったのだ。


ツヴァイ達は巻き込まれてはたまらない、と宿に戻ってしまったのでナム達が対応する羽目になってしまった。


彼からの要求はいくつかあった。


先ずネネとあの男の関係の調査。

それから男の身の上の調査。

更に脅しの材料となる男の弱みを見つける。

最後に人気のない所で彼を始末。



後半2つはあまりに物騒だったので、冷や汗を流しながら適当に相槌を打って忘れることにしたナム達は、彼の2つの要求を達する為に見守っているのだった。



「仲良さそうねぇ。」


「いつ知り合ってお近付きになったのでしょう……ネネさんとあの人。」



並んで歩く2人を興味津々で見守るミナとリィヤであるが、当初の予定を忘れているのではと心配になる程である。

どう見ても2人のデートを盗み見るのを楽しみにしてるようにしか見えない。


ダガンの件がなければ見に来ることなど絶対になかったナムは、そんな2人を見て大きくため息をした。



(さっさとこんな面倒な……依頼……になるのか分からねぇが、終わらせねぇとな。)



どんな些細な事件とはいえ、一応ダガンからの依頼だと考えることによって、ナムはこの状況を耐えることにした。

そう考えれば、町の外の魔物狩りと何も変わらないからだ。


住んでいた町の町長から依頼を受けて旅に出てから、めっきりと魔物狩りの依頼を受けていない事をナムは思い出す。

決して現実逃避では無かろうが、突如として過去の記憶が蘇ったのだ。


ナムにとっては楽な仕事なのに報酬が良く、生活する為の資金を稼ぐ上でも割のいい仕事であった。


サブロ町長の依頼が破格の報酬である為に、そういう依頼を受ける必要は本来は無い。

しかし、今のこの依頼よりは刺激的であることは間違いない。


尚、ナムはサブロ町長の名前は完全に忘れている。



(たまには受けるのもいいかもな。)



