2章:アグニスとの決戦
トウヤは作戦会議中にナムから耳打ちで言われた言葉を思い出していた。
「すげー弱い魔法でいい……おめぇは隙を突いて下位の水魔法をサラッとアイツの胴体に当てろ。」
ナムからそう聞いた時、トウヤもナムが何を言いたいのかわかった。
鋼火炎の炎は鋼へと姿を変える。
その強度は鋼と大差なく、剣を作れば鋭くなるしハンマーを作れば質量武器にもなる。
矢じりだって作れるし鎧だって作れる、万能な能力なのはトウヤも知識としては知っていた。
そして水に触れるとその鋼は消滅することも。
だからトウヤはナムの言う通り、多くの水魔法で敵の視線をそちらに向けさせ、隙を突いて玩具の水鉄砲と大差ない威力の魔法を右下腹部へ放ったのだ。
音も無く彼の体をあっさりと貫通した水鉄砲を見たトウヤは驚いた。
本来であれば木さえ貫通できない程のものだったからだ。
(俺様の知識はあくまで能力迄だった、流石だよナムは。)
トウヤはそう言いながら、再び水魔法を準備する。
後ほど、アグニスの正体を暴く事になる水魔法を撃つ為に。
「なんだあれは……!?」
ナム達と見知らぬ魔物との戦いを、トラルヨークの外壁の上で見ていた軍の人間の呟く声が響いた。
そんな呟きをしてしまうのも仕方ないことだった。
彼等の目の前では長きに渡る戦いが繰り広げられ、そして突然魔物が巨大化したのだ。
驚いたのは呟いた軍の男だけでは無い、この戦いを見ている同僚たちは皆例外なく巨大化した魔物へ各々の恐怖の視線を向けていた。
戦うのが自分でなくて良かったと思う者もいれば、こんな魔物にいくら三武家の人間と言えども勝てるのだろうかと心配する者もいる。
そんな部下達の空気を感じながら、ダルゴはナム達の戦いを見守る。
(何をやっておる……部下達が不安がるであろう馬鹿者共!)
内心でナム達に毒づいたダルゴは大きくため息を吐くと、その流れで大きく息を吸い込む。
「狼狽えるな!奴らが負けたら次に相手するのは我々なのだ、弱気になってどうする!」
上司であるダルゴからの叱責の大声を聞いた部下達は一瞬で視線を彼に向け、狼狽え始める。
「……彼等が負けるような相手に我々が勝てると!?」
「そうです!確かに我々も対魔物のエキスパートの自覚はあります!しかしあんな魔物は初めてです……私としては先に家族を避難……」
「黙れぇ!!」
弱音を吐く部下達に、ダルゴはすかさず大声で一括する。
その声に驚いた部下達は、弱音を止めた。
「今まさにあの巨大な魔物と戦ってる馬鹿者共が勇敢に立ち向かっているというのに……儂の部下である筈の貴様らがそんなザマでは奴らに顔向け出来んではないか!」
ダルゴは怒りを滲ませた顔で部下達の方へ向き直った。
「この場から居なくなることは許さん、家族を守りたいなら全力で戦え!
