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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:エイルとの出会い

四天王アグニスを下したナム達は、最初の目的である魔物の超強化の謎の聞き込みをする為。

集団行動を主とする蜂型の魔物、ホーネット達の巣が大量に存在する森。

通称ホーネットの森の中に存在すると言われる村を目指して移動していた。


しかしそんなナム達の前に大量のホーネットの群れ、同時に司令塔的な存在であるビーストのソルジャー・ホーネット5体と遭遇していた。



「先ずはホーネットを減らせ!」



尻の針を向けて高速で飛んできたホーネットの攻撃を避けると同時に頭を掴んで握りつぶしたナムの怒号が響く。


頭を潰されたホーネットは一瞬だけ体を跳ねさせ絶命する。



「えっぐい倒し方するわねアンタ。」



ナムの所業にジト目を向けながら、自慢の双剣で2匹まとめて首を刎ね飛ばしたミナは双剣に付いたホーネットの体液を振り飛ばす。



「そんなこと気にしてる場合なのか……風属性中位魔法、ハリケーン・ブレード!」



トウヤの生み出した竜巻に数匹のホーネットが吸い込まれると同時に粉微塵に切り裂かれた。



「僕から見ると皆えっぐいよ!?」



タイフの投擲した圏は、動き回るホーネットの首を確実に捉えて刎ね飛ばし、タイフの手元に戻ってくる。

未来眼(サーチ)の力により、素早く動き回るホーネット相手に有利に立ち回れていた。



その様子を後ろから見ていたリィヤも彼等の強さに安心した表情を浮かべながら、ミナに言われたようにバリアを自分の為だけに展開していた。


彼女の身体能力では素早いホーネット相手では不安だからである。



「ここ最近強い敵ばかりでしたけど、本来兄様やあの人達はわたくしのバリア無しでも相当お強いのですよね。」



ナム達がホーネットをリィヤに近付けさせないよう立ち回ってるお陰で心に余裕のあるリィヤは、最近感じる余裕のなかった魔物への恐怖を再認識していた。



(やはりまだ克服はできていませんね。)



リィヤの親友、ミリアを彼女から奪い去った魔物への恐怖はまだ彼女の中で渦巻いている。


今は仲間を守る意識の力で無理矢理耐えているだけに過ぎないのだ。



(しかしいつまでもそれではダメですね、やはりアレを試すしか……うひ!?)



考え事をしていたリィヤの目の前にホーネットの1匹が迫って来る。

思わず目を瞑ってしまったリィヤだったが、バリアへ衝撃が無かったことに気付いて薄目を開けた。



「わりぃわりぃ、1匹逃がした。」



ナムの拳で上半身が消し飛んだホーネットの死骸は、そのまま地面へと力なく落下する。



「びっくりしましたぁ。」


「一応戦闘中だ、考え事は後にしとけ。」


「すみません……。」



ナムの指摘に対して謝りながらも、再び少し考え始めたリィヤを不思議と思いながらもまだ多くのホーネット、そしてソルジャー・ホーネットが残っている為に、それ以上追求せずに戦場へと戻るナム。



(なぁに考えてんだ?)