ナムがそんな感慨に浸っている途中でミナが移動を促し、惚けていたナムの足を蹴る。


突然の暴力にナムは眉をしかめるが、ミナが指をさし続けるので仕方無く移動を開始する。


仲間達は建物の影から出ると、ミナとリィヤの指示で次の建物へと移動する。


その間にもネネと男はとあるカフェへと入っていく。



「あの店よ。」


「小さい店だね……入ったらバレそうだ。」


「窓から見るのはどうでしょう?」



積極的なミナとリィヤ、そして地味にワクワクしてそうなタイフは、3人であれよこれよと意見を出し合う。

そんな彼らに大人しくついて行くのはトウヤとナムである。


トウヤはこの状況を面倒に思っている、とナムは仲間を得たように思っていた。



「1人がネネさんなのがやりにくいな、俺様達は顔が割れてる。」



しかしトウヤは予想外にノリノリだった。


ナムは勝手に心の内で彼を仲間と思っていたが、これを見たナムは、再び勝手に彼を敵と考えを変えたのだった。



カフェに入ったネネと男追い、ナム達もカフェに近付く。

店内に入れば5人というこの大所帯では注目を引いてしまうので、彼等は窓から店内を見ようとする。


勿論、町中を歩く人間達には怪訝な顔をされる。

しかし彼等は不思議なことに、周りから怪訝な顔を向けられる事には慣れていた。


決して褒められる慣れでは無いが。



「あの窓から中を見よう。」



タイフが1つの窓を指さし、ミナとリィヤは大きく頷いてその窓へと急いで近付く。


それを見たトウヤも急いで近付き、ナムは彼らの後ろをのんびりと歩いていた。


しかしその時、窓に近付いて中の様子を見ようとしたミナが小さな悲鳴をあげ、仲間達は彼女へと視線を集中させた。



「どうしました!?」



硬直するミナを不審に思ったリィヤも急いで中を見るが、彼女はミナよりも大きく驚いてその場で後ろに仰け反る。


周りの目が痛いほどに突き刺さり、流石に恥ずかしさを覚えたナムは、大きくため息を吐いてから続いて中を見ようとする。


しかし、彼の視界に一人の男の顔が映り込み、流石のナムも驚く。


その男は今まさにネネと共に歩いていた男だった。


彼は店内から逆にこちらを窓から見ていたのだ。


店内からこちらを確認したその男は、急いで扉から外に出てくると、ナム達へと向けて大声で怒鳴り始める。



「お前らさっきから後つけやがって、何者だ!?」



ネネと歩いていた男からの怒号を受けたナム達は、お互いに顔を見合わせ、やらかしたと言わんばかりに笑って誤魔化したのだった。





「成程な、あの店のオヤジさんにねぇ。」



カフェ店内で1番広い長テーブルにナム達とネネ、そして先程の男が座っている。


理由を聞いた男は納得した表情で頷き、ネネも最初は後をつけられていた事と、そんな事を頼んだ父親に対して不満げだった。

しかし、この男……ビレイドと名乗った彼からの奢りのフルーツパフェを笑顔でご堪能中である彼女からは、不満な空気はとっくに消え失せていた。



「最高だぁ……!!」



ナム達が何を話していようと関係なく一心不乱にパフェを食べ続けるネネ。

彼等は彼女を一瞥だけしてから放置し、一応ダガンから頼まれている事を聞こうとナムが口を開く。



「すまねぇな……一応聞かせてもらうぜ、どこで出会ったんだ? ダガンの奴が知らない時点でこっそり会ってたみたいだが。」


「いやいや……昨日初めて会ったのさ、オレがちょっと聞きたいことがあってな。

この町の色んな奴に話しかけたんが無視されまくってよ、初めて情報をくれたのが、たまたま入った店のカウンターに居た彼女だった訳だ。」


「あー、この町の連中に聞き込みは大変だからな。」



ナムとビレイドはお互いに笑い始める。


ダガンが心配するような関係では無く、本当に偶然の出会いだった訳である。



「それで、このデートはお礼って訳ね。」


「そうだぜ、つか君もかなり美人だねぇ……どこかで見たような顔だ。」



ミナは短く礼を良うだけで適当にその言葉を流す。


三武家の中で1番知名度のある彼女にとって、言い寄ってくる男の数がそこそこいるせいで、こういう褒め言葉には慣れているのだ。


運良くお近付きになれれば、という思考が見え隠れする為に相当苛立っている位である。


そして彼女のあまりの塩対応に、こういう事を言えば割と女性がなびいてきた経験を持つビレイドは驚き、顎に手を置いてミナを観察しているようだった。


そしてその目はゆっくりとリィヤにも向く。



「君も将来が楽しみな位の可愛らしさだ、女性への褒め言葉は美人だけではないと言う言葉をオレは信条にしててね。」


「ありがとうございます。」



リィヤはにっこりと微笑み、そんな褒め言葉を言ってくれたビレイドへと本心からの礼を言う。


しかし彼女の場合は、色恋沙汰に疎いせいか普通に嬉しいというだけの感情しか持っていないようだが。


そのやり取りを興味なさげに見ていたナムは、逸れた話題を無理矢理ビレイドへの質問へと戻す。



「お前はこの町の住人なのか?」


「お、君は会話の流れをぶった斬るタイプだねぇ、モテないよ?」


「余計なお世話だ!?」



ビレイドは軽口を言ってナムの反応を楽しんだ後に、わざとらしく声を出して笑う。



「さっきも言っただろ? 調べてることがあるからこの町に来た、住人じゃない。」


「旅人か……本当に偶然だったんだな、ダガンの奴が安心するぜ。」



ナムは聞くべきことを全て聞き、ダガンへの報告の準備が整うと同時に、安心したように息を吐く。


元々2人の関係に興味などないのだから。


ナムとビレイドのやり取りが終わると同時くらいに、端でパフェを無心に食べ続けていたネネが残念そうな声を出す。


何事かと彼女を見ると、前にあるパフェが空になっていた。



