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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:かけがえのない友人

サールの町の水面下で暗躍していたサジスを間一髪で撃破したナム達。


アンナの治療が行われている病院へ戻る前に、サールの町の警察へ今回の事件を報告して事後処理を頼んだナムが警察の詰所から出てくる。



「終わったのね。」


「あぁ、事件の概要を伝えたら警察の連中顔面蒼白だったぜ。」


「そりゃそうだろうな……町の有名人が水面下でとんでもない事してたんだから。」



ナムの報告に納得するミナとトウヤ。


その後ろではタイフとリィヤも立っている。



「とりあえず奴のアクセサリーの回収とあの研究施設の調査を依頼しておいた、コレでもう大丈夫だろ。」


「それでは、アンナさんのところへ!」


「どうなったか心配だ。」



リィヤとタイフの言葉に頷いた3人は、急いで病院へと戻る。



「アンタもそれ治療してもらったら?」


「ん……あー、そうしとくか。」



ナムの体は先程のサジスとの戦闘で最後のブレスレットを外したことによる皮膚の裂傷だらけとなっていた。



「随分また無茶したな、助かったけどな。」


「あぁしなければ間に合わなかった可能性が高かったからな、皮膚の慣らし訓練を怠ってた俺が悪い。」


「それは確かにあんたのせいね、3つ外した状態がアンタの本来の強さなんだからしっかりやっといた方がいいわよ。」


「耳が痛ぇな。」



前を歩くナム達の会話を聞きながら歩くタイフとリィヤ。


トウヤの最上位魔法で多少ダメージを受けていたとはいえ、サジスが展開していた強力なバリアを一撃で破壊したあの殴打が彼の本気だと言う事実に、2人は愕然とする。



「……3つ目外してなくても鋼鉄の扉壊してたよな、トウヤの魔法も一撃であの部屋の武器全部壊してたし、ミナもリィヤの屋敷の時にあの機械のビーストを巨大な火炎で倒してた……。」


