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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:ピード

ギーサやセクト長老と別れたナム達とエイルは、村の中を再び歩いていた。



「このギーサさんはこの村の1番の格闘家なんですよ、ぼくも力には少し自信ありますけどあの人には勝てなくて……岩は壊せますけどあそこまで粉々には出来ません!」


(そりゃ最初から粉々になってる岩を固めてるだけだしなぁ。)



ナムは内心でそう思いながらも、敢えて口には出さずに感心した風の返答をする。



「エイルさんも岩壊せるのね、それ凄いことだと思うけど。」


「そうでもないですよ、この村の男の人には割と居ますよ。」


「ギーサだけじゃないんだな?」



トウヤの疑問に、どことなくエイルは上機嫌になると口を開いた。



「そうなんです、若い男の人なら壊せますよ……でも1番粉々に出来るのはギーサさんです!」


(もしかして人によって用意してる岩が違う……そこまでやるか?)



ナムは村人達の狙いに多少気付いていた。


エイルはヒューマンである。

それが先程三武家3人で話し合った彼への見解である。


そして村人達が強いと彼に錯覚させているところを見るに、恐らく彼のヒューマンとしての強さを本人に悟らせない為であると予想していた。


その詳しい理由まではわからないが。



(だがなんか理由がある筈だ、間違いなくな……じゃなきゃ村人達全員がグルになる訳がねぇ。)



この世界においてヒューマンを匿うことは重罪となる、最悪極刑だ。

勿論、友人等がヒューマンだと知っていて隠していた場合に限りである、普通の人間として接している分には罪にはならない。


勿論その場合は警察や軍の取り調べを受けることにはなるが、余程怪しくなければ問題にはならない。


ヒューマンであったロイスという男と親友だったマッド・ウルフのリーダー、ビネフが10年前に罰せられなかった事が良い例である。


しかし、このネット村のようにあからさまに隠したりすれば問答無用である。



(それを知らねぇ訳じゃねぇだろうしなぁ。)



ナムが考え事をしている時、前を歩いていたエイルが何かの建物の前で止まったので、ナムも咄嗟に歩みを止める。



「ここがぼくの家です、今日はゆっくり休んでください。」


「着いたのか、世話になるぜ。」


「昔は家族と住んでいたらしいのですが、ぼくにはその記憶は無くて……そのせいか1人にしては広い家なので、自由にお部屋をお使いください。」



エイルの身体能力を知らなければ、その話を完全に信じて納得してしまいそうな程に用意周到な広さがある建物の扉を開けたエイルは、手招きをしてナム達を招く。



(生い立ちまで用意されてるのか……本人がヒューマンだと隠しててその生い立ちを自分で言ってるならまだわかる。

しかし真実と錯覚させるような、それらしい家まで用意されてる……どうなってやがる?)



