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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:約束、そして新たな目的

四天王No.2城塞のハルコンに勝利した翌日、ナム達はエイルの家の中で集まっていた。


家主であるエイルは姿を消し、家の中にいるのは少数の村人。


この村の医者の処置のお陰で辛うじて命を繋いだ、ベッドの上で包帯まみれになっているナム。


同じくガーゼや包帯が僅かに巻かれてはいるが、寝込むほどではないリィヤ。


そこまで傷を負っていないミナにトウヤ、そしてタイフである。



「そうか……エイルが。」



村人の中の1人、セクト長老は重々しく口を開いた。


ナム達から、例の4人にエイルが連れて行かれたという事実を聞いた村人達は、皆一斉に肩を落とす。



「すまねぇな、4人の中に1人やべぇヒューマンが居たんだ……止められなかった。」


「貴方たちがそれ程までに傷を負う相手……むしろそこまでしてくれたことに感謝はあれど文句などない。」



エイルを除けば、村1番の強者であるギーサはそう言うと、深く頭を下げた。


ナム達も申し訳なさそうにそれを受け、同じように頭を下げる。

あの自堕落なナムですら頭を下げていた。



「エイルは……何かを吹き込まれている可能性がある、というのがお前達の見解なのだな?」


「私達が来たのにも関わらずアイツらに付いて行ったから、間違いないと思うわ。」


「大方……彼の正体を本人にバラした上で、君達がエイルを軍か警察に通報したとでも言ったんだろうね。」



村人達はトウヤの見解を聞き、怒りを抑えられないようだった。



「我々がエイルを!?」


「そんな事は絶対にありえない、おのれ小賢しい魔物め!」


「辞めろ、今それを言っても仕方あるまい!」



セクト長老が手を横に伸ばしてそう一喝し。

村人達はお互いに顔を合わせながらも渋々と怒りを抑えられないながらも文句を言うのを辞めた。



「そんな事を吹き込まれただけで、エイルが信じてしまうような関係しか築けていなかった我々にも問題がある。

彼の正体を隠すことに全力を尽くし過ぎ、歪になっていた可能性は捨てきれん。」



村人達は俯き、彼との関係をそれぞれ思い返す。


エイルの力を本人に知らせないためにパフォーマンスじみたわざとらしい事を、彼らは数え切れないほどしていた。

エイルの正体が余所者にバレることを恐れすぎ、旅人を追い返したことも少なくはない。


変な事を吹き込まれた場合、違和感を与えてしまう土壌は整ってしまっていた事に村人達は気付く。



「お前達……いや、貴方達に依頼をしたい。」


「なんだ?」



セクト長老は表情を固く引きしめ、ナムへとそれを告げた。



「エイルを……この村の大切な仲間を……奴等の元から連れて帰ってきて欲しい。」


「自分がヒューマンだと知ってしまったアイツをか?」



包帯だらけのナムは、ベッドの上で寝転がりながらも強い表情で長老や他の村人へと視線を向ける。


村人達は、彼のその表情に負けじと表情を強くした。




「無論。」




長老は最早村人達へ様子を伺うことも無く、そして迷いなくそう告げる。

当然の事を聞くな、と言わんばかりのその強い言葉に、ナム達は表情を柔らかくする。




「そうか……その依頼、受けるぜ。」



ナムはニヤリと笑い、仲間達へと目線を動かした。


ミナやトウヤ、タイフとリィヤも笑顔で頷いていた。



「エイルさんは良いお方です、無事にお連れしないとですね。」


「この村の大切な()()とあれば、受けるしかないよね。」


「いずれはぶつかるであろう奴等だしな、俺様も全力でやってやる。」


「今回は完全に失敗したわ、ここで汚名返上しなきゃ三武家の名折れよ!」



彼らに断られると思い、不安な顔をしていた村人達だったが、彼等のその反応を見て、安堵したように強ばった表情を和らげた。


エイルを追ったせいでここまで傷を受けたのだ、普通の人間なら即答で断る依頼であろう。


しかし彼らは違った。


ここまでの被害を受けながらも、エイルを連れて帰ることを承諾してくれたのだ。

村人達が安堵するのも当然の事だった。



「とはいえ、流石にこの傷でソルジャー・ホーネットだらけの森を抜けるのは自殺行為だ。

ソルジャーが巣に引っ込むか、俺が治るまでは休ませて欲しいもんだ。」



ナムの冗談とも取れるその言葉に、村人達は思わず吹き出す。



「拒否する理由はない、ゆっくりしてくれ。」


「助かるわ、コイツ無理しすぎてそろそろ死にそうだったからね。」


「文句言いてぇ所だが、今回ばかりは本当にやばかった……ミナの言う通りだ。」



今回ばかりは傷が大きすぎて動くすら出来ないナムは、ため息を吐くと苦笑気味にそう呟く。


ナムの性格を見抜いたネットの村の医者に、絶対安静と散々釘を刺されたのだ、流石の彼も自分の状態を自覚せざるを得なかったのだ。



「さて、あまりここに居てはゆっくり休めまい、今日はお暇する……エイルの件、本当に礼を言う……行くぞ皆。」



村人達はセクト長老と共に外へと向かう。


それぞれの村人達は、扉から出る時に一礼してから出ていく。


その光景を見たナム達は、エイルを大切にする彼等村人の心を見たのだった。



家主のいない家から村人達が全員退出した後、ナムは仲間達と話し合いを始める。



「さて、暫くはこの村で休むとして……次をどうするかよね。」