「わたくしには分からない世界です……はい。」


「三武家って怖いな。」


「一応わたくしもそうなんですけどね。」



一般人に近い2人は、前の3人のレベルの違いを再認識したのだった。


しかし彼等もこの3人の力になれている、かなりの実力者であるのだが本人達は自覚していない。



雑談しながら歩く彼らの視界に、この町の病院が映った。





ナム達が病院に入り、ヨウコとサリーと別れた場所までやってきた。


そこにはヨウコのみが椅子に座っており、サリーの姿は見えない。


ナム達に気付いたヨウコが明るい顔でこっちに近付いてくる。



「サジスの奴はどうな……うわ、すごい怪我!?」



戻ってきた彼らの中で1番傷を負っているナムを見て驚くヨウコ。



「安心して、サジスに負わされた訳じゃないから……それよりアンナちゃんは?」


「それよりって……まぁいいや、結構前に治療が終わって部屋に移されたんだよ、サリーの連絡で目も覚ましたって!」



ヨウコは本当に嬉しそうにはしゃいでいる、勿論深夜の病院なので声は抑えているが。



「本当か、じゃあ早くお見舞いに行かなきゃな。」


「命に別状なくて良かったです!」



ナム達はヨウコの案内でアンナの病室に向かう。


そしてヨウコが1つの病室の扉を開いて中に入ると、ナム達もそれ続く。

中ではサリーがベッドで横になっているアンナと向き合っており、ナム達が入ると同時に左しか見えない視線を向けてくる。



「そっちも無事だったのね。」


「うん、サジスは対処した。」


「なら良かった。」



今の会話を聞いていたアンナはそこまで驚いているように見えない、恐らくサリーかヨウコから事前に聞いていたのだろう。



「聞いたよ……サジス博士がとんでもない事考えてたって。」



アンナは横になったまま顔だけを向けて言葉を発する。


いつもの明るい感じではなく、どこか元気がないアンナは相当ショックを受けてるように見えた。



「すまねぇな……サジスは俺達がトドメを刺しちまった、もうこの世にいねぇ。」


「仕方ないよ……まさかあのアクセサリーが全て爆弾だったなんて、まだ信じられない。」



アンナは涙ぐみながら呟いた。

アンナにとってサジスはそれほどの憧れの存在だったのだ。



「……あたしはこれからどうすればいいのかな。」



アンナはベッドから右腕を出す、肩から先が無かった。



「治せなかったみたいだね、仕方ないよね……あたしの持ってたアクセサリーが原因なんだからさ……。」



アンナの持っていた試作品の爆弾はかなり威力が下げられていたとサジスは言っていた。

この程度の傷で済んだのはむしろ幸運だったのだろう。


彼女の心を無視するならば、だが。



「最初は何があったのかわからなかったのさ、アクセサリーの材料を買うために急いでたら、突然体に凄い衝撃があって……あたしの記憶はそこまでさ。」



アンナの独り言のような呟きに何も言えないナム達。



「意識を取り戻したら泣き顔のサリーがいて、右腕を見たらさ……驚いたよね、無かったんだからさ、しばらく混乱して何も考えられなかったよ。」



アンナの独白を黙って聞くナム達。


ヨウコとサリーは俯きながら手を震わせていた。



「……ごめんね、変なことばかり言って……リィヤちゃん、あのイヤリング大切にしてくれたら嬉しいな、あたしの多分最後の作品だから。」


「アンナさん……。」



リィヤはアンナから渡されたイヤリングを強く握りながら俯く。



誰もがアンナの境遇に言葉を発せないまま時が過ぎようとした、その時。



「いい加減にしなさい。」



アンナとナム達は驚いて声の発せられた方向を見る。


視線の先には俯いていたサリーがいた。



「あんたらしくもない、元気だけが取り柄のアンナはどこ行ったの。」


「なっ……サリーにはわかんないよ、尊敬してた人に裏切られた上に、そのせいで右腕まで無くなっちゃって目標すら叶えられなくなったあたしのことなんて!」


「ちょ、ちょっとサリー……。」



2人の言い合いに弱々しく仲裁しようとするヨウコ。


そんな彼女たちに何も言えないまま押し黙るしかないナム達5人。



「そうやって腐り続けるならそうすればいい、だけどそのままじゃあんたは今後何も出来なくなる。」


「サリー、言い過ぎだって!」



アンナとサリーの言い合い、というより容赦のないサリーを窘めるヨウコ。

本来大人しい彼女にしては珍しいことである。



「どうすりゃいいわけ……こんな状態のあたしにどうすれば!」


「何がしたいの。」



サリーの問い掛けに押し黙るアンナ。


そしてしばらくの間俯くと、決心したように顔を上げる。



「あたしの目標は変わんないよ……アクセサリー職人だよ!サジス博士は確かに酷い人だったみたいだけど、あたしはあの人のアクセサリーに感動したのは間違いないんだから。」



