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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:ネネ再び

西のホーネットの森とトラルヨークの間のとある平原。

その場所でナム達は魔物の群れと遭遇していた。



「ナム、デカいのがそっち行ったわよ!」



首元に噛み付こうと飛び掛っていたオオカミ型の魔物、ウルブの首を双剣で刎ね飛ばしたミナは、離れた位置で戦闘をしていたナムに向けてそう言い放つ。



「任せろ。」



本来は臆病で人間に近寄らない筈の、目玉に手足が付いたような見た目の魔物、ヒトメに拳を叩き込んで絶命させたナムは腕に大量の返り血を纏いながらそう答える。



「懐かしいよな、そのデカブツ。」



中位魔法であり、爆発する火球を生み出すフレア・ボムを辺り一面にばら撒き、大量の魔物を爆殺したトウヤは、ナムに向かって突撃をするその巨体を流し見る。


彼の前には義兄を守るためにバリアを展開するリィヤも必死な形相で腕を前に伸ばしていた。



「無理しないでよリィヤ、こんなに大量の魔物見たの久しぶりだろ?」


「ま……まだ平気です!」



2匹存在するハリネズミ型の魔物、ニルマスが飛ばした針を未来眼(サーチ)の力で避けたタイフは、自身の武器である圏を投擲して2匹のニルマスを両断する。


彼らが戦っている魔物はノーマルばかりである。


しかし、本来臆病で人間に近付くことが無いヒトメが戦闘に参加している。

それには理由があった。



「よう、久しぶりだなクラウン。」



身長は3m近く、ブリキ人形のような体に道化師のような顔を持つクラウンというビーストは、まるで曲芸を行うかのようにフラフラとフェイントも混じえながらナムに近付いていく。


