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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:次の目的地

ナム達の因縁の相手であるベルアの親衛隊である四天王。


業火のアグニスを辛うじて倒した彼等はトラルヨークへと舞い戻った。



この町の最高級の宿屋である、神のゆりかご……ではなくもう5ランクほど下の民宿、<隠れ家>の机の周りでナム達は話し合っていた。



「整理するわ、あのアグニスというヒューマンはベルアの名を知っていたわね。」



机の上の隠れ家の女将の入れたお茶を片手に、ミナはアグニスの漏らした言葉を反芻する。



「ズズ……む、正確にはベルア様とね……つまりアイツは奴の部下だな、これはアグニス本人も言っていた。」



トウヤは茶を啜りながら、ミナの言葉に補足する。



「リィヤの屋敷に紛れていたベルアも、ビースト3匹を部下にしてた……全員俺達が倒したが、四天王というアイツらとは比べ物にならねぇの程の強さを持つ部下が居た。」



ナムは彼にだけ出されているパンの間に具を挟んだ料理を、喋り終わった後におもむろに頬張る。


ナムだけ贔屓されてる訳でなく、早朝であるこの時間に料理を注文したのが彼だけだっただけである。


しばらく咀嚼して飲み込んだナムは、料理を皿に置いた。



「その1匹に俺達は5人まとめて戦って昨日の有様だ、これはマジでやべぇぞ。」


「そうね……万が一アグニスの体の秘密がわかってなかったら、私達も今ここに居なかったかもしれないわね。」



アグニスは不死身に近い体を持っていた。


正確には握りこぶし程度の大きさである火の玉、ファイボが正体だった。

ナム達に見えていた人型の魔物は全て偽物だったのだ。



「四天王全てがそうだとは限らないかもしれないけど、ああいう特殊な個体だらけである可能性は高いよね。」



既に飲み物を空にしているタイフは、アグニスのことを思い出していた。



「ベルアを倒すには……その四天王という存在が立ちはだかるんですね……。」


「恐らく……いやほぼ確実にな、更に言うとサールのサジスの研究施設に現れたあの男も俺は怪しいと思ってる、四天王だけじゃねぇかもしれねぇ。」



ナムは怪しいと思いながらも仲間達に伝えていなかった懸念を話す。


サジスの元に現れた、特徴的な言葉を使う青色の軽装鎧を着込んだあの男。

ナムはあの事件のからあの男も怪しんでいたのだ。



「それって、あの時のアイツかしら?」


「そこまで悪い人には見えませんでしたけど……待ってください、そうなるとあの人も?」


「奴がベルアの仲間だと仮定すると、人間と見分けが付かない……つまりヒューマンの可能性があったことになる、随分と演技の上手い奴だった訳だ。」



ナムはそれだけ言うと、料理の残りを全て口に入れて咀嚼し始める。



「刀を持っていたわね……あの男もヒューマンなら……ベルアは相当な戦力よ。」


「俺様的には勘弁して欲しい所だけどなぁ……今回の戦いだってかなりギリギリだったんだぞ?」



珍しく泣き言を言うトウヤ。


炎を操る魔物という先入観で水に拘った結果とはいえ、彼の魔法が最上位含めてことごとく破られたことに少なからず思う所があるようだ。


しかし、今回のアグニスに対してはトウヤの力無しでは勝てなかったことは事実であり、仲間達もそのことは理解していた。



「仕方ないと思うよ、正体知らなきゃ氷の方が苦手なんて分からない。」


「おめぇは良くやったぜ、最初から無駄に氷を使ってたら、アグニス自身が氷が苦手だとアイツに気付かれて警戒されて更に不味い状況になっていた、結果オーライだ。」


「氷撃てばあっさり勝てた訳じゃないの?」


「残念ながらミナ、そうじゃねぇ……アイツがエターナル・ブリザードを受けたまさにその瞬間に炎を自分に纏わせて暖めてたら勝てなかったんだぜ?」



ナムの言葉にミナは驚く。



「そうか、トウヤが水魔法で意識をそっちに向けたから、もう手遅れの段階まで冷やせたわけか。」


「その通りだタイフ、ついでに毎回同じ動きをしてたせいで、半分流れで戦闘してたアイツにも原因がある、全員の力でようやくアイツに勝てたんだよ。」



ナムの言葉に仲間達は嬉しそうにそれぞれ頷く。



「問題は……やはり四天王……そしてベルアですね。」



リィヤの呟きを聞いたナムは無言で頷く。



「アグニスを倒したからな、すぐさまは無いだろうがベルア達も気付くだろうよ、これもアイツが最期に言っていた通りだ、間違いねぇ……その内確実に他のやつが俺達を狙ってくるぜ…勿論ベルアの野郎もな。」