この町に家族がおる訳でもない奴らが今まさに踏ん張っているのだ、貴様らだけ逃げることは許さん!」
それだけ言うとダルゴは再び前を向いて、ナム達の戦いを眺め始める。
「それでも尚自分の事を優先するなら良かろう、儂は奴らの戦いから目を離せぬ……1人2人居なくなった所でわかる訳もない、好きにしろ。」
ダルゴのその言葉に部下達は顔を見合わせる。
そしてそれぞれが一斉に頷くと、誰1人動くことなくナム達の戦いへ視線を向けた。
「逃げんで良いのか?」
部下達はその言葉に対し、一斉に短く肯定の意味を持つ返答をする。
その返答にダルゴは微かに笑い、そして指を見知らぬ魔物へと指を向ける。
「奴らが負ける前提で戦闘準備をしっかり整えろ、過信は寿命を縮めるだけだ!」
その言葉に、部下達は今日何度目かの武器や銃の点検、魔術師部隊は魔力の総量等を確認し始めた。
そしてそんな命令を下したダルゴは、ナム達への暴言とも取れる言葉を発したとは思えないほどの信頼の眼差しを向けていたのだった。
「振り下ろしからのなぎ払い!」
「おうよ!」
「助かるわ!」
タイフの大声を聞いたナムとミナは、彼の言葉を全面的に信頼しながら対応する動きを始める。
タイフの言った通りに20mを超える巨人へと化したアグニスの攻撃が降りかかる。
彼のサイズに合わせ、鋼火炎で作製された2振りの剣を避けたナムとミナ。
そしてそれぞれがアグニスへと攻撃をするが、同じく鋼火炎で作製された体を持つアグニスに対しては全くといって有効打になっていない。
ヒューマン化した特殊個体のファイボである彼の本体は、握りこぶし程度のサイズである。
20mを超す巨大な魔物へと変貌した彼の体内の何処に本体がいるのかなど、皆目見当もつかないナム達は、無駄だとわかっていながらも攻撃を続けるしかないのだった。
そんな2人からの攻撃を簡単にいなしながらも、アグニスは自身の視線をとある場所へと釘付けにしている。
この人間達の中で1番危険な男であり、アグニスにとっては天敵とも言える人間。
トウヤである。
(あの野郎の水魔法は油断ならないんだよ、このアグニス様の鋼火炎の鋼は水に触れると消えちまうからな!)
アグニスはナム達の思惑に気付いていた、ナムとミナの2人で視線を撹乱し、隙を突いてあの男の水魔法をぶつけるつもりだと。
(その手には乗らねぇ!)
注視しているトウヤに動きがあるのを確認したアグニスは、ナムとミナに対して牽制として纏っている炎を一旦体から離して操り始めた。
そしてアグニスの予想通り、トウヤが手を前に突き出して放った巨大な水弾に対して炎を激突させる。
「ダメか!」
アグニスが巨大化してからもう既に数発目になる水魔法を放ったが、今までと変わらずに簡単に相殺されるのを見たトウヤは悔しそうに声を発した。
アグニスが完全に自身を警戒していることに気付いているトウヤだが、だからといって魔法を止めることも出来ない。
アグニスの本体を倒すには、鋼火炎で作製されたあの巨大な偽物の体を消し、本体を引きずり出すしかないのだ。
しかし、強力な炎を自在に操るアグニスに対して水魔法を命中させることは容易ではない。
トウヤの水属性最上位魔法、ハイドロ・ウォールすら敵の炎に相殺されているのだ。
(流石の俺様でも最上位ばかり連続で放てば魔力がもたない、何より仲間達を危険に晒す。)
トウヤの同時魔力集中箇所は6箇所に及ぶ。
それを利用してトウヤは敵の隙を突きながら魔法を放っているが、実は1箇所だけ集めた魔力を使わずに置いてある箇所がある。
最上位魔法を全力で放てるだけの魔力を集中させたまま温存している左手だ。
特に狙いがある訳では無いが、これが切り札になるという直感で温存しているものとなる。
(きっとこの状況を打破するタイミング、そして魔法があるはずだ。)
トウヤはそう考え、再び右手を前に出して魔力を集中させ始める、勿論両肩にもだ。
しかし、無闇に放つだけではアグニスの炎によって相殺されるだけだとわかっている彼は、ナム達の動きをよく観察してタイミングを図る。
「水属性中位魔法、アクア・スピア!」
トウヤが放った水で作られた複数の槍は、まるで矢のようにアグニスへと突撃する。
それと同時にトウヤの肩からは水属性の上位魔法であるアクア・ブロウが言葉を発することなく発動され、アグニスの頭上へと巨大な水の塊が生成される。
アクア・スピアで気を引き、アクア・ブロウを当てる作戦である。
しかし、アグニスは視線をスピアにでは無く頭上のブロウへと向けると、炎を全てそちらに放ち始める。
(くそ、そう来るか!?)
