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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:世界の中心

サールの町を旅立ったナム達は、町と町の間の平原の途中で発見した魔物、ノーマルの群れを眺めていた。


早めに気付けたお陰で、まだナム達が近くにいることはバレずに済んでいる。


その群れはトウヤの屋敷にも出現した、大きさは握りこぶし程度の火の玉型の魔物、<ファイボ>である。


数えるのも嫌になるほど集まっているようだった。



「うわぁ……なんか凄い数です。」



リィヤは若干肩を震わせながらファイボの群れをトウヤの背中に隠れて見ている。

元々は魔物の名前を聞いただけで錯乱していたとは思えないほど、魔物への恐怖心は改善しているようだ、勿論完璧ではないが。



「気を付けろ、小さい魔物だが奴の吐く炎はかなり強いぞ、しかも実体がねぇから普通の武器じゃ倒せねぇ……まぁそれは俺達には関係ないがな。」


「水は効くのか?」


「どっちかと言うと冷気、つまり寒くした方が効くらしいぞ、魔法に関しては俺はわかんねぇがな。」



ナムの返答を聞いたトウヤは頷くと、右人差し指に魔力を集め始める。



「最上位魔法のブリザード・エリアを放つぞ。」


「うっ……分かった。」



タイフはその魔法の名前を聞いて一瞬硬直し、引き攣った顔で返答する。


リィヤの屋敷で戦ったビースト、スノーマンにその魔法を使われたタイフは若干苦手意識を持っているようだ。



(寒くて動けなくなった所にアイツの攻撃に何度も狙われて、若干トラウマなんだよな。)



