2章:変化自在
異常な頑強さを誇るベルア四天王の1人である4mの巨体を持つゴーレム、城塞のハルコン。
体の頑強さだけでなく、彼のその体の強度を実現している物質と自身の重量を利用したパワフルな戦闘を得意とするこの敵の前に、ミナ達は苦戦を強いられていた。
その余りの破壊力の前に仲間達は万が一を考え、守りの要であるリィヤのバリアを使用させることすら敬遠する程だった。
バリアを突破されて彼女の身に危害が及ぶことを危惧したのだ。
ハルコンの余りの強度の前に、反撃でミナが戦闘不能となるという絶望の最中、トウヤの全力の攻撃で彼の体を破壊する事に成功する。
しかし、彼の体に強力な自己修復機能が搭載されていた事により、再び危機に陥ったその時。
彼等を守るように本来ここに現れるべきではない状態の仲間が、ミナ達の前に現れたのだった。
トウヤを危機一髪で救い、反撃としてナムの蹴りをモロに受け、体にクレーター状の傷……と言うべきか分からないものを負ったハルコンは、自身の自己修復機能でその傷を修復させていく。
それを見たナムは軽く舌打ちをする。
咄嗟に二人の間に入った上に、傷のせいで万全に力が出ない状況で、更に完全に体勢を取れない状況での勢いの無い蹴りだったとは言え。
破壊した箇所が呆気なく修復されてしまったことに対しての舌打ちだった。
「トウヤ、ゴーレムってーのはアレが普通なのか?」
「そんな訳ない、アレはかなりの特殊……化け物ゴーレムだ。」
「だろうな、おめぇ程じゃねぇが多少知識はある……奴は四天王か?」
「そうだよ、自分でそう言ってたな。」
ナムはハルコンを視界に入れながらニヤリと笑う。
目の前の巨大なゴーレムは自分の体を蹴りで破壊した相手、ナムに対して最大限の警戒をしているようだ。
ナムは、ミナ達の戦闘を少し前から見ていた。
傍観していた訳ではなく、参戦しようと彼らに近付いている最中に結果的に観戦する事になった。
その時のように、自分の頑強な体を利用して攻撃を無視してがむしゃらに突撃してくる……というような行動を今のハルコンはしてくる様子がないのだ。
「傷は大丈夫なの?」
右手にメイスを構えたミナは、ナム程ではないがフラフラしながらもナムに対してその言葉を発する。
「あぁ……全然ダメだ、痛みも強ぇし血も足りねぇ……体幹もしっかり取れねぇ。」
「酷くボロボロねぇ。」
今のナムは、いつも着ている鎧を着込んでいない。
そのせいでミナが処置をした包帯まみれの姿をしている。
見方によってはミイラにも見えなくもない状態である。
しかしナムは軽く拳を振るうと、ミナに向かってニヤリと笑みを向けた。
「まぁ、それでもやれなくはねぇ……お前のお陰だ。」
「一応言っとくけど……普通なら死んでたし、いくら頑丈なアンタでも本来なら絶対安静!
戦闘なんて本来は有り得ない状態なのは理解しなさいよ!」
「自分の体からしっかり悲鳴が聞こえるぜ……後お前のお陰ってぇ言葉の意味にはもうひとつあるんだよ。」
「へぇ?」
ナムの目の前で、ハルコンはナムと同じようにこぶしを構え始める。
「ブレスレットを2つ外したままの状態で縫合してくれたからな。」
「道理でかなり縫合しにくいと思ったわ。」
治療した張本人であるミナはやれやれと言わんばかりに首を横に振った。
ナムの腕に常に3つ装着されている筋力低下の呪いが付与されたブレスレット。
怪力を持つブロウの家系には、安全の為に装着することが義務として決められている。
人間相手には外さずとも圧倒出来るが、魔物等との戦闘時にはこれを外すことになる。
しかし、ナムは皮膚慣らしと呼ばれる修行を、持ち前の自堕落な性格が災いしてサボっていた。
そのせいで彼の皮膚は、急激に膨張した自身の筋肉の前にかなり引き伸ばされるのだ。
3つ全てを外すと関節部等の皮膚は全て裂けてしまい、長時間戦う事すら出来ない状態となってしまう程だ。
これがベルアと引き分けた原因の大きな要因となっている事は、ナム自身も痛感している。
2つ外した状態でもかなり張り詰める為、ミナが縫合した箇所は力に負けてすぐさま裂けていただろう。
しかしそれが今、縫合された状態にも関わらず、彼の腕には1個のブレスレットしか存在していない。
ピード達との戦いで元々2つ外した状態だった上に、その後に敗北して体に巨大な刀傷を負わされたナムにとって、失血死寸前の状態で装着し直す程の余裕は無かった。
その後、同じく時間的余裕のなかったミナが急いで処置した事により、結果的に皮膚が引き伸ばされた状態で縫合をすることになったのだ。
「これなら、戦える!!」
ナムはそう言うとハルコンに向かって跳躍し、一瞬で敵に肉薄する。
「早い……!?」
ナムは素早くハルコンの体に数発の拳を叩き込み、ハルコンの頭に回し蹴りを炸裂させる。
その全ての攻撃が、突然のナムの肉薄に慌て対処が遅れたハルコンの体にクレーター状の破損という結果をもたらし、最後の回し蹴りはハルコンの頭を半分程粉砕する。
(有り得ん……大砲の弾すら弾き返すオレの体を!?)