トウヤの思惑通りにはいかず、呆気なく相殺されるアクア・ブロウ。
そしてアクア・スピアはそのまま素通りでアグニスの体を貫通した。
「小賢しい人間だ、この体のサイズならそんな豆鉄砲みたいな水なんて怖くねぇんだよ!!」
アグニスの言う通りにスピアの貫通した穴は、彼の体のサイズにしては小さかった。
それすらも一瞬で炎を纏わせて修復したアグニスは、ニヤリと笑う。
「危ねぇのはさっきからポンポン撃ち続けてるその水玉とさっきの巨大な波の魔法位だぜ、馬鹿な人間だなぁ!!」
トウヤはその言葉に悔しそうに表情を歪める。
しかし、アグニスがそんなことを言ってる間に隙を突いたミナがバトルアックスでアグニスの右腕を肩から切り落とした。
「油断大敵……よ!」
ミナが切り落としたアグニスの右腕は大きな音を立てて地面へと落下する。
「馬鹿が……そんなことをしても無意味だと、このアグニス様の秘密を知っていながらまだわからねぇか!?」
アグニスは咄嗟に炎を右腕のあった場所へ集めると、一瞬で腕を再生……いや再作製した。
「そんなのわかってるわよ、うるさいわね……ナム出番よ。」
「あ?俺にそれを使えと!?」
「アンタも剣くらい使えるんでしょ、流石にアーツの私でもそれは無理よ。」
「ちっ、主義に反するが……仕方ねぇか!!」
ナムは地面に落ちたアグニスの右腕に近付くと、おもむろに右腕が握ったままの巨大な剣を、握ったままの拳を砕いて持ち上げた。
それを見たアグニスは驚愕の表情を向ける。
「喰らいやがれ、まぁ俺の剣じゃ対したダメージなんて……おっと、そもそもダメージなんてねぇな!」
ナムはアグニスが作製した巨大剣を保持したまま跳躍すると、それを彼に向かって振り下ろす。
慌てたアグニスが咄嗟に剣でそれを受けようと頭上に動かすが、ナムが力任せに振るった剣は、アグニスの剣をへし折り体へと直撃する。
「なにぃ!?」
「剣術なんて修行した事ねぇからな、素人同然だぜ?」
剣を初めて使った子供の如くに技もなくただ力任せに振るわれる剣。
しかしそれすらもナムの怪力の前では想像を絶する破壊力を持つ。
更に20mの体に合わせて作製された巨大な剣である為、破壊力は更に増している。
勿論、そんなものを振り回せるナムがおかしいのだが。
アグニスの体を縦に両断したナムはすかさず剣を素早く戻し、今度は袈裟斬りでその剣を力任せに振り下ろす。
両断された体を更に斜めに切り落とされたアグニスの体は、音を立てて地面へと崩れ去る。
そこにトウヤがすかさずアクア・ブロウを2発放ち、それを落下させた。
「しゃらくせぇ!!」
4つに分断されたアグニスのパーツの1つ、頭の部分から炎が噴出され、アクア・ブロウとぶつかり相殺される。
「くそ……折角ナムが作ったチャンスが!」
「仕方ねぇよ、アイツはお前を1番警戒してる。」
ナムにそう言われたが、トウヤは自分の情けなさに歯噛みしていた。
(何か手は無いのか……このままでは先に体力が尽きるのはこっちだぞ!?)
トウヤは考える、考えながらも絶え間なく魔法を放っているが、アグニスは自分の体を修復しながらついでのように相殺し続けている。
徐々に元の姿に戻りつつあるアグニスを見ながら、トウヤは考える。
「なに、何度でも両断してやるぜ……ゆっくり考えろトウヤ!」
ナムは再び巨大な剣を構えて突撃する。
そして、それを軽々振り回す彼を見ながらトウヤは頭を捻り始める。
(あの体を消して、そして本体に攻撃する方法……鋼火炎で作製された鋼は水で消える、だからこそ水で先ずは体を消して……。)
そこまで考えたトウヤは、ふと違和感を感じた。
自分は何か忘れていないだろうかと思考を整理する。
(鋼火炎の鋼を何とかすることに執着してないか?水だとさっきから相殺され続けて効果が無いのに、ひたすら水に拘っていないか?)