エイルに招かれるままに家へと入るナム達。

考え事をするナムの様子に全く気付かない様子のエイルは、最後に自分の家に入る。


家の中は家族で住むにピッタリの広さを持っているが、家具の類は必須の物を除いて殆ど無かった。


質素だが生活感はしっかりと感じられる。



「我が家のようにのんびりしてください、ぼくは1度村の外を矢倉から覗いてきます。」


「随分私達の事を信用してるのね?」


「悪い人達には全く見えませんので。」



エイルは満面の笑みでそれだけ言うと、あえて閉めていなかった扉を通過して外に出ると、ようやくそれを閉める。


家主のいなくなった家の中はシーンと静まり返り、ナム達は部屋の中心のテーブルの周りに集まった。


これも複数人で使用すること前提の大きさである、流石に5人……家主を含めて6人で使うには狭いが。



「確かに1人で住むには広いですし、家具の類も基本的に複数人用のようです!」



宿を除いて、他人の家に入ること自体が初めてであろうリィヤは、何処と無く落ち着かない様子で周りをキョロキョロし始める。



「ナムの家とは比べ物にならない程立派だな?」


「俺の家を悪い方の比較対象にすんじゃねぇよトウヤ。」



声を抑えて笑うトウヤと、額に青筋を浮かべるナム。


そんな2人を放置するかのように他の3人は今後の事を話し始める。



「取り敢えず、ソルジャー・ホーネットが落ち着くまではこの村で足止めだね。」


「そうね……しっかしあの馬鹿、どうやってクイーンを巻き込めたのかしら、アイツの戦闘スタイルならまず無い現象なんだけどね。」


「珍しく格闘でミスをしてしまった、とかですかね?」



ミナは腕を組むと、本気で考え始める。



「いいえ、アイツはそんなヘマはしないやつよ……何か理由がありそうね。」



軽口を言って笑うトウヤの前で憤慨する当の本人を一瞥しながらミナは訝しむ。



「よっぽど……()()()()事をしたのね。」



そのミナの言葉を聞いたリィヤが、何かを思い出したかのように小さな声を上げ、タイフとミナは咄嗟に顔を向けた。



「どうしたんだ?」


「あ、すみません驚かせてしまって……ミナさんにご相談がありまして。」


「私に?」



彼女にしては珍しい相談の要望に、目を丸くするミナ。

リィヤの表情はしっかりしており、何かを決意した目であった。



「試してみたいことがありまして、成功したらミナさんに武器戦闘の術を教えて頂きたいのです!」


「あーなるほど、武器のねぇ………………え?」


「確かに、それならミナが………………はっ?」



ミナとタイフから集中的に視線を向けられたリィヤは、内心ビックリする。

しかし表情を強くすると、言葉を重ねた。



「あのアグニスと言う魔物の技を見て、思いついたことがあるのです……この後少しだけ良いですか?」







「見つかって良かったでござるよ!」


「迷子になるのは勘弁して欲しいでごわす!」


「四天王として恥ずかしい。」



自分達が迷子になったとは微塵も思っていない3馬鹿達から浴びせられる言葉を完全に無視して考え込む紳士服の男。


人間の姿を取るベルア四天王の1人、城塞のハルコンだ。


冷静な彼は、横からの言葉を完全にシャットアウトして思考することが出来るらしい。


横にいる3馬鹿さえ居なければ、この村の人間達から宛てがわれたこの建物は静かであり、ハルコンは内心満足していた。



(さて……どいつだ、この村にヒューマン……つまり同族がいるという噂があったが。)



