2章:サールの町
トラルヨークへと向かうナム達が途中で立ち寄ったサールという町では、装飾品がメインの特産品となっていた。
興味津々のリィヤが何件かアクセサリーショップを回っていた頃、後ろで手持ち無沙汰だったナムとトウヤに、アンナというアクセサリー職人を目指す女性が接触してきた。
その後に買い物をしていた他の3人も会話に加わり、アンナと意気投合した5人は、彼女にサールの町を案内してもらっていた。
「はいはい、こちらが旅の方向けのアクセサリーショップがズラリと並んだ大通りだよ。」
アンナがドヤ顔で大袈裟に手を大通りへ向けると、ナム達は思わず視線を一斉に向けてしまった。
「なんか不思議と目線を向けなくちゃならねぇ気分になりやがる。」
「一体どんな能力なのよ。」
「えっと……何の話かなー?」
変なことを言うナムとミナを怪訝な目で見るアンナ。
特に彼女はそんな能力は持ち合わせていない。
「さて、気を取り直してお次はこの先にある宿のご紹介だよ!」
「宿か、それは良いな。」
アンナの言葉にトウヤが相槌を打って、他の仲間たちも歩き出した彼女に着いていく。
大通りの真ん中をアンナを筆頭にした6人の大所帯が歩く様に、町人達は自然と目線を向けてくる。
ある程度進んだ時、突然その集団から1人の女性が近づいてきた。
目元付近までの短い髪を若干パーマにした女性だった、アンナと違い露出は少ないがやはり装飾は派手な服装になっている。
「アンナ、その人達は?」
「旅の人だよー!さっきヤナスさんの店の中で偶然声かけちゃってね!」
「あー、あのネックレス見てたのか、あんたらしいね……旅の方、ちょっと付き合ってあげて。」
「えぇ、アンナさんって楽しい方ですね。」
リィヤが笑顔でそう答えると、アンナが少し照れたように頭に触れ、それを見ていた女性が口元に手を当ててくすくすしている。
「また後でな<ヨウコ>、さ、さぁて次行くよ!」
「あ!逃げる気だこいつ!」
「うっさい!!」
アンナはヨウコと呼ばれた女性から逃げるように歩き出すと、離れた位置で彼女へ向かって舌を出した。
「意外と照れ屋なんだね。」
「面白い子でしょう?……まって、アンタのその長い髪……飾り甲斐があるね!」
「勘弁してくれ!?」
タイフはヨウコから慌てて距離を取り、その様子を見たナム達は吹き出した。
「早く来ないと案内はここまでだよ!!」
遠い場所からアンナの大声が聞こえたナム達は、ヨウコへ手を振って移動を開始した。
「昔からの悪友なんだけどね、一言多いのよ全く!」
そういうアンナの表情は笑顔であり、かなり長い時間付き合ってる人物なのが見て取れた。
その後、再び案内人モードになったアンナは、彼女のおすすめのアクセサリーショップや飲食店、独創的な彫像が集まった広場等を順番に案内し始めたのだった。
「あ、銀行はこの広場のあそこにあるからね、お金無くなったらじゃんじゃん下ろしてどんどん使ってね……なんてね!」
アンナがそんな冗談を言いながら声を大きく笑い始めたが、後ろの雰囲気が変わった様子を悟り、ナム達の方へ向き直る。
そこでは銀行の前で止まっている3人が見えた。
「ねぇナム、私達旅を続けて何日経ったかしら。」
「ファスの村での滞在期間が約3週間、入院してた期間がひと月、後は宿とか野宿した期間も含めると……。」
「2ヶ月は経ってるな。」
ナムとトウヤとミナは3人でそんな事を言いながらどこか浮き足立っていた。
そんな3人を訝しむように見ているリィヤとタイフ。
「どう致しましたか?」
「2ヶ月経ってるのがなんだって言うんだ?」
リィヤとタイフの質問に、3人は何かに気付いた用に驚くと、少しだけ申し訳なさそうに顔を合わせ始める。
そんな様子を見ていたタイフとリィヤ、そしてぽかんとした表情で見つめているアンナは一斉に首を傾げる。
「タイフさんには話したわよね、私達が依頼の上で動いてるって。」
「あ、うんファスの村で聞いたよ。」
「わたくしは初耳ですが……。」
タイフは自分が仲間になった時の記憶を思い起こすと、どこか懐かしむような表情に変わる。
「依頼って普通依頼料があるよな?」
「昔読んだ本でそんな話を見たことがある気がします、でも兄様、それが如何……あら?」
トウヤの言葉に、リィヤは顎に手を当てて何かを考え始める。
「あぁ、その依頼がよ……毎月なんだよ……依頼料の支払いがな。」
「「!?」」
ナムの衝撃発言に、タイフとリィヤは驚く。
当然だ、毎月払われる依頼など普通ありえない。
「今初めて聞いたけど?」
「タイフさんの時も、リィヤちゃんの時も、色々あったから言い忘れてたわ!」
「まぁ、つまりなんだ……リィヤは入って間もないから関係ないが、タイフ、お前はタダ働き当然ってーこった。」
タイフはあんぐりと口を開け、あまりの衝撃にそのままの姿で固まる彼を見たリィヤは、普段見ない様子に困惑している。
「サブロ町長に連絡して交渉しないとな!」
それを見て慌てたトウヤがそう言葉を無理矢理紡いだ途端に、口を閉めるタイフ。
サブロ町長
ナム達がまだ3人しか集まっていない時に、魔物の超強化の謎の調査を依頼した、ナム達が住む町の町長だった。
「まぁ、あの町長なら……あ?どんな奴だっけか?」
「ナムったら相変わらずね!あの人は……えーと。」
「忘れるなんて酷い2人だな、俺様なら……む?」
3人はサブロの特徴を話そうとして固まってしまった。
「あー、なんか地面にのの字書いてた気がするぜ!」
「ナムの家に来た時もなんか困惑してたわね。」
「なんか驚いたことあった気がしたけどもう忘れたな!」
三武家3人はそんな事言いながら大笑いをしていた。
「タイフさん、この方達とても失礼な事を仰ってませんか?」
「う、うん……僕もそう思うよ。」
「今まで案内してて1番長居したのが銀行ってどういうこと!?」
あまりにもな3人に対してリィヤとタイフは呆れ顔になり、全く事情を知らないアンナは1人困惑していた。
その後、ナムとミナは銀行に入り、マネーデルカードで全て支払うつもりで屋敷に色々置いてきたトウヤは、タイフ達の元で待ちぼうけを食らっていた。
「あの……兄様は行かないんですか?」
「引き出しに必要な物全部置いてきちゃったんだよな。」
「マネーデルカードが全く知名度無いのにはわたくしも驚きました。」
「俺様も驚いたよ、こんな事ならちゃんと持ってきたのにな!」
(この2人本当に義理の兄妹なのだろうか?)
