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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:アンナ

ドルブの町を出発したナム達は、旅路の途中で太陽が沈んだ為、野宿をしていた。



「大変申し訳ありません……わたくしの体力が無いばかりに。」


「仕方ないわよ、リィヤちゃんは今まで戦いとは無縁の生活をしていたんだから。」



ナム達一行は、リィヤに合わせて移動をしていた。

あくまで一般人であるリィヤの身体能力は、深窓の令嬢そのものであり、お世辞にも高いとは言えない。

つまり、<サール>の町に着く前に夜が来てしまったのだ。



「なぁに、たまには野宿も良いもんだ、俺達が交代で見張るからリィヤは安心して眠れよ。」



タイフが仲間に加わった時には交代の見張りなど必要としていなかったが、リィヤを安心させるために、実施することにした。



「何からかにまで本当に申し訳ありません……!」



リィヤは迷惑を掛けていると思い込み、とても気落ちしていた。


彼等にとってはそこまで大変なことでも無いため、心配するなと何度も言っているのだが、リィヤは足でまといになっている事実を良しとしていないようだった、



(こりゃあんまり良くねぇ傾向だな。)



ナムはそんなリィヤを危惧していた。

仲間なのだから頼ればいいのだ。



(ま、今言ってもダメだろ。)



ナムはリィヤへの説得を後回しにし、焚き火の中へ最後の薪を放り投げる。

トウヤの魔法で火付けは楽なのだが、薪だけは数が限られている。



「リィヤちゃん、ほんとに気にしなくていいんだからね、ナムなんて良く寝坊して全員に大迷惑を掛けてるんだから。」


「間違いないね、俺様が時限式で顔に落ちる水魔法でも用意しとくか。」


「俺を引き合いに出すんじゃねぇ、あとそれはやめろ!?」


「寝坊は良くないと思うよ、ナム。」



ゼンツ村で寝坊の常習犯だったという話を聞いたタイフからそんな事を言われたナムは、抗議を含めた睨み付けをタイフに向けるが、タイフは視線をズラして鳴っていない口笛を吹き始める。



「ぷふふ。」



そんな様子を見たリィヤが吹き出し、表情が緩んだのを確認した3人は安堵する。


ナムだけは不満顔だが。



「さて、明日も早いしそろそろ寝ましょう、明日起きるのよナム。」


「そこまで言われんなら逆に寝坊してやるか、って気分になるな。」


「なんだって、狙って寝坊できるのか!?」


「そりゃどういう意味だ!こら!」



トウヤが意地悪そうに笑う様子をナムが睨みつけ始め、そんな2人を放置して寝袋の用意をするミナとタイフ。

そして、なにか出来ないかとソワソワし始めたリィヤだったが、人生初の野宿であるリィヤに何が出来るかわかる訳もなく、アワアワし始める。


最早このメンバー安定の混沌とした空間は、彼等が寝付くまで続いたのであった。





朝を迎え、ナム達一行は再び移動を開始した。

今日も安定して寝坊しそうになったナムの顔には打撲痕があり、リィヤは出発の日に仮住居へ来た時のナムの顔の腫れの原因を何となく察したのであった。



「これは時限式水魔法の用意が急がれるね。」


「急がなくていい!」


「頼んだわよ、トウヤさん!」


「頼むんじゃねぇ!?」



昨日から何度も寝坊の件でおちょくられているナムは、何かを諦めたかのように大きなため息を吐いた。



その後、特に魔物と遭遇することも無く旅を続けたナム達の目の前に、木で出来た防壁のある町が見えた。

門の前に見張り等はおらず、バリスタ等の防衛用の武器も無いようだ。


代わりに防壁にはカラフルな装飾がされている。



「派手な防壁だな。」


「見張りもいないなんて、割とズボラな町ね……魔物が来たらどうするのかしら。」


「僕が潜んだ時も割とこんな感じだった、こう言っちゃ悪いけどかなり楽に忍び込めたよ。」


「なんか町の中から楽しそうな音楽が聞こえてきます!」



ナム達はなんやかんや言いながらも、サールの派手な町の門へと近付く。

そしてナムが軽く手で押すと、門は呆気なく開いた。


そしてナム達が門から町へと入った瞬間に、2人の人間がナム達に近付いてくる。



「やぁ!ようこそサールへ!」


「アクセサリー、置物、壁掛け飾り!なんでもあるわよ!見てって!」



やたらと多く、派手な飾りを服に着けた男女のコンビが、ナム達へそんな事を言い始める。



「おぃおぃ、なんでぇこの町は。」


「特産品がアクセサリーとかの装飾品らしくてね、そのせいか町全体も明るめの雰囲気にしてるらしい、僕が来た時と何も変わってないね。」


「陽気な町なんだな、楽しそうじゃないか……俺様は割と好きだよこういう雰囲気。」


「常にこれだと非常に疲れそうなんだけど、町の人達は慣れちゃってるのかしらね?」



異様な町の雰囲気に押されているナム達の前に、リィヤが目を輝かせながら町の中を見渡すように歩きだす。



「可愛いものや綺麗なものが沢山!皆さん見て回りましょう!そうしましょう!」


「リィヤの目の色が変わったぞおぃ。」


「こうなったらもう見て回るしかないよ、諦めた方が良い。」



ナムのドン引きした様子を見たトウヤは肩を叩きながら諦めの言葉を呟いた。


興奮したリィヤに引っ張られるように町中を散策していたナム達は、何件かの店に入った。

その度に楽しそうに見て回るリィヤと、リィヤ程ではないが楽しそうにしてるミナ、そして意外と店内を吟味しているタイフの3人を、トウヤとナムは後ろでただ眺める、そんな事を繰り返した。