ハルコンは村に一足先に辿り着いた際に出会った年老いた人間の案内のせいで大して村の中を捜索出来なかった。


邪魔するならば殺そうと思ったが、流石に同族を見つけられていない状況で軽はずみな行動はするべきではないと考えたのだ。


折角勧誘に成功した同族のサジスの生存が怪しい今、これまで以上に秘密裏に行動しなくてはいけない。

3馬鹿の1人であるピードの報告によれば、彼は勧誘に喜び計画を早めてしまったらしい。


そこを偶然町に居合わせた三武家に討伐された、というのが予想されるシナリオだ。



「ピード。」


「なんでござるか迷子殿。」



流石に怒ったハルコンが、ピードの頬に向かって拳を叩きつける。

ピードの被る鎧の兜が大きくひしゃげると同時に、彼は床に倒れ込んだ。



「次はこの程度では済まさんぞ、それよりも貴様は探索は得意か?」


「他の2人よひは得意でごひゃふよ。」


「よし、森の中を捜索しろ。」


「ひょーかいでごひゃふよ!」



頬を抑えて外に飛び出すピードを一瞥し、他の2人へと顔を向けたハルコンは拳を握り込む。



「貴様らもああなりたくなければ、わかるな?」


「流石ハルコン様!おいどんは尊敬してるでごわすよ!」


「吾輩の目に狂いはなかった、素晴らしいお方だ。」



何処と無く感情の篭っていない2人の返答を聞いたハルコンはひとまず満足すると、自身も外に出ようとする。


「何処へ行くでごわすかハルコン様!」


「素晴らしいお方自らが出ることもあるまい。」



3馬鹿、いや2馬鹿の言葉に答えず、無言でハルコンは建物から出て行ってしまった。



「おいどん達はどうする?」


「勝手に行動する訳にもいくまい、ここで休もう。」


「賛成でごわす、ドーガもたまには良いこと言うでごわす。」



四天王が外に出た途端に寛ぎだした2人は、そのまま眠りこけてしまうのだった。





「エイルは何を考えてる、のうのうと自宅まで着いてきた無防備な余所者5人だぞ、なんで襲ってこねぇ。」



エイルの自宅外で暗くなってきた空を見ながら地面に座り込んでいるナムは、思わずそう呟いた。


村人までもがグルになっているこの状況であればナム達を消す事など簡単なはずである。

それでも今までにエイルがこちらに牙を剥く様子がない。


先程矢倉から戻ってきた彼は、留守にしたことを詫びてから夕飯の支度をし始めている。


ナム達の分まで一緒に作ってくれているらしい。



「普通に良い奴だ……訳が分からねぇ。」



エイルの行動に疑問は拭えないものの、悩んでても仕方ないと一時的にその思考を放棄することにしたナム。


襲ってこないならわざわざ戦うことも無いのだ。


思考を辞めたナムは視線を動かすと、遠くの方で仲間2人の姿が見える。


外にいるのはナムだけではない、ミナとリィヤが何かをしているようだった。


少し前に珍しく困惑したミナがリィヤと共に家から出てきて、そのままずっとあの様子なのである。



「訓練か、ミナがリィヤに何を教えるってんだ?」



リィヤが槍のような何かを握っており、それをミナが指導しながらおっかなびっくりと振るっている。



「ミナのやつ槍なんか持ってたか、まぁいいか。」



2人から視線を外したナムは、再度何処と無く視線を動かす。

特にやることも無い彼はただひたすらに外で呆けているのだった。


しかし、そんな彼の視線にある人物が映った。



「ん……あいつは?」



ナムの視線の先、そこにいた人物は青い鎧を着込んだ男だった。


サールの町で、サジスの研究施設にやってきた男本人だった。



「なんでこの村に……そういえば鎧の男が3人とか……待てよ。」



ナムは青い鎧の男の記憶を思い出す。


サジスの研究施設にあの男が来た後、まるでことを急くように計画を早め、アンナが負傷したあの事件。


ナムはその時、あの青い鎧の男が全くの無関係だとはとても思えなかったのだ。



「……声を掛けるか?」



ナムはおもむろに立つと、彼の歩行速度より多少早い程度の速度でその青い鎧の男へと近付いていく。

相手に不自然さを感じさせない行動である。


そして静かに彼の近くに寄ったナムは声をかけようと口を開いたが、相手の行動の方が早かった。


微かな金属音と共に立ち止まる青い鎧の男は、僅かな殺気を振りまいていた。



「何者でござるか?」



ナムが聞いた微かな金属音、恐らく彼の武器である刀を僅かに鞘から抜いた音であろうと想像していた。


正式名称をナムは知らないが、刀は抜く前に僅かに鞘から出しておくとスムーズに抜刀出来る、とミナから聞いたことがあった。


つまり青い鎧の男はすぐさま戦闘態勢に入った事を示していた。



「その独特な喋り方……間違いねぇな。」


「その声、聞き覚えがあるでござる。」



青い鎧の男はその場で素早く振り返ると、ナムの顔を確認する。

そして僅かに緊張を解いたような動きをすると、彼は話しかけてきた。



「サジス殿の研究施設で会ったお方でござるな、あの時は出ていくのを急かす感じになってしまい申し訳なかったでござる。」


「気にすんな、それよりこの村で何してんだ?」



ナムはあくまで雑談をしに来た、という空気を作りながら慎重に青い鎧の男と会話を試みる。


慎重になるのは当然である、彼の刀は僅かな抜刀状態を維持しており戦闘態勢を解いていない。



「この村に拙者が探しているものがある……という噂を聞いて仲間と共にやってきたでござる、」


「仲間……そういえばこの村の長老がそう言っていたな、それよりその武器を収めてくれよ、緊張しちまうぜ。」


「ほう……気付いていたでござるか、かなりの腕前とお見受けするでござる。」



青い鎧の男は、今度はワザと大きく手を動かして刀を完全に鞘に収めると、刀の柄から素早く手を離して戦闘態勢を見た目だけは解いた。


そして青い鎧の男は突如声を押し殺して笑いだす。



「くくく……なるほど……そうでござったか。」


「なんだってんだ?」


「音が立たないよう内切りをしたにも関わらず抜刀を見抜くその聴力、または洞察眼……お主が三武家でござるな?」


「知ってやがったか、それじゃこっちからも質問を1つするぜ……アグニスという男を知っているか?」



その名を聞いた青い鎧の男が体を少しばかり反応させたのをナムは見逃さなかった。



「なるほど、やはりお前も仲間か。」


「やはり……ということはサジスのアジトで会った時にもう勘づかれていたということでござるな。」


「正確にはサジスの奴が恐らくお前に何かを言われて計画を早めたことで……だがな。」



青い鎧の男は肩を落として首を横に振る。

そして視線を再び1度ナムの方へ真っ直ぐ向けると、そのまま背中を向けた。



「ベルアの指示にはお主と戦えと言うものは無かったでござる、今回は見逃すでござるよ。」


「ベルア……?まぁ村の中だからな、そりゃ助かるぜ。」



ナムがそう言ったと同時に、今度は先程よりも大きな金属音と共に青い鎧の男は刀を抜き放って切っ先をナムの眼前に向ける。



「しかしそれは拙者達の仕事を邪魔しない事が条件でござる、もし邪魔をするなら容赦なく殺すでござる。」


「俺達が傍観するとでも?」


「傍観するしかないでござる、この村には4人の仲間……同胞がいるでござる、流石の三武家でも拙者達4人には勝てぬでござろう?」



ナムは顔を強ばらせ、それを見た青い鎧の男は素早く刀を納刀した。



「ベルアに忠誠心など無いでござるが、仕事だから仕方ないでござる……拙者にはお前を殺す理由が()()ないでござるからな。」


「そうか……だがてめぇらが何かをするなら俺達が止める。」


「……聞かなかったことにしておくでござるよ。」



青い鎧の男はそう言ってナムから離れていき、遠くで立ち止まると再び体を捻ってナムの方へ顔を向けた。



「名乗り忘れたでござる……拙者はピード、察してるでござろうから言うが、()()()()()でござる。」


「そうか……俺はナム、ブロウの人間だ。」


「しかと覚えたでござる、知り合いのよしみで伝えておくでござる……用事が終わったら村を滅ぼすから逃げとくと良いでござる。」


「そりゃどーも。」



ナムの返答に満足したピードは、森の中へと消えて行った。


それを見届けたナムは、大きく息を吐いて冷や汗を大量に流した。



(あのピードというヒューマン……強えな。)



ナムは緊張していた、体から滲み出るオーラと言うべきものが、あのアグニスやベルアと大して変わらなかったのだ。


ナムは足早にエイルの家へと踵を返しながら思案する。



(仲間達に早く知らせねぇと……不味いことになる。)



ナムはいまだ流れる汗を拭いながら歩き続けたのだった。

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