表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイカー  作者: フィール
2章
72/156

2章:決死の覚悟、そして

自身の体で作った馬に乗り、異常な速度で迫り来るハルコン。

森の中の為至る所に木が生い茂っているが、騎乗したハルコンはそれを全て破壊しながら突き進む。


ハルコンの頑強な体の前には木など障害にはならないようだった。


ナムは咄嗟に体力に不安が残るリィヤを抱えると、咄嗟に左横に跳ぶ。

仲間達も同様にそれぞれ左右に分かれ、高速で突撃してくるハルコンから逃れようとする。


しかし、ハルコンは追い抜きと同時に頭上で振り回していた槍を真っ直ぐナムへと振るう。


1番の脅威の命を先に狙う事にしたようで、ハルコンの狙いに迷いなど無かった。



「ナムさん!?」



ナムの腕の中のリィヤは咄嗟にバリアを展開し、ハルコンの槍を受け止める。

貫通することは無かったが、その一撃でリィヤのバリアにヒビが入り、辛うじて耐えたことが一目瞭然だった。



「凄い衝撃です!」


「よく耐えた!!」



ミナやトウヤの攻撃で傷つかないハルコンの体を構成する恐ろしく硬い素材。

それと同じ素材で作られた武器の強さは計り知れないものであり、同時にナム達がリィヤのバリアに頼ることをしなかった事の正しさが証明されたのだった。


先の細い槍でなく、拳の攻撃をもし受けていればバリアは一瞬で破壊され、中のリィヤは問答無用で見るに堪えない酷い惨状になっていただろう。



「わたくしの力が通用しない……すみません。」


「気にすんな、危なかったぜ……嫌な予感がしたんだ。」



リィヤはヒビの入ったバリアを消し、何時でも発動出来るように準備を始める。


しかしナムはそれを知ってか知らずか、素早くリィヤをミナのいる方角へと投げ、ミナが目を大きく見開いて慌てて飛んできた彼女を受け止めた。


ミナは大きく息を吐いて安堵すると、思いっきりナムを睨みつける。



「女の子を投げるもんじゃないわよ!?」


「巻き添えで死ぬよりはマシだろうが、奴の狙いは俺だ!」


「あわわ……」



ミナの腕の中でリィヤは目を回している、あまりに急に投げられたせいで混乱しているのだろう。

しかしナムはその光景から素早く目を逸らし、再びナムを狙って突撃してくるハルコンへと向ける。



「貴様さえ……貴様さえ殺せば!」


「ストーカーかよ、勘弁してくれ!」



ナムはその場から跳躍し、こちらからハルコンへと向かう。

体の大部分を馬に使ったハルコンは今や本体の方が軽くなっている。

馬とぶつかるよりマシだからという考えをしたナムは、空中で飛び蹴りの姿勢を取り始めた。


ハルコンも負けじと槍を空中に向けて構え、タイミングを見計らって突き出すと同時に、前に盾を構える。


ナムは体を捻って槍を躱すが、それでも脇腹を掠めて多少なりとも出血し、ナムの蹴りは見事にハルコンの盾を捉えていた。



「うおぉ!?」



体へのダメージは盾で防いだが、飛び蹴りの勢いでハルコンは馬上から落下し、地面へと落ちた後に転がり始め、ナムは脇腹を抑えながらも地面へと降り立つ。



「さて、後はゆっくりと……!」



ナムは起き上がろうとしているハルコンに向けて走りだし、拳を構える。



「後ろだよ!!」



しかし、ナムの耳にタイフからの警告の言葉が聞こえると同時に、本能のままにその場から横へと跳躍する。


ナムがいた場所を高速の馬が通過し、タイフの警告が無かったら間違いなく衝突していたことは間違いない。



「ちっ……馬単体でも動かせるのかよ……どっちが本体かわかりゃしねぇ。」


「あくまでオレの体だからな、当然だろう?」



ハルコンは近くに来た馬に再び騎乗し、ナムの飛び蹴りで破損していた盾を修復させながらナムへと向かって走りだす。


先程と同様に、馬上のハルコンは槍をしっかり握っており、隙あらばナムを貫こうとしている。



(厄介だな……馬から本体を叩き落としたとしても馬自身が死角から攻撃してくる、だが落とさないと核を攻撃出来ねぇ。)