「あの2人はわかる、まだわかる……なんでタイフまで楽しんでやがるんだ。」


「タイフの意外な一面を見たな、ナム?」


「なんでこのメンツは変なのが多いんだ。」


「それ俺様も入ってるわけじゃないよな!?」



シドモークとの戦いの時に、やたら嬉しそうにタイフの未来眼(サーチ)を解説したトウヤのことを思い出したナムは、最早何も言わずに視線だけをトウヤから外した。


尚、ナムも充分変な人間なのだが本人に自覚はない。


目線をなんで外す、と抗議しているトウヤを無視したナムは、店内を軽く見渡して、やはり自分の趣味に合うものがない事を悟る。



「お前のそのブレスレット、新調したらどうだ?」


「これはあくまでリミッターだ、装飾の意図なんてねぇよ!」


「意外にハマるかもしれないよ?」



勘弁してくれと、ナムは首を横に振る。


その時だった。



「ん?」


「どうした、ナム。」



ナムが商品棚の1つに近付き、そこから何かを手に取る。

その様子を見ていたトウヤはナムの横へ経つと、ナムが手に取ったものを眺めた。


ナムの手の上に乗っているものは、銀を基調とし、右を向いて手を合わせた天使をあしらったネックレスだった。



「なんだ、そういうのに興味あるのか?」


「いや、そういう訳じゃねぇが……なんか不思議と目に止まってな。」


「確かに、なんか不思議と目を奪われるね。」



特にこれといった派手な装飾は無く、むしろこの店の商品の中ではかなり地味な部類だが、不思議と棚の商品数が少なく、今ナムが持っているものが最後の1個のようだった。


ナムとトウヤが興味深そうに手の中で回転させたりして隅々まで眺めている時だった。



「そのネックレスに興味を持つなんて!あんた達お目が高いね!!」


「うお!?」



突然後ろから声を掛けられたナムは少しばかり驚いて後ろへ振り向く。


そこに立っていたのは肩くらいまでの長さのポニーテールで纏めた髪型で、かなりのスタイルの良い女性だった。


肩とへその当たりが出るような動きやすい服に、短パンを履いている彼女は、どうやらサールの町の人間らしく少しばかり服の装飾が派手である。

しかし、それがこの女性の快活さを表していた。



「あー、ごめんごめん!驚かせちゃったね……あたしは<アンナ>、この町の住人だよ!」


「お、おう……俺はナム、コイツがトウヤ。」


「よろしくな!で、このネックレスがどうしたって?」



2人からの自己紹介を聞いたアンナは、よろしくと返答し、急に顎に手を当てて考え始める。



「なーんか聞いたことある名前だけど、まいっか!……そのネックレスに目をつけてたでしょ、だからつい声を掛けちゃったんだ!」


「これ、なんか有名なのか?」


「旅の人だから知らないのも無理はないね!この町に居る有名な心理学者が作ったネックレスなんだ!」



ナムとトウヤはお互いに目を合わせ、再びアンナに向き直る。



「心理学者が?どういうこった!?」


「俺様にも良く分からない、学者がこういうの作るイメージ無いな。」



ナムとトウヤの疑問を聞いたアンナは、不快感を出すことも無く、やたら嬉しそうに腰に手を当ててふんぞり返る。



「だからこそさ!サールの心理学者<サジス>博士は、心理学に基づいて、人の心を惹き付けるアクセサリーを独自に開発し始めたのさ!」


「あ、そういうことか。」


「これが凄く大反響でね!サールの町の大売出し商品だよ、この町の人は勿論、他の町の人達にも人気でね、近くのトラルヨークの人達も沢山買って行ってくれてるんだ、何を隠そうあたしも大ファンでね!」



そう言ってアンナは懐から何かを取り出すと、ナム達に見せつけるように突き出した。



「ネックレス……か?」



ナムはそう言って、突き出されたものを見る。


そこにはこの店に並んでいるものとは全く違う絵柄のネックレスが握られていた。

両手を大きく広げ、まるで何かを受け入れるようなポーズをした笑顔の天使のネックレスだ。



「あたしが前にサジス博士の家に直に行ってね、弟子にしたくれって伝えたらこれをくれたんだ、あたししか持ってない宝物だよ!」


「ははぁ、それは宝物だね……弟子?」



アンナはそのネックレスを懐にしまうと、言い忘れてたと言わんばかりの表情をした。



「あたしもアクセサリー職人目指してんだ。」


「なるほどな、それで弟子入りしてぇわけだ。」


「そゆこと、本当は普通のアクセサリー職人に弟子入りすべきなのかもだけど、あたしはサジス博士に弟子入りするって決めたんだよ、なんたってファンだし、快く受け入れてくれたしね!」



そうやって会話をしていたナム達に、買い物を終えた3人が近付いてくる。


そして、再び自己紹介をしたアンナとナム達5人は意気投合し、この町にいる間交流することとなったのだった。

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