「無くなっちゃった……あー……無くなっちゃったなぁ。」



そう言ってチラチラとビレイドの方を何度も瞬きしながら見るネネ。


女性慣れしてそうな彼は、すぐさまその意図に気付くと苦笑してから席を立つ。



「フルーツかい?」


「えぇーそんなぁ……2個目なんて申し訳ないけど……良いなら甘えちゃうよ?」


「大丈夫さぁ。」



あからさまにおねだりしてるにも関わらずに、わざとらしい謙遜をするネネに対してすら笑顔で対応するビレイド。


その様子を黙って見ていたタイフは感嘆したように声を出す。



「あれがモテる秘訣?」


「タイフ君も興味があるのか?」


「え、いや別にそんなつもりは。」



照れるタイフを、仲間達はおちょくり始める。

彼の視線が、1回だけある女性の方を向いた事に仲間達は気付かない。





「あーー美味しかった、ありがとうビレイド君。」


「楽しんでもらえたなら嬉しいさ。」



結局3個目のパフェをネネが食べ終わるまでに、ビレイドとナム達は親交を深めていた。


女性をやたら口説く以外は普通に好印象な男であり、その口説きすらも1度流されたらしつこく言ってこないのが彼の良い所だった。



「君達はいつまでこの町にいるつもりだ?」


「あ? そうだな……壊れた俺の防具の替えが出来るまではいるつもりだ。」


「そうか……君達は良い連中だ、これはオレの戯言として聞いて欲しいんだが。」



ビレイドが急に深刻そうに声色を低くすると、周りを確認してから唐突に声を潜めてナム達にこんな事を言い始めた。



「早めにこの町を出た方が良い。」


「あら、なんでかしら。」


「いや、あくまでこれはオレの勘だ……なんか大変なことが起こりそうな気がしてな、最近魔物の群れと遭遇しなかったか?」



ナム達はこの町に来るまでに、魔物の群れを掃討していた。

クラウンが率いていたその群れは、確かにどこかへ向かおうとしているように見えたのだ。



「噂によれば、何かの予兆ではないかと言われている、相当な数の魔物が動いているらしい。」



ビレイドの言いたい事をなんとなく察したナム達。


普通の人間の村や町であればそこまで数は要らない。

しかし、そこまでの数が動いてるとなると、魔物にとって驚異となる町を狙ってるに違いない。



「この町が危険かも……てことかな?」


「あぁ、だから早めに出るんだ、友人を失いたくはない。」



ビレイドはそう言うと、微笑む。

それは本心であろう。


しかし、ナムは不敵に笑うとその要求を突っぱねるように手を振る。



「心配すんな、俺達はそんなやわじゃない。」



ナムの言葉を聞いたビレイドは、自信ありげな彼等を見ると、諦めたように苦笑する。



「警告はしたからな……さて、オレはそろそろ行くよ、ネネちゃんの親父さんによろしく言っといてくれ。」


「あぁ、きっと涙流して喜ぶぜ。」


「君達とはまたどこかで会いそうな予感がするよ、その時はまたよろしくな。」



ビレイドと名乗った男はそう言ってナム達に背を向けると、手を振りながら去っていく。


そんな彼の背中を見ながら、彼の言った噂についてナム達は話し合う。



「ベルアか?」


「可能性は多少あるな、魔物がまとまって行動する時には必ずビーストかヒューマンが関わってるもんだ。」


「もしそうだとしたら……止めなければなりませんね。」



因縁のあるリィヤの強い意志を見たナム達は頷き合う。

魔物がトラルヨークを襲撃するという噂があるなら、彼等のやることは1つである。


勿論、撃退だ。



「よし……噂があくまで噂である事が判明するか、襲撃を止めるまでこの町にいることにしよう。」


「賛成よ。」



パフェをたらふく食べて幸せそうなネネと、今後の方針を決めるナム達。


見事な対比となっていた彼等は、数分後にダガンの鍛冶屋へと戻ったのであった。





町中を歩くビレイドは、周りを見回してから建物の影に入る。


町人がいない裏路地に入った彼は、そこでまるで彼を待っていたかのように壁に寄りかかる男を発見する。



「ビレイド、三武家の情報はありましたか?」


「あぁ、この町に来てるらしい、軍の連中が噂してた。」


「そうですか。」



法衣を着込んだ神官のような男、ジカルはビレイドからの報告を聞くと、背中から翼を展開する。


それは隼のような翼であり、速度を出すのに最適な形をしている。



「ベルア様に報告してきます、ビレイドも準備を。」


「おう、任せたぜ。」



ジカルは背中から生やした翼で空を飛ぶと、ベルアのいるアジトの方向へと飛び立つ。


それを見送ったビレイドも町の外へと向かって歩き始める。


この町で出会ったあの5人を思い浮かべながら、彼は歩みを進める。



「逃げてくれよ。」



ビレイドは思わず背中へと手を持っていく、しかしそこに本来あるべき彼の武器である巨大な剣がないことを確認すると苦笑した。


彼の剣はあまりに巨大すぎる為、町中では目立つと判断されてアジトに置いてきている。



「敵として……この町を守るために戦いに出てきてしまったら……。」



トラルヨークの門を目視したビレイドは、迷うことなく歩み続ける。



「殺すしか無くなる。」



四天王リーダー、獄犬のビレイドは、この町で出会った友人達と相対しないことを祈るのだった。

今回の話はヒューマンの町中での溶け込み具合を書いてみました。


サジスの時もそうでしたが、彼等は人間と見分けがつきません。

ナム達ですら気付かないレベルだと察して貰えたでしょうか。


ヒューマンの特徴と、この町の日常を表現してみたつもりです。

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