2章:恐ろしい計画
サジス博士への来客を機に、彼の研究施設から出たアンナを含めたナム達。
夜は既に更けており、賑やかだった町もまるで眠りについたように静かになっていた。
暗い街中を歩いていたアンナが大きく欠伸をして体を伸ばす。
「流石に疲れたねぇ。」
「随分長ぇ間案内してたしなぁ。」
「しかも喋り続け、疲れて当然だね。」
ナムとトウヤの言葉に大きく頷きながらアンナは2回目の欠伸をする。
「明日からまた博士の元で修行再開だよ。」
「折角の休みに私達に付き合ってて大丈夫だったのかしら?」
「そこは問題ないよ、あたしじっとしてられない性分みたいでね!」
ミナは彼女の性格を思い出し、たしかにその通りだと考えた。
この様子では休みの日も基本的に出かけているに違いない。
「あ、もうすぐ宿だよ。」
アンナの指さした先に宿が見えてきた。
暗い中でナムが視線を看板に向けるとそこには<サリーの宿>と書かれていた。
「あたしの悪友その2が経営してる宿でね、穴場で落ち着いてるし、あたしの紹介だと言えば安くしてくれるはずだよ!」
「何からかにまで助かるな。」
「お付き合いが広いのですね!」
「それほどでもないって、さて……じゃあ1回ここでお別れだね!」
アンナはそう言って、踵を返して少し移動し、再度振り返る。
「どの位の期間居るの?」
「そうだなぁ、明後日出発する感じか?」
ナムの言葉にアンナは大きく頷く。
「そんじゃ、明日は楽しんでよね、あたしも多分また出歩いてるからすぐ会えるさ。」
「ありがとうね、アンナちゃん。」
「いえいえー!」
アンナはそれだけ返すと、走って暗闇の町の中へと走り去って行った。
「さばさばしてるなぁ、もう行ったよ。」
「色々お世話になってしまいましたね、兄様。」
リィヤは右耳のアンナから貰った星形の緑の宝石が付いたイヤリングを触る。
「いい子だったな、明後日で別れるのが惜しいくらいだ。」
「この旅してたらそんな経験幾らでもするだろうぜ、それより宿取るぞ。」
ナムが宿の扉を開けて中に入ると、奥のカウンターに座っている女性を見つけた。
前髪が長く顔の左側しか出ておらず、後ろ髪もかなりの長さであろうが、その髪はずさんな管理しかしていないようで所々髪がはねていたりする。
服装もこの町のものとしてはかなり地味であり、性格的にもかなり静かな方だと言うのが雰囲気で伝わってきた。
「……いらっしゃい、アンナの声がしたね、紹介?」
「えぇ、<サリー>さん、かしら?」
「うん、サリー、部屋は?」
サリーと名乗った女性は帳簿を確認すると、視線をこちらに向ける。
「部屋、2つだけ……男女別れるなら泊まれる。」
「仕方ねぇか、それで頼む。」
「分かった、1部屋3000エン……アンナの紹介だから半額。」
その値段の安さにナム達は驚く。
「半額!?」
「サービス、気にしないで。」
思わず声にでたタイフに反応して、事務的に返してきた彼女はゆっくりとした動作で壁にかけてある鍵を2つ取り出す。
「部屋は2階、運が良いね……隣同士。」
サリーから鍵を受け取ったナムは、料金をサリーに渡す。
「毎度、ごゆっくり。」
サリーはそう言うと、階段の方へ指を差して、ぎこちなく微笑む。
前髪で大半が隠れているが、かなりの美人だと言うのが分かった。
「ありがとうございます。」
「大丈夫、次何奢って貰おう?」
左側しか見えないサリーの顔が邪悪な笑みに変わると、おもむろに宝石箱のようなものを取り出してナム達に見せるように蓋を開けた。
その宝石箱のようなものの中身には、まさにそれらしい高価そうで煌びやかな宝石が10個近以上保管されている。
それの意味を察したナム達はアンナへ心の中で合掌し、同時にサリーはかなり腹黒いという事もナム達の記憶の中に刻み込まれたのだった。
ナム達と別れて夜の町を走るアンナ。
サリーの経営する宿からアンナの自宅との距離は実は結構離れているのだ。
「次はどんな宝石を要求されるやら!」
アンナがサリーの宿を紹介する頻度は実はかなり少ない。
