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ブレイカー  作者: フィール
2章
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2章:トラルヨークへ

ドルブの町の一角のリィヤの屋敷にて、初のヒューマン、ベルアと遭遇したナム達。


ドルブの町を内部から破壊しようとしていたベルアと3匹の特殊なビーストをギリギリで退けた彼等は、傷を癒した後に、トウヤの義理の妹であるリィヤを仲間に加えて、今後の方針について話し合っていた。



「あの機械のビーストとの戦闘で、投擲ナイフを全部失っちゃったのよねぇ……あとタイフさんと、自分自身に救急セットを使ったから、これももうあまり無いわ。」



ミナはそう言って、自身の右太腿を指さす。


そこに巻いてあるベルトには、本来8本収納されてるはずの投擲ナイフが空っぽになっていた。


武器戦闘をメインとするミナにとって、例え投擲ナイフでも武器を失う事は手痛い。



「俺もこのガントレット、かなり変形しちまった、修理か買い直すかしねぇとな。」



ナムはテーブルの上に無造作に置かれている、実体の無い存在への干渉を可能とする付与がされたガントレット2つを忌々しそうに眺めている。


幼少期にトウヤに付与されたもので、時々サイズ変更をさせながら長く利用していたものだけに、ナムも若干イライラしているのが見えた。



「新しく作って交換してしまえよ、また俺様が付与してやるからさ。」


「そうだな、今はおめぇも近くにいるしな。」



ナムはそう言って、そのガントレット2つを懐に仕舞う。


トウヤはその様子を見ながら、ふと何かを思い出したかのように手を打つと、タイフへ視線を向ける。



「忘れてたよ!タイフ!その武器貸してくれ。」


「え?まぁいいけど。」



タイフは首を傾げながら、彼の武器である圏を1つトウヤに手渡そうとした。



「両方貸してくれ、シドモークとの戦闘の時に思い付いて、今まで忘れてたんだ。」


「え、まさか?」


「そのまさかだ。」



タイフは意図に気付き、期待を持って圏を2つ手渡す。


トウヤはテーブルの紅茶のカップを1回移動させると、そこに2つの圏を置いた。



「失敗したな、もっと早くやってあげれば良かったよ、シドモークみたいな敵と会わなくて良かった。」


「意外に抜けてるのねトウヤさん。」


「むぐっ……手痛いなぁ。」



ミナの茶化しに顔を少しだけ顰めたトウヤは、頭を搔いて圏に向かって両掌を向けた。



「付与、アンチ・イマジナリ、ダブル」



トウヤの両手が軽く光ると同時に、2つの圏も同じように光りだす。


そして、その光がまるで幻想だったかのように消え失せたのを確認したトウヤは、圏をタイフに差し出した。



「え、終わり!?」


「あぁ、終わったよ、試すか?」



トウヤが人差し指から1cm程度の小さな火球を生成し、タイフの前へと浮遊させながら移動させる。


タイフはそれの意図を察すると、圏の刃でその火球に触れた。


刃で真っ二つに切れた火球を確認したタイフは、驚きながら手元を見る。



「ほんとに出来てる。」


「俺様はマギスだぜ、出先で付与するくらい朝飯前だ、普通なら道具だったり器具ねぇと上手くいかないものだけどね。」



トウヤはそう言って、自身が生成した火球を消し去る。

リィヤはその光景をニコニコしながら見ていた。



「さて……武器と防具……それと消耗品の購入、両方何とかしないとな。」



付与を終えたトウヤがそう切り出すと、ミナとナムも悩み始める。



「消耗品ならこの町でも揃うでしょうけど、問題は武器と防具ねぇ。」


「俺達に合う装備を揃えてる鍛冶屋か武具屋を探す必要がある。」



ナム達程の人間が取り扱う装備は、その辺で売っているものでは力不足となってしまう。


リィヤの屋敷での戦闘で武器だけでなく防具もかなり損傷しているため、買い替えは必須な状態となっていた。


そんな理由で良質な武器と防具を揃える方法に一同が頭を悩ませていると、不意にリィヤが手を挙げた。



「どうしたんだ?リィヤ。」


「わたくしの知識で申し訳ありませんが、世界の中心に位置する場所に巨大な都市があるというお話を何かの本で読んだことがありますけど、それは本当ですか?」


「あぁ、あるぜ、トラルヨークっていう世界最高の都市だな。」


「そこになら良いお店も沢山あるのではないでしょうか?」



リィヤの発言に、一同はその手があったかというようにそれぞれの反応を返す。



トラルヨーク。

ナム達が自身の町でサブロ町長から今の依頼を受けた時に、三武家という強力な防衛手段を失う代わりに、軍を要請した国の名前だった。


世界最大の都市であるトラルヨークは、それ相応に防壁と軍による防衛力を持つ。



「世界最大の防衛手段を持つ国の技術が……低い訳ないね。」



タイフのつぶやきに、他の4人も同時にうなずく。



「決まりみてぇだな。」


「私も良いと思うわ、何より気になってたし……家が高くて独り立ちする国としては諦めたけどね。」


「マギスの、というより父上の作った魔道具なんかも売ってるかもね、凄く高いけど。」



そんな彼等の反応を黙って見ていたリィヤは、目をキラキラさせながら少しばかり体を動かしながらテンションを上げている。



「ええ!行きましょう!是非!」