お互いが肉薄する直前、敵の槍を真っ直ぐ睨み付けていたナムは、ハルコンがそれを動かすと同時に構えていた拳を開き、ハルコンの攻撃を槍を掴むことによって止める。


そして握ったまま腕に力を入れ、槍を手すりのようにしてハルコンに縋り付く。



「む……!」



ハルコンは槍に縋り付くナムを振り落とそうとするが、離れない事を悟ると同時に盾を変形させて槍を作成し、ナムに目掛けて穂先を向ける。


しかしナムはそれを待っていたかのように、左手で槍を保持しながら、拳を振りかぶってハルコンの胴体目掛けて振るった。



「それが狙いか!?」



ハルコンはまとわりつくナムを攻撃する為に身を守る盾を槍へと変更した。

しかしそのせいでナムの拳から身を守る手段が無い。


ナムの拳が胴体目掛けてどんどん突き進む中、ハルコンは思考をフルに回転させ、咄嗟のところでナムの縋り付いている槍を手放す。



「ちっ……!」



掴んでいた槍を手放され、振るっていた拳は空を切る。


ハルコンはその隙を逃さず、ナムの肩へと槍を突き立てて持ち上げると、痛みに呻くナムを近くの木へと放り投げる。


馬の高速移動の力が加わり、かなりの衝撃で木へと叩き付けられたナムは大きく吐血し、肩の刺傷からも出血する。



(く……そ……!)