ミナは、形だけ背負ったバトルアックスの残骸を手に持って仲間達へとそんな事を問いかける。


ハルコンとの戦いで破壊された彼女のこの武器は、強力な衝撃が必要な敵に対して有効な物だった。


ミナは三武家のアーツの跡取りである。

武器戦闘術の権威である彼女にとって、武器を失うことはそのまま戦力の低下に繋がるのだ。


自身の格闘技術、魔力だけで戦うブロウとマギスには無い、アーツ特有の弱点であった。


だがアーツが最弱ということでは無い。

所持する武器の種類次第で戦略が無限に広がるのがアーツの特徴である。


その万能さが、逆にいえばマギスとブロウには無い特徴でもあるのだ。


その事をよく知るナム達は、彼女の武器の残骸を見て悩み始める。



「あのハルコンというゴーレムに勝ちはしたけど、損害が大きいね。」


「ナムさんが重傷に鎧の破損、ミナさんの大きな斧。」


「リィヤちゃん、自分のその傷も忘れちゃダメよ?」



ミナに言われ、リィヤは自分の体を思い出したかのように眺めた。


ハルコンとの戦いで自分も負傷していたことを思い出し、彼女は苦笑した。



「僕の提案でよければ、なんだけど……あそこに戻らない?」


「あそこ……どこだ?」



タイフの言葉を聞いたナムは、訝しげに彼に返答する。



「えーと……あの大きな町……そう、トラルヨークへ!」



ナムはそれを聞き、納得したように頷いた。



「仕方ねぇな、またダガンの奴に世話んなるか。」


「ネネさんにも会えますね!」


「僕はあの子苦手だけどね。」



トラルヨークに存在する腕利きの鍛冶屋、ダガンとその娘ネネ。


以前もナム達の鎧を新調して貰った彼らならば、十分な性能を持つ物を製作してくれるであろう。


ネネから非力君呼ばわりされているタイフだけは苦笑の表情をを示しているが、自分からトラルヨークに戻ることを提案した手前文句も言えない。



「決まりだな。」


「まさか……軽い気持ちで来た村でこんな状態になるなんてなぁ。」



ナムとトウヤはお互いにそう言うと、自嘲気味に笑い合った。



「エイルさんも……探さないといけませんね。」



魔物へのトラウマを持つリィヤは、笑顔でその言葉を紡ぐ。

エイルは魔物である。


しかし、魔物であるエイルをあの村に帰す事に関して全力を注ぐことを、彼女は固く決意していた。



(どこまでも卑劣な男ですね……ベルア。)



かつて1番信頼していた執事兼ボディーガードであり。

彼女にとって大切な屋敷の人間達を皆殺しにした上。

ネットの村すらをも巻き込んだ諸悪の根源。

ベルアへの憎悪を、彼女は更に強めた。


そんなリィヤの表情から、仲間達は彼女の内心を悟る。


そんな彼女を見た事が引き金か不明だが、ナムは仲間達へとある決定事項を話し始める。



「魔物の超強化の調査は保留にする。」



ナムの決定を聞いた仲間達は多少驚きながらも、彼がそれを決めることをわかっていたかのように、冷静にナムへと視線を向ける。



「先ずは四天王とかいう奴ら、残り2匹はいる筈だ……そして奴らの親玉……ベルアの野郎を止める。」


「アンタならそう言うと思ったわ、トラルヨークで準備が終わったら今度は奴らの調査ね。」


「あのアグニスと言う奴が現れた方向を探せば見つかるかもね、あくまで俺様の勘だが。」



ナム達は今後の方針を簡単に決め、全員に異議がないことを確認する。


四天王とベルアを放置すると、なにか良くないことが起こりそうな予感がした為だ。


しかし、ミナはそこまで決まったにも関わらず、急に肩の力を抜くと、ナムのベッドに腰掛けた。


ミナの急な脱力に、思わず仲間達は困惑気味に彼女へと視線を向ける。



「どっちみち……さっきアンタが言った通り、ソルジャーがお家に帰るまで何も出来ないんだから、今は休みましょう。」


「そう言う事か、急に座り込んだから驚いたぜ。」


「わたくしも疲れてしまいました……ちょっと体も痛いですし。」



ナムほど重傷では無いにしろ、相当な力で地面へと叩き付けられた彼女は、決して少なくはない傷を体に残していた。

元々体力も無く、育ちの環境から痛みからも程遠い生活をしていた彼女にとっては無視できない痛みが全身を襲っていた。



「とりあえず、話し合いはここまでにして休もう、僕も疲れた。」


「賛成ね……リィヤちゃん、今日も同じ部屋よ!」


「あ、はい。」



マケオの村での事件(?)から同室になる事が増えたミナとリィヤは、最早それが当然の事のように揃って部屋へと向かっていく。



「じゃあなナム、安静にするんだぞ?」


「言われなくてものんびり昼寝してやる。」


「今回ばかりはその言葉に俺様は安心感を覚えるよ。」



トウヤはそう言うと、ナムに向かって手を振って別の部屋へと向かう。



「ナムが来てくれてなかったら全滅だったよ、でも次は無理しないでよ?」


「おめぇも今回は相当仲間を助けてくれたと聞いたぜ、サンキューな。」


「それ以外出来なかったけどね。」


「それが出来れば十分だ。」



タイフはその言葉に安堵すると、トウヤと同じように手を振って部屋から出ていった。


仲間達全員が部屋から出ていった後、ナムは体の力を抜く。



「……くそ痛てぇ。」



ナムは1人になった後、自分の体から警告のように響く痛みに耐えながら眠りに落ちたのだった。

休息回です。


本格的にベルアとナム達が激突します。

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