道化師のように掴み所がない動きをしながら、その巨体から繰り出す格闘術が得意なビーストである。


ナム達が今まさに対処をしているこの魔物の群れを率いている個体がこのクラウンであった。


何を目指していたのかは全く分からないが、ある意味遭遇したのがナム達だったのは幸運だったかもしれなかった。



「ヨクモ、ドウゾクヲ……シネ!!」



ビースト特有の片言の怒りの言葉と同時にクラウンは拳を構え、ナムに向けて振るう。


格闘が得意なビーストなだけあり、その拳は鋭く速い。

その辺の普通の兵士や魔術師等ではこの速度と予測が難しいこの動きの前に呆気なく命を落とすだろう。


しかしクラウンにとって、今回は非常に相手との相性が悪かった。


マギスであるトウヤの屋敷を襲撃したクラウン達はそこに三武家が居ることを知っていて襲撃してきていた為に多少善戦出来た。


しかし、今回のクラウンは不意の遭遇戦であり、彼らの正体を知らなかった。

だからこそ、彼は無謀な相手に勝負を挑んでしまったのだった。



「あめぇよ……早速試させてもらうぜ。」



クラウンの拳を避けようともせず、ナムは拳を構える。


それを見たクラウンは、敵がカウンターを狙っていると確信し、どんな動きをしても対処できるよう、視線をその拳へと集中させる。


ノーマルと違い、知性が高いビーストは敵との戦闘において駆け引きを行うのだ。

それがこの世界の魔物の恐ろしさでもある。


しかし、このクラウンはナムの拳に意識を集中させすぎた。

カウンターをしてくる、という()()()を強く持ちすぎたせいで、彼の全体の動きを見れなかったのだ。


そんなクラウンの視界から、突如としてナムは姿を消す。



「!?」



クラウンの視界から突如姿を消したナムに驚いたクラウンは、繰り出そうとした自分の拳を止める。


それから消えた敵を探そうと、慌てて意識を周囲に向けようとする。

しかし、まさに意識を周囲に向けようとする、その絶妙なタイミング。

そんな時に、クラウンの視界に突如としてナムが再び現れる。


あまりにものその突然の光景に衝撃を覚えたクラウンは、拳を構える事すら頭から消え去っていた。



「実験台への協力、感謝するぜ!!」



ネットの村で見様見真似で習得した視界殺し。


敵の視界から外れるよう上手く移動し、直線的にではなく視界の外から攻撃を仕掛けるこの技。


習得した時点で、この技の有用性についてはあくまで妄想の域を出なかった。

その為、実際に試す相手が欲しかったナムにとって、このクラウンは丁度いい相手だったのだ。


予想通りナムの動きを捉えきれずに混乱し、動きが鈍ったクラウンを確認出来たことにより、ナムはこの技が実用に耐えうるものだと確信すると、拳をすかさず振りかぶる。


ブレスレットを2つ取り外した状態のナムの拳は、見事にクラウンの頭部を捉え、クラウンの頭部は、呆気なく粉砕される。

群れを確認した時に、ナムは事前にブレスレットを2つ取り外していたのだ。


そして頭部を失った体はゆっくり大地へと倒れ伏し、そのまま動かなくなり、周囲の魔物達は思わず硬直する。


その様子からクラウンの絶命を確信したナムは、腕を全力で空振りさせて腕に付いた血をふるい落とすと、驚く仲間達の方へ体を向けた。



「それ……ガイムさんが使ってた技じゃない、いつの間に覚えたのよ!?」


「あの村でだ。」


「そういえば、お前の親父さんは見て覚えろが基本だったなぁ。」



トウヤはトラルヨークでのナムとガイムの親子での模擬戦を思い出して苦笑した。

そうしながらも彼は体の至る所に魔力を集中させてから大量の氷の槍を発射し、リーダーを失い立ち往生するノーマル達を大量に葬る。


それは複数発を同時に放った、氷属性下位魔法のアイス・ニードルである。


マギスの強力な魔法による範囲殲滅力は三武家の中でも群を抜いている。


持つ武器によってはアーツも苦手ではないが、得意とも言えず。

ブロウは基本的に集団戦への適性はない。


勿論全くできない訳では無いが、両家ともマギスにはどうしても敵わない。


熟練の魔術師の同時集中箇所は、多くて3箇所である。

マギスの跡取りではあるが、修行中のトウヤですら魔力集中箇所が6つもある彼の魔法力は破格である。


多くの仲間を失った魔物達は急にたじろぎ始める。

トウヤの恐ろしさに気付いたのか、またはリーダーであるクラウンを失ったからか、どちらかはわからない。


どちらにせよ、魔物達は少しずつナム達から距離を取り始めた事は確かな光景だった。

彼らの習性か、視線だけはナム達へと向け続けて後ずさりするようにだが。


それに気付いたタイフが慌てて圏を構える。


しかし、タイフの攻撃は1人の仲間によって止められることとなった。



「刺激するな、逃げるなら楽でいいじゃねぇか。」


「そ、そう?」



ナムにそう諭されたタイフは、構えた圏を降ろす。


後ずさりをしていた魔物達は、急に一斉に踵を返して全速で走り去って行く。


統率されている様子は無く、生存本能からの全力疾走だった。



「撃退……出来ましたね。」



必死にトウヤを守っていたリィヤは、トラウマである魔物が去ったことを確認すると、大きく息を吐いた。


仲間を守る、という強い意志で今の彼女は魔物の恐怖から耐えている。

しかしそれでも、幼少期に負ったトラウマは簡単に払拭できるものでは無い。



「少し休んだら移動しましょ、野宿の回数は減らしたいわ。」


「賛成だね、動けそうになったら言ってくれ、リィヤ。」



魔物の群れを撃退したナム達は、少しの休憩の後に再びトラルヨークを目指し始めたのだった。





世界の中心、トラルヨーク。


町中にビルと呼ばれる高層の建物が立ち並び、舗装された道の上を大量の車両が走り回るその町の一角。


ダガンの鍛冶屋、という看板を掲げた小さめの店舗の内部のカウンターに、どう見ても少女にしか見えない外見を持つネネは、肩肘をついて店の出入口を眺めている。


彼女の後ろの扉の奥からは、父親であるダガンが振るうハンマーの音が鳴り響いている。



「非力君見なくなっちゃったなぁ。」



以前この店に来た5人の客。


その中の1人は、ネネの勘違いのせいで鎧を着ることになった。

しかし彼は鎧の重さに対応出来ず、動きが完全に鈍ったのだ。

その時の光景は、思い出し笑いを繰り返すほどに彼女の記憶に焼き付いていた。


その5人は1ヶ月以上、全く姿を見せていない。



(まさか全滅……ありえる。)