彼女が気に入った相手でないとそもそも町の案内すらしないのだ。
それもその筈、案内してるとつい長く付き合わせて宿屋が埋まった夕方になるまで終わらないのだ。
悪い癖だと思いながら楽しくて中々辞められないアンナは、それをやらかした場合は、旅人達を穴場のサリーの宿に泊まらせるしかなくなる。
そうすると待っているのはサリーからの高い宝石の要求だ。
彼女は見た目的にも服装的にも地味でとても大人しく見えるが、実はかなりの派手好きである。
あくまで自分が目立ちたくないだけで、地味な服装の下やあの長い髪に隠すように派手なネックレスやイヤリングを付けるタイプの人間なのだ。
ついでに宝石の収集癖まで持ち合わせている為、地味な見た目や大人しい性格に騙された将来の旦那は金銭面で大変苦労するであろう事が簡単に予想される。
実際にアンナ、ヨウコ、サリーの3人の中では、何も知らない旅人からの評価が1番高いのがサリーだ。
町の派手さに食傷気味になったところに彼女と会うと、どうやら何か来るものがあるらしい、よく分からないが。
「恐ろしい……!!」
アンナは今後の出費に身震いし、将来の旦那に合掌しながら町中を走り続ける。
「またこんな時間まで拘束したのね?」
「うわっ!?」
突然の聞き慣れた声に驚くアンナ。
「いつもの事なのに毎回驚くよね、アンナは。」
「間隔が長いから忘れるんだよ!!」
そこに居たのは昼間辺りにも会った悪友その1のヨウコだった。
昼間は派手だった服装がとても大人しい装飾のものへと変わっている。
普段派手な服装をしており、性格もアンナに似て快活そうに見える彼女だが、それは他者の目のある外だけでの事である。
実はそこまで派手な見た目は好んでおらず、仕事の衣装で要求されているから着込んでいるだけに過ぎない。
そんな彼女の職業は髪を整える美容師である、あの長い髪の男のタイフという人間に反応していたのはまさに職業柄であろう。
アンナが誰かを案内していると毎回夕方または夜になるため、そこを狙っていつもアンナに会いに来るのだ。
「今回は大所帯だったね、凄く目立ってた。」
「あ、やっぱり?」
あの5人は何処か目立つと思っていた、人数もだが、何よりそのメンバーの異様さである。
魔法使いみたいな格好をした男に、剣を携えた女性、人間離れした筋肉を持つ男。
そこに着いてきているのが細身の女性のような男に、まるでお嬢様のような可憐な少女なのだ。
てっきり後ろの華奢な2人がメインで、他の3人は護衛だと思っていたが、話を聞いてると、どうも違うらしい事が察せられる。
「いい人達だったけど、何者なんだろう?」
「わからない、けど傍目から見てるととてもじゃないけど普通の人達には見えなかったし……なによりあの剣を携えた女性は何処かで見たことあるのよね。」
「あぁ、ミナさんのこと?」
アンナの口から飛び出た名前に、ヨウコは固まる。
「アンナ、今ミナさんって言った?」
「うん、それが?」
ヨウコはそれを聞き、急に顔面蒼白になる。
その様子を見ていたアンナは首を傾げた。
「ほかの人たちの名前……は?」
「ナムさんとトウヤさん、後はタイフさんにリィヤちゃんだね。」
ヨウコはそれを聞いて更に顔色を悪くする。
アンナはヨウコの様子から何かが変なのかは分かるが、理由が分からないでいた。
確かに名前は聞いたことある気がしたが、記憶にあまり無かったのだ。
「アンナ……あの人達……多分……さん。」
「あー!!」
ヨウコはアンナに彼等の正体を明かそうとしたが、アンナの急な大声に止められてしまった。
「ちょっとなに!?」
「ごめんヨウコ!明日のアクセサリーの材料とか買い忘れてた!」
そう言ってアンナは踵を返し、彼女が贔屓にしている材料屋へと走り始めてしまった。
「え、ちょ……あーもう!」
ヨウコは自身が気付いた大変な事実を伝えようとしていたのにも関わらず、途中で中断されてしまい、何処にこの驚きをぶつけるべきか悩み始めた。
「……明日サリーにでも話すかな。」
ヨウコはそう言って、自宅へ帰ろうと後ろへ振り返って歩き始める。
