1章:それぞれの戦い 中
リィヤの屋敷の庭の一角で、ミナと<ドロイド>というビーストが戦闘を開始していた。
ドロイドは変形させた両腕の先にある銃口から連続で弾を連射している、それはさながら2丁の機関銃のような連射速度であった。
両腕から放たれる大量の銃弾は、敵であるミナに向かって飛び続け、それをミナはドロイドの周りを回るように絶えず走り、なんとか弾を避け続けている。
「あーもう!!厄介ね!」
ミナは敵の途切れない射撃に辟易しながらその敵に向かって毒づく。
「貴様八接近戦ガ主体ノヨウダナ、ナラバ近付ケサセナケレバ問題無イ。」
「あら、そう簡単にいくかしら?」
ミナはそう言って自身が発動した付与魔法、フレイム・オーラの効果で燃え盛っている彼女のメインの双剣をしっかり握る。
そして、突然その場からドロイドの方向へ高速で跳躍した。
ドロイドは突然のミナの行動に驚き、連射していた腕の機関銃を止めてしまう。
「ナニ!?」
「油断したわね!」
ミナは燃え盛る双剣をドロイドの胴へ通り抜けざまに斬りつける。
しかし、鳴り響いた金属音と、硬いものに弾かれたような感触を覚えたミナは舌打ちをする。
「かったいわね!!」
「馬鹿メ、ワタシノ体八全テ機械化二成功シテイル、刃ナド通ルモノカ。」
ドロイドは自身の横をすり抜け背後に移動したミナへ振り向き、両腕の機関銃を向け、再び射撃する。
咄嗟に再び走り出したミナは敵の体を注視すると、敵の体は少しだけであるが双剣の刃で傷付き、炎で焦げ付いている。
(全く効かない訳ではなさそうね。)
ミナは少しばかりの効果を確認し、再び跳躍してドロイドの首へ双剣をすり抜けざまに振り抜くが、やはり金属音と共に弾かれる。
「チョコマカト……無駄ダ!」
「首すら落とせないのね、厄介だわ。」
ミナはそう呟くと、ドロイドの銃弾を掻い潜り、何度もすり抜けざまに敵の体の様々な場所を斬り付ける。
しかしどれも金属音と共に少しの傷と焦げくらいしか付かない敵の体を見たミナは舌打ちをする。
「なによー!ようやく双剣使えると思ったのに。」
ミナにとってこの双剣は1番の得意武器であり、彼女の最強の武器なのだ。
それが通じないとわかるとミナは、ドロイドの周りを回って弾を避けながらため息を吐く。
そしてミナは燃え盛る双剣の炎の付与を消すと、それを鞘に収めて背中に掛けていたメイスを取り出す。
「武器ヲ変エタカ……!!」
「鈍器は苦手なんだけどね!」
そう言ってミナはドロイド目掛けて跳躍し、彼の右腕の砲身へメイスをすり抜けざまに叩き込む。
メイスの衝撃でドロイドの右腕砲身はひしゃげ、どう見ても撃てそうにない形に変形した。
「オノレ……ドコガ苦手ダ!!」
「苦手なのは本当よ、重いし。」
武器戦闘術の権威、アーツであるミナは全ての武器を極めている。
鈍器が苦手と言い放つ彼女は勿論メイスやハンマーなどの鈍器武器の扱いも達人を超えている。
彼女の中で苦手意識があるだけで苦手と言う鈍器武器ですら彼女を超える腕は、自身の父親でありアーツの現当主の<ザベル>くらいのものだろう。
敵の女の身のこなしや武器の扱いの腕を何度も見たドロイドは内心焦り始めていた。
「銃ダケデハ厳シイカモナ。」
そう言ってドロイドはミナに向かって残った左腕から機関銃を連射しながら、背中の鎧のような部分の上側半分をまるで扉のように開く。
「まだ何か仕込んでるわけ!?」
その様子を見たミナは敵のあまりにもの異様さに驚く。
ドロイドの背中からアームのようなものが飛び出し、ソレがドロイドの右腕に近付くと、砲身のひしゃげた腕の下辺りに何かを接続した。
それはまるで木材を切る時に使う自動ノコギリ、所謂チェーンソーと呼ばれるものと似たものだった。
ドロイドは腕に接続されたそれをどうやってかはわからないが起動させると、音を立てて刃が高速で回転し始める。
「コレガワタシノ<剣>ダ……サテ、驚クノハマダ早イゾ。」