ハルコンは右腕をナムの顔に向けて横薙ぎに振るう。
彼の頭を文字通り吹き飛ばす為の行動であったが、彼に命中する寸前にその腕を掴み止められる。
驚愕したような様子のハルコンを後目に、ナムはその腕を両腕でしっかり掴むと、その腕に向かって膝蹴りを炸裂させて右腕を折るように破損させた。
(有り得ん、有り得ん、有り得ん!?)
自分の体の頑強さに対し絶対の自信を持っていたハルコンは、拳や蹴りで己の体を破壊するこの敵に対して真っ当な思考が取れなくなっていた。
この人間の拳や蹴りは大砲以上の威力を持つことと同義なのだ。
ハルコンの強さはその屈強な体にある。
大砲を弾き返し、あのアグニスの炎ですら彼に傷をつける事は出来ない。
自分を害せるとしたらベルア様、同じく四天王である獄犬のビレイド、そして非常に不愉快だが3馬鹿の1人のワパーであろう。
逆に言えば、そう言う1部の相手以外に対しては無敵に近いのだが。
(このままでは……!)
ナムの拳を体を捻って避け、蹴りをそこから飛び退いて避けるハルコン。
そして素早く体勢を整えるとナムに向かって走り出し、タックルをしようとする。
しかしナムはそれを避けようともせず、片足を後ろに下げると突撃してきたハルコンを両手で受け止める。
そしてハルコンをその場に押しとどめると、ハルコンを持ち上げて地面へと投げつけた。
「な……にぃ!?」
地面へと叩きつけられたハルコンだったが勿論ダメージは無い、しかし、全速で突撃したタックルを受け止められたと言う現実を受け止めきれないハルコンは思わず声を出して驚愕してしまう。
しかし、流石のナムも投げた後に多少よろめくと、後ろに飛び退いた。
(くそ……全快ならなんともねぇんだがな!)
思わずハルコンを受け止めたナムだったが、その強力な衝撃で体の傷に響いてしまい、痛みによろめいたのだ。
「とんでもねぇ力だ。」
「それはオレのセリフだ!!」
ハルコンは飛び退いたナムの近くに寄ると、自身の拳を振るう。
それをナムは首を傾げて避け、腹部にあたる部分へと拳を叩き込み、修復途中だったクレーター状の部分を更に破損させる。
咄嗟に後ろへ飛び退いたハルコンだったが、ナムはそれを予想しており、瞬時に距離を詰めて腹部へと蹴りを炸裂する。
ハルコンの腹部はその蹴りで大きく破損し、クレーターではなく貫通口となり、背後の景色がその穴から覗ける。
(馬鹿な……このままでは……本当に!?)
ハルコンの体を破壊できる大砲以上の破壊力に、驚異的な格闘技術……そしてその筋骨隆々な体つきからは想像もできない程の身のこなしや速度。
その全てがハルコンにとって相性の悪い敵、それがナムだった。
(オレの頑強さが通じない……オレの拳も通用しない、当てられれば間違いなく1発で勝負が着く、しかし当たらない!!)
