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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:ネイキッド

サールの町、正確には町が近い外の平原に、青のフルフェイスの兜を装着し、青色の軽装鎧を着込み、刀を装備した男が町から上がる煙を眺めている。



「始まったでござるか……嬉しいのは分からんでもないが、せっかち過ぎるでござるよ。」



やれやれと言わんばかりに肩を落とした特徴的な口調の男は、そのまま町から離れていく。


町中なら突然聞こえた爆発音の意味をこの男は知っていたが、流石に行動が早すぎることに呆れているようだった。



「まぁいいでござる……お。」



青色の軽装鎧の男の前に、2人の人影が見えた。

今回の仕事を頼まれ、一緒に着いてきた仲間である。



「終わったのか?<ピード>。」


「<ドーガ>、<ワパー>終わったでござるよ。」


「ならば早く帰るでごわす、おいどんはもう眠い。」



ピードと呼ばれる青色の軽装鎧の男に話しかけてきた2人は、それぞれが同じようにフルフェイスの兜を装着した男達だった。


かなり太っているため、腹回りの部分が大きく広がった特殊な赤色の軽装鎧を着込み、巨大な斧を背中に装備し、眠気を訴えているワパーと呼ばれた者。


右手に、厚みが10cm以上の体全てを覆えるほどの巨大なシールドを装備し、黒色の重装鎧を着込んだドーガと呼ばれる者である。



「サジスの奴を勧誘に成功したでござるが、まぁあの通りでござる。」


「ふん、せっかちな奴だ……バレても知らんぞ。」


「こんな夜中でバレることはまず無いでごわす、さぁ戻るでごわす!」



3人はワパーの帰宅願望に苦笑しながら移動を開始した。


青、赤、黒のフルフェイスの兜と鎧を装着した3人は、非常に目立つ集団であるが、時間的に人間は外に居ても野宿している時間であり、誰の目にも止まること無く進み続ける。


ピードを先頭に後ろをのんびりと付いてきているドーガとワパーの3人、若干ドーガの方がワパーより遅いようだ。



「お前ら2人とも遅いでござる!!特にドーガ!なんでタダの勧誘の仕事にそんな重装鎧と盾を着けるでござる!」


「馬鹿言うな!何時でも着けていなければ危険に対して対応できんぞ!」


「そのせいで行軍速度下がったでござる!もっと早く来る予定だったでござる!」


「おいどんに速度を求めるなでごわす、ピードが早すぎるでごわす。」



移動しながら言い合いを始めた3人は、ピードが肩を落としたことで終結した。


しかし、納得がいかないピードは再び愚痴を言い始める。



「拙者1人なら1日で終わったでござるのに!」