「全く、そそっかしいのよねアンナは!」
ヨウコがアンナの性格に文句を言って鬱憤を晴らしている時。
突然後ろから爆発音のようなものが聞こえた。
「うわっ、何!?」
ヨウコが驚き、音のした方向へ振り返る、その方向は今まさにアンナが走り去った方向だった。
暗くてあまり見えないが、煙も上がっているように見える。
「……アンナ!!」
ヨウコは嫌な予感を覚え、それぞれの店や家から大きな音に驚いた町人達が外に出てくる中を全速で走る。
遠くの方から女性の悲鳴や、指示を出す男性の怒号などが聞こえる。
「なに!何があったの!?」
ヨウコはその声のする場所に近付くにつれて、その場所の視界が鮮明になり、1番見たくない光景をハッキリと目撃してしまった。
「……ア……ンナ。」
大勢の人間に介抱されている1人の人物。
その姿はヨウコが見慣れた、付き合いの長い女性。
お互いに悪友と言い合いながら過ごした大切な友だち。
そんなアンナが道端で、大怪我を負った状態で倒れていた。
まるで直接爆弾を投げつけられたかのような、そんな酷い惨状の彼女の体は所々真っ赤に染まっている。
特に酷いのが右腕の周辺であり、特に損傷が激しい。
ヨウコは無意識にアンナの近くに寄って介抱を手伝おうとした。
しかし、彼女はハッと我に返り、近くの町人を捕まえて質問を始めた。
「アンナに何があったの!?」
「分からない、だけど急に彼女を中心に爆発が起きたんだ、本当に突然でそれしか……。」
ヨウコはそれを聞いて、混乱していながらも冷静に状況を考える。
「事故の可能性は?」
「この辺に危険物なんて無いよ、普段皆が歩いてる道だし。」
ヨウコはそれを聞いて事故ではない事を確信すると、その町人に再び話かける。
「事故……じゃないとしたら……誰かが?」
「馬鹿な!アンナちゃんは恨まれるような子じゃない。」
ヨウコもその言葉に頷いた、振り回す癖はあるものの悪い子では全くないのだ、むしろ人気は高い方である。
様子を見ていた町人達は突然の知り合いの悲劇、そして謎の爆発に恐怖し、所々から悲鳴のような言葉が聞こえてくる。
「一体……何が、魔物でも潜んでるのか!?」
「突然爆発したぞ!!この町に爆弾でも誰か仕掛けやがったんだ!!」
「避難したほうがいいんじゃ!?」
「どこに!町の外には魔物がいるぞ!!」
「町中にもいるかもしれねぇのに変わらねぇだろ!!」
アンナの事故を見た彼等は混乱して言い合いを始める。
その様子を見たヨウコは非常にまずい事態になってる事を悟る。
このままでは混乱の事故でさらに被害者が出るかもしれない。
「マズイな、どうするヨウコちゃん……すまないな、君の友だちが酷い状態なのに。」
ヨウコは首を横に振る、確かにアンナは心配だ。
だがそれを悲しむより、彼女をこんな目に合わせた原因を探ることを彼女は重要視していた。
その時だった、ヨウコの頭に1つの考えが浮かんだのだ。
「そうだ!今この町にすごく頼りになる人達がいるの……きっと力になってくれる、呼んでくるからアンナをよろしくお願いします。」
「なに……?まさかアンナが案内してたアイツらか?分かった、よろしくたのむ!」
ヨウコは1度頷き、大怪我を負ったアンナを1目見る。
こんな状態の友人を置いていくという自分の行動に自己嫌悪しながらも、踵を返して、混乱する町の人たちの間をすり抜けてサリーの宿屋へ全力で走った。
「アンナなら……いつもみたいに長く案内して拘束したなら、あそこに居るはず!!」
「なんの音だ?」
宿の部屋で寛いでいたナムは、突然響いた爆発音のようなものに気付くと、窓から外を見る。
同じ部屋で宿泊しているトウヤとタイフもナムと同じように窓へ近付く。
「あの辺からだ、煙が上がってるよ。」
トウヤが指差した先に確かに煙が上がっているのが見え、その周りを大勢の町人が殺到している。
「これ、見に行った方が良くない?」
「あんだけ人数がいんだ、俺達が行ったって邪魔なだけだ。」
そう言ってナムは再び席に座ろうとする、が急に何かを考え始めた。