タイフは内心でボヤくが、油断しなければ使用させずに勝ててたことも考えると自業自得なので何も言えないのだった。



トウヤの準備が終わったのを確認したナム達はお互い頷きあい、トウヤがファイボの群れの方向へ右人差し指を向ける。



「氷属性最上位魔法、ブリザード・エリア!」



トウヤが小声で魔法の名前を呼ぶと同時にファイボの群れ中心に猛吹雪が吹き始める。


その範囲はあのスノーマンが放つより広い。



「私もあの時見てたけど、あの雪だるまでもかなり広範囲だったのにそれ以上……流石ねトウヤさん。」


「魔物なんかに負けられないからね……お!動きが鈍くなっていくぞ。」



トウヤの言葉にナム達は大量のファイボの群れの動きを確認する。


彼等は急に気温が下がったことに困惑するようにウロウロと動き回り続けており、既に数匹は地面へと落ちて消火されてしまった。



「おぉ……効果絶大だね。」


「ナムさんは魔物の知識が豊富なのですね!」


「拳で戦う必要があるからな、知識無しだと危ねぇんだよ。」



かなりの数のファイボか地面に落ちては消えてゆく様を眺め続けること数分。

群れをなしていたファイボは1匹残らず消滅した。



「全滅したな……よし進むぞ。」



トウヤがそう言って自身の放ったブリザード・エリアを解除する、途端に吹雪が止まり、残るのは地面の積雪だけとなった。



「やっぱりノーマルの大群ならトウヤさんに任せた方が早いわね。」


「俺とミナじゃ数匹ずつになっちまうからな、殲滅は出来るが日が暮れちまう。」



ファイボの大群をあっさり片付けたナム達は、トラルヨークを目指して移動し続ける。





そうすること数時間、視線の先に巨大な建造物が見え始めた。


石で出来た巨大な壁に鋼鉄の被覆を張り巡らせた、頑丈な防壁だった。



「うわ……あれがトラルヨークかな?」



タイフは目を凝らしてその巨大な防壁を見つめ、その堅牢さに驚いた。


防壁の上にはバリスタや大砲等の武器が大量に配備され、壁の所々には細かな穴が空いており、そこから銃などの射撃武器で外を狙えるように設計されているようだ。


遠目で見る限り壁の上に軍服を着た人間達も配備されており、望遠鏡等で外を絶え間なく警戒している。



「まるで物語のお城のようですね。」


「あれなら1番住みたい町No.1にもなるな、間違いなくとんでもねぇ堅牢さだ。」


「安全と引き換えに、とんでもなく家とか高いけどね、私は値段みて目玉が飛び出たわよ。」


「指名手配されてた時に近付いたら即効で捕まってたんだろうなぁ。」



他の3人とは若干違う感想を呟いたタイフにナム達は一瞬だけ目線を向け、無言で元に戻す。



「俺様は町の外に家を作りたいって言ったら猛反対されて辞めたよ、魔法の訓練が出来ないし。」



トウヤもかなりズレた感想を言い始めたので、当時助けに向かったナムとミナは大きくため息を吐いた。


その様子を見たトウヤは首を傾げているが、スルーすることに決定した2人はトウヤを無視してトラルヨークへと近付いて行く。



町へ近付くにつれて防壁の上の軍の人間がこちらに気付き、腰にぶら下げた大きな移動式電話を持った1人が、それで何か連絡を取り始める。


防壁の上の人間達が行動を起こしている間にナム達は町へと到着し、門の前にいた軍の人間2人に止められたのだった。


2人共黒を基調とした軍服、頭に立派な軍帽を着込んでいる。



「トラルヨークへようこそ、簡単な検査を行いますのでお願いします。」



そう言って軍の人間達はナム達の持ち物等を調査し始める。

1人が男性でもう1人は女性のようだ。



「厳重だね。」


「そりゃそうだろうぜ、何せ世界一堅牢な町だからな……そうだ、名前を明かした方がいいか?」



軍の人間達2人は、笑顔になって手を横に振る。



「望遠鏡でミナさんの姿を確認させてもらいましたし……他の方も<ビギン>の町のサブロ町長からお聞きした、三武家の特徴そのままだったので分かりました……情報に無い方も2人ほどいますが、貴方達の仲間なら信頼できます。」