「ふ、お前のその華奢な鎧では何も守れまい!」


「ピードは力もないでごわす、おいどんを見習うでごわす!」


「あぁぁぁ!!うるさいでござる!!目障りでござる!!お前らのせいで拙者まであいつらに<3馬鹿>呼ばわりされるでござる!!」


「違うな、吾輩が巻き込まれている、馬鹿なのはお前達2人だ。」


「心外でごわす!巻き込まれてるのは、おいどんでごわす!」


「そんな事はどうでも良いでござる、さっさと<ベルア>の所に戻るでござる!!」



ヨウコがアンナの悲劇に気付きナム達を呼ぶために行動している中、騒がしい3人は自分達の主のベルアの元へと帰還する。


サールの町に混乱という結果を残しながら。





ナム達が今回の件の黒幕に気付き、彼の住居である研究施設へ移動している中、病院で治療されているアンナを待ち続けるヨウコとサリー。


サジス博士のまさかの所業に驚愕とショックは大きいものの、それよりもアンナの安否の方が大切だった。



「酷い怪我だったよ、右腕とその周辺なんか特に……大丈夫かな。」


「懐のあのアクセサリーが爆発したから当然……心配。」



アンナの容態が気になっている2人、ヨウコは当然ながらサリーもどことなく元気がないように見える。



「……アンナばかり心配してるけど、本当はもっと大変なことになってるんだよね。」


「博士のアクセサリー全てが爆弾……だと本当に大変、でもワタシ達じゃどうにもならない。」


「そう……だね。」


「あの5人を信じるしかない。」



2人がそんな事を話してる間、アンナを治療している部屋の扉が開いた。


その音に驚いた2人は視線を向け、扉の中からおそらく担当であろう医師が出てくる。



「……アンナさんの御家族で?」


「家族じゃない、友達。」


「アンナは大丈夫なの!?」



担当であろう医師が2人の関係を何となく悟ると、静かに語りだした。



「治療が効きましてね……命に別状はありません、しかし右腕に関しては治療が不可能です。」


「えっ!?」



ヨウコはあんまりな事実に驚き、つい声を出してしまう。



「ダメージが大きすぎたのですよ、このままでは間違いなく壊死してしまいます、切断するしかありません……勿論アンナの目標は自分も知っていますので心苦しいですが。」


「そんな……。」



アクセサリー職人を目指す彼女にとって、あまりにも酷い現実に落ち込む2人。


勿論この医師もアンナの事は良く知っている為、この判断を下さなければならなかったことをとても悔やんでいる。

その事を知っているため、ヨウコとサリーは彼を責めることはしない。



「いえ、命を助けてくれただけでもありがたい。」


「すまない。」



アンナとサリーは医師に対して無言で頷いた。



(サジスの奴を頼んだよ。)