格闘技術の権威であるブロウ相手に、自らの頑強さだけで戦ってきたハルコンの格闘技術では全くといっていいほど通用しない。
格闘初心者と達人の差、それがなんの比喩でもない程に力の差が開いていた。
いくら体が頑丈でも、それを打破できる相手に対しては無力であることを、ハルコンは痛感し始めていた。
(仕方あるまい……多少防御力は下がるが。)
腹部に風穴を開けられたハルコンは、地面を全力で殴打して周囲に土砂を巻き上げる。
煙幕のように周囲の景色を覆い隠した砂埃を前に、ナムはその場で立ち止まり、慌てて後ろへと跳ぶ。
「目くらましか!?」
敵の攻撃は強力だ、いくらナムであろうとも一撃でもモロに受ければ命はない。
それを知っているナムだからこそ、無闇に前に出れなかったのだ。
「何が狙いなの?」
ナムとハルコンの戦いに割り込みできず、ナムの危機が万が一にも来た時のために目を凝らしていたミナ達も、その煙幕のような攻撃に対して警戒していた。
「なんか……音がしませんか?」
ナムが来たことにより、多少体の震えが止まったリィヤの言葉を聞いたナム達は耳を澄ます。
リィヤの言う通り、砂埃の中から断続的に何かが衝突するような音が発生していた。
「修復じゃないかな?」
「なるほどな、あそこまで壊れたんだ……そりゃ修復もするぜ、ところでトウヤ、弱点は核だったな?」
「うん、そうだよ……やっぱり知ってたか。」
「あー……いや位置までは忘れたから聞こうかと持ってな。」
「位置も知らずに攻撃してたのか!?」
トウヤはあまりに無鉄砲なナムに対して大きくため息を吐く。
「心臓の位置だ、全ゴーレムの特徴だからアイツも同じ位置にあるよ。」
「サンキュー……と、晴れてきたな。」
ハルコンが起こした砂埃が晴れ始め、その中に棒立ちする巨大なゴーレムの姿を見たナムは、再び拳を構える。
しかし、ナムは驚いたように目を見開く。
完璧に修復されたハルコンの体に対してでは無い。
ハルコンの両手に見慣れない物が存在したからだ。
「あれは、盾?」
タイフのつぶやきと共に、砂埃が晴れてその姿がナム達の目の前に現れる。
ハルコンの左手には巨大な盾、そして右手には巨大な槍が握られていた。
その盾と槍は、ハルコンを構成する素材と同じ、宝石のように煌めく素材で出来ていた。
「そう言う事か……面倒な奴だぜ!」
4m程あったハルコンの体のサイズが3m程にまで小さくなっており、その両手の装備が何で出来ているのかは誰が見ても一目瞭然であった。
「ナイト・モード……オレの技のひとつだ。」
右手の巨大な槍を横に力強く一閃したハルコンは、盾を前に出し、その横から槍を真っ直ぐ前に向け、再びナム達へ突撃してくる。
「体を修復出来るなら……成程な、自分の体で装備すら作れるわけだな……トウヤ、アレは普通なのか?」
「なわけないだろ、化け物ゴーレムって言ったけど……あれはそんな生易しいものじゃないな!!」
トウヤがそう叫ぶと同時に、ハルコンの周りに重力フィールドが展開される。
トウヤの放ったグラビティ・ホールだ。
ハルコン相手にはかなりの効果を発揮する魔法だったが、彼の重量が多少落ちたせいか、先程よりも進行速度が落ちない。
それを感じとったトウヤは、ナムに向けて手のひらを向ける。
「パワー・ブースト!!」
トウヤの放った力増大の魔法を受けたナムの体は赤く点滅し始め、ナムはニヤリと笑う。
「これは助かるぜ、これ以上ブレスレットは外せねぇからな!」
重力フィールドから飛び出したハルコンは、ナムに向けて右手の槍を突き出す。
それを左に躱したナムは、盾の無い方向から拳を振るう。
しかし、ハルコンは素早くその場で回転すると、自身の盾でその拳を受け止め、盾に大きなヒビが発生して粉砕される。
しかし、ナムの拳の威力はそれで完全に受け止められてしまう。
「厄介だな!!」
「オレ自身が何度も貴様の拳を受けるより、盾を作って受けた方がリスクが低いからな!」
ハルコンは槍を素早く何度も振り回し、それをナムは素早い身のこなしで躱し続ける。
その間にハルコンの盾は自動修復され、素早く元に戻る。
槍の隙を突いてナムは何度も拳を振るうが、それは全て彼の盾の破損だけで受け止められ、受けきれない拳や蹴りは時たま体を破損させようとも、核を露出させるには至らない。
そして体を修復する前に盾を素早く直されてしまい、それをナムが破壊する前に今度は体が修復される。
そんな不毛な繰り返しが起こっていた。
(予想以上に厄介だ……トウヤの魔法のお陰でさっきよりは簡単にこいつの体を破壊できるが、代わりに核を狙いにくくなっちまった!)