ネネにとって、あの5人はそこまで強くは見えなかった。


特に酷かったのが全身包帯のあの筋肉ダルマの男である。

やたら大口を叩いていたが、彼女にとっては鼻で笑う程の感想しか持たなかったのである。



以前この町に三武家という人間の最大戦力が滞在していた、という話を聞いた。


噂によれば軍を襲撃したラットグループだかいう名前の組織の捕縛。


そして炎を自在に操る強力なヒューマンすらをも討伐したらしい。



(そんなにやばい人達もいれば、非力君チームみたいな胡散臭い人達もいると……まさにヒューマンと虫だねぇ。)



別の世界では月とすっぽん、とも呼ばれる言葉と同義の意味を持つことわざを脳内に思い浮かべたネネは、何度目かわからない思い出し笑いを始める。


しかし、その彼女の笑いは急に開かれた扉の音で慌てて止められる事となった。



「あば、い、いらっしゅい!」



慌てすぎて噛んだネネだったが、そんなことよりも目の前に現れたその男に視線は釘付けとなる。



(おお、イケメン!)



店に入って来たのは、容姿が大変整った男であった。


少女にしか見えないネネだが実年齢は20歳丁度であり、あわよくば素敵な彼氏を募集中である。



「よ、突然来てすまねぇがオレは客じゃない……聞きたいことがある。」



ネネは咄嗟に背筋を伸ばし、彼からどんな質問が飛んできてもすぐ答えられるように答えをいくつか用意し始める。


自分の年齢や好みのタイプ、そして行きたいお店や鍛冶屋の定休日。


デートに誘われること前提の様々な答えを、一瞬の後に全て用意した彼女は、目の前のイケメン男からの質問を待つ。


その様子を見た男は、拒否されなかった事から同意の意を察して言葉を続ける。



「君は三武家って知ってるかい?」


「ウチはフルーツたっぷりのパフェが好……ん、三武家?」



様々な答えを用意したネネだったが、自分への質問では無かった事に軽いショックを受け、あからさまにテンションが下がる。


その様子を見た男は頭に疑問を浮かべながら答えを待っている。



「当然だよ、三武家を知らない人なんて殆ど居ないさ。」



ネネは投げやりにそう答え、九二テンションの下がった彼女を見た男は更に困惑し始める。



「この店に来たことは?」


「ないない、そんな凄い人達がこんな場所に来るわけ無いさ。」



更に投げやりに手を振りながらそう答えるネネを見た男は、顎に手を置いて何かを悩み始める。



「そうか、助かったよ……今度お礼にフルーツたっぷりのパフェでも奢らせてくれ。」



男からの言葉を聞いたネネは、驚きのあまりにカウンターから立ち上がる。


さっきチラッと話し、そして全て話し終わる前に終わった好物を覚えていたこの男に対し、彼女は好感度を高め始める。


そしてやはりこの男は自分目当てで来たのだと勝手に妄想を膨らませ、何故かドヤ顔に変わるのだった。



「良いの!?ウチはネネ、是非ともお願いするさ!」



カウンターを数度興奮したように手で叩き始めたネネを見た男は、完全に表情を引き攣らせるが、肝心のネネは喜びのあまりそれに気付いていない。




「お……オレはビレイドだ……また今度来るからその時にでも……。」




「言ったね、ウチそういう約束は絶対わすれなぎゃんっ!?」



会話の途中で悲鳴を上げたネネだったが、彼女の頭頂部には拳が叩き込まれていた。



恨めしそうに自分の父親を睨みつけたネネを無視し、ダガンは目の前の男に視線を向ける。



「うちのバカ娘がすまねぇ、コイツにはゲンコツパフェでいいからよ。」


「それパフェって言わないよ!?」



ダガンとネネはそのまま喧嘩を始めてしまい、結果的にビレイドは彼らに完全に放置されてしまうこととなった。

あんぐりと大きく口を開けたビレイドは、今のこの状況を掴めずにいるようだった。



(なんなんだこの人間2人は。)



それからしばらくの間、ビレイドがそこで立ち尽くすことになったのは言うまでもないことだった。

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