アンナの強い言葉にサリーは頷く。



「じゃあ、なれば良いじゃない。」


「だからどうやって!」



サリーはアンナの大声に怯むことなく懐から紙を出す。


その紙を訝しげに覗き込んだアンナは、目に映った文字を見て表情を変える。


ナム達やヨウコもその紙を後ろから見て、サリーの思惑に気付くと驚きの表情に変わった。


サリーの手には義手のような物が描かれた紙があった。



「それ……今開発中の義手じゃない、脳波を使って思うように動かせるようになるとか噂だけど……すごい高いって。」


「それが?」


「え?」



サリーは髪をかきあげて、隠れていた右側の顔をさらけ出し、耳元に着いたイヤリングを見せる。


赤い宝石が取り付いた煌びやかな物だった。



「ワタシはこういう物を沢山持ってる、誰のおかげ?」


「……!!」



サリーはアンナから紹介された客を格安で宿泊させる代わりに、毎度アンナから宝石等をねだっていた。

彼女のイヤリングはそれの1つだ。



「宿にまだ沢山、全部売り払えばかなりのお金になる。」


「ちょっ!いやいや!あんたそういうの集めるのが趣味だったじゃん!?」


「アンナの力になれるならこんなの惜しくない。」


「サリーあんた……!」



サリーの提案に驚くヨウコとアンナ。



「まだ開発中だけど、悪くないと思う、どう?」


「あ……あ、えっと。」



アンナは目に涙を浮かべながら紙を凝視している。



「まぁ、ワタシの宝石全部でも足りないかも。」


「町の人に掛け合えば資金位出してくれるよ、美容師舐めんな!ツテならいくらでもあるよ!」



サールの町の美容室で働くヨウコは、町の人との交流が深いのだ。


ヨウコの顔の広さと、アンナの事件を知っている町の人達なら資金援助を拒まないであろう。



「……ありがとう、2人とも。」



ヨウコとサリーは頷き、泣き顔のアンナと向き合い続けていた。



その様子を黙って見ていたリィヤは、彼女にとって大切なミリアの顔を思い出していた。



「懐かしいです、この感じ。」



リィヤの呟きに仲間たちは彼女の過去の話を思い出して頷く。


そして彼等はヨウコとサリーを残して病室から静かに出たのだった。





その後、ナムの治療も兼ねて1日サールの町に滞在した彼等は町の出口付近を歩いていた。



「休憩のつもりで寄ったのに疲れちまったな。」


体に包帯を巻いたナムは医師の静止を振り切って町から出ようとしていた。

まだ普通の人間なら出歩ける状態ではない。



「あんたってほんと体だけは頑丈ね。」


「あの医師が哀れだよ。」



アンナの治療を担当したという医師が、包帯だらけで外に出ようとするナムを病院の廊下で唖然として見つめ続けていた姿が記憶に残る。



「僕は心配だなぁ、そんな状態で本気出せるの?」


「わたくしなら間違いなく痛みで動けないと思います……。」


「そんなヤワな鍛え方してねぇよ、問題ねぇ。」


「訓練をサボらなければそんな状態にならずに3つ目を外せた筈だけどね!」


「うっせぇ!」



最早恒例となったナムとミナの言い合いを眺めながら、サールの町の門を開こうとしたナム達。


しかしその手は聞きなれた声で止まることとなった。



「やっぱり黙って出ていこうとしてたね!」


「薄情者。」



驚いたナム達が振り返ると、そこにはヨウコとサリー、そしてヨウコに押されて車椅子に乗ったアンナが居た。



「ちょっ、アンナちゃん出てきて大丈夫なの!?」


「無理言ってね、今日1日だけさ。」


「あの医師そのうちストレスで倒れそうだな。」



意地悪な顔をして笑うアンナを見たトウヤは、今頃心配し続けているあの医師の心労を想像する。



「すっかり元気になったじゃねぇか。」


「まだ痛み止め無いと悶絶するくらい痛むけどね!」



そう言うアンナは何処か嬉しそうである。



「世話になったよ、この町……ううん、下手すると他の町まで大きな被害になってた可能性があったんだ、本当にありがとう。」



ナム達は黙って頷く。


そしてリィヤがアンナに近付いて彼女から貰ったイヤリングを外す。



「これ、大切にしますね!」


「雑に使っちゃいな!」


「うん、雑。」


「うぉい!?どういうことよ!!」



酷い言い草のヨウコとサリーに抗議するアンナ。


リィヤも驚きで固まっている。



「だってすぐ次にもっと良いもの作るでしょ!」


「初心者の頃の作品で逆に恥ずかしくなるかも?」


「あんたらぁ!?」



アンナとヨウコそしてサリーの言い合いを固まったまま眺めていたリィヤだったが、その意味を悟ると笑顔に変わる。



「はい、()()()()()待ってますね!」


「……任せな!」



左手で自身の胸元を叩いたアンナは誇らしそうにドヤ顔で返す。


そんな彼女を見たヨウコとサリーはアンナに見えない位置で満面の笑みを浮かべるのだった。





3人と別れを済ませたナム達はサールの町から出ると、再びトラルヨーク目指して歩き始めた。


どんどん小さくなるサールの町の音楽を聞きながらナム達は雑談をしながら移動する。


アンナのこれからの活躍に期待しながら。

サールの町……アンナ編終了です。


そしてすみません!

毎回執筆がギリギリなので次から3日投稿から5日にします!


これ以上は増やさないよう努力します……。

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