ハルコンは盾を前に出してナムの拳を受け止め、槍を素早くナムに向けて振るう。
ナムは慌てて体を反らしてその槍を避け、後ろに飛び退く。
しかし、ハルコンはそれを読んでいたように盾を素早く槍へと作り替え、2本の槍でナムに向けて連続で振るい続けた。
「ちっ!!」
連続攻撃を躱し続けながら舌打ちをしたナム。
体の傷のせいで思ったように体が動かず、時々槍が体を掠って流血する。
(どうするか!!)
ハルコンの素早い2本の槍での攻撃は、予想以上に隙がなく反撃が難しい。
ハルコンの頑強さを考えると、このままでは最後に倒れるのはナムの方であろう。
しかし、頬の横を通り抜けた槍をナムは素早く掴み取ると、槍の先に力を入れて先端を折り取る。
それに驚いたハルコンだったが、もう片方の槍を高速でナムへと振るう。
避けようとしたナムだったが、急に体の傷に痛みが走って僅かに動きが遅くなってしまう。
「貰った!!」
ナムの眼前にハルコンの槍が迫り来る。
しかし、ナムは急に体に衝撃を感じると同時に横へと吹き飛び、ハルコンの槍は虚しく地面に突き刺さる。
「む……貴様か!」
ナムに咄嗟に近付いて蹴り飛ばした張本人であるミナは、ハルコンの突き出した槍を素早く避け、ハルコンの顔へとメイスを叩き込む。
「たく……自分の体の状態見れてないんじゃないの?」
「痛てぇ!?だが助かったぜ!」
脇腹を蹴り飛ばされ、遠くに転がるように移動させられたナムは、涙目で擦りながら立ち上がる。
武器を扱うという関係上、ミナは実はかなり筋力が有るということを脇腹の痛みからナムは思い出していた。
勿論ナムと比べれば全然なのだが、それは比較相手が間違っている。
(間違いなく筋力は俺の次に強ぇだろアイツ。)
ハルコンの両手の槍を、1本のメイスで捌き続けるミナを確認しながら、ナムは自身の傷を確認する。
ミナが縫合してくれてるとはいえ、あまりに激しく動いたせいか、若干血が滲み始めていた。
(長くは戦えねぇな。)
ナムは少しの休憩がてら、視線をミナから外す。
視界の先では、ミナに向けて再度パワー・ブーストやクイック・ベールを掛け直すトウヤ。
そして離れた位置で何も出来ずに歯噛みをしているタイフと、同じく手が出せないでいるリィヤ。
あの2人は申し訳なさそうに、そして心配そうにミナとナムを見ている。
彼等から視線を外したナムは苦笑すると、ゆっくりとハルコンへと近付く。
(ミナとトウヤが何も出来ねぇ相手なんだから気にすることはねぇんだがなぁ。)
ミナとやり合うハルコンを見つめたナムは、彼の弱点である核が存在する位置。
人間で言う心臓の位置を凝視する。
(このままじゃこっちが力尽きる。)
ナムは拳を握り込み、何かを決心したように頷く。
(最悪は……これしかねぇな。)
ナムは腕の最後のブレスレットへと視線を向け、すぐに離す。
ハルコンの大振りの横薙ぎの槍を、距離をとる事で避けたミナは、効果が無いことを知りながらもメイスを振るう。
ハルコンは煩わしそうに槍を高く挙げると、それを再び組み替えて別の物へと変貌させていき、最終的に戦鎚を作り出す。
2本の槍を合わせて作ったその戦鎚はかなりの大きさを誇る。
ハルコンはその戦鎚を躊躇なくミナへと振り下ろした。
「ちょーっとこれは受け止められないわねぇ、私はあの馬鹿みたいに怪力じゃないわ!」
咄嗟に横に避けたミナだったが、戦鎚が地面へとぶつかると同時に、周囲に衝撃波が広がる。
「あっ……!?」
その衝撃にミナは吹き飛ばされる。