そのリィヤの反応を見た4人は、もしかしたらただ行きたくてそんな提案をしたのではないかと疑い始める。


ただ良い案なのは間違いないので誰もがそう思いながらも押し黙ることにしたようだ。



「今日はもう遅い、明日以降に出発するとしようぜ。」


「ドルブの町での情報も大したこと無かったし、潜んでたアイツを退けたからこの町も大丈夫だろう、俺様に異存はないぜ。」


「ここは元々防衛力高い町だし、問題ないと思うわ。」


「このドルブより防衛力高いトラルヨーク、僕も気になるから早めに行きたい。」


「楽しみです!」



5人の意見が合致したのを確認したナム達は、1度リィヤの住む仮住居から退室した。

そしてドルブの町で贔屓にしていた宿屋<渡り鳥>へと4人は久しぶりに舞い戻り、それぞれ余暇を過ごしながらその日を過ごしたのだった。





翌日の早朝、ミナが起きないナムの顔にかかと落としを食らわせて、文字通り叩き起した後、渡り鳥から出発したナム達一行はリィヤの仮住まいにも立ち寄った。



「え、えーと……なんでそんなに顔腫れてるんですか?」


「気にしちゃダメよ、リィヤちゃん。」



明らかに不機嫌なナムを不思議に思いながらも、リィヤはすでに用意していた荷物を持って、軍から用意された仮住まいから出てくる。

既に退去することは軍に伝えている。


しかし、リィヤの服装はなんと普段と対して変わらないワンピースだった。


ベルアの爪痕やビーストの攻撃などで破損が多いとはいえ、一応防具を着込んだ三武家メンツと、防具は着てないがあくまでも動きやすい服装のタイフと比べるとかなり目立っている。



「おいトウヤ、なんか防具買ってやんねーと危なくねぇか?」


「俺様も今そう思ったよ。」



そう話すナムとトウヤに向かって、リィヤは慌てて手を振る。



「いえ、恐らく……そんな鉄纏ったような服を着ますと……動けなくなると思います。」



それを聞いた4人は、どこか脱力したように納得する。


確かに彼女の力と体力では、下手すると鎧を着込んだ方が危ないかもしれないと全員一致で考えたのだ。



「でも、それでも……その足首まで隠れるような長いワンピースは流石に動き辛いと思うわ、早めにトラルヨークへ行って服を新調しないといけないわね。」


「ご迷惑をおかけします……!」



その後、ミナが彼女の着替えを確認したが、リィヤの服は基本的にワンピース型が多く、どれも激しく運動することを考えていない物ばかりだということが判明したのだった。


柄等はどれも文句無しに可愛らしく、着心地も悪くない、あくまで私服として見ればだが。



「時間もないし、トラルヨーク、または途中でどこか町や村に到着したら買い換えようよ。」



タイフの提案に一同は納得し、取り敢えずは保留にしてドルブを出ることとなった。

リィヤの能力的にも今の服装でも特に不具合は無いとの考えもあった訳だが。



「いきなり前途多難ね。」


「すみません……!」


「こんな事になるなんて夢にも思ってなかっただろうしな、仕方ねぇよ。」



頭を抱えるミナと、少しばかり申し訳なさそうにしてるリィヤ、それを遠くから生暖かく見てるタイフとトウヤ、そしてリィヤの肩を叩いて慣れない励ましをするナム。


町の人達から少しばかり注目をされてる事に彼等はまだ気付いていない。





偶然にもドルブの町に訪れた時にも門番を担当していた男から見送りをされながら彼等はドルブを後にした。



「町中でずっと生活していたので、外は久しぶりです。」



大きく広がる平原や、遠くの方に見える山等を見たリィヤは、興味深そうにキョロキョロしている。



「さて、魔物に出会っちまう前にさっさと移動するぞ。」


「ま……魔物、そうですよね、いるんですよね。」



リィヤは屋敷の時と違い、魔物の名を聞いてもそこまで取り乱さなくなっているようだった。


兄であるトウヤの見解によると、トラウマは消えていないらしく、まだ恐怖は残っているらしい。

しかし、それでも仲間を絶対に守ろうという意識が、かなり奇跡的に彼女の状態を改善していると彼は予想していた。


まだ少し怯えているリィヤの手を引いて、トウヤは歩きだす。


兄に手を引かれて、少し安心したのか笑顔に戻るリィヤ。



「そんで、トラルヨークはどっちだ?」


「ここから北よ、結構遠いけど確か途中に町があるわ。」


「<サール>だったっけ?タイフは行ったことあるか?」


「1回隠れ住んだことがあるね、ドルブほど防衛力も広さも無いよ、だから潜り込めたんだけど。」



タイフは嫌な過去を思い出しながらそんな事を言い始めた。



「そこに立ち寄って、休憩してからトラルヨークへ向かうとしようぜ。」


「賛成です!わたくしもそんなに長い距離移動となると多分体力が。」



4人はリィヤの弱気な発言に笑いだした。


笑われた事に少しだけリィヤはムスッとしながらも、直ぐに笑顔に戻って彼女自身も声を出して笑い始める。


ナム達一行は和やかな雰囲気でトラルヨーク……もといサールの町へと向かう。




逃がしたベルアが水面下で新たな敵と合流していること。

その敵がリィヤの屋敷で倒したビースト3匹よりも、もっと強力な敵だということ。

そんな彼らと、さほど遠くない未来に再び争うことになること。


今の彼らはまだ知らない。

ここから2章開始です。

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