内心で疑問を感じながらも目の前の状況の変化を見たナムは疑問を頭の隅に追いやる。


ホーネットがあっさりと倒される光景を黙って見ていたソルジャー・ホーネットが動き出したのだ。



「仲間殺されまくって焦ったか……3人とも、奴らが動くぞ!」


「了解よ!」



5匹のうちの3匹がナム達へと突撃してくる。


残りの2匹はホーネット達の司令塔として働くつもりらしい。



「頭良いね、流石はビーストって所か?」


「ナム、アイツ僕でもやれるかい?」


「結構強いぞ、やる気あんならタイフはトウヤ守ってやれ、あとの二匹は俺とミナがソロでやる!」


「わかった!」


「近接もまぁある程度出来るとはいえ、あくまで俺様は魔術師だから前衛が居てくれるなら助かるよタイフ!」


「トウヤの近接戦の腕じゃちーっと危ねぇかもしれねぇからなぁ。」


「それ結構強いじゃないの、ワクワクするわね!」



トウヤの前に移動したタイフを確認したナムとミナは、同時に3匹の内2匹へと攻撃を仕掛ける。


ミナは双剣を、ナムは拳をそれぞれのソルジャー・ホーネットへと振るう。

しかし、彼らは両手の針でそれぞれの攻撃を止める。


ミナの双剣はまだしも、流石にナムの拳は受けきれなかったのか1匹は少し離れた場所まで吹き飛んで行った。



「ちっ……俺は奴を追う、今ので気付いたかもしれねぇが……舐めんじゃねぇぞミナ!」


「私の剣を受けるなんてやるじゃないこいつら、なるほどね……トウヤさんじゃ危ないのも納得よ!」



ホーネットは大型の蜂と言うだけの魔物だ。

しかし1つの巣に10匹前後いるソルジャー・ホーネットは、両手の針をまるで槍や剣のように振るう上にその腕は人間の達人クラスである。


ホーネットが恐れられている原因は主にソルジャー・ホーネットにあるのだ。


全世界を見ても、生息域がこの森くらいにしかほぼ居ないのが救いとなっている。


ナムは自身で吹き飛ばしてしまったソルジャー・ホーネットを追って走り出す。



(妙だな……ソルジャーは巣に危害が及ぶか、同じ巣の仲間が半数以上死なねぇ限り出てこねぇ筈なんだが。)



ナムは先程から聞こえてきている落下音と地面の振動、そして倒木を思い出していた。



(やっぱり誰かいやがるな……それも俺と同等の力を持つやべー奴がな!)



ナムは、何者かが木を引き抜いていることを何となく察していた。

わざわざ引き抜く理由は全くわからないが、ソルジャー・ホーネットが出てきたことを考えると、巣がある木を考えなく引き抜いた結果であることは察する事か出来る。



(何考えてるかわからねぇが、とんでもねぇことしやがる。)



走り続けるナムの目の前に、吹き飛んだソルジャー・ホーネットが映った。


ナムの拳で腕の針が1本折れており、どことなく痛みに耐えてるように見える。



「見つけたぜ……とはいえ、面倒だな!!」



ナムは目の前の光景に悪態をつく。

理由は簡単である。


針の折れたソルジャー・ホーネットの他に2体、別の同種がいるのだから。



「3匹……ちっ!!」



傷付けられた仲間の仇を発見した2体のソルジャー・ホーネットは、怒りを滲ませてナムと対峙する。


針の折れた個体も2体よりも強く怒り表して対峙してきた。



「面倒だな……丁度誰も見てねぇし、アレを久しぶりに使うか。」



ナムは拳を構え、ソルジャー・ホーネット3匹と向き合う。


三武家の1つであり、格闘戦闘術の権威であるブロウの家系の人間には魔力は本来宿らない。


先天性の人体的な異常かはわからない。


その代わりに彼等は異常なほどの身体能力への才能があるのだ。


そこの跡取りである彼に本来なら無いはずの()()と呼ばれるものに集中し始めた。



「クソ親父には人前で使うなと言われてたし、そんなに得意じゃねぇし、準備に時間がかかるしで良い所ねぇから普段は全く使わねぇが、誰も見てねぇ上に数が多いならアリだ!」



ナムは普段格闘しかしない、そのせいで普通の魔術師よりも魔力への集中速度が遅い。


その隙をつくようにソルジャー・ホーネットが3匹同時に彼へと襲いかかって来る。



(俺にはトウヤが言うような、体の1部に魔力を集中させる……なんて言う感覚はわからねぇ、そんなことした覚えがねぇ……ただクソ親父に魔力と教えられた物への集中に時間が掛かるだけだ。)