「あらそう、話が早くて助かるわ。」


「そういや俺たちの町そんな名前だったなぁ。」



ナムのそんな呟きに、困惑したミナとトウヤは信じられないものを見るような目でナムを見る。


流石に自分の町の名前すら覚えてないとは2人共思わなかったようだ。


そんなナム達を見て思わず吹き出しそうになりながらも軍の人間の2人は簡単に検査を終わらせると、トラルヨークの門を開放した。



「どうぞお入りください、それとひとつだけお願いをしてもよろしいでしょうか?」


「なんだ、俺様達になんか出来ることがあるのか?」



トウヤの言葉に2人同時に頷き、女性の方が口を開いた。



「貴方達がここに来る少し前に連絡があったのですが、我らが所属するトラルヨーク軍の副司令官がお呼びとの事です!」


「今からすぐにという訳ではありません……ですが用事が終わり次第、軍の基地へお越し頂けると助かります!」



2人は背筋を伸ばして綺麗な敬礼をしながらそんなことを言い始めたのだった。



「よくわかんねぇが、後で寄りゃ良いんだな?」


「「お願いします!」」



2人は揃ってそれだけ言うと、元々待機していた場所まで戻って先程と同じように待機し始めた。


それを話の終わりと判断したナム達は、2人に手だけ振って町の中に入る。


そして門の中に入った後、ナム達の後ろから何やら声が聞こえてきたのでナム達は一瞬止まる。



「さ、三武家の人達と話しちゃった!!」


「今日担当でよかった!!」



門の所にいた2人の歓喜の声を苦笑いしながら聞き流したナム達であった。





町中を歩いているナム達は、目の前に広がる光景に目を奪われている。



「す、凄く高い、確か……そうです……びると呼ばれる建物です!初めて見ました!」


「そこそこの数の建物が20階前後近くあるね、民家とかは普通の感じだけど、如何せん数が多いね。」



リィヤとタイフは初めて見る町並みをキョロキョロしながら歩いている。


トラルヨークはこの世界の中で1番発展している町だ。


町の至る所に高層ビルが立ち並び、車両もかなりの量が走り回っている。


今まで回ってきた町や村では見れない光景だった。



「こう見ると私達の町も結構発展してたように見えるけど、比べ物にならないわね。」


「ドルブやサールには車なんて走ってなかったしね……ビギンも大きい方なんだけどな。」



ナム達の町、ビギンは車もそこそこ走るような町だったが、1部の人間しか自家用車は持っていなかった。


しかしこの町の車の量は異常である。



「なんか別世界に来たみたいです!」


「お前ら目的を忘れんじゃねぇぞ、まずは武器と防具だ。」


「ナムは相変わらずね。」


「興味なしって感じだな!」



ミナとトウヤに小馬鹿にされたナムは2人を睨みつけるが、ため息を吐いて諦める。



「とはいえ町も広いからどこにあるのかわからないよ。」


「迷ってしまいそうです。」



それを聞いたナムは確かにその通りだと感じ、少しだけ思案する。



「いつものアレいくか。」


「アレってなんだよ。」



ナムの言葉にすかさずトウヤが聞き返すが、ナムはキョトンとしている。



「おいおい……わからねぇのか?聞き込みだよ!」


「……だと思ったわ。」



ミナの諦めの言葉を皮切りに、彼等は道行く人達に向かって聞き込みをし始める。


相変わらず目立ちまくりな事実に彼らは気付いてはいない。





トラルヨークの中央部に存在する軍の基地。


ナム達が聞き込みをしている同時刻に、その基地内部では1人の男が落ち着きなく歩き回っている。


その男は他の軍の人間よりも立派な軍服を着込み、勲章のようなものを肩等に装着しており、階級の高い人間だという事が雰囲気でわかる。



「そこまで待たれるなら即来てもらった方が良かったのでは?<ケンジ>副司令殿?」


「いや……それでは流石に申し訳ないだろ、でも確かにそれも一理あるか、いやしかし。」



ケンジと呼ばれた副司令官を務める男は、なんとかなりの若手の男だった。


彼に物申した男の方が歳をとっており、こちらの方がベテランに見える。



「見張りからの報告の感じですと、防具がかなり損傷しているらしいですぞ?防具屋に連絡を取れば捕まえられましょう。」


「それは本当か<ジン>……!いやしかし防具がそれほど摩耗するならば武器だって……!」



ケンジ副司令は再び頭を抱えながらウロウロし始める。


ジンと呼ばれた男は肩を落としてやれやれと言うように首を横に振り始める。



「お早めに決断なさらないと……また<ダルゴ>司令官にドヤされますぞ。」


「むぐ!?」



ケンジの脳内に自分の唯一の上司の顔が浮かぶ。


怒り顔が容易に想像出来てしまったケンジ副司令は、顔を青ざめる。



「それに、あの手紙が本当ならば……タイムリミットは明日までですぞ。」


「う……確かにその通りだ。」



ケンジ副司令は再び悩み始める。


その様子を黙って見ているジンは、不思議とそれ以上急かすことは無かった。


しばらく悩んでいたケンジ副司令は急に立ち止まると、顔を上げてジンを見る。



「よし、わたしが偶然を装って直に頼みに行くとしよう、偶然なら急かしたことにはなるまい!」


「予想斜め上の発想ですな!?」



ケンジ副司令は決断すると同時に部屋から出ていこうとする。

そして扉を開ける手前で動きを止めた彼は、ジンに向かって視線を動かした。



「もし入れ違ったら連絡を頼む!」


「あ、はい。」



それだけ言い残してケンジ副司令が扉の向こうへと消えたのを確認したジンは大きく息を吐いた。



「決断すると本当に行動が早いものだ……その決断がいつも予想斜め上なのが恐ろしいが。」



それがケンジ副司令の悪い所であり、良い所でもあるのを知っている彼は少しでも時間を稼ぐため、とある部屋に向かって歩き始めた。



「気が重い。」



独り言を言いながらジンがたどり着いた部屋は軍のトップの部屋。


ダルゴ司令官の執務室だった。


彼は長い間悩み、意を決して扉を2度ノックして数秒後に開ける。



「ケンジ副司令はまだ奴らを連れて来ないのか!?」



部屋に入ると同時に飛んでくる怒号に思わず肩を竦めたジン。


ダルゴ司令官は椅子を窓に向けており、ジンには背中を向けたままである。



「彼らの装備がかなり消耗していることを危惧したようで、先に彼らの用事を優先させたようです。」


「なに?ケンジのやつは相変わらず甘い男だ!そんなもの後にさせればよかろう!?」


「自分もそう進言したのですが、聞き入れませんで……今彼らを追って町に出たところです。」



その報告を受けたダルゴ司令官は椅子を回してジンの方向へ向き直った。


最早見慣れた男、軍内部で理不尽のダルゴと影で呼ばれるトラルヨーク軍のトップ。

鍛え抜かれた筋骨隆々の体に鼻の下にだけ髭を伸ばした50歳を超える強面の男は貫禄に溢れている。



「5分だ!」


「はっ?」


「5分で奴らを連れてここに戻れと伝えろ!」


「いや、しかし……」


「良いな!!」



ケンジを擁護しようとしたジンだったが、やはりダルゴ司令官の前では言い訳すらさせて貰えない。


分かりきっていた結末に脳内だけで肩を落とすと、首を縦に降る。



「伝えます。」


「よろしい!」



そう言ってダルゴ司令官は椅子から立ち上がり、再び体を窓に向けると近くまで移動した。



「マッド・ウルフめ!」


「忌々しい名ですな。」



ダルゴ司令官に相槌を打ったが、すぐにこちらに振り返って、まだ居たのか貴様と言わんばかりの表情で睨まれたジンは慌てて部屋から退室した。



その様子を見届けたダルゴ司令官は再び窓に向かって視線を戻す。



「三武家……儂よりは弱いじゃろうが猫の手も借りたい、仕方あるまい!」



とんでもなく自信家でもある彼はそんなことを言いながら大きく笑い出す。



ナム達が知らぬ間にこの町で何かが起ころうとしていたのだった。

トラルヨーク到着からの新たな事件の匂いです。


今回初めて名が出たナム達の町は実はかなり発展している町でした。

今更ですが。


トラルヨークの内部は現代のビル群を想像してくれるとかなり近いです。

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