ヨウコは心の中でナム達へ祈る、サジスを慕っていたアンナをこんな目に合わせた元凶への恨みを混ぜながら。





町中を全速で走っていたナム達は、2度目となるサジスの研究施設へとたどり着いた。


夕方の1度目と違い、深夜のこの建物からは不気味な雰囲気が感じられる。



「突撃するぞ、中にまだ居るはずだ……油断するんじゃねぇぞ、多分奴はベルアと同じだ。」


「ヒューマンの可能性が高いってことね、まぁ人間でこんなことする利点はないわね。」


「こんな短期間に2人目のヒューマン……俺様達はついてるのかついてないのか。」



ナムが研究施設の扉を蹴り開け、中へと入り込む。

しかし、そこにサジスの姿はない。



「逃げたのか?」


「居ませんね……遅かったのでしょうか。」



タイフとリィヤは施設の中を見回している。



「いや、まだ決めつけるのは早い……中を調べるぞ。」



ナムの言葉に仲間達は頷き、部屋の中を探索する。



ナムは夕方にアンナがリィヤの為にアクセサリーを取りに行った部屋に入ると、その部屋を見渡す。


その部屋は簡単な作業台と、どう使うのか分からない機械が数台置かれていた。

おそらく彼女があの時に入ったことを考えるとアンナの作業部屋なのだろう。



「床を調べてみるか。」



ナムはアンナの作業部屋の床を手を滑らせるように探り始める。



「ちぃ……時間がねぇってのに。」



しかし、部屋の中をいくら探してもそれらしい痕跡はなかった。

この部屋の床には何も無いと察すると、ナムは今度は壁を同じように探ろうとする。



「皆さん!?ちょっと来てください!」



突然聞こえたリィヤの声で壁を探ろうとしたナムは部屋から出る。


そこにはナム達がアンナとサジスと話したテーブルの近くで伏せているリィヤが居た。



「どうしたんだリィヤ。」


「兄様!ここの床開くみたいです。」


「……おぉ、良く見つけたな!」



リィヤが少し離れ、トウヤがその床を調べると、確かに蓋のようになっていた。


そこは夕方にナム達と会話している間、サジスが腰が悪いと言ってずっと座っていた椅子が乗っていた床だった。



「用心深い奴ね、少しでもバレないようにわざと上を陣取ってたんだわ。」


「これはわからないよ。」



ミナとタイフは敵の用心深さにため息を吐き、トウヤがその蓋を開けるのを待った。



「開けるぞ。」


「おう。」



ナムの返事を聞いたトウヤは蓋を開け放った。


その中には地下へと続く梯子が下に向かって伸びているが、明かりが無いため下の光景は見えない。



「暗いですね。」


「何があるか分からないね、こんな暗かったら僕の未来眼(サーチ)も効果無さそうだし。」



あくまで視界で未来を見る能力のため、暗い場所ではあまり効果が無いことを悟ったタイフは警戒を強める。



「時間がねぇ……危ねぇが行くしかねぇだろ。」


「俺様が先行しよう、明かりなら付けられる。」


「いえ、もしかしたらサジスは私達がここに来たことすら気付いていない可能性もあるわ、目立つ明かりは危険よ。」


「じゃあ俺が先行する、4人とも10秒毎くらいで降りてこい。」



ナムの提案に4人は頷き、梯子を降りていく。


予想よりも長くなかった梯子から地面へと降りると、目立つ鋼鉄の扉が見えた。

扉の隙間から光が漏れているためこの暗闇でもすぐにわかったのだ。



「居るな。」



扉の奥に何者かの気配を感じとったナムは仲間達が来るまでの間に、右腕に3つ装着されている筋力低下の付与がされたブレスレットを2つ外す。


元より凄まじい筋肉が更に膨張していく。



「最近これが基本になっちまったな、2つまでなら皮膚が張るくらいでそこまで支障はねぇんだがな。」



ナムの3つのブレスレットはその全てにリミッターとして筋力低下の付与がされている。

強敵との戦闘時にはもちろん外すのだが、真面目に戦う機会などほぼ無かった彼の皮膚は既に3つ装着されている状態で適応してしまっており、全てを長時間外すと皮膚が裂けて命すら脅かす。


これでベルアを逃がしてしまったナムは同じ過ちを繰り返さないように最後の1個だけはタイミングをしっかり見計らって解放することを心に決めている。



「ミナみてぇにもう少し真面目に修行しとくんだったぜ。」



そんな独り言を呟きながら、背後に4人分の気配があることに気付いたナム。


全員が集まったからと扉を開けようとしたが鍵が掛かっているのか開かないことを確認したナムは、小さな声で4人全員へと短くそれを合図する。


了解を得たナムは全力で扉を殴り、鋼鉄の扉をひしゃげさせながら蝶番ごと吹き飛ばした。



「もう気付かれただろ、急ぐぞ!」


「相変わらず凄い力だね。」


「伊達に警察にブレイカーとか呼ばれてないわよ、破壊に関しては私達の中でナムは飛び抜けてるわね、流石脳筋。」



ナム達は軽口を言いながら目の前に広がった、上の研究施設よりも更に高度な技術で作成された施設内部を走る。


侵入者に気付いたサジスが操作しているであろう、侵入を妨害する為に次々と閉まる強固そうな鋼鉄のドアも、ナムの前では全てが無駄となり、片っ端から拳や蹴りで破壊されていく。