「やっぱり気になるのか?」
「町中で何かが爆発した、事故なら良いが……なんか知らねぇが胸騒ぎがしやがる。」
ナムは座ろうとした席から離れると、部屋の扉に近付く。
「……行くか。」
ナムの言葉にトウヤとタイフが頷き、部屋から出たその時。
「やっぱり行くのね。」
「なんだ、おめぇらもか。」
宿の廊下にミナと何処か眠そうなリィヤも立っていた。
ナム達5人は結局全員集まり、揃って宿の階段を降りる。
そして、階段を降りている最中に下から聞こえてくる大きな声に気付いたナム達。
「サリー!彼等の部屋は!?」
「アンナが連れてきた人達……205と206、どうしたの?」
「分かった!ありがとう!彼等を連れてきたら詳しく……あっ!?」
確かヨウコと言う名前の筈の女性が少し息を切らせながら、ナム達を見て驚愕の表情に変わる。
「どうしましたか?」
「お願いすぐ来て!!アンナが……巻き込まれて……!!」
ヨウコの言葉にナム達は驚く、先ほどの騒ぎの中心にアンナが巻き込まれたと聞けば驚くのも無理はない。
それよりもっと驚いているのはここの主、サリーだった。
「どういうこと、話して。」
すごい剣幕で詰めてきたサリーにたじろいだヨウコだったが、彼女の体を押し返して落ち着かせる。
「移動しながら話す、えっと……貴方たちもそれでいい?」
「……わかった。」
「構わねぇぜ。」
ヨウコに連れられて、宿の番を完全に放棄したサリーと、ナム達は移動を開始した。
ヨウコがナム達を連れてきている間に、アンナの病院への搬送が終わったと途中で会った男に言われ、さらに移動をして病院へとたどり着いたナム達とヨウコ、そしてサリーはアンナの治療を待っていた。
「さっきの話本当なの!?突然の爆発で大怪我したなんて!」
ミナはここに来るまでに聞いた話に驚き、ヨウコに問いただしている。
「うん、聞いた話だと本当に突然だったみたい、あの道は普段から使ってるから何かがあったとは思えないの。」
「それはワタシも同意、あの道はいつも人が沢山。」
この町の住人であるヨウコとサリーの発言は信用できる情報だ。
トウヤは頭を抱えており、タイフも悩んでいる。
リィヤはアンナからもらったイヤリングを右耳から外して、まるで祈るように握っている。
「どうして……アンナさんが。」
泣きそうな顔になっているリィヤの頭にナムは手を置いて落ち着かせようとし、そのままヨウコに向かって視線を向ける。
「道にねぇなら、原因はアンナだろ。」
「何言ってるの!」
「サリー!落ち着いて……どういうこと?」
珍しく声を荒らげたサリーを気にすることもなく、ナムはリィヤから手を離す。
「普通に考えたらそれしかねぇだろ、他に原因あるか?俺はねぇと思うぜ。」
「うっ……誰かがアンナに攻撃した。」
「それこそねぇよ、それならなんでわざわざ音の出る武器を使った?俺なら素手で良いし、剣とかナイフなら静かに殺れるぜ。」
サリーは俯くと、納得したのか落ち着いたようだった。
こんな時でも冷静に判断できる人間だと気付いたナムは安堵する。
「さっきの男から、アンナの持ち物を預かっただろ、見せてみろ。」
「アンナの持ち物に関係が?」
「可能性はある。」
タイフの疑問にナムは短く答えると、ヨウコからアンナの持ち物が入った袋を受け取る。
そしてそれを無遠慮に今座っている病院の椅子に撒くと、それを1つずつ確認し始めた。
「あー、あんたは本当に雑なんだから……手伝うわよ。」
「俺様もな。」
「あぁ、頼む。」
ナムが撒いた持ち物は、爆発で焦げた財布、同様の衝撃でひん曲がったアクセサリーの数々。
そして謎の大量の金属片だった。
「ミナ、爆弾には詳しいか?」
「一応ね、武器には変わりないもの。」
「よし、ミナはこの金属片を調べてくれ、俺とトウヤはアクセサリー類を確認する。」
ナムの指示でそれぞれ調査を始める三武家の3人。
その様子をヨウコとサリーは黙って見ている。
(アンナから名前を聞いたときは驚いたけど、この人達なら……!!)