更に血を失い、意識が朦朧とするナムの視界に再び進行方向を変えたハルコンが映る。


そしてナムの近くへと来ると同時に、自分の体で作成した馬を前足を振り上げさせていななかせ、前足が下へと落ちると同時に槍をナムに向けて振り下ろす。


ナムの眼前に槍の穂先が迫り来るが、意識が朦朧としているナムにはそれを避ける事が出来ず、ただ見つめることしか出来ないでいた。



「貰ったぁ!!」



ハルコンの勝ち誇ったような咆哮が響く。


しかし、死を覚悟したナム眼前でハルコンの体が何かに衝突し、彼の体が傾いていく。


ナムは目を凝らすと、頼りになる仲間の姿を見た。



「あんたの体、私には壊せないけど……落とすくらいなら出来るのよ!!」



ミナの渾身のメイスによる打撃を横からモロに受けたハルコンは、自分の作成した馬の上から落下していく。



「邪魔をするな……!オレを落としたところでその馬もオレと変わりないのだぞ?」


「そうだな、じゃあこうするまでだ!!」



落下途中のハルコンが馬を操ってミナを攻撃しようとしたその時、もう1人の頼れる仲間、トウヤの声が響く。


途端に馬の周りに重力フィールドが展開され、今や本体よりも重量のある馬個体はその中で足止めを受けた。


トウヤのグラビティ・ホールだ



「おのれ……!?」



ハルコンは馬個体を諦め、落下途中にすかさずもう片方の槍をナム目掛けて投擲する。


高速で襲いかかる槍がナムに刺さろうとする寸前。


その槍は横から衝突した円形の刃を持つ圏により阻まれ、座り込むナムの脇を通り抜けて後方の地面へと勢い良く突き刺さる。



「そうするのは知ってたよ!」



未来眼(サーチ)の力で槍の投擲を予知し、圏を投擲したタイフはそれをかなりの力で投擲したようで、肩を上下させながら呼吸をしている。


そんなタイフを睨みつけながらハルコンはとうとう地面へと落下し、そのままナムの居る方向へと1回だけ転がると、すぐさま立ち上がる。



「この男さえ……この男さえ殺せば貴様らなど作業なのだ……邪魔をするなあぁぁ!!」



怒りの咆哮を上げたハルコンは、トウヤの重力フィールドに囚われている分身とも呼べる馬に手を向け、それを分解する。


馬を形作っていたパーツ全てと、タイフに撃ち落とされて地面へと突き刺さっている槍と、ナムを振り落とすために自ら捨てた槍も同時に操作し、自身の元へと手繰り寄せる。


それらを全て自身の右腕へと集め、1つの巨大な腕を作成したハルコンはそれを振りかぶりながら再びナムへと突撃する。


彼の殆どのパーツを集めた腕はまるで巨人のような大きさになっており、その腕から繰り出される拳の破壊力は計り知れない。



「これなら止められまい、死ねブロウ!!」



自身の腕を抑えながら、よろよろと立ち上がるナムを見たハルコンは、勝利を確信する。

敵の動きは鈍く、この拳の一撃は絶対に避けられない。


自身の体を破壊出来るこの男を葬り、他の4人もゆっくりと殺し、後で3馬鹿を追うつもりのハルコンは、既にこの先行うべき仕事を思い始めていた。


しかし、それが彼の隙となった。


それは僅かな衝撃だった。

普段なら気にも留めない本当に僅かな衝撃、それは自身を破壊するものでは無いが、ハルコンの体を傾けるに至る原始的な力。


その正体に気付いたハルコンは、傾き行く自分の体を自覚しながら自らの()()へと視線を向ける。



「わたくしには……こんなことしか出来ませんから!!」



人間の小娘、ハルコンにとっては取るに足らない守りの力を持つであろう人間の手に存在した物。


先程自らの槍を受け止めた青白いバリアと同じ物で形作られた物。

先程まで自分が散々使用していた棒状の先に刃を取り付けた武器。


青白い槍を足元に真っ直ぐ前に伸ばし、小娘の目線の先の木の根元に添えるように保持された状態で、ハルコンの足元を僅かに掬ったもの。


そう、それは転倒させるための原始的な仕掛け。


子供がイタズラで仕掛けるような、本来はロープを足元に張り詰めて行う罠だった。


腕を巨大化させた状態で、非常にバランスの悪いハルコンは、そんな原始的な罠に見事に引っかかり、体は前へと傾いていた。


勿論、全速で走っていたハルコンの足に蹴られるような形になった槍は、その場で折れるように破壊されていた上に、足を少し前に出せば堪えられる程度の傾きだ。


その上でそれを仕掛けた小娘は、折れた槍に引っ張られるように間抜けな格好で前へと体が跳ね、地面へと激突していた。



(無駄な足掻きを!!)



ハルコンはほくそ笑みながら、足を前に出して転倒を避けようとする。


この人間の仕掛けは無駄に終わり、無駄に傷を負うことになった馬鹿な小娘を哀れにも思った。



しかしある男にとって、この僅かな隙は勝負を決めるに至る程の隙となったのだった。



「よくやった……!!」


「なっ!?」



ナムは仲間達が稼いだ時間の間に体制を整え、そして()()()()()()()()()()、ハルコンに肉薄して拳を振りかぶっていた。



「貴様……それは!?」



ナムが振りかぶっている右腕、そこに本来無ければならない物が無くなっていた。


彼の筋力を低下させる、最後のリミッターでもあるブレスレット。


ナムは仲間達が稼いだ僅かな隙を狙い、最後の切り札を切っていた。

ナムの筋肉は更にもう一回り肥大化し、既に限界まで引き伸ばされていた皮膚は更に伸び、関節部の動きに耐えられなかった皮膚の裂傷まで加わり、ただでさえ重傷な彼は、それの痛みに意識が飛びそうになりながらも全力で拳を前へと突き出す。