そう言って、ドロイドは左肩を開くと、そこから再び砲身のようなものが上向きに飛び出し、45°位の角度まで傾くと砲身は動きを止めた。
それは細い大砲のようなものだった。
「随分ハイテクじゃない?」
正体が掴めない肩の大砲のようなものを警戒し、真っ先に潰すべきだと考えたミナはメイスで肩の大砲のような物を破壊するために、銃弾を掻い潜りながらもう一度近付こうとした。
しかし、ドロイドはそれを察知したのか4本足の先から火を噴射し、空中へ上がり始める。
それを見たミナは跳躍を中止し、走りながら空を見上げた。
「ソウ何度モ近付カレルワケニハイカナイ。」
「そういえば飛べたわね、忘れてたわ。」
ドロイドは空中を飛び回りながらミナに向かって機関銃を放ち続ける。
肩の大砲を使う様子が何故かないのが、ミナにとって不安要素となり警戒を強める。
ミナは苦い顔をした、彼女はトウヤと違い、遠距離攻撃は投擲ナイフ位しかないのだ。
双剣ですら傷しか付かない敵の体にナイフが通用するとは思えない。
(面倒な奴ね。)
ミナはそう言って、タイフが戦闘している場所に視線を一瞬動かす。
視線の先ではあの雪だるま型の魔物を中心に、かなり広範囲に猛吹雪が発生しており、微かにタイフの姿も見えた。
(さっさと倒して助太刀に行こうかと思ったけど、これじゃ無理そうだわ。)
ミナは視線をドロイドへ戻すと、メイスを背中に掛け直し、同じく背中に旅の始まりから背中に掛けて持ってきていたが、今まで使用する場面のなかった武器。
柄が1.5m程で刃の部分は直径50cm程の巨大な片刃のバトルアックスを取り出す。
ミナは走って敵の機関銃を避けながら、バトルアックスを使用感を試すように頭上で高速で回し、袈裟斬りで空振りさせる。
重量のある武器だが、ミナはまるで重さを感じさせないほどの速度で、空振りさせた後に速攻で自身の胸の前で構え直す。
そして、右手に魔力を込め、彼女の唯一の魔法を発動した。
「炎属性中位付与魔法、フレイム・オーラ!」
ミナの魔法の発動と共にバトルアックスの刃の部分に炎が纏う。
(少しでもリーチがある方がコイツ相手には有利よね……苦手な武器だけど持ってきといて良かったわ……魔力の残り的に付与は後1発だけね。)
ミナは重量系の武器の扱いも苦手だと自認している。
それでもやはり人間の中で彼女を超える使い手も自身の父親くらいしかいないのだが。
ドロイドは空中を縦横無尽に飛び回り、左腕の機関銃を撃ち続けている。
「まだ撃てるのね、弾の数どうなってんのよ!?」
三武家は超人的な強さを持つが、体はあくまで人間であり、銃弾で普通に傷付き、頭やその他重要な臓器に命中すれば命を落とす。
ミナはドロイドの銃口の方向を確認し、時折ルートを変えたり軽く止まったりしながら走り続ける事で先程から1発も命中しないように立ち回っている。
ドロイドは自身の腕がそのまま銃口になってる影響か狙いが良く、普通の人間なら既に蜂の巣になっているだろう。
「私だって無限のスタミナじゃないのよ!!」
ミナは声を上げながら、ドロイドの空中での位置を確認し続ける。
攻撃にちょうどいい位置に来た時に跳躍して攻撃を当てるためだ。
「フフフ……ワタシ二疲レナドナイ、ダガ人間ハ疲レル、イズレハワタシガ勝ツノダ。」
ドロイドはそう言って腕の機関銃を止め、急に進路を大きく変えるとミナに向かって高速で突撃してくる。
「私相手に近付くなんて、倒してくださいって言ってるようなものだわ!!」
ミナはバトルアックスを構え、迎え撃つタイミングを見極める。
そしてドロイドの右腕のチェーンソーがミナに向かって振るわれる直前にカウンターをしようとしたその時。
ドロイドの左肩の大砲がミナに銃口を向け、弾が放たれる。
「まずい!?」
ミナはとっさの判断で反撃を取りやめ、着地を考慮しない程大きく跳躍した。
大砲の弾が地面へと直撃したと同時に、巨大な爆発音と共に爆風と衝撃波が広がる。
「きゃああ!?」