相手の弱点は水だ、それは間違いない。
しかし完全にマークされている上に相殺する力を持つアグニス相手には無意味なのではないか。
そう感じたトウヤは、記憶を探って奴への対処を考え始めた。
彼が思考している間も、ナムとミナはタイフの指示に従って避け、無理な攻撃はリィヤの近くに寄り、バリアで防いでいる。
(考えろ、あいつを何とかできるのは俺様だ……なにか……あいつの正体は拳サイズの火の玉であるファイボ……ん?)
トウヤは頭によぎったヒントを辛うじて拾い上げる。
そして必死に手繰り寄せたそのヒントを元に過去の記憶を探る。
(そうだ……あいつはファイボ……あくまでファイボなんだ!)
トウヤは俯いていた顔を上げると、左手に集中させ続けている魔力を変換し始める。
そしてそれが終わるまでの間、ほかの体の部位の魔力も変換して魔法を唱え始めた。
「すまん皆……巻き込むぞ!」
トウヤは敢えて仲間に聞こえないようにそれを呟くと同時に、何度目かの水魔法をバラバラにアグニスに向かって放つ。
それに反応したアグニスは、再び自身に纏わせている炎を操り、それぞれ対応しようと動き始めた。
(あいつの炎が1人勝ちしてる訳じゃない……相殺されてるんだ、つまり!)
トウヤの水魔法にぶつかり合う炎は、各所で蒸発と消化の反応を示す。
それを見たトウヤは、すかさず左手の魔力を変換を終わらせ、左手をアグニスへと向けるのだった。
トウヤの放つ水魔法に対処するアグニスは苛立っていた。
近くでナムの振るう自身の作った巨大剣を受け、時々もう1人のミナの攻撃。
そして、反撃しようものなら不思議と先読みをしてるかのごとく避けられ、リィヤのバリアに攻撃が阻まれる。
苛立たない方がおかしいのだ。
(その上であの水魔法男の相手をしなきゃいけねぇとはな、このアグニス様でなければ死んでたぜ!)
内心でほくそ笑んだアグニスは、次々と飛んでくるトウヤの水魔法に炎をぶつけ続ける。
懲りずに放ち続けられる魔法にウンザリしていたアグニスは舌打ちをした。
「めんどくせぇ!さっさと燃えやがれこの人間どもが!!」
近くでうろちょろする2人に剣を振るい、そして放たれる魔法に炎を向かわせる。
最早この戦闘で何度も繰り返された、ある意味慣れた動きだった。
アグニス自身も少しずつ行動が最適化され、先程よりも素早く対処出来ている感じまでしてきている。
(このアグニス様はまだ成長するのか、末恐ろしい魔物だぜ全く!)
内心で自画自賛したアグニス。
フレイム・タイタンアーマーは自身を巨大化させ、更に本体の位置をわかりずらくさせる技だ。
彼にとってこの技を使うということは正体がバレているという証であり、本気で戦わなければ危ない敵と相対している事を示唆する。
(それが同じ魔物ではなく人間とはな……こいつらを燃やしたら評価を変えなくちゃいけなそうだ。)
アグニスはそう思いながらも、片手間のように2人に向かって剣を振るう。
その時だった。
(あ?なんか動き辛くなった気が?)
アグニスは違和感を覚え始める。
しかし、それを気のせいだと判断した彼は、変わらずに慣れた動きをし続けた。
2人に向かって剣を振るい、魔法に対処。
魔法に対処しながら、剣を振るう。
最早何も変わらない。
そう思っていた、この時までは。
(……おかしい、なんかだんだん寒く……!?)