リィヤはその名を聞いて表情を引き締める。



「いずれは……ぶつかるのですね?」


「あぁ、あんな危険な奴ほっとく訳にも行かねぇだろ?」


「はい!」



ナム達はお互い目線を合わせると、誰からでもなく席を立つ。



「さて、私達はどうする?」


「さぁな……トラルヨークにも、もう結構長くいるな……そろそろ出発するのも悪くねぇかもしれねぇ。」


「確かに、この町にはまた来れば良いからね。」



三武家の3人はそう言うと笑い合う。



「わたくしら本で読んだことがあるのですが、ここから東の森に隠れるように存在する村があるというお話です!」


「それは有名だね、でもその森って確か……。」



リィヤの話した森について、タイフは記憶を辿ると顔を青ざめさせる。



「あぁ……通称<ホーネットの森>、その名の通りノーマルである蜂型の魔物の<ホーネット>が大量生息している危険な森だ。」



ナムはニヤリと笑うと、東へ指を指した。



「悪くねぇかもな、案外そう言う所に凄い情報があるかもしれない、次の目的地はそこにしようぜ。」


「なんでわざわざ危険なところに行くんだよ!?」



タイフの抗議は全うである。


ホーネットはノーマルの中で、最も多い数で集団生活をする魔物として有名である。


個々もそこそこの強さを持つ上に数の暴力で襲い掛かるホーネットはかなり恐れられているのだ。



「さっきも言った通りだ、なんか情報知ってる人間が居たら良いなぁ程度の理由だぜ。」


「そんな理由なの!?」



タイフはさらに抗議をしようと言葉を探すが、自分達の旅の目的を思い出すと押し留める。


魔物の謎の超強化の謎。


様々なトラブルに見舞われ続けて予想以上に戦いの旅になってしまっているが、ナム達の旅の本来の目的はそれなのだ。



「本来の目的も進めないとね。」



トウヤの言葉も後押しして、タイフは森に行く流れを止める事を諦める。



「大丈夫よ、タイフさんの実力ならホーネット位なら余裕で倒せるわ。」


「1匹なら行けるかもだけど、アイツら大群で来るからなぁ。」


「1匹2匹と戦えるように動くのも訓練になる、おめぇは未来眼(サーチ)のお陰でスタート地点は俺達より恵まれてんだぜ、もっとタイフは強くなれる!」


「ナムにそう言われちゃ、僕も頑張るしかないね……はぁ。」



ナム達は方針を決めると、宿から出て町の入口へと歩みを進める。


ベルアの脅威を警戒しつつも、1人を除いてどこか楽しげな彼等は東の森。


ホーネットの森目指して進むのだった。






東に存在するホーネットの森。


その近くに4人の人間達が立っていた。



「ここがホーネットの森……この先に居るのだな?」



黒い紳士服と高そうな帽子で身を包み、顔に深い皺を持つ高齢の男が杖を片手に森へと向かって仲間を連れて進んでいた。


3色別々の鎧を着込んだ男に守られるように進むこの男。


とてもじゃないがこの危険な森を抜けるには彼だけ装備が貧弱すぎるように見える男は、そんな事を気にもせずにどんどん森へと近付いていく。



「噂通りなら良いが……無駄足にならない事を祈るとしよう。」


「煙のない所には……ってやつでござる。」


「おいどんもそう思うでごわす。」


「吾輩もそう」


「いや、同じような事3回も言うな疲れる。」



紳士服の男の周りを歩いていたピード、ワパー、ドーガはその言葉に驚いた。



()()()()も疲れるでござるか!?」


「吾輩も知らなかった、これは大きな発見だな。」


「素晴らしいでごわす!!」


「3馬鹿どもが……はぁ。」



紳士服を着た男は、露骨にため息を吐くと首を横に振った。



「そんな事より、しっかり演技頼むぞ。」


「そこは任せるでござるよハルコン…………様!」


「お前今さり気なく呼び捨てにしようとしたな?」



紳士服を着た男に化けている、四天王の1人。

城塞のハルコンは3馬鹿を連れてホーネットの森へと侵入する。