咄嗟に大きく避けたミナですら少し体が飛ばされる勢いの爆風に襲われたミナは、庭の花壇に勢い良く体をぶつける。
「避ケタダト、勘ノ良イ女ダナ。」
近接戦をするフリをして左肩の大砲、火薬で破片を撒き散らして攻撃する榴弾で葬るつもりだったドロイドは避けられたことに驚く。
近距離で放ったため、ドロイド本人も爆風で大きく飛ばされていた。
勿論狙い通りであり、自身が吹っ飛ばされようと機械化された頑丈な体であれば無傷で済むとの思惑の上での捨て身の攻撃だった。
ミナは花壇から立ち上がるが、左太腿に榴弾の破片が命中したのか血が流れている。
「危ないもの使うじゃない……死ぬかと思ったわ。」
「死ンデイレバ楽ダッタノダガナ、残念ダ。」
「そう簡単に死んでたまるものですか!!」
そう言ってミナは跳躍し、燃え盛るバトルアックスを一旦地面へ放り捨て、素早くメイスを取り出し、爆風で飛ばされ姿勢がまだ不安定なドロイドの肩の大砲と残った左腕の機関銃へ素早くメイスを叩き込む。
「チィ!?」
ドロイドが振るった右腕のチェーンソーをかろうじて避けたミナは、続いて連撃で4本足の内、前側の2本の足先を攻撃する。
そして一旦距離をとり、メイスを背中にかけ直し、地面のバトルアックスを再度拾う。
「肩の大砲?と左腕の煩わしいそれ、飛べないように足のそのよくわからない物も2つ壊させてもらったわ!!」
「オノレ小癪ナ!!」
ドロイドは足先から火を出すが、前足2本からは火が出ず飛行はもう無理だと悟ると、火の噴出を素早く止める。
左腕の機関銃も撃とうとしたが稼動しない。
肩の榴弾砲も砲身が大きくひしゃげており、発射は不可能。
「ベルア様ニ修復シテモラワネバ。」
「修復?無理よ、あんたはここで完全に壊れるのよ。」
ミナはバトルアックスを大きく頭上で振り回す。
そのまま跳躍すると、ドロイドに向かって遠心力と重力を乗せた攻撃を敵の右肩へ振り下ろす。
ドロイドの肩に命中したバトルアックスは燃え盛る炎の熱の効果も合わさり、まるで溶断するかのようにチェーンソーの取り付いた右腕を切り落とす。
「グオオオ!?」
「まだまだいくわよ!!」
ミナは地面へ着地すると、バトルアックスを持ったまま回転し、横薙ぎの攻撃をドロイドの右脇腹へ命中させる。
しかし、縦振りと違い地面がない横振りの攻撃では斬る前にドロイドの体が動いてしまい、左脇腹に大きな傷と焦げ跡を残しただけであった。
「ナメルナ!!」
ドロイドはすこしだけ吹き飛んだ先で自身の胸部を開くと、8発程仕込まれた筒のようなものが収納されていた。
「まだ武器を隠していたのね、させない!」
「モウ遅イ!!」
ドロイドの胸から8発の筒が火を噴きながら射出され、まるでミナを追うかのように動き出す。
「火薬ノ仕込マレタ移動追尾式ノ武器ダ、コレデ死ネイ!!」
「爆弾が自分で飛ぶ!?どうなってるのよこいつ!!」
ミナは自身の右太腿に装備された投擲ナイフを見る。
投擲ナイフの数は8本だった。
「ミスれないわね!!」
ミナは全力で走り、後ろをついてくる筒状の爆弾を横目で確認する。
炎の燃え盛るバトルアックスの炎を一旦解除し背中に戻すと、右太腿のベルトに装着されている投擲ナイフの数本に手をかける。
そして一旦上へ跳躍すると、ナイフを4本同時に筒状の爆弾へ投擲し、8発中の4本にそれぞれのナイフが一発ずつ命中し、その衝撃で4本が起爆した。
「ナントイウ腕ダ!?」
「私はアーツの人間よ、このくらいなんともないわ!!」
ミナは着地すると再び全力で走り、再び投擲ナイフへ手を掛ける。
その様子を見ていたドロイドは自身の頭、額の位置を開いて何かの銃口を外に出す。
(ワタシノ最後ノ武器、コレヲ使ウコトニナルトハナ。)
ドロイドは人間の女の善戦を称えながらも、額の銃口をミナに向け続ける。
彼女はまだこのことに気付いていない。
ドロイドの視線の先で、人間の女はナイフを構えて再び跳躍する挙動を見せていた。
(ココダ!!)