体の奥底にある魔力と教えられた物への意識を向けながら、目の前のソルジャー・ホーネットへ拳を繰り出した。



針の折れているホーネットが我先へとナムの拳に折れた針をぶつける。


そしてそれと同時に他の2匹がナムへと針の斬撃と刺突を繰り出した。



(既に負傷してる奴が囮になって他のが攻撃ねぇ、流石だぜ。)



2匹からの攻撃をバックステップで回避したナム。


そして針を更に損壊させた1体が再び我先に突撃してきた。



(もう少しだ……あと少し。)



ナムは向かってくるソルジャー・ホーネットへと向かって、待つことなく突撃する。


向かってきたナムを見た針の折れた個体は驚いたように失速する。

それがその個体の命運を分けた。



「減らしとく分には問題ねぇからな!」



ナムは失速した個体へ容赦なく拳を叩き込む。


体の中心に命中したナムの拳により体が半分にちぎれ飛んだソルジャー・ホーネットは呆気なく絶命する。


仲間の死を見た2体は、更に怒りを強くして突撃してくる。



「丁度いい、終わった所だ!!」



格闘戦をしながら集中した魔力に意識を向け、ナムは右手を前に出すと掌を前に向ける。


その行動に不審を持った2体は、速度を落とすが最早遅かった。



火炎竜巻(トルネード)!!」



ナムの掌から発生した横向きの火炎のような竜巻が2匹に命中すると、ソルジャー・ホーネットはその身を焼かれながら強制的に回転し始めた。



「クソ親父に言われたぜ、俺が唯一使える魔法……ブロウ史上初だってよ!!」



ナムの放った火炎竜巻(トルネード)が消え去ると、焦げ目の付いたソルジャー・ホーネットが2体地面へと力なく落下する。


焦げだけでなく多少の切り傷もできているようだ。



「……ちっ、やはりトウヤの下位魔法ほど威力は出ねぇな。」



ナムはソルジャー・ホーネットの近くに寄ると、その体に触れた。


反応はなく、絶命しているのを確認したナムは大きく息を吐く。



「まぁ、死んでんならいいか……ん?」



ナムは2匹の死骸の先を見る。



「んん……?」



ナムはその先のモノへと目を凝らす。


そこにはもう1つの何かが見えた、そう……ホーネットのような。

ソルジャー・ホーネットよりも更に一回り大きい蜂型の魔物。


見るからに絶命している。



「あ…………やべっ。」



ナムはそれの正体を確認すると、全力で走り出す。


いつになく必死な表情で。



「やらかしたぜ……アレは……クイーン・ホーネットだ。」



自分自身が手を出すなと厳命したクイーン・ホーネットを、火炎竜巻(トルネード)に巻き込んで殺したことを悟ったナムは、ミナ達の元へと急ぐ。





「ナム遅いわねぇ!どこでサボってんのよ!!」


「昼寝してたりしてな?」


「やらないとは言いきれないのが怖いわ!」


「俺様の冗談のつもりだったが、否定できない。」



ミナの足元には1匹のソルジャー・ホーネットの死骸が転がっている。


いくら人間の達人レベルとはいえ、それを超越するアーツのミナの前には無力だったようだ。


トウヤから離れた位置にも風魔法で切り裂かれた同種の死骸が転がっていた。



「あと2匹だね!」


「タイフのお陰で助かったよ、あの敵思ったより強いな。」



タイフはソルジャー・ホーネットと戦闘してトウヤへ意識を向けさせないよう立ち回り、隙をついてトウヤがトドメを刺したのだ。



「さて、ナムが戻ってくる前に片付けて折檻よ!」


「スマンなナム、余計な冗談言った。」



これからのナムが受ける折檻を想像したトウヤは内心で合掌した。



まだ多くのホーネットに指示を出すためか、2匹の内1匹だけが突撃してくる。


司令塔を残す知能を持つソルジャー・ホーネットの厄介な所だ。



「私がやるわ!」



ミナは双剣を構えると、同じくソルジャー・ホーネットへと突撃して剣を素早く袈裟斬りを繰り出す。