ハルコンの胸部、ゴーレムの唯一の弱点である核が存在する、人間の心臓の位置へと。



「喰らいやがれええぇぇぇ!!」



ナムの拳は、無防備なハルコンの胸部へと見事に命中する。


途端にクレーター状の破損ではなく、腕が貫通出来る程に破損したハルコンの胸部から砕けた体の欠片は背中側から勢い良く飛び出した。


欠片の中に一際目立つ物があった。


綺麗な球体を持ち、模様のような凹みから光を発している物質。



ハルコンの核がナムの拳の衝撃で背中側から飛び出していた。



しかし、ナムの意識はそこで薄れ始め、飛び出した核を追うほどの力は残っていない。


それを確認したハルコンは安堵し、背中側に吹き飛んだ自身の核へと視線を向ける。



「なに?」



核へと視線を向けたハルコンは驚愕した。


何故か核が後方へと飛ぶとわかっていたかのように、武器を扱う方の人間の女がメイスを下から上へと振り上げ、核へと攻撃を加えようとしている。


傍には投擲武器を使う長髪の男が立っていたが、ハルコンはその人間への興味をまるで持たない。


しかし、ハルコンはほくそ笑みを絶やさなかった。



「馬鹿め……その核もオレの体と同じ素材だ、この男が動けない今それを破壊する事など出来ん!!」



ハルコンは手を前に向け、核を自分の体に戻すための操作を開始しようとした。



「馬鹿は……てめぇだ、俺以外にてめぇを破壊出来た奴を忘れたな……お前の……負け……だ!!」


「!?」



気絶したナムが言い残した言葉を理解したハルコンは、思わず視線を上へと向ける。


その時間で核を操作していれば負ける事は無かった筈だった。


ハルコンの最後の行動が彼を敗北へと導いたのだ。



上空から魔術師の男が背中から生やした鋼鉄の翼を、落下すると同時に核へと振り下ろし、下の女がメイスを振り上げる。



「ゴーレムの核がお前の体と同じ素材、マギスである俺様がそんな事も知らない訳がないだろ!」



トウヤとミナの攻撃は見事に核を挟むように同時に命中する。


ミナのメイスは本命ではなく、トウヤのスティール・ウィングの威力を殺さないように核を受け止める為に振り上げられたものだ。


2人のコンビネーションは見事に決まり、トウヤのスティール・ウィングの威力をモロに受けた核にはヒビが発生する。


それと同時に、ハルコンの体には核と同じようなヒビが勝手に発生し始める。



「ば……馬鹿な……この城塞……このオレが……!?」



核のヒビはどんどん大きくなり、場所によっては欠片が落下し始め、ハルコンの体も同じようにヒビが広がり、欠片が落下していく。



「嘘だ……人間などに……このオレが……嘘だ。」



ハルコンの呟きと同時に、核は見事に破砕して全て地面へと落下する。



「この城塞のハルコンがこんなところ……!!」



ハルコンの言葉が終わる前、全てを言い終わる前にハルコンの体は完全に破砕し、轟音をたてながら地面へとその欠片を広げる。


トウヤが地面へと降り立ち、ミナが苦い顔をしながら腕をさすり、リィヤは傷だらけの状態で地面に転がったまま、タイフは冷や汗を拭いながら安堵し、ナムは木の根元で完全に意識を失っている中。


地面に広がったハルコンだった欠片は沈黙し、その後2度と動き出すことは無かったのだった。



「勝ったわね……!」


「とんでもない奴だった……そうだナムとリィヤを!」


「いけない、トウヤさんはリィヤちゃんをお願いね!」



トウヤはミナの言葉通り、全速でリィヤに駆け寄る。

そして彼女の体の傷を確認すると、ほっと安堵した。


リィヤの傷は地面に激突したことによる擦り傷や打撲程度で済んでいた。

彼女は涙目であるが。



「兄様、わたくしも……役に立てました?」


「大金星だ、村に戻ったら治療してあげるからな。」



トウヤはリィヤを抱き抱えると、ナムの元へと走る。


そこには既に気絶したナムの腕に全てのブレスレットを着け直し、傷の処置を開始しているミナがいた。



「タイフさんも手伝って、刀傷が半分開いてるし他の傷も不味いわ!」


「わかった!!」



未来眼(サーチ)の力で核が飛ぶこと、そしてその位置までを予知し、ミナとトウヤに伝えた影の功労者であるタイフはそれに喜ぶ暇もなくナムの処置を手伝い始める。


その後、ナムの応急処置が終わり、ソルジャー・ホーネットと奇跡的に遭遇せずネットの村までミナ達はたどり着く。


彼らが安堵して空を見上げた時、空は漆黒に染まる時間……深夜となっていたのは、後の彼らの談である。


こうして、2人目の四天王との決着は辛うじてナム達の勝利で幕を閉じたのだった。

異常な硬さを誇ったハルコンと、とうとう決着です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