ドロイドはミナが飛ぶであろう空中の位置へ視線を向けると、額の銃口の発射準備を完了させる。
そして狙い通りの位置へ人間の女が飛んだことを確認すると、その銃口を起動させた。
「死ネイ!!」
ドロイドの額の銃口から放たれたもの、それはまるで光、太い光線のようなものが放たれた。
ミナは投擲ナイフで筒状の爆弾を全て起爆し、安心したが殺気を感じてドロイドの方向へ向く。
「死ネイ!!」
「まだ武器があったの!?」
ミナは空中でできる限り動き、ドロイドから放たれた謎の光線を避けようとするが、空中では動きがほとんど取れない。
それでも辛うじて体をひねる。
謎の光線はミナの左腹部を貫いた。
「ああぁぁ!?」
ミナは地面へと落下し、血だまりを広げる。
「いった……やって……くれたわね!」
双剣の1本を腰から抜き放って杖代わりにし、なんとか体を起こすミナ。
「心臓ヲ狙ッタノダガナ、下手ニ避ケルカラ苦痛ニ苦シムノダ。」
「死ぬより……マシよ。」
ミナはフラフラながらなんと立ちあがる。
光線が貫いた左腹部は半分焼けており、思ったより血は出ていないことを確認すると、ミナは懐から素早く簡易救急箱を取り出し、傷口を雑に処置する。
「殺せなかったのがあんたの敗因よ。」
「フン、マダ撃テルゾ、ソノ体デハ何モデキマイ。」
ドロイドは額の銃口を再び機動させ、光線を放つ。
しかし、頭を狙ったその光線をミナは首の動きだけで避ける。
「その武器、あんたの首も一緒に動くから狙いがわかりやすいじゃない。」
「負ケ惜シミヲ!!」
ドロイドは3発ほど光線を発射するが、ミナはそれをすべて避ける。
「しかもまっすぐ、連射もそこまで出来ないみたいね、それだったら最初の腕の武器の方が厄介だったわ!!」
ミナは腰からもう1本の双剣を抜き放つと、再び魔力を右手に集中させて名前を呼び、フレイム・オーラを発動する。
ミナの双剣の刀身に炎が纏う。
「見せてあげるわ、アーツの奥義をね。」
「双剣デ何ガ出来ル!!」
ドロイドは笑った、先ほどのバトルアックスやメイスなら驚異だが、双剣であればドロイドの体には通用しない。
「痛ミデ気デモ狂ッタカ!?」
ドロイドは光線をミナに向かって放つ。
しかしミナはそれを何故か剣を舞うように動かしながら避け、少しずつ近付いてくる。
(何ヲシテイル!?)
ドロイドは近付きながら舞を続ける人間の女の行動の意図が読めずに困惑する。
(待テ、マサカ!?)
しかし、ドロイドは気付いた。
人間の女が持っている双剣、正しくはそれに纏う炎。
それが確実にどんどん大きく燃え盛っているのだ。
「気付いたみたいね、でも遅いわ。」
敵の双剣の炎はいつの間にか魔法で付与した時の数倍は大きく燃え盛っている。
ミナも熱さのせいか汗を大量に流しており、剣を持つ手も少しばかり赤い。
「準備完了よ。」
「シ、死ネ!!死ネェ!!」
ドロイドは光線を連続で放つが、動揺しているのか狙いが定まらない。
そしてドロイドの光線の発射が止まる。
(シマッタ……バッテリーガ……!?)
ミナは敵の様子が変わったことを確認し、全力で跳躍し、ドロイドへ向かって双剣を大きく掲げながら落下してくる。
「来ルナ!?来ルナァァァ!?」
ミナの双剣の炎は落下中もどんどん大きく燃え盛り、最早10倍近い大きさになっていた。
「アーツ秘伝、奥義!!」
「ウワァァァアア!?」
ミナの双剣がドロイドを完璧に捉えた。
「火炎柱!!」
双剣の巨大な炎がドロイドを起点にまるで柱のように大きく立ち上がる。
巨大な炎の柱はドロイドの体をどんどん熱し、赤くしていく。
「ワタ……ワタシノカラ……ウギャァァァアアア!?」
ドロイドの体内の部品などが熱で膨張や融解をし始め、ドロイドという機械を機能不能にしていく。
(ワタシ……ワタ、ワタガ、ワタシ、ガガガ、ワタワタワタ。)
ミナが大きく後ろに下がり、ドロイドを焼き尽くしていた火炎柱が収まると、ドロイドは最早声を出すことも無くその場で機能停止していた。
おそらく重要部品等が致命的な故障をしたのだろう。
「終わり……かしらね。」
ミナは安心したように座り込み、タイフを見る。
そこでは彼もミナをみて親指を立てていた。
「まさかタイフさんより戦闘の時間がかかるなんてねぇ。」
ミナはため息を吐き、トウヤを見る。
そこではまだあの巨大な魔物との戦闘が続いていた。
「かなり無理したから……もうダメ、ごめんなさい……トウヤ……さん。」
ミナはその場で倒れ込み、腹部や腕の大火傷等の痛み、疲労が原因で気絶したのだった。
ドロイド撃破です。
ミナにはとても相性が悪い相手でした。