「まぁ良い、目的は分かっているな?」


「勿論だ。」


「問題ないでごわす!」


「しかし、どいつでござるかねぇ?」



ピードの疑問に、ハルコンは指に手を当てて考え込む。



「しばらく村に住みこんで調べるとしよう、誰だかわかれば……他の人間に用はない、その時は任せるぞ。」


「御意。」



ピードは腰に携えた刀の柄に手を触れ、ワパーとドーガもそれぞれ頷いた。



「ベルア様の為、しっかり働くとしよう。」



紳士服の男……ハルコンは表情を笑顔に変える。



偶然か必然か、ナム達が向かっている場所に新たな敵が近付いていた。


この事は勿論、彼等はまだ知らない。





「三武家とその仲間達はこの町から出発してしまったようです。」


「そうか。」



トラルヨーク軍副司令官であるケンジからその報告を聞いたダルゴは興味無さそうに簡単な返事だけを返す。


それと同時に、今この場に居る同僚の数人が露骨に残念な表情に変わるのを確認したケンジは、彼等に訝しげな表情を向けた。



(最近1部の部下が彼らの話をすると露骨に反応するようになったな、なんなのだいったい?)



正確にはリィヤの情報を求めている彼女の同好会のメンバーなのだが、そんなものが軍の中に作られていることを知らないケンジ。


不思議に思いながらも彼は視線をダルゴへと戻した。



「まぁいずれは出ていくとは思っておった、驚くようなことではなかろう。」



ダルゴは書類整理を続けながら、一切視線をケンジに向けることなくそんなことを言い始めた。



「しばらくは我等だけでこの町を守らねばなりませんねぇ。」


「何を馬鹿な事を言うのだジン、元に戻っただけで何も変わらんではないか。」



ダルゴは面倒くさそうにそう返答するが、勿論彼等の心配もわかってはいる。


昨日の魔物を見た軍の人間達の中には、これからの防衛を不安視する声が上がっているのも事実である。


勿論ダルゴはそれを聞いた途端に訓練を課して無理矢理押し込んだのだが。



(しかし、由々しき事態ではあるな……全く儂の部下として情けない……訓練増やすか。)



ダルゴから何か嫌な空気を感じたケンジとジンは冷や汗を流し始める。


2人は知っていた、この勘は大体当たることを。



(地獄の訓練か、それとも厳しいペナルティか?)


(両方の可能性を忘れちゃ駄目だねぇ。)


(ダルゴ司令官ならやりかねん、むしろやる。)


(部下達が哀れだねぇ。)


「なんか言いたいことがあるのか?」


「「いえ何もありません!」」



視線だけで会話していた2人の様子を目ざとく睨みつけるダルゴの言葉に、2人は天敵を目の前にした小動物のようにすかさず反応する。



「最近部下がたるんどる気がするのだ、なぁケンジ?」


「は、はぁ確かに。」


「これは鍛え直さねばなるまい?」


「直ちに!!」



ケンジは内心でやはり、と部下達に合掌しながら執務室から飛び出す。


それを見たジンはダルゴの視線を察知すると、彼もまたすぐに行動を開始した。



「コーヒーを入れてきます。」


「馬鹿者!紅茶だ!」


「直ちに!」



ダルゴの好みはコーヒーか紅茶、もしくは緑茶だ。


ダルゴの気分で飲みたいものが変わるため、一種の博打になっている上に、連続で間違えるとダルゴの怒りの雷が落ちる。



(とほほ、次のミスで雷だねぇ。)



ジンは泣き言を言いながら執務室の隣の給水室へと走る。



ナム達が去った後も、トラルヨーク軍の幹部達の変わらない何時もの日常は繰り広げられる。


アグニスから守られたこの日常。

それを成してくれた彼等へ内心感謝をしているダルゴを中心に。

今回は休息回です。


ダルゴ達トラルヨーク軍の出番もしばらくお休みです。


次から新たな展開です。

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