咄嗟に後ろへと移動していたタイフに受け止められ、先程のように木への衝突を避けられたミナはほっと息を吐いた。
「今回助けられてばかりねぇ。」
「僕はこれくらいしか出来ないからね。」
タイフに抱えられたミナは、リィヤの近くへと降り立つ。
そしてそれと同時に、仲間達の前にナムも戻ってきた。
「大丈夫か、ミナ?」
「笑ってんじゃないわよ。」
ナムのニヤケ顔を見たミナはイラつきながらもそう返す。
ナム達がそんなやりとりをしている最中の事だった。
ハルコンは、急に自分の頭に手を置いてさすり始め、動きを止めたのだった。
「面倒だ。」
突如そんな事を言い始めたハルコンに対し、ナム達は訝しむ。
「3人はオレの脅威では無さそうだが、魔術師は危険、そしてそこの格闘家はオレにとって天敵……非常に面倒だ……そしてあの3馬鹿が働いてるかも気になり始めた、早く追わねば。」
ハルコンの独り言の意味を捉えかねているナム達は、首を傾げる。
敵はあまりにも隙だらけであり、逆に攻めることが出来ない。
「目的であるヒューマンは我らの手に落ちた……ならば早くこいつらを倒さなくてはいけない……あぁ面倒だ!」
ハルコンはそれだけ言うと、何故か急に体の表面を分解し始める。
「一体何をする気だ!?」
トウヤの疑問にハルコンは応えず、体を分解し続ける。
そして、ハルコンの体のサイズがナムたちと大差ない……そう2m程度の大きさになった挙句、元々ガタイの良かった彼は、まるで人間のようにスリムな姿へと変貌していた。
「どうせオレの頑強さに意味が無いのであれば……全てを武器にしてしまっても問題なかろう?」
ハルコンから剥がれるように分解された彼の体のパーツが、空中に漂うように浮かんでいく。
そして、それは素早く空中で結合すると何かを形作っていくように姿を変え始める。
それと同時に、ハルコン片手に戦鎚を持つと、それを再び盾と槍へと変えた。
ナム達が目を見開く中、頭上で形を変え続けるハルコンのパーツは、1つの見慣れたものへと姿を変えていく。
「あ……あれは……!?」
リィヤは驚愕し思わず声に出したが、他の仲間たちも同じような反応だった。
「あれは……馬!?」
ハルコンのパーツは、馬のような生物へと姿を変え、ハルコンの近くへと降り立つ。
そしてハルコンはおもむろにその馬へと騎乗する。
その姿はまるで、人間の騎兵のようなものと酷似していた。
「パラディン・スタイル、オレの切り札だ……コレで貴様らを葬ってやる!」
ハルコンはそう言うと、自分の体で作成した馬を走らせる。
その速度は通常の馬よりも速度が早く、更にハルコンと同じ素材で作りており、頑強さも兼ね備えたものであることが察せられた。
そして何より、核のある本体の位置が馬の高さ分高くなり、更に攻撃がしにくくなっている。
「成程な……ずいぶんおもしれぇ技じゃねぇか!」
馬に乗ったハルコンは馬上で槍を振り回し、ナム達に向けて突撃してくる。
馬を作った分、ハルコン本体の強度はかなり下がったであろう。
しかしその分速度と身のこなしがかなりしやすくなっている上に、乗っている馬ですらぶつかったらタダでは済まないであろうことは簡単に予想出来る。
そんな敵を見て、ナム達は冷や汗を流し始める。
「でも、チャンスよ!」
「あぁ、あの姿なら俺様達でも何とかできるかもな!」
ナム達は、迫り来るハルコンと対峙する。
2人目の四天王との戦いは再び激化するのであった。
魔法を持たぬ代わりに魔力系意外のステータスが全て振り切れている存在。
それがハルコンです。