アグニスは違和感に気付いたが、それは最早遅かった。
最初の違和感を無視した時点で、アグニスの敗北は決まっていたのだった。
「なるほどな……そうだよな!」
アグニスの姿を見ていたナムは、珍しく息を切らせながら感心した。
トウヤが途中で水魔法に紛れ込ませるように放った魔法。
それは氷属性の最上位の魔法。
一定範囲を吹雪が舞う極寒の大地へと変貌させるブリザード・エリアだった。
味方を巻き込む最上位魔法を、ナム達に相談なく放たれた時は驚いたが。
仲間達はそれに対して怒りは全く湧かなかった。
「そういえば、ファイボの群れをこの魔法で殲滅したわね、私も忘れてたわ!」
ファイボは火の玉型の魔物だ、しかし実体を持たないファイボに対して本当に効果があるのは水ではなく、周囲の温度を下げる氷属性なのだ。
土壇場でそれを思い出したトウヤは多くの水魔法で撹乱し続けながらこの技を紛れ込ませたのだ。
しかもあの時のブリザード・エリアよりも更に魔力を込め、威力を強化した彼の正真正銘の本気の魔法だ。
アグニスの体に雪がつもり、明らかに動きが遅くなった様子を見たナム達は、勝利を確信する。
勿論彼らもブリザード・エリアの効果範囲に入っており、体に襲いかかる寒さは尋常ではない。
タイフとリィヤに至っては誰から言われるまでもなくバリアの中で引き篭っている位だ。
「な……なにを……したぁ……!」
言葉すら満足に話せなくなったアグニスの困惑する声を聞いたトウヤは、ニヤリと笑ってから言葉を発する。
「自分の足元が見えないか?君の周りの温度を下げさせてもらったよ。」
「な……に……?」
アグニスは本当に何もわからないと言った風な態度で、硬直する。
しかし、それだと不味いことを本能的に悟ると、再び炎を生成しようとし始めた。
しかし。
「なぜだ……炎が……出ねぇ……!?」
アグニスは何度も炎を出そうと努力するが、何も考えずに生成出来ていた炎が出なくなっていた。
「知らねぇのか?本人の事だろう?」
「なんの……ことだ……ぁ?」
ナムは本気で驚いたように表情を変える。
「てめぇらファイボは寒さに弱い、周りの気温が下がると炎すら出せなくなるんだぜ、知ってるもんだと思ってたがな。」
「馬鹿な……この……アグ……ニス……様に……そんな……弱点が……!?」
本気で知らない風のアグニスに対し、ナムは少し考えてから言葉を発した。
「なるほどな、本来のファイボは無意識に寒い所に近付いたりして本能的に悟るものだ、しかしてめぇは変に知能があったから無闇に雪山みたいな場所に近付かなかった、だからこそ気付けなかった……ってところか?」
ナムの言葉を聞いたアグニスは、どんどん動かなくなる自分の体を意識しながら過去を辿る。
「確かに……何故かは……わからねぇが……避けてた……な……ハハハ……!」
アグニスの巨大な体の手から、力なく巨大剣が落ちる。
「まさか…………この…………アグニス…………様が…………こんなところで…………終わる…………とはな。」
自身の周りを鋼で覆っているアグニスは、普通のファイボよりも寒さに極端に弱くなっていた。
それを証明するかのごとく、ノーマルのファイボよりも早く弱り、巨体は膝から崩れ落ちていく。
「楽しかった…………ぜ…………三武家…………だがな…………このアグニス様が死んだと…………あれば…………仲間も動き…………だす。」
命が尽きようとしている影響か、鋼火炎で作製された体は少しずつ崩れ去っていた。
「覚悟…………しやがれ…………最後に…………死ぬのは…………貴様ら…………だ。」
アグニスは最期にそれだけ言うと、その巨体は崩れ去りながら消滅していく。
ナムの持っていた巨大剣も同様に崩れ去り、完全にアグニスの活動が停止したことを確信したナム達は、彼等にしては珍しく地面へとへたり込む。
「勝ったな、すげーギリギリだった気がするぜ。」
「いやほんとにしつこい奴だったわ。」
「正体を掴めてなかったら負けてたかもね、危ない危ない。」
「四天王1人でこの強さ……僕これからついていけるかなぁ。」
「わたくしも心配になってきました……。」
ナム達はアグニスに勝ったことを一先ず喜んだ。
そしてしばらく休んだ後、トラルヨークへと彼等は帰還する。
町の外壁の上で、喜びの動きをする軍の人間達を眺めながら。
アグニスとの戦いは決着です。