「俺様の魔法の出番がないな!」


「サジスとの戦闘用に取っておけ!」


「うわぁ……とても硬そうな扉がまるで紙のように崩れていきます……!?」



リィヤは息を切らせながらナム達のかなり後ろを走っている。


こういう時に自分の体力の無さは、やはり足でまといになるとリィヤは心の中で確信し、どうにかして体力を付けようと決心した訳だが、それはリィヤのみぞ知ることである。


勿論、かなり身体能力の高いタイフですらあの3人に追いつけていないのだから気にする必要は無いのだが。



「あの2人に追いつけないのは分かるけど、トウヤにまで追いつけないとか……!?」



魔術師であるトウヤにすら体力面で負けてることを悟ったタイフは、どこか泣きそうな顔で無我夢中で走り続けた。



こうして長い通路を走り続けたナム達は、目の前に巨大な扉を発見する。



「あそこだな。」


「ええ、凄くそれっぽいじゃない?」



ナムは走りながら拳を構え、目の前の巨大な扉に跳躍して殴りつけた。


扉全体にヒビが入り、そのまま音を立てて崩れ去った巨大な扉を通り、3人は部屋へと侵入する。


それに少し遅れてタイフが入り、最後に完全に息を乱したリィヤが入った。



「……おやおや、誰かと思えば君達か。」



その部屋の奥、巨大な機械装置の前に佇んだ老人がいた。


曲がった腰を杖で支えたサジスである。



「何用かの、ここは君達が来ていい場所ではないぞ?」



夕方の時と変わらぬ柔らかい笑みを浮かべたサジスは、まるでイタズラで侵入した子供に諭すような口調で話しかけて来る。



「アンナに何故アレを持たせた?」


「ほっ……なんのことかの?」


「知らないとは言わせないよ、俺様とナムはお前が作ったっていうアクセサリーをアンナの厚意でこの目で見たんだ、そして今回の事件の原因がまさにそのアクセサリーだったと調べてあるんだ、爆弾を仕込めるのはお前しかいないだろ?」


「ほっ……。」



サジスは無言で振り返り、目の前の装置を操作し始める。



「何をする気、無駄よ!」



ミナが太腿のベルトから投擲ナイフを投げようとしたが、先の戦いで全て喪失していることを思い出して双剣を構える。



「……おかしいのぉ。」



サジスは装置の操作を止めると、再び振り返った。



「証拠が残らんように火薬の調整をしたつもりだったんじゃがなぁ?」



サジスは本当に不思議そうな表情でそんなことを言い放った。



「……認めるわけだね、お前が犯人だって。」


「そこまで調べられておれば隠す意味もなかろう?」



サジスが邪悪な笑顔に変わると同時に、ミナが双剣を構えて突撃する。



「長い計画じゃった、大変じゃったよ……このサジス特性の新型火薬を仕込んだアクセサリーを馬鹿な人間に買わせて広める……本当に長かった……。」



ミナが突撃してきているのにも関わらず、一切微動だにせずにのんびりと話すサジス。



「速度を落とした方がよいぞ?」


「なんですって!?」



ミナはその言葉に反射的に速度を落としたが、体の1部がなにかに触れる。


そしてそのなにかから電撃のようなものがミナの体を駆け巡り、後方へ吹き飛ばされた。



「きゃぁぁあ!?なによこれ!?」



床へと倒れ込んだミナは、飛び退くように立ち上がりサジスを睨みつける。



「ほっほっほ、優しいじゃろう?そこに展開しておるのはこのサジスが開発したバリアじゃよ……あの速度で突撃していたら相当なダメージじゃたかものぉ?」


「バリアですって……!?」



ミナは体に残る痺れを確認する、確かにあの速度でぶつかっていれば大変な被害を受けていたに違いない。


サジスはその様子を笑顔のまま眺めると、後ろの装置へと再び振り返る。



「今なら見逃してやるぞい、慌てて逃げればこの町からは逃げられるじゃろうて。」


「優しいこったな?」


「今とても気分が良い、気が変わらんうちに言う事を聞いた方が身のためじゃろうて。」



サジスは装置の中で1番大きなスイッチを躊躇なく押す。


途端に装置の画面に時間が表示され、それが経過と共に数字が少なくなっていく。



「このサジス特性のアクセサリーの起爆スイッチじゃ、15分で爆発するように設定しておる。」



ナム達は画面の数値を確認し、それぞれの戦闘態勢をとった。



「去るつもりは無いと言うことじゃな、ならば仕方ない。」



サジスは杖を横に放り捨て、曲がった腰を真っ直ぐ起こす。

今までの弱々しい姿が演技だとすぐに分かる変貌の仕方であった。



「てめぇ、ヒューマンだな?」



ナムの言葉に、サジスは驚いたように目を見開いて笑い始める。



「ほっほっほ、馬鹿な人間でも流石に分かるか……正解じゃよ……一応ネイキッドに属す魔物として貴様らをワシの力で葬ってやろう。」



ナム達はそれを聞いて警戒心を強める。


サールの町に潜んでいたヒューマン、ネイキッドのサジスはそんな彼らを見ながら装置の方へ振り向く。



そしてそれを操作すると、ナム達の居る区画の壁の数カ所が開き、中から銃口が数個展開される。



「ワシの忠告を無視したその愚かさ……身をもって後悔すると良い。」




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