それを針を斜めにし、剣が滑るような角度にして受けたソルジャー・ホーネットの行動で、ミナは相手の思惑通りに体勢を崩して転倒しそうになる。


その隙に、ソルジャー・ホーネットはもう片方の針でミナに向けて刺突を繰り出した。



「引っかかったわね。」



ミナは転倒しそうな体勢を、自ら更に崩してほぼ倒れる直前の姿勢になると、上に向けて双剣を振るう。


頭に向かって突き出された針を首を逸らして避け、繰り出した双剣は見事にソルジャー・ホーネットの首を捉えて斬り飛ばした。


倒れる直前で地面へと拳を突き立て、高速で立ち上がったミナはもう1匹のソルジャー・ホーネットへと視線を向ける。



「受け流し技術まであるなんて、蜂とは思えないわね!?」


「それに対処するミナもやっぱり化け物だなぁ。」


「失礼よタイフさん!?」



抗議するミナの前で、最後のソルジャー・ホーネットは慌てふためいているように見えた。


部下のような存在であるホーネットでは彼等に勝てず、同種のソルジャーすら自分を除いて全滅した事に驚いているようだ。



「さて、最後の1匹は俺様が……ん?」



トウヤが魔法を放とうとした時だった。


これから倒そうとしていた筈のソルジャー・ホーネットの首が急に切り落とされたのだ。


ミナの動体視力の前に映ったそれは、まるで木こりが使うような斧だった。



「大丈夫ですか!?」



絶命した最後のソルジャー・ホーネットを見たホーネット達は、慌てて散り散り逃げ去っていった。


最後に残った人物は、青髪短髪の村人そのものの姿をした青年だった。

顔立ちは爽やかなイメージを抱く容姿で、歳は20前後だろう。



「間に合って良かった……あ、申し遅れました、ぼくはエイルでこの先の村……ネットの村の住人です!」



目の前に現れた男、エイルは満面の笑みでミナ達へと笑いかける。



「凄いわね、ソルジャーを。」


「後ろから不意打ちでしたから、貴方達こそソルジャーをそんなに倒すなんて……お強いですね!」



エイルは指先を森の中へ向ける。



「ソルジャーが発生しています、この先に村があるので案内しますよ!」


「助かるな……リィヤ、もう大丈夫だ!」


「はい!」



バリアを解いたリィヤが、嬉しそうにトウヤの元へと駆け寄る。

余程不安だったのかもしれない。



「あ、あと1人仲間がいるのよ、すこーしだけ待ってもらえる?」


「この森の中を1人で!?」


「大丈夫よ、頑丈だから。」



そんなことを話す彼等は、遠くから近寄ってくる気配に気付く。



「この速度は……ナムだな。」


「やっと戻ってきたわね。」


「なんか言ってない?」


「確かに……微かに声がするような気がします。」



リィヤの言葉に、仲間達は耳を傾ける。



「早く森を抜けるぞ!!クイーンやっちまった!!」



ナムの大声を聞いた仲間達は首を傾げ、エイルは表情を強ばらせた。



「早く行きましょう!村に入れば安全です!!」


「え、ナムが言ってた気はしたけど、なんかまずいの?」


「国が潰れたらどうする、とか言ってたよな……でももうソルジャーは殲滅したが。」



エイルは素早く前に出ると、村の方角へと指をさして大声を上げた。



「ホーネットの巣は実は全て同盟してるんです、クイーンが死んだら警告音を出します、森の中全ての巣からソルジャー・ホーネットが出撃して大量に森の中を巡回するんです!だから早く!」


「は、は、早く逃げましょう!?」


「そりゃ不味い!?」


「なぁにやってくれてんのよあの馬鹿!?」



エイルの案内するネット村へ向かってナム達は本気で走る。


これが彼等とエイルとの出会いだった。

ナムの魔力の有無については過去の話に記載しています。


序章:最後の三分家ですね。


一応後付けでは無いことだけ……

(本当はリィヤの屋敷で明かす予定がここまで伸びました。)



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