似たもの同士の2人を眺めていたタイフは、内心で義理という部分を疑い始める。
(とはいえ、僕もお金持ってるわけじゃないんだよな。)
長い間お尋ね者として生活していたタイフも基本的にはお金など持っていない。
三武家の3人……というより2人に今後資金面で頼らざるを得ない状況に気付いたタイフは内心焦り始めていた。
タイフが悩み始めて数分後、銀行からナムとミナが出てくる。
開いた扉の音で待っていたアンナを含めた4人は彼等の方へ向き、その表情を見て固まった。
2人とも顔面蒼白なのだ。
「ちょ……アンタ達なにその顔!?」
アンナが真っ先に声を掛け、それに辛うじて反応した2人は黙ったまま4人に近付き、小声で話し始めた。
「口座に400万入ってたのよ。」
「へぇ……なんだって?」
「俺にも同額だ、トウヤ……多分おめぇにもだ。」
「待て、2ヶ月経ってて400万……1月200万!?」
ナム達5人はその金額に驚く、あまりにもな高額なのだ。
そして更に驚いている人間が1人。
(あたし、なんかヤバいやつらと知り合ったんじゃ……!?)
話の内容の金額に、内心恐怖するアンナを差し置いて5人は今後の資金面の方針を話し始めた。
「ずっとナムの強盗捕縛の依頼料だけで旅してたけど、もう心配要らなそうね。」
「俺も驚いた、あの町長太っ腹だぞおい。」
「トラルヨークの軍も呼んでたよな?あの町の金大丈夫か?」
「僕にはよく分からないけど、資金面の問題が解決されたわけだね。」
「購入する物が多いので丁度良かったですね!」
5人が思い思いに喋り続けてる中、視界の端でアンナが恐る恐る手を挙げ始めたのを確認したナム達は、会話を止めて彼女へ視線を向ける。
「あたしのこと忘れてない?」
その後、アンナと共に再びサールの町を回るナム達。
その途中で服屋を何件か回り、リィヤが戦闘時に動き易い服装を探したのだが、この町の服はどれも装飾や派手さ重視であった。
アクセサリーは喜んで見て回っていたリィヤも、服を見繕っている時には流石に顔が引き攣ったので、服の購入はトラルヨークで行うことになった。
何がいけないってんだよー、とはその時のアンナの発言である。
「うん、案内はこの辺かな!」
「どちらかと言うと旅の人向けなのね、面白い町だわ。」
「この町の収入は基本的にアクセサリーとか服とかだからね……という訳でどんどんお金落としてってよー!」
そう言ってアンナは笑いだし、そして何かを思い出したかのように手を打った。
「サジス博士の所に最後行こっか!」
「おや、確かこの町の心理学者だっけか、アンナと会えたのもその人がきっかけだから俺様は良いと思うが、皆はどうだい?」
「良いんじゃねぇか?」
「賛成、僕も気になるよ。」
「わたくしもです、あのネックレス気に入っちゃいました!」
リィヤは何度かアクセサリーショップでサジス博士のネックレスを見つけていたが、直前で最後の1個を買われたり、棚に在庫が無かったりと購入出来ていなかった。
アンナと会った時のネックレスは彼女と話してる間にいつの間にか買われて無くなっていた為、アンナが肩を落としていたのを覚えている。
「もしかしたらあたしみたいに、なんか特別な物を貰えるかもよ!」
「絶対行きましょう!」
アンナがそう言って歩き出し、それに速攻付いて行ったリィヤに苦笑しながらも、他の4人も追従する。
「もう夕方ね、そろそろ宿も取らないと。」
「これが終わったら行こうじゃないか。」
「俺的にはもう寝ても良いくらいだがな。」
「ナムは相変わらずだなぁ……元寝坊魔の僕が言えたことじゃないけど。」
アンナに連れられ、ナム達は町を照らす夕日の中を歩き続ける。
「サジス博士の紹介と一緒にあたしの仕事場も見せるよ!」
サジス博士に弟子入りしている彼女は、サジスの仕事場の一角を貰い受けているらしい。
そこでデザインの勉強等をしていると彼女から移動中に聞いたのだった。
アクセサリー職人を目指す彼女は、自分の師匠でありファンであるサジスの元へとても楽しそうに歩いている。
そんな彼女を5人は微笑ましそうに眺めているのだった。