ヨウコは彼らの正体を移動中に、はっきりと聞いたのだ。
間違っていなかったことに喜び、非常に頼りがいのある彼らのおかげで内心はとても安堵している。
アンナの安否はとても心配だが、それは医者に頼るしかない。
「どれも酷い状態だな、これはかなり近くで起爆してるぞ。」
「やっぱりな、どれもこれも衝撃で変形してるぜ。」
トウヤとナムは片っ端から持ち物を確認し、その状態を記憶していく。
ミナも謎の金属片をまじまじと見つめている。
そして1つの欠片を手に取ると、それをしばらく眺めた後にナムへ視線を移した。
「ナム、この金属片を見て。」
「あ?」
ミナから1つの金属片を受け取り、確認を始めたナムは金属片を色々な方向から見る。
ナムが確認を始めて少し時間が経過し、その間欠片を睨みつけるように見ていたナムの顔が突然驚愕の表情に変わった。
「ミナ、欠片の大きいやつを数個寄越せ!!」
「はいはい、この辺かしら?」
「それでいい!」
ナムはミナから差し出された10個近い欠片を奪うように取り、ミナはそんな態度のナムに対して少しむすっとした表情を向けた。
しかし、そんなミナを完全に無視し、ナムはおもむろに欠片を掌の上で移動させ、まるでパズルを組むように動かし始める。
「何してるんだ?」
トウヤの質問にも答えず、ナムは集中して掌の上で次々と欠片を合わせていく。
普段あまり見ない真面目なナムに、ただ事ではないと感じたミナとトウヤは黙ってその様子を見守った。
そして、しばらく時間が経った時、ナムの動きが止まる。
「トウヤ、見ろ。」
ナムに言われるがまま、ナムの掌の上に乗った欠片を見るトウヤ。
「これがどうし……え!?」
「やっぱり知ってるよな、俺とおめぇしか見てねぇアレだ!!」
ナムはその欠片をおもむろにヨウコとサリーに向ける。
その意味を察した2人は、ナムの掌の上で形作られた物を目視した。
「……サリー!!これ!?」
「これは。」
「その反応、間違いねぇな。」
欠片を見せられていないミナとタイフ、そしてリィヤは何が起こっているのか理解できず首を傾げている。
それに気付いたナムは、3人にも見えるように欠片を突き出した。
「これは……天使?」
「天使ですね、本で読んだことがあります、両手を広げていますね。」
「欠片が足りないからはっきりしないけど、両手を広げた天使の柄の……アクセサリーかな?」
ナムは頷き、トウヤに視線を向ける。
「俺とトウヤはこのアクセサリーを知っている、アンナと出会った店で見せられたからな、そしてこれをヨウコとサリーも知っていた。」
「それがどうしたのよ?」
「わかるように言ってやる、なんで他のアクセサリーは変形してる程度で済んでいるのに、このアクセサリーだけ粉々なんだ?」
ミナはその事実で何かに気付いたように表情を驚きに変える。
「内側から大きな力が加わったのね……つまり。」
「これが……原因か!!」
ミナとトウヤの言葉に、タイフとリィヤ、そしてヨウコとサリーも驚く。
「ねぇ、待ってよ……それが爆弾?冗談きついよ、それって。」
「アンナが、1番大切にしてた……。」
「そうだ、あのアクセサリーだ……これが何を意味する、これを作ったのは誰だ……?」
ヨウコとサリーは顔を見合わせ、ナムに視線を戻すとサリーが口を開いた。
「サジス……博士。」
ナム達一同は1つの事実に辿り付いた。
それは特にヨウコとサリーにはあまりにも信じられないことだった。
「嘘……なんで。」
「時間がねぇ。」
信じられない事実に顔面蒼白のヨウコを無視して、ナムは立ち上がる。
それに驚いた全員はナムを見る。
「急げ!こんなことする奴が……爆弾をこれだけに仕込んでるわけがねぇ!!俺の予想が正しければ、あまり時間はねぇぞ!!」
「確かに……大変な事態かもしれません!!」
泣きそうになっていたリィヤは表情を引き締め、ナムと同じように立ちがる。
「サジスさんのアクセサリーはとても人気がありました、今やかなりの数が様々な町に点在していると思います!!」
「そうか!まずい!!」
リィヤの発言にトウヤが慌てて立ち上がり、それに同じく気付いたミナとタイフも立ち上がる。
「ヨウコ、サリー……アンナを頼んだぜ、俺達はサジスの野郎を何とかしてくる!!」
「わかった、任せてよ!」
「任せて。」
ヨウコとサリーの同意を聞いたナム達は、素早く病院の中を移動する。
「大変よ、今回の事件が……試験的に起爆したことによる結果だとしたら。」
「あぁ……間違いない……なにかの理由で進行させてた計画を早めたんだ!」
ナムの頭の中にあの時来た客人が思い浮かんだ。
しかし証拠はない、しかし無関係ではないとも不思議と感じたナムは、走りながらあの刀を持った男の姿を記憶に焼き付ける。
「……あいつ自身も町から逃げてぇだろう、即起爆はねぇがもう時間はない!!」
「とんでもない奴だ、くそ!!」
ナムは1度その思考を放棄し、少しだけ走る速度を上げた。
その後ろを着いていく三武家の2人は問題なくナムに追従し、リィヤとタイフは余裕なく必死に走る。
サジスが行っていたことを考え、これから起きるであろう惨劇を放置するわけには行かない。
「アンナをあんな目に合わせたあいつは許せねぇ。」
走りながらナムの怒りはどんどん膨れ上がり、表情を強ばらせる。
完全に夜も更けたサールの町で、新たな動乱が起きようとしていた。
平和な明るい街の水面下で進行していたサジスの恐ろしい計画を止めるため、ナム達5人は全速であの男